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挑戦と誘い①

「魔力の吸収と強化ね………」


 秀一のおおまかな能力をハニルは声に出して考える。

 魔力を吸収して溜め込むのに限度はあるかもしれないが吸収と同時に使えば限度は無いかもしれない。


「もしかして!!」


 そう考えれば魔力さえあれば無限に相手を強化できるんじゃないかとハニルは考える。

 そして、あまりにも強力なサポート能力にハニルは王である父の元へと向かう。


「お父様!!シュウイチの能力について聞きましたか!?」


「あぁ……。かなり有用な能力だと聞いているが、どうした?」


 王は娘が突然に部屋に入ってきたことに驚く。

 そして、どうしたのかと疑問に思っていた。


「ハニル?」


「あっ………」


 そして妻である王妃に娘は顔を青くしていた。

 それも当然だろう。

 淑女として教育を受けているはずなのに扉をノックもせずに入ってきたのだ。

 母親として王妃として少し怒りを抱いている。


「次にやったら、その有用な異世界の勇者を婿するよう命令しますよ。顔も貴方の好みだから問題ないでしょう?私も積極的に手を貸すので指示に従いなさいね?」


「うぐ………」


 娘の反応に王は思わず視線を向ける。

 全く気づかなかった。

 そして、そのことに気づいた妻にこれが母親の貫禄かと思う。


「かなり強力な能力の持ち主だから文句は無いですけど………。お母様の手を借りるのはちょっと………」


 ハニルは母親の手を借り、そして言われたとおりに行動しなくてはいけなくなることにハニルは嫌な顔を見せる。

 当然だろう。

 男の心を奪うのに、いちいち母親の指示を聞かなくてはいけないのだ。

 自分一人でも十分なのにプライドが傷つくし、いちいち干渉されるのはうざい。

 それは男も同じだから気持ちはわかると王は思う。


 そして同時に秀一に不満を持つ。

 まさか娘の好みの顔だと思わないし、そして婿としてするのに不満を持っていないのが気に食わない。

 普通は王族とはいえ優秀な相手を迎え入れるために自分の意志で結婚相手を決められないことにほんの少しは不満を持つはずだ。

 それだけ好みの顔なのだろうと王は考える。


「…………気をつけます。それよりもシュウイチの能力です」


「あぁ、それがどうしたんだ?」


 少し話の向きは変わってしまったが、娘の言葉に軌道修正する。

 それがどうかしたのか疑問だ。


「もしかしたらマオに勝てるかもしれません」


「「詳しく」」


 娘の言葉に王と王妃は言葉を合わせて確認する。

 マオを相手にして勝てるかもしれないのだ。

 是非とも意見を聞きたい。


「実際にシュウイチの能力を受けてみて、身体能力が急に上がっても違和感なく使いこなせれるんです。そして後から強化することもでき、シュウイチ自身は他者から魔力を吸収することが出来ます。つまり魔力を他者から吸収しながら強化を出来るはずです。そうすれば魔力がある限り無限に強化できるます!」


「ふむ………」


 ハニルの言っていることが本当ならたしかに無限に強化することが出来るかもしれない。

 だが報告に聞いた限りでは強化と吸収、どちらか片方しか使えず同時に出来なかったと聞いている。


「だが同時に使えなかったと聞いたぞ?」


「それはまだ使い始めたばかりだからだと私は思っています。もしかしたら、これからの訓練自体では同時に使えるようになるかもしれません」


 ハニルの言葉に否定できない。

 まだ自分の能力を自覚したばかりなのだ。

 使いこなせていなくてもおかしくはない。


「そうだな。まずは二つのことを同時に使いこなせるように訓練するように指示を出すか」


「それが良いと私は思います。彼自身の戦闘能力を上げるより他者のフォロー能力を上げたほうが良いでしょう。彼とパーティを組む以上は彼自身が切り札になるでしょうし」


「わかった。細かいところはお前に任せる」


「はい。それでは失礼します」


 秀一のこれからの訓練内容について話し合い、方針が決まる。

 ハニルは王の部屋から出て秀一を鍛える教官たちの元へと向かった。


「それにしてもマオに勝てる可能性が出てきたか………」


 王は感慨深く呟く。

 マオに勝てる可能性が出てきたことが嬉しかった。


「嬉しそうね?」


「お前だってそうだろ。あれだけの強さを持っているんだ。敵に回られたら危険だ。そして気が狂ったり、洗脳されて暴れられたら、この国がどうなるかわかったものじゃない」


「そうね……」


 王族としてマオの強さを危険視している。

 だから、いざという時の抑止力が欲しかった。

 そして、それが見つかりそうで嬉しくなる。


「強いというだけで危険視して排除するのも愚策だが強さが限度を超えている」


 秀一という戦力を手に入れたが、まだ勝てるのというのは可能性だけでしかない。

 まずは秀一が能力を使いこなせるように鍛えなくてはいけないし、勝ててもまだまだ先のことだろう。


「勝てる確信が出きたら排除するつもり?」


「いや、それはしない。あれだけの強さだ。訓練として戦ってくれるだけでも良い経験になる。我が国の冒険者や騎士たちの能力を底上げするためにも、それはしない」


「………もう娘には異世界からの勇者を手に入れるために行動するように言ったけど変える?」


「必要はないだろう。調べたところ恋人とその弟には甘いらしい。そして、この王都には二人の家族もいる。彼らを悲しませないために、その力をぶつけてこないはずだ」


 それがわかっていても、いざという時の抑止力が欲しいと考える王。

 王妃もその力が向けられる可能性は低いと聞いて安心する。


「まぁ、まずは異世界からの勇者の成長に期待しよう」


「そうね」


 何にせよ、抑止力が手に入るかどうかは秀一の能力次第だ。

 それでも可能性があるだけ秀一に期待していた。



「皆さん、いますか!?」


 教官たちが毎日のように訪れている食堂にハニルは入る。

 そこには予想通りに秀一の教官たちもいる。


「姫様!?」


 教官たちもいるが、他の兵士たちもいてハニルの登場の動揺する。

 口に運んでいた食べ物を落としたり、運んでいたトレイを落としてしまったりと中々に悲惨なことになっている。


「あの……。もしかして足りなかったり何か料理に不満が有ったのでしょうか?」


 そして食卓で働く一人が不安になりながらもハニルへと疑問をぶつける。

 なにせお姫様が、こんな食卓に来ることは殆ど無い。

 何か失敗をしてしまったんじゃないかと不安になる。


「え?何のことでしょうか?私はシュウイチの教官に選ばれた者たちがここにいないか確認しに来ただけですよ?」


「へ?私達ですか?」


 奥の方にいる教官に選ばれたものたちがハニルの言葉に反応し、視線を向けられる。


「あっ、やはりいましたね。食事が終わったら私の部屋に来てくれませんか?」


 異世界からの勇者の教育についての話だと理解して三人は頷く。

 本当なら今すぐにでも向かいたいが、先にハニルから食事が終わってからで良いと気遣われてしまう。

 直ぐに言ったら、その気遣いを無視してしまうことになるから三人は食事を先に済ませることに決める。


 周りの会話を聞いていた者たちも先に気を遣われてしまっていたし、それを無視してしまうのも問題だからしょうがないと納得する。

 だが出来るだけ急いで食事を終わらせてお姫様の元へと向かって欲しいと考えているし、教官たちも急いで食事を終わらせようとスピードを上げていた。


「早くありませんか?食事もきちんと済ませたたのでしょうか?」


 そしてハニルの部屋に入ると、あまりの速さにハニルの顔が引きつる。

 部屋に戻って十分も経っていない。

 もしかして急かしてしまったのではないかとハニルは不安になる。


「きちんと食事も済ませたので安心してください。ちょうど、ほとんど食べ終わってましたので」


 その言葉にハニルは本当かと疑う。

 自分がお姫様で大事にされていることを知っているからこそ本当は慌てて急いできたんじゃないかと疑っていた。


「それなら良いのですが……。まぁ、今はそれよりもシュウイチの訓練内容の優先度についてお願いしたいことがあります」


「「「はっ」」」


「シュウイチの能力はうまく行けばマオを相手に勝てる可能性があります。ですから、まずは優先的に能力を鍛えてください」


「………本当ですか?」


 ハニルの言葉に教官たちは本当かと目を輝かせる。

 マオという圧倒的な強者が相手でも王族を守る騎士として戦わなければいけない。

 だが今のままでは全員が挑んでも勝てないと考えていた。


 それを覆せる可能性が出てきたのだ。

 詳しく話を聞きたいと考えていた。


「えぇ。あなた達も見たでしょう?私の身体能力が急激に上がっても使いこなせた姿を」


「はい。ですが………」


「そして同時に更に強化した姿と魔力を吸収する姿も見たはずです」


「あ………」


 あれだけの強化じゃ足りないと教官たちは言いそうになったが続けられた言葉に思い出す。

 そしてどんな手段を考えているのかも理解する。


「吸収した分の魔力も更に強化に使って、更にそれを限界まで吸収したら別の者の魔力を新たに吸収して強化に回せば良い……!」


「そういうことです」


 たしかにそれなら無限に強化することができマオに勝てると確信する教官たち。

 そのためにハニルの言う通り、魔力を吸収しながら強化することが出来るようになることを目的に鍛えようと決める。

 おそらくはまだどちらか片方しか出来ないはずだ。

 同時に使っているのを確認していない。


「わかりました。私達も彼の能力をまず使いこなせるように鍛えようと思います」


 その言葉にハニルは満足そうに頷いた。

 自分の意見が通り、そしてやる気を出して実行してくれることに嬉しくなっていた。


「ところで実際にマオと戦う時は誰が相手をするのでしょうか?」


 秀一の訓練については納得するが、誰が自分たちの全てを託されて戦うことになるのか既に決まっているのか教官たちは気になる。

 半端な相手だっったら認めたくはない。


「いえ、まだ決めてはいませんが貴方達が託したいと思う相手はいないでしょうか?」


「「…………」」


 逆にハニルから質問されて黙り込む教官二人。

 だが一人だけ悩んだ顔を見せた者がおり、ハニルはそれを目敏く見つける。


「心当たりがあるようですけど、答えられませんか?」


「いえ大丈夫です。ただ相手が最近ではマオと仲の良い勇者たちですので……」


「何か問題でも?」


 仲が良いからといって遠慮することは無いとハニルは考えている。

 実際に戦うといっても、これは挑戦なのだ。

 本気で敵対するわけでもない。

 戦ったからといって仲が悪くなるとは思えない。

 そう言うと悩んでいた教官は納得して自身の案を口にする。


「テブリスたちです。彼らは勇者や冒険者達の中でも戦闘能力に限ればトップクラス。それに仲も良いから互いの手札を知っているから戦うことも可能だと考えています」


 そして王族に仕える騎士たちの手札は隠すことが出来ると察して良い案だとハニルは頷く。

 なら早速、明日はテブリスたちを呼び出して勝負を誘おうかと考える。


「なるほど……。明日、マオへの勝負に刺そうと考えていますが問題は無いでしょうか?」


「…………そうですね。多少は噂されるかもしれませんけど、もともと戦闘能力は優れていると評判ですし城に呼んでも問題はないと思います。それでも気になるなら護衛を付けて彼らの元へと訪ねれば私は思います」


 その意見に頷きハニルは自分からテブリスたちの元へと向かおうと決める。

 護衛はこの場にいる教官以外の者たちにしようと考える。

 自分と一緒に来るよりは秀一を鍛えて欲しいと思っているせいだ。


「わかりました。貴方達はシュウイチの訓練をお願いします。私は多くの者にできるだけ協力をしてもらえるように頼みに行きますので」


 ハニルの言葉に頷く教官たち。

 マオに勝つには、まず数が必要だ。

 そして多ければ多いほど戦力が上がるのだからハニルがどれだけ連れてくるのか期待していた。

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