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デートと追跡④

「かなり奢られたなぁ……」


「そうね………」


 マオは無料で食事を食べれたことに満足し、キリカは厄介なことを頼まれたと肩を落とす。

 マオを止めるのは自分だけでは無理だ。

 今回、止められたのは運が良かっただけなのに向こうは理解してくれない。


「それじゃあ次はおススメの本を買いに行かないとな……」


「………そうね」


 マオの言葉に本を買いに行くことを思い出すキリカ。

 どうせなら自分の欲しかった本も買って代金はマオに出させようと考えていた。


「はぁ………」


 そしてマオは深くため息を吐いていた。

 そのことにキリカは警戒する。

 先程もマオがため息を吐いてから襲い掛かってきた。

 もしかしたらまた襲ってくるのではないかと予想してしまったせいだ。


「どうした?」


「貴方、さっきため息を吐いたじゃない。また襲ってくると思ったのよ」


「それなら大丈夫だ。あいつらは見ているだけだし」


 どういうことかとキリカはマオに視線を向けるが応える気は無いらしい。

 だれが隠れているのか気になってキリカは探すために視線を彷徨わせる。

 そんなキリカにマオは手を取った。


「キリカ……!!」


「探すのも良いけど、ちゃんと前を向けよ。人ごみに紛れてどこか言ってしまったらおススメの本も教えてもらえないだろうし」


 マオからすれば、それだけの理由かもしれないがキリカは笑みを浮かべる。

 向こうから手を握ってくれたのだ。

 どんな理由だろうと自分の好きな物を知ろうとしてくれているのも嬉しかった。




「なんつーか、お前の姉ヤバいな………」


 カイルは姉とマオのデートの様子を見て深く頷く。

 途中から服屋で見世物にされていてデートとは言えなかった。

 だがその後には一度家に帰ったみたいだが、それより後は一緒に夕食を食べて買い物に行ってとデートのように見えた。


「でも言っていることは事実だし……」


「まぁ、確かにそうなんだけどよ………」


 カイルたちがキリカをヤバいと言っているのはマオが自分達の目の前で残虐行為をしたのに受け入れているからだった。

 たしかに無惨な死体は見ることもあるが、実際にそれらの姿になるまでの過程は見たことは無かった。

 だから、ほとんどの者はマオの行動に引いている。

 悪いのは喧嘩を売り続ける方だとも思っているがマオもやり過ぎだと思っていた。


「何であんな風になっているの………?」


 目の前で死体を作り上げたり身体を欠損させるなんて普通は吐く。

 実際に吐いているものもいた。

 それなのにキリカは襲撃してきたことに驚いただけで普通にマオに接している。

 そこがもう他の者たちと違っていた。


 恩師であるシスターは教師である自分の教え方が悪かったせいで平然としているのだと思ってしまう。

 少なくとも目の前で人が死んで、それを成した相手の腕に絡みつくような教えはしていなかったはずだ。

 それでも、もしかしたらその土台となる教えを授けてしまったんじゃないかと不安になっていた。


「マオって盗賊とかそういうことを生業に…………していたな」


「…………まぁ、たしかに」


 その会話にシスターはマオを指名手配した方が良いんじゃないかと思う。

 盗賊なんて犯罪者だ。

 それなら罪人としてとらえた方がマシだ。


「でも相手は襲ってきたヤツだけだと思うし………。襲ってきたから殺したって特に隠してないしなぁ……」


「そうだったな。もう奇襲とかしないで正面から相手してもらわなきゃ殺されるぞ、と注意した方が良いな。あと機嫌が悪いと殺されるから忠告しないと」


「武器を奪って売るのも襲ってきた相手だけだし……。殺されなかっただけで幸運だな」


 もしかしたらマオを指名手配をするのは無理なのかもしれない。

 見世物にされた後に襲われたように武器や魔法で攻撃してきたら、どれだけ実力差があっても正当防衛になりかねない。

 武器を持って殺しに来た者を返り討ちにした結果、殺してしまっても悪いのは武器を持って襲った者だ。


「俺たちも真正面から挑むようにしないとな……。お前はいいよなぁ。キリカの弟だから奇襲を仕掛けても殺されないだろうし」


「はぁ!?そんなことは分かりませんよ!?たしかに気には掛けてしまうかもしれませんけど、それでもつい、で殺されてしまう気がしますし!もしかしたらキリカが代わりに仕返しとして殺しに来るかもしれませんし!」


 自分の恋人に弟が襲ったと聞いたら確かにマオの代わりに仕返ししそうだなと頷いてしまった。




「ねぇ。どうせだから見張っていた者たちを驚かさない?」


 キリカは自分ならともかくマオなら見張っている者たちも全員、気付いているのだろうとキリカは思っている。

 驚かせながら見張っていた者たちを確認し、後日仕返しをしようと思っていた。


「流石にめんどくさい……」


 だがマオは面倒くさがる。

 嫌そうな顔を浮かべてまで拒否をし、キリカはそれを何とかと頼み込む。


「いや、何人いると思っているんだよ……。酒場の常連の客がほとんどいるからな?あとお前の恩師のシスターも」


「え?」


 恩師であるシスターにも自分のデートが見られていたと聞いてキリカは気まずくなる。

 全員を驚かし確認するのならシスターにも手を出すということだ。

 流石に恩師相手は厳しい。


「それでもヤル?」


「止めとくわ」


 マオの再度の確認に即答するキリカ。

 諦めてマオの家へと一緒に戻ることに決めた。


「ここが一番品揃えが良いわよ」


 組んでいた腕を引っ張られマオは誘導されていく。

 そこは恋愛小説が並んでいた。

 それを見てマオはキリカに視線を向けるが笑顔で頷かれる。

 おススメの本は恋愛小説らしい。

 そこからキリカは本を選んで手渡してくる。


「これら……?」


「えぇ。ついでに私も何冊か買うから少し付き合って」


 そう言ってカゴを持たされてキリカの後をついていくマオ。

 キリカは何冊か恋愛小説の本もマオの持っているカゴの中に入れたが、他にも色々と本屋の中を巡ってカゴの中に入れていく。

 料理の本や生活について本、色々とあった。


「あぁ、それと貴方がお金は払ってね?今日のデートを見張られていたって知ってたくせに言わなかったんだから。普通にデートを見張られていたっていうのは不快よ」


「わかった」


 マオも誰かに気付かないうちにずっと見られていたら確かに不快だなと納得する。

 そして、それを黙っていたら協力者か仲間だと判断して敵視していただろう。

 それを本を数冊奢るだけで許してくれるのだからキリカは心が広いと感謝する。

 

 なお本の内容を見た店員がマオをキリカを睨み、そのことにマオは首を傾げキリカは自慢するように笑って受け取る。

 それが更に店員の怒りを引き出していた。




「店員さんは何であんなに苛ついているんだ?」


「………本の中身が恋愛小説の他に男と一緒に暮らす方法だったり、男の好きな料理だったりしているわね」


 店員が苛ついているのを見てカイルが疑問に思ったのをシスターが答える。

 かなり離れているのに見えているらしい。

 そしてシスターの死んだ目に引いてしまう。


「教え子に先を越されるなんて……。私には恋人もできたこともないのに………」


 カイルは何も言えなかった。

 恩師の恋愛事情何て聞きたくも無かった。

 だからスルーしようとする。


「貴方はどうなの?もしかして恋人がいるの?」


 それなのに絡んでくるシスターにカイルは答える。


「最近、浮気されたことが発覚したので別れました。理由は相手の方がたくさん貢いでくれるらしいからです」


「…………何でそんな女と付き合ったの?」


「可愛かったので」


「女を見る目がなさすぎない……?」


 流石にシスターもその話を聞いて落ち着く。

 別れた理由があまりにもクソ過ぎる。


「しょうがないじゃないですか……。初めて会って告白されたときは魅力的に見えたんですから」


 カイルの理由に今はともかく、いつかはヤバい女に捕まりそうだなと不安になった。


「それじゃあ家に帰るか」


「えぇ……」


 そして二人が家に帰ると聞いて意識をマオとキリカの二人に向ける。

 本も買い終わってマオの言葉にキリカも頷いており、顔を赤くしている。

 昨日も何も無かったとはいえ少し緊張していた。

 顔を赤らめて期待と不安が入り混じっている表情を見て弟のカイルは吐きそうになった。


「気持ち悪い……」


「大丈夫?」


「身内のあんな顔は見ていて気持ち悪くなるんだな……」


 カイルの吐きそうな表情を見てこれ以上はマズいなと思うシスターたち。

 残虐な行為をした後だし誰も邪魔しないだろうと帰らせようと思う。


「カイル、もう帰っても良いぞ。俺たちも帰るし、誰も邪魔しないだろ」


「そうだな……。ずっと見ていて腹が減ったし何処かで食べて帰るか……」


「それも良いな!見張っていた全員でどこか食べに行こうぜ!!」


 その言葉に全員が乗り気になって頷く。

 この場にいない者たちも連絡して集まるらしい。

 パーッと騒いで今日は解散しようと肩を組んでいた。




「一応言っておくけど見張っていた者達全員、パーっと騒いで解散するつもりだけど、どうする?」


 マオの家の中に入ると急にそんなことを言われる。

 全員が集まっているとなると、たしかに報復をしやすい。

 だが折角の二人きりを逃がしたくなった。


「そうね……、別に良いわ。それよりも本を読みましょう」


 キリカは勝ってきた本をマオに差し出す。

 本人も料理の本を取り出して既に読み始めていた。


「………そういえばマオはいつから見られていたのを気付いていたの?」


「………最初から。多分、今日二人きりで買い物に行くのを聞いて計画していたんだろうな」


 キリカはマオの推測に暇人かと思ってしまう。

 自分達の後を尾行するよりもデートをしたりナンパをすれば良いだろうと考えていた。


「………暇人なの?」


「そうなんじゃないか?途中で俺たちを睨んでいたり、微笑ましく見ていたりと色んな奴らがいたけど」


「睨んだり、微笑ましく?」


「そう。本当に色々な視線を向けられていたぞ」


 もしかして興味方位で覗いてきた者だけでなく、妨害しようと考えていた者もいたのではないかとキリカは察する。

 もし、そうだとしたら礼を言う必要がある。

 自分を見守っていたのだ。

 感謝してもしきれない。


「もしかしてシスターもいる?」


「たしか恩師だっけ?いたよ」


 何となく自分を守ってくれる者と聞いて思いついたのがシスターだった。

 そして確認するといたと聞いて嬉しくなる。

 今度、出会ったらお礼を言うことを決める。


「…………いえ、もしかしたら宴会にいるのかもしれないのよね」


 キリカはマオとの会話でシスターも宴会に参加している可能性を思い出す。

 礼を言うのなら早ければ早いほど良いと思ってしまった。

 宴会に参加しないのを取り消して、やはり参加しようかと考えてしまう。


「シスターが宴会にいるのかどうか分かる?」


「さぁ。俺には分からないけど………」


「宴会の場所も分からないわよね?」


「そうだけど?」


 色々と質問してキリカは今すぐにお礼を今すぐに言うのは無理だろうと諦めた。

 マオにも分からないんじゃ別の日に行った方が都合が良い。

 その代わりマオに身体を預けて本を読むのを再開する。


「どうした?」


「別に良いじゃない……。私としては、この方が落ち着くし……」


「そうか……」


 マオはそれで落ち着くのなら何も文句を言うつもりは無い。

 好きにすれば良いと思っていた。


「なぁ……?」


 それでも質問したいことはあった。


「何?お前は何時まで勇者をやるつもりなんだ?正直に言ってお前が勇者を止めない限り結婚しても誰かに絶対に相手を奪われるぞ?」


「そんなの勇者を止めたとしても分からないじゃない。それに勇者を止めたら結婚でもしてくれるの?」


「勇者を止めたらな」


「………そ、そう」


 勇者を辞めたらというプロポーズにキリカは顔を赤くする。

 だが今はまだ辞める気は無い。


「国や教会に勇者として働けるように金を出しても貰って鍛えて貰ったから無理よ。最低でも二十代後半まで勇者をやらないと多くの者に責められるし……」


「それを過ぎたら引退しても何も言わないのか?」


「そうらしいわ。中にはシスターや神父として次代の勇者を鍛える者もいるけど、その道を選ばなくても大丈夫みたい」


 やっぱり二十代後半まで我慢しなくてはならないんだなぁとマオは考える。

 それまで恋人も何人か出来るかもしれないが最終的には自分のモノになれば良い。

 その為には呪いも掛けた方が良いのではないのかと考える。


「するの?」


 心を読んだようにタイミングよく声を掛けてくるキリカ。

 それに苦笑してマオは何も答えなかった。

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