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挑戦と誘い③

「なぁ、皆……」


 秀一の能力にこれならマオに勝てるとテンションを上げながら家に戻るとテブリスが遠慮がちに声をかけてくる。

 普段とは全く違う様子にパーティの皆はどうしたのかと疑問を抱く。


「どうしたのよ?」


「マオに挑む相手だけど俺はキリカが良いと考えている。皆はどう思う?」


「はぁ?」


 テブリスの意見にパーティの皆が信じられないという表情を向ける。

 キリカはマオの恋人なのだ。

 そんなことをしても手加減をするだろうと皆は考えてしまう。


「皆はキリカがマオを相手に手加減すると思っているのか?」


「テブリスはそう思わないの?」


 リュミたちの疑問にテブリスは首を縦にふる。

 キリカが手加減するとはテブリスには思えなかった。


「何でよ?」


「相手はマオだ。いくら恋人でも、同時に師弟関係にあるらしいんだ。色々と不満を持っていてもおかしくないだろ」


 たしかに自分たちも鍛えてくれているとはいえ色々と厳しかった教官たちに今でも不満を持ってしまっている。

 ありがたいと思っているし感謝もしているが感情が納得いっていない。


「それに……」


「それに?」


「恋人だからこそ一番マオのことをわかっているはずだ」


「…………たしかに」


 納得した。

 王都にいた頃は自分たちより強かったのに、今ではキリカたちの方が強い。

 そこまで鍛え上げられたのだから、もしかしたら現時点で一番マオの実力に詳しいのかもしれない。

 それを考えるとキリカの方が勝率がある。


「それにマオはキリカに甘いからな……」


 更に思い出すマオのキリカに向ける視線と扱い。

 キリカが本気で挑んでも、もしかしたらマオは相手がキリカだからこそ手加減をするかもしれない。

 そういう意味でもキリカのほうが自分たちよりも勝率が上になる。


「そうね。まずはキリカを誘いましょう」


 テブリスの意見に納得しキリカを誘うことに決めるメンバーたち。

 自分の意見が通ったことにテブリスも笑みを浮かべる。


「その前にハニル様に意見を通したほうが良いわよね?」


「そうだな……。あの方が拒否したら無理かもしれないな」


 だが、その前にハニルを説得する必要がある。

 もし却下されたら自分が挑もうとテブリスたち全員が考える。

 そして他にも挑むことにした者がいたら勝って、その権利を掴んでやると考えていた。


「とりあえず明日ハニル様に意見を出すことにするぞ」


 その言葉に全員が頷き、そして却下された場合の心の準備をしていた。




「どうしましたか?」


 昨日に引き続きテブリスたちが自分たちの元へと来たことにハニルはどうかしたのかと疑問を持つ。

 もしかしたらマオと戦うのに推薦しに来たのかと想像する。


「マオと戦う相手ですが、マオの恋人であるキリカを推薦したいと思っています」


「マオの恋人を……?」


 本気で言っているのかと視線をテブリスたちに向けるハニル。

 だがテブリスたちは真面目な顔をして頷く。


「恋人だとむしろ手加減をするんじゃないかと思うんですが?」


「大丈夫だと思います。恋人ですが同時に二人は師弟でもあります。一度でも勝てるのなら手を抜くことは無いはずです」


 恋人でもあるが師弟でもあると聞いて悩むハニル。

 師弟であるのなら相手の方が上だと遠慮なく他者の力を借りて挑むことができてもおかしくはない。


「それにマオは恋人に甘いみたいですから、もしかしたら手加減する可能性もあります」


「…………そうですね」


 どれだけ強化してもマオが手加減しなきゃ勝てないと思ってしまっていることに気づいてハニルは微妙な表情を浮かべてしまう。

 自分は見ていただけだが実際に戦った者だと心が折れてしまっているんじゃないかと思ってしまう。


「あとは一番マオに近いからどういう風に戦うか一番理解していると思います」


「わかりました。今度、キリカさんに会って話を聞いてみます」


「お願いします!」


 ハニルに自分たちの意見が届いたことにテブリスは嬉しくなる。

 あとはキリカ自身だ。

 まだ聞いてはいないがテブリスはマオに挑んで欲しいと思っていた。



「お父様?」


「どうしたハニル?」


 テブリスたちの意見を聞き届けてハニルはキリカを誘うことに決める。

 だがキリカはマオと同じ街に住んでおり王都にいない。

 会うには王都から出ないと行けなかった。


「マオのいる街に行きたいと思うのですが許可と護衛をお願いしたいのですが………」


「もしかして恋人同士で戦わせるつもりか?性格が悪くないか?」


 何で王都から出てマオの住んでいる街に行きたいのか理解して王は我が娘ながらと引く。

 まだキリカのことは口にしていないのに知っていることには気にしない。

 マオについて調べているから予想も容易かったのだろう。


「推奨してきたのは彼らの知り合いですよ?それに師弟だと聞いてますし遠慮なく戦うことも出来ると思います」


「………そうか」


 たしかに師弟なら手加減も考えず全力で挑めるかもしれないと王も思う。

 だが街に行くのは、まだ先だ。

 王族なのだ。

 最低限どころか十分な護衛の準備をしてからじゃないと街に行くことは許可できなかった。


「それで行ってきて良いでしょうか?」


「ダメだ。少なくとも準備はするから2日ほど待て」


 マオの住んでいる街に行くことを拒否され気落ちするが、すぐに続けられた言葉に目を輝かせて顔を上げる。


「この国の姫なんだ。護衛は私達が決める。それまでは待っているように」


 お姫様だと言われて納得するハニル。

 マオたちの住んでいる街に行ける日を楽しみにしていた。



「シュウイチ?」


「ハニル!?」


 父親の元から去りハニルは秀一の部屋へと向かう。

 目的は愚痴を聞いてもらうためだ。

 必要だし大事にされているのは理解るが、それでも過保護に感じてしまう。


「どうして俺の部屋に……」


「愚痴を聞いてくれませんか?」


 部屋に入ってきて言われた言葉に秀一は頷く。

 家主の娘だし、そのぐらいは構わない。

 それにまだ出会って日が浅いのに愚痴をこぼすぐらいまで信頼されていると思うと嬉しくなる。


「お父様が護衛を選ぶまでマオのいる街まで行くことは許可できないって!自由に行くことが出来ないってひどくないですか!?」


「…………」


 秀一はハニルの愚痴を聞いて妥当だと思う。

 年頃の娘が気軽に別の町に行くのは不安に感じるのだろう。

 それが父親だとしたら尚更だ。


「少しぐらいは娘を信用してくれたって良いじゃない……」


「無理じゃないかな?」


「何でですか?」


 秀一の否定にハニルは鋭い目で睨む。

 どういうことだと言いたいらしい。


「父親と娘である限り、どれだけ強くても心配してしまうと俺は思う。まぁ、父親として娘を愛していると思って我慢するしかないんじゃないかな」


「…………そうね」


 世の中には愛してもらえず捨てられる子供もいることも知っている。

 この世界に生まれたのに愛してもらえない者もいることを知っているからハニルは何も言えなくなる。


「まぁ、それでも不満は出てしまうんだろうし話ぐらいは聞いてやる」


「うん…」


 そう言ってもらえると気が楽になるとハニルは秀一の言葉に甘える。

 そして父親だけでなく日頃の溜まっている愚痴を吐き出し始める。


 周囲から向けられる視線、お姫様としての立ち振舞い、常に視線を集める立場、もしかしたら世界でも最も豊かな生活が出来ているのかもしれないが同時に最も自由が少ないのかもしれないと愚痴を零していく。

 秀一はそれを聞いて否定することが出来ない。

 

「まぁ、お姫様だもんな。結婚の自由も無いんだろ?もしかしたら生まれたときから自由意志が最も選べない人生かもしれないしな」


「うん……。本当に自分の意志で好きなことを選べる機会が少ないです……。嫌いな相手にも笑わないといけないし、おべっかも使わないといけないし……」


 流れるように次々と出てくる不満。

 それだけ自由が少ないのだと察してハニルも嫌になる。


 そしてハニルを手に入れるとしても絶対に王様になりたくないと思う。

 お姫様であるハニルでさえ、これなのだ。

 結婚して王様になっても女王となったハニルを支える役目だとしても絶対にやりたくない。

 絶対に将来ハゲてしまいそうだ。


「結婚相手も自分だけで決められないし、恋なんて許されない。してしまっても絶対にあら捜しとか始まるんですよね………」


 それは面倒だ。

 これが一般の相手だったら問題ないだろう。

 あら捜しをするとしても一般の枠を出ないはずだ。

 だが王族は違う。

 国そのものの力を使うから規模も違ってくる。


 それに一般のものが他国の相手に恋をして結婚することになっても何も問題はない。

 どちらかの国に行くことになっても何も影響は与えないだろう。

 だが王族は違う。

 他国に行くことになっても迎え入れるにしても、それなり以上の相手じゃないと国民からも不満は出る。


「そうか………」


「あっ、忘れてました」


 愚痴を聞いていると急にハニルが思い出したかのように声を上げる。

 そのことに秀一はどうかしたのかと疑問をぶつけると当たり前のように答える。


「私がマオのいる街に行くときはシュウイチも付いてきてくださいね?挑もうとしている相手がどんな者なのかシュウイチも気になるでしょうし」


「たしかに」


 皆が挑もうとしている相手がどんな者なのか、話を聞いていても強いとしかわからない。

 だからこそ興味がある。

 誰に聞いても強いという言葉が出てくる相手。

 そして国そのものが力でもある王族ですら勝てないと思わせる相手。

 それだけ強かったら世界がどんな風に見えるのかぜひ話を聞きたかった。



「それでは行ってきます」


 秀一はハニルと一緒に馬車に乗り王都から出発する。

 他にも騎士たちが何人か一緒に向かうことになったが、殆どが女騎士で肩身が狭く感じる。

 数少ない男たちは全員、馬車の外におり数名の女騎士が秀一たちと同じ馬車で待機していた。


「…………なぁ、俺はマオって人のことを聞いても強いとしか言われないんだけど実際はどんな人なんだ?」


 今度こそ答えて欲しいと思いながら秀一は疑問をぶつける。

 そのことにハニルたちはそういえばそうだったと冷や汗を流しながら頷く。


「そうですね。あまり接点はありませんが、それでも強いという印象が強すぎます。そのせいで他人を見下しているように見えますね。自分以外のものはすべて直ぐに死んでしまう弱者だと思っていそうです」


 生きている次元が違うのかなと秀一は考える。

 そして、そんな相手に勝とうと考えているこの世界は向上心に溢れているなと思ってしまっていた。


「………あまり詳しくないのに勝ちたいのか?」


「はい。あまりにも強すぎて国民が恐れて排除に舵を切ったら反撃で虐殺される気がしますし。そうならないために抑止力として勝てる存在がいると安心させる必要があります」


 強すぎる力に対して恐怖で動いて悲劇が起きる前に抑止力があると示す必要があると説明されて向上心ではないなと考え直す。

 だが個人で圧倒的な力を持っているのだから、いつ気まぐれて事件を起こされるかわからないと恐怖を覚えてしまうのも理解できる。

 なにせ相手は親しくもない相手だ。

 どんな行動に出るのか親しくないからこそ予想できない。


「ん?たいして親しくないのに反撃として虐殺するのは予想できるのか?」


「さっきも言いましたけど自分以外を見下しているように感じますからね………。同じ生き物だと思っていないし、思えないような感覚が偶にしますし」


 それはもう別の生き物なんじゃないかと秀一は考える。

 別の生き物だからこそ恐れているし、簡単に反撃で虐殺する姿が想像できるんじゃないかと思う。

 つまり今から会いに行くのは人の姿をした何かだ。

 そう考えると恐ろしく感じた。

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