挑戦②
「………目を閉じるか」
マオはそろそろ目を閉じても避けれそうだと呟きながら目を閉じる。
それが聞こえ実際に目を閉じたマオを確認したキリカはチャンスだと攻撃する。
既に怒りはなく、どんな手を使っても勝ってやるという意思しか無い。
「ふっ!」
だから手加減なんて一切考えず全力でキリカは剣を振るった。
「……………」
だが、それでもマオに攻撃が当たることはない。
一度だけでなく二度、三度と攻撃しても避けられる。
攻撃の速度やタイミングを変えても全く相手にされない。
「はぁぁぁぁぁぁ!!!」
それは当然だったのかもしれない。
マオとキリカが戦っているのだ。
弟子と師匠としても戦っていることもあるからこそマオはキリカの癖をよく理解している。
それこそ目を閉じても避けれるほどには理解していた。
だがキリカは残念だがマオの動きは見切ることは出来なかった。
普段の組手でもマオは基本的に受け身の姿勢で攻撃すること自体が少ない。
むしろマオが攻撃するのが終了の合図でキリカは避けれたことも無かった。
「いや普段と違うことをしろって」
そしてマオは自分が目を閉じても避けれる理由に気づいて軽くキリカの頭を叩く。
このままだといつまで経っても攻撃を当てることが出来ない。
だからマオは助言をする。
「だれよりも一番組手をしてきたんだ。お前の癖は誰よりも理解している」
マオの言葉になぜ目を閉じても避けられるのか理解してキリカは頷く。
最もマオを理解しているのが自分なら、自分を最も理解しているのはマオなのも当然だ。
そして、そのことに思い至り少しだけ嬉しくなる。
「それもそうね」
そしてキリカは普段とは違う行動を意識してマオに挑んだ。
「ダメだな」
マオはキリカが普段とは違うことを意識して挑んで来たことに少しだけアドバイスを間違えてしまったかと後悔する。
普段と違う行動を意識しすぎて動きに迷いが出ており更に避けやすくなってしまっている。
これならいつもと同じ行動をしたほうが思い切りがよく感じたかもしれないと考える。
「何がよ!?」
キリカの攻撃をマオは首を傾げて避け、そのままキリカの懐まで接近して剣を持っていた腕を掴む。
「色々と」
そしてマオは掴んでいた腕を投げ飛ばした。
そう何度も何が悪いのか教える気にはならかった。
「そろそろ攻撃をするか」
「っ!?」
マオの言葉にキリカは反射的に防御態勢を取る。
その行動にマオは苦笑しガードの上から思い切り殴る。
そして最初から覚悟をしていたせいかキリカに対してダメージを与えることは出来なかった。
「ふっ!」
だから続けてマオは攻撃する。
キリカに対して連続で攻撃を浴びせるというのは初めてのことだ。
そして今までが一撃で終わっていたからこそ、キリカも一撃を防いだことに油断して気を抜いてしまう。
「っあ!??」
そのせいでマオの二撃目を防ぐことも出来ずに直撃を受けてしまう。
「続けるぞ」
そしてマオはわざわざ、そんなことを言って攻撃を続ける。
一撃を防いだだけで安心したキリカに気を抜かないようにするためだ。
「っ!?」
キリカはマオの攻撃を剣で受け止めていくが、それでも何度か受け止めきれずに直撃をもらってしまう。
だが何度か攻撃を受けても意識を失うことはなかった。
いつもなら一撃で意識を失ってしまうから、それだけでも秀一の能力で強化されていることを自覚できてしまう。
「まだまだ」
腹を殴る。
続けざまにもう一度殴る。
その次に思い切り蹴り上げ、一回転をして回し蹴りを放つ。
連続した攻撃にキリカは受けることしか出来ず反撃することも出来なかった。
その上に一撃一撃が重く一気に体力を奪われてしまう。
「肉体の耐久面も強化されるのか………」
いつもなら一撃で意識を奪えるのに気絶をしていない。
本当に優秀な強化能力だと感心する。
そして同時にだからこそマオは興味を持った。
もし強化した状態のまま秀一を意識を奪えばどうなるのか試したくなる。
キリカへの強化はそのままなのか。
それとも意識を奪ったら強化が途切れるのか知りたい。
「まぁ、今度にするか………」
だが今回は諦めることにする。
もしかした聞いたら教えてくれるかもしれないし、今回はできるだけ長く戦おうと決めている。
「はぁ!!」
そうマオが考えているとキリカが思い切り良く攻撃をしてくる。
マオが目の前のキリカよりそれを考えていたから隙だらけだと判断したのだろう。
だが、それすらもマオは籠手で受け止め防いでしまう。
「…………うん」
普段と比べて格段に速いし頑丈だ。
そして威力も強くなっているが、片手で防げることに少しだけ残念にマオは思えてしまう。
せめて少しぐらいは吹き飛ばして欲しいと思う。
「ふっ!」
そんな残念に思ったマオに最初から受け止められることを予想していたのかキリカは攻撃の手を緩めない。
だがマオはいくらキリカの攻撃が激しくても最初に避けていたよりも、かなりの余裕を持って避けていく。
最初も攻撃を受け止めていたが小手調べのようなものだとマオは考えて威力を警戒していた。
だが先程の思い切りのよい攻撃を受け止め、どれくらいの威力なのか理解した。
そしてその威力が片手で十分に防げる威力だと理解したから余裕を持つことが出来た。
「…………」
だからマオは強化されたキリカを見ることに意識を切り替える。
自分に近い速度で動けれるほどの強化。
本当にキリカには悪影響が無いのか確認したくなる。
「はっ!」
キリカは袈裟斬りする。
マオは避けながら見る。
「フッ!」
キリカは切り上げる。
マオは避けながら視る。
「やぁ!」
キリカは刺突する。
マオは避けながら観る。
「っあ!!!」
キリカは全力で剣を振るうがマオに片手で剣を掴み取られる。
「うん」
「何がうん、よ!」
マオに掴まれた腕をキリカは強引に振りほどく。
自分をじっと見ていることにも疑問を持つ。
「いや、その強化は強力だけどリスクも大きそうだなって」
「そうでもないわよ!」
更にもう一度剣を振るう。
だがマオに掴み取られてしまう。
「そうか?俺には使う相手によっては強化のしすぎで破裂するようにしか見えないが?」
「は?」
「まぁ、お前にはまだ問題は無いか」
マオの言葉にキリカだけでなく他の者たちも信じられないと視線を向ける。
自分たちが調べても理解できなかったのに、なんでマオは理解できるのだと意味がわからない。
「どういう意味?」
「そのままだけど……」
聞き返してくるキリカにマオは逆になんでわからないのだと首を傾げる。
使いこなせるように何度か使ったのに自分たちでは理解できなかったのに何でデメリットを理解できるのか意味がわからない。
「うそだ………」
意味がわからないからこそ秀一は否定の声を上げてしまう。
なにせマオはまだ一度しか戦っていない。
そしてその一度で自分でもわからなかった強化のデメリットを理解している。
更に何よりもその欠点を事実だと受け入れている皆が信じられなかった。
「へぇ、それならどれだけ私は強化されることが出来るのよ?」
「さぁ。まだまだ破裂しないように思えるけど………。強化された本人が強ければ強いほど大丈夫じゃないかな?」
それなら限界まで強化すればマオに勝てるかもしれないとキリカは考える。
それは他の者たちも同じで一斉に秀一の元へと駆け寄る。
「更に強化か………」
マオは全員で強化したら流石に敗北するかなと考えると同時にキリカが破裂しそうと心配になる。
だからマオはキリカを強化している者たちの意識を奪うことにする。
それに意識を奪うことによって強化された状態からどうなるのか興味があった。
「面白そうだし邪魔をするか」
マオはキリカを強化するために秀一に魔力を分け与えている者へと移動する。
キリカもそれに気づいてマオの行動を邪魔しようとする。
「急に何を!」
「強化している本人が気絶したら、どうなるのかなって」
マオが秀一たちを狙って行動することにキリカは焦る。
強化している秀一が意識を失ったら強化は途切れる。
そうなったらマオに勝つことなんて夢のまた夢でしか無い。
だからそれを防ぐためにマオから秀一を守らくてはいけない。
そしてそれはマオから防衛戦をしなくてはいけないということだ。
先程まではマオは長期戦をするためにわざと攻撃をしないで手を抜いていた。
手を抜くまでに余裕のあったマオが攻勢に出るのだ。
マオから秀一を護るために後手に回らざるを得ないし不利になる。
「ふっ」
「っ!」
マオは正拳を突き、キリカはそれを剣で受けて防ぐ。
マオは防がれた拳をそのまま掌を開き、そのまま一歩進んで剣を掴む。
「邪魔」
マオはそれだけを言って掴んだ剣ごとキリカを投げ飛ばす。
「えっ?」
キリカは投げ飛ばされながら今の状況を確認する。
秀一の目の前にはマオがいる。
護るための人員も秀一の側にいるはずだが全員が膝を着いていた。
「まずはこいつらかな?」
空中に浮いているせいで身動きが取れずキリカは駆けつけることが出来ない。
魔法を撃って妨害しようと考えていても避けられたら逆に秀一たちへと攻撃が当たってしまう。
ただ見ていることしか出来ないために歯がゆく感じてしまう。
そしてマオが攻撃したのは秀一以外の者たち。
キリカを強化するために魔力を分けた者も、そうでない者も全員が意識を奪われた。
「なるほど」
そのあとにマオはキリカを見て納得した顔を見せる。
キリカの輝いている姿を見たからだ。
全く輝きが減っていない姿を見て魔力を分け与えている者たちの意識を奪っても強化は途切れないのだと理解する。
「……………強化は相当優れているけど、やはり無駄だな」
マオは風を吹かせ砂煙を起こす。
そのせいでキリカは目の前が煙で見えなくなる。
そしてマオは逆に煙が舞っていてもハッキリとキリカがどこにいるのか見えていた。
もし輝いていなかったらマオにもハッキリと見えていなかっただろう。
決戦ならともかく奇襲には使えそうにないなとマオは考える。
「それにわかりやすい」
光の輝き加減でどれだけ強化されているのか比較としてもわかりやすい。
何度も戦い情報を集めることさえできれば対処することが出来てもおかしくない。
「必要なのは理解るが、やっぱり他人ありきの強化はダメだな」
強化している本人が意識を失ったら強化は途切れてしまう。
それなら自分ひとりで戦ったほうがマシだとマオは思う。
それにとマオは秀一をチラリと見る。
地面に尻をつけ、ただただマオを見上げているだけしか出来ていない。
距離を取るという行動すらにも移せない。
情けないとしか思えなかった。
こんな者がパーティにいても邪魔でしか無い。
そもそも鍛えているようにも見えないし能力だけをみて勝負に駆り出されたようにしか思えない。
そう思うと情けないとは思えず、むしろ同情の視線を送ってしまう。
「さてと………」
煙が舞い視界が悪くマトモに相手が見えない中でマオはキリカへと直進していく。
そしてマオはキリカへと拳を叩き込みんだ。




