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挑戦と誘い④

「キリカさんですよね?今、時間をもらえませんか?」


 キリカは話しかけてきた相手が誰なのか確認するために振り返る。

 そこにはハニルたちがいて驚きで目を見開く。

 王都に住んでいた過去があるからハニルが何者なのか知っている。

 だから当然のようにキリカはハニルたちの疑問に頷いた。



「それで何のようでしょうか?」


 そしてキリカは落ち着いて話せる場所に案内し要件を聞く。

 わざわざ一国のお姫様がこんなところまで来たのだ。

 なにがあったのかと緊張していた。


「今度、皆で協力してマオに挑もうと考えています。キリカさんも協力して頂けませんか?」


 ハニルの言葉にキリカは微妙な表情を浮かべる。

 どれだけ多くの者が協力してもマオに勝てるとは思えなかったせいだ。


「やはり無理でしょうか?」


 テブリスたちは協力してくれるはずだと言っていたが、ハニルとしてはそのことに疑いを消しきれなかった。

 恋人を相手に数で挑むのだ。

 聞いていて気分は良くない。

 それに弟子だから勝ちたいと言っても、どうせなら他人に力を貸すよりも自分の力で勝ちたいと思っていてもおかしくない。


「いえ。大丈夫ですけど勝てるんですか?どれだけの数を揃えても負ける姿が想像できるんですが………」


「あります。詳しいことは一度、一緒に王都に来て挑んでもらうことを約束してもらいますが私は勝てると確信しています」


「………わかりました。そこまで言うのでしたら私も信用します」


「本当ですか!」


「はい。私も一度で良いのでどうしてもマオに勝ちたいですし……。早速、一緒に王都について行った方が良いでしょうか?」


「お願いします!」


 早速、王都に行こうとハニルはキリカの手を掴む。

 だがキリカは少しだけで良いから待ってほしかった。


「その……、申し訳ありませんが先にマオに王都に行くと伝えてからで良いでしょうか?なにも言わずにどこかに行くのは心配させてしまうでしょうし……」


 家族相手に心配かけてしまうのは確かに心苦しいと納得して手を離すハニル。

 それなら約束の時間を決めようと考える。


「それなら明日の朝にまたここに集合しませんか?私達も馬車でここに着いたばかりで疲れてますし」


「わかりました。あと事前にいつ戦うか決めてますか?マオにその日に王都に来てもらうように伝えようと思いますけど」


「大丈夫です。準備が出来たら強引にでも王都に来てもらいますので」


「…………わかりました」


 テブリスたちが使っていたように転移で連れてくるつもりだろうなとキリカは予想する。


「……………あれ?」


 以前もマオは流されるままに転移していった。

 もしかしたら、これは何かに利用できるんじゃないかと考える。


「どうしましたか?」


「あっ、いえ……」


 だがこの場で話すつもりは無い。

 どこで誰が聞いているかわからないし、もし誰かがマオに伝えて自覚させたくなかった。


「それでは、また明日」


 そう言って去ろうとするキリカ。

 だがハニルはキリカを引き留める。


「待ってくれませんか?」


 ここでは話したくないがお姫様に引き留められれば止まるしかない。

 どうしれば良いとキリカは冷や汗を流す。


「マオに会いたいのですが案内してもらえませんか?」


 その言葉にキリカは問い詰められなかったことに安堵し、同時に何のようだろうと首をかしげていた。




「マオ、いる?」


「どうしたんだよ、キリカ。いつもなら確認もせずに中に入っているくせに」


「………なんでカイルがいるのよ?合鍵は全部回収したはずよね?」


「たしかにそうだけど。家主が入れてくれれば問題なくね?」


 カイルの言葉に不満な表情を浮かべながら納得するキリカ。

 本当ならハニルたちが帰った後甘えて癒やされようと思っていたがカイルがいるから無理だ。

 流石に弟がいると認識して甘えるのは恥ずかしい。


「そうね。それでマオはいる?」


「いるけど、どうした?マオに客人……か?」


 話している途中カイルはキリカの後ろにいる者たちに気づく。

 カイルもまたキリカと同じく王都に住んでいたから知っている。

 だが実際に会うのは初めてで緊張で震えてしまう。


「すいません。マオに会いたくて来ました。中に入って挨拶しても良いでしょうか?」


「あっ、はい」


 家主ではないがお姫様の言葉に中に入ることを勝手に受け入れるカイル。

 そして、そのままマオのもとまで案内しようとする。


「それでは私も一緒に入らせてもらいます」


 更に続けて女の騎士や男が入っていきな何が起こるんだと緊張してしまっていた。



「誰?」


 ハニルたちがマオのいる部屋に入ると同時に疑問の声が飛んでくる。

 マオを見ると本から視線を上げておらず、どうやら気配だけで見知らぬ誰かが入ってきたことを察知したらしい。


「ちゃんと視線を上げて挨拶しなさい!」


 顔を青ざめさせてキリカはマオの頭を叩く。

 普通に失礼だし、相手がお姫様だということで更に顔が青くなる。


「急にこんな狭い場所に何のようでしょうか?」


 マオは注意されたこともあり視線をハニルに向けて疑問をぶつける。

 だが目を見た瞬間に何のようなのか一瞬で理解してしてまった。

 あまりにも視線が戦意に満ちていた。


「なんですか?王家からの挑戦ですか?」


「………よくわかりましたね」


 マオの言葉にハニルたち全員が驚く。

 何も言っていないのに目的を理解されたことに冷や汗を流す。


「それだけ俺を見る目に戦意を込めていれば視ればわかります。それでいつ戦うつもりですか?」


「そうですか。………戦う日はまだ決めていません。ですが準備を整ったら誘うつもりです」


「………わかりました」


 勝負を挑む予定らしいが、まだいつになるのか決めてないとなると面倒くさいなとマオは思う。

 どうせなら、そこも先に決めて欲しいと考えていた。

 もし予定が重なってしまったら、どうするんだろうと考えてしまう。


「それでマオ………」


「お前も俺に挑むの?」


「えぇ。だから王都に行くことになるわ」


 キリカの言葉に少しは楽しくなりそうだとマオは笑う。

 その浮かべている余裕を覆したいとハニルやキリカも思う。


「それ俺も参加していいか?」


 そして、それはカイルも同じだ。

 マオに勝てる可能性があるから挑むのだろう。

 それなら少しでも勝算を上げるために参加したいと考える。


「構いませんよ?」


「ありがとうございます!」


 更に戦力が増えたことにハニルは笑顔で参戦を喜ぶ。

 むしろ御礼を言いたいのは自分たちの方だと思っていた。


「あの………」


「どうしましたか?」


 そんな中、秀一はマオへと話しかける。

 他の皆はそれぞれ王都に来たらマオに挑む日までどんな生活をするのか話し合っている。


「貴方から見て世界はどんな風に見えているのか気になってしまって……」


 恥ずかしそうに質問してくる秀一。

 それに対してマオはつまらなさそうに答える。


「何もかもが脆くて弱くて、少し触れただけで壊れてしまうんじゃないかって思える。たまに気を遣わないと殺してしまいそうでストレスを溜めそうになる」


「…………おぉう」


 完全に別次元の生命体だと秀一は思う。

 あまりにも実力差がありすぎてマオは窮屈すら感じているらしい。


「なぁ」


「なんでしょうか?」


 今度はマオから疑問が飛んできた。

 そして後悔する。

 マオは勘も優れていた。


「お前、もしかしてハニルたちの切り札だったりする?」


 顔を青ざめる秀一にやっぱりかと機嫌を良くするマオ。

 何でわかったのだと驚愕の視線を向けてしまう。


「あぁ、わかったのは何となくだから気にしなくて良いよ。最初はお前を狙う気は無いし。その方が面白そうだし」


 マオの言葉に安堵の息を吐く秀一。

 その反応にマオがやはり秀一が切り札なのだと確信して見ていたことには気づかなかった。


「ところでお姫様」


「はい。どうしましたか?」


「申し訳ないけど、俺も一緒に王都に行っていいでしょうか?準備が終わるまで待つのも暇でしょうし。どうせなら王都で的等と俺は思っているんです」


「…………私達の訓練を覗かないのなら構いません」


「良いですよ?」


 ハニルの条件にマオは受け入れる。

 サプライズは後にしていたほうが楽しいからだ。


「わかりました」


 そんな余裕が明け透けだからハニルはマオに苛立ちを覚える。

 何をしても勝てる余裕があると思っているのだろう。

 つまりそれだけの実力差があるとマオは考えている。

 それを否定できなくてハニルは悔しさもあって更に苛立ちを覚えてしまう。


「それでは一緒に行きましょうか?」


 怒りを隠して笑顔を浮かべて頷くハニル。

 だが、その目に宿す怒りは隠しきれない。


「お願いします。それでいつから王都に移動する予定ですか?」


「………問題が無いのなら明日からです」


「わかりました」


 マオはそれなら問題ないと頷く。

 キリカたちにも確認するが問題はないらしい。


「それでは明日はよろしくお願いしますね」


「えぇ」


 予定とは多少変わったが問題は無いとハニルは考える。

 マオ本人には余裕とも言える油断もしているから切り札を探ることも無いだろうと考えてしまう。

 それに馬車に乗ってきたのだ。

 マオが一緒に乗ればモンスターに道中襲われても安心できるかもしれないという打算があった。

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