挑戦③
「ぐぅ!!?」
キリカは砂嵐で前が見えない中で腹に衝撃が奔りうめき声を上げる。
そして、それで気絶していないことに秀一がマオに意識を奪われていないのだと理解する。
強化をされていない状態だったら今の一撃で気絶していたことをキリカはよくわかっていた。
それにしてもだ。
マオは終わらせてしまうと思ったのにまだ戦う気があるのだということにキリカは驚く。
投げられている瞬間にマオが秀一の前にいたのが見えたのだ。
実力からして簡単に意識を奪うことも出来るはずなのに、まだ強化されている状態なのがそれを証明してしまっている。
「ふっ」
「っお!?」
キリカは頭上から地面に叩きつけられて押さえつけられる。
そして首に手を当てられる。
「……………私の負けよ」
「そうだな。俺の勝ちだ」
キリカの言葉に頷くマオ。
これ以上は戦うつもりも無かった。
「さてと……」
そして気になったことを確認するためにマオはキリカから手を離して立ち上がる。
視線を向けている先は秀一がいる。
秀一が意識を失った場合、強化はどうなるのか興味がある。
「よっ……と」
だからマオは秀一の近くまで一瞬のうちに移動し、そしてまだキリカの強化が途切れていないことを確認する。
そして地面に座り込んでいる秀一を蹴飛ばす。
「ぶぎゅっ!!?」
マオからすれば軽く蹴っただけだ。
それだけで何メートルも吹き飛び意識が飛んでしまう。
思った以上に脆いことに心配するも、それよりもキリカに視線を向ける。
そして光輝かなくなった姿に秀一が意識を失えば強化が途切れるのだと理解する。
更にキリカも意識を失っていた。
そのことにやはり強大な能力にはそれなりのデメリットもあるのだなと考える。
「強化が強引に解除されると強化された本人も意識を失うのか………」
強化された本人より秀一を狙えば、どれだけ強くなっても逆転できる。
もし自分なら強化されたくないなと思っていた。
「…………面倒だな」
そこまで考えてマオは周囲を見渡して面倒そうにため息を吐いた。
あまりにも多くの者が倒れていて運ぶのが面倒だった。
だから放って置くことにする。
それに何人かは参加せず見ているだけだった。
だから放置しても誰かが運ぶだろうと考え、マオはキリカだけを抱えた。
「……………どうして」
ハニルは秀一の強化能力を使い二桁の者の魔力を使ってもマオに勝てなかったことに呆然と呟いてしまう。
さらに言えばマオの理不尽な戦闘能力に心が折れていた。
「じゃあな」
マオの声が聞こえてきて振り向くと、そこにはキリカを抱えて運んでいる姿が見える。
他の気絶している者たちは全員放置するつもりらしい。
「待ってください!」
どうしても聞きたいことがありハニルはマオを呼び止める。
マオもハニルの声に従い止まる。
どうやら話を聞くつもりはあるらしい。
「どうして、そんなに強いのですか………」
全く勝てる姿がハニルは思い浮かばず本人に強い理由を確認する。
少なくとも同じ生活をすればマオに追いつけるんじゃないかと考えたのもある。
「さぁ?」
マオは本気で言っているのか、それとも誤魔化しているのか首を傾げて答える。
当然だがハニルは納得がいかない。
「…………本当に知らないのですね?」
「そうだけど……」
ハニルから見てマオは隠しているようには見えない。
だから、どうしても知りたいと思ってしまう。
「なら数日間は城に住んでもらえませんか?」
「はぁ?」
「え」
知るためには同じ場所に住んでもらおうとハニルは考え提案したが返ってきたのは嫌そうな表情だった。
それも予想外だ。
城に住むなんて憧れるか珍しくて興味を持って目を輝かせると思ったのに嫌そうな表情。
そして自分が住んでいる家でもあるから何が嫌なのか不快な気分になりながら確認する。
「あら城に住むのは嫌ですか?」
「当然。城で生活するなんて普通にプレッシャーでキツイ」
マオの言葉にハニルは意味がわからないと首を傾げる。
それだけ強いのに城で住むプレッシャーがキツイというのは冗談だろうと思う。
「冗談でしょう?」
「いや。俺は食事のマナーに気を使って美味しく食べれないよりはマナーが雑でも美味しく食べたい」
「是非、お城で数日間はすごしてくれませんか?」
マオの断りにハニルは食い気味に誘う。
少しでもマオが困るのなら是非とも参加して欲しかった。
「ですから」
「王女の命令が聞けないのですか?」
「っ〜〜〜」
ニッコリと笑って言えばマオは何も言えなくなる。
どうやら権力といったものが通じるようでハニルは少しだけ安心する。
「………わかりました。食事のマナーが悪くても容赦してください」
「えぇ。当然です」
貴族でも何でもない相手に食事のマナーが悪いからとしつこく注意するつもりはない。
あまりにも悪すぎたら口に出すつもりだが、どちらかというと食事のマナーを気をつけようと苦労するマオがみたいだけだ。
それにキリカをうまく使えば食事のマナーを覚えるために苦労する姿を見れそうで楽しみだった。
「それじゃあ荷物もあるので泊まっている宿に戻らせてもらいます。荷物を回収したら、もう一度城に来ますので」
「あぁ、なるほど。良いですよ。部屋も用意しておきますので、城に着いたら案内に従ってください」
マオが再び目の前から去ろうとしていたから何処に行くのかと確認しようとする前に本人から理由を語られてハニルは納得する。
たしかに王都の宿に泊まっていたのだから移動するには宿に置いていた物も回収する必要がある。
「あれ?」
そこまで考えてハニルは疑問を持つ。
何故キリカを運んでいるのか?
話を聞くとキリカはテブリスたちの家に泊まっていたらしい。
泊まっている場所が違うのなら連れて行く意味は無いんじゃないかと考える。
それにテブリスたちの家の鍵はマオは無いはずだ。
「少し待ってくだ………」
どうしてキリカを連れて行くのか?
それを聞く前にマオは目の前から消えていった。
「いつの間に……」
ちょっと目を離してしまった隙にマオは消えてしまう。
わかってはいるし先程も見ていたが、やはり意味がわからないぐらい速い。
城にいる間に強さの秘密を絶対に探ってやるとハニルは考えていた。
当然、城に住んでいる他の皆も巻き込むつもりだ。
あと、もしキリカを連れてきたら彼女も一緒に城の中に入れるように言う必要もあった。
「…………面倒くさいな」
マオは泊まっている部屋にキリカを抱えながら戻り、思わずぼやく。
それだけでなく地面に落ちていた物をつい蹴ってしまい壊してしまう。
幸いにもそれは宿の物ではなく、マオが持ってきた物で壊れても問題ない。
その壊れた物も直ぐに買い直せる物だ。
「何がよ?」
「城に何日間か住むことになった」
「へぇ。作法とか面倒くさそうね」
「本当に……!」
忌々しそうに口に出すマオにキリカは楽しそうに笑う。
あれだけやって勝てなかったのだ。
少しぐらいは苦労して欲しいと思ってしまう。
「私も一緒に住んでも良いと思う?」
「さぁ?確認するの忘れていたな。一緒に行って確認するか?」
マオの言葉にキリカは首を縦に振って頷く。
キリカもマオの困った姿を見たいから城の中で住ませてほしいと思う。
それに同じ王都で暮らしていたが切り札を隠すために離れて暮らしていたし、一緒にいれる時間もかなり減っていた。
だから寂しく感じ、それを埋め合わせるためにもキリカはマオと一緒にいたかった。
「すいません」
「?マオ殿ですか。話は聞いています。どうぞお入りください」
「ありがとうございます。キリカも一緒に連れて良いでしょうか?」
「はい。王女様からもしキリカ殿も一緒に連れてきたら一緒に中に入れても構わないと言われていますので」
マオは宿に置いていた私物を回収するとキリカと一緒に城へと向かった。
そして門番へと確認すると既にキリカも一緒に入って良いと言われ連れてくるのを予想していたのかと想像する。
ちなみにキリカはテブリスたちの家に私物を置いてあるが王都から出る際に回収するつもりだった。
「来ましたね」
そして城の中を進むとハニルがいた。
どうやら王女様自らが案内してくれるようだ。
「それでは着いてきて下さい」
その言葉に頷きマオたちはハニルの後をついていく。
城の中を歩きながら見てしまうが今まで見てきた中でも綺麗にされていると感じてしまう。
「ところでお二人は同じ部屋に住むのでしょうか?」
「え?」
ハニルの言葉にキリカは顔を赤くする。
城の中で同じ部屋で生活するなんて考えていなかった。
「流石に男女別れて生活すると思っていたのですが部屋が足りていないのですが?それなら同じ部屋を使って生活しようと思いますが?」
「いえ。恋人同士と聞きましたから同じ部屋にしたほうが良いかと思いまして……」
「………どうする。俺としては是非とも言葉に甘えさせてもらおうと思っているけど」
マオが同じ部屋で生活することに乗り気なら自分もとキリカは同じ部屋で生活することを望む。
「わかりました………」
嬉しそうな顔をしているキリカを見てハニルは甘ったるいものを飲んだ表情になり、目は鋭くなる。
キリカとマオの二人が羨ましく思い、同時に妬ましく感じてしまったせいだ。
自分も秀一相手に同じような関係になりたいと思っている。
「そう言えば俺の強さの理由を知りたいから住ませると思ったんですが、同じ生活をさせるために起こしたほうが良いですか?」
「…………そうですね。となりの部屋にも騎士などを住ませますので彼らに声をかけて上げてください」
城に住ませる理由を口にしていないのに察していることにハニルは特に驚かない。
むしろ強さを知りたいと言って、その次に城に住むように言ったのだ。
気づいて当然だろうと考える。
「わかった」
急に思い悩んだような表情を浮かべるマオにキリカとハニルはどうかしたのだろうかと心配になる。
何か不安があるのなら抱えていないで教えてほしい。
キリカはマオよりも弱くても少しでも力になりたいと思っているし、ハニルは強くなるために問題点があるのなら解決したいと思っている。
「ねぇ。大丈夫なの?」
「………何が?」
「いや、思い悩んだ表情をしていたわよ?何か問題があるんじゃないないかと不安になるわよ」
キリカの言葉にマオはそんな表情をしていたかと自分の顔に触れる。
実際、普段通りにしようと思っても赤の他人に伝えないと行けないという点で無理だろうなと考えてしまう。
「あぁ、大丈夫。実際にやってみないとわからないし。それに」
「それに?」
「普段は一人で鍛えているから他人を巻き込むのに不思議な気分になっているだけ」
「本当に?」
「本当に」
嘘か本当かわからないがマオがそう言うのなら納得しようとするキリカ。
それに結局は普段と違う生活になるのには同意する。
普段と全く違う場所で生活するのもそうだが、他人も巻き込むのだ。
たとえ、それに慣れていたとしても最初は違和感を覚えてしまうだろう。
「本気で疲れたらキリカに甘えれば癒やされるだろ」
マオは無意識に口に出してしまい、ハニルとキリカに聞こえてしまう。
ハニルは独り身の寂しさから目の前でイチャつかれていることにイラッとしたし、キリカは顔が真っ赤になっていた。




