召喚勇者③
「へぇ……!」
ハニルは異世界の話を聞いて目を輝かせる。
最初は異世界の知識を自分たちの世界でも反映できないかと聞いていた。
だが話の内容が娯楽だったせいで想像するだけで面白そうに感じる。
「私達の世界でも出来るでしょうか?」
特に気に入ったのは遊園地といった遊ぶためだけの娯楽施設。
娯楽のためだけに半径数キロメートル以上も使うなんて考えられない。
そんなことに使うのならモンスターに襲われても大丈夫なように鍛えるための施設の方が重要だ。
それでもハニルは遊園地という施設がこの世界に欲しくなる。
常にモンスターの危険がある世界。
油断は出来ないからこそ、それらを一時的にでも完全に忘れれる場所が有っても良いんじゃないかと考える。
実際に作るとしたら、かなりの数の冒険者を使ってモンスターに襲われても大丈夫なように警備をする必要はある。
経営するにしても、かなりの負担がかかるだろう。
それでも他にないからこそ繁盛しそうな気もしていた。
それにデートに使われているということ告白スポットとして使われてもいるということに興味がある。
モンスターという危険生物によって死者は常にどこかで出てしまっているのだ。
だから産めや増やせや、とその機会が増えるのなら推奨したい。
それに多くの子供が生まれるのならマオのような者が増えるんじゃないかと考えてしまう。
そうなればモンスターに恐れる未来はなくなるんじゃないかとハニルは夢想していた。
そうなるためには、まずマオが子供を作らないとならない。
強い者の子が同じように強くなるとは限らないが強くなる可能性は高い。
そしてマオの子は多ければ多いほど良い。
戦力になる者たちも増えるだろう。
そのためには重婚も制度に加えることも視野に入れないといけない。
最悪は強いという理由で強引に女を何人も差し出し手を出されるように命令することも考えないといけないとハニルは考える。
マオは男だし最終的には喜んで手を出すだろうと想像していた。
「ハニル?」
「……………」
そして、それはこの男も同じだとハニルは考える。
異世界から来た者たちは総じて優秀な者が多い。
本格的に有能だったら自分以外の女にも手を出させて産ませる必要がある。
だが権力だけは渡すつもりはない。
必要に応じて知識を渡してくれれば良い。
どこまでいっても異世界人なのだ。
この世界の国に対する責任も誇りも背負えるとは思えなかった。
「いえ、なにもありませんよ?」
そしてハニルは秀一の疑問を誤魔化し、別の異世界についての知識を聞き出そうと考えていた。
「ところで、この世界にはどんな娯楽があるんだ?」
秀一はハニルが娯楽の話に目を輝かせていたこともあって、この世界の娯楽に興味を持つ。
「それは………」
純粋に疑問をぶつけてくる姿にハニルは目を逸らす。
多くの娯楽がある世界から来た秀一に言えるわけが無い。
秀一のいた世界と比べるとあまりにも少なすぎる。
「あぁ〜。一応、言っておくけど娯楽が少なくても俺は当然だとしか思えないからな?」
「え?」
「この世界にはモンスターという俺達の世界に無い危険に溢れているんだろ?そんなのを相手にしているのなら娯楽を作る余裕なんて無いだろうし……。むしろ、だからこそ俺達の世界より戦闘能力が優れているとも考えることが出来る」
最初は秀一の言葉にハニルはどういうことだと疑問に思ったが、続けられた説明に今度は納得する。
秀一の世界の個人の戦闘能力は実際には知らないが、それでも異世界から来たことで能力が上がっている上で自分たちより少し上程度の能力しか無い。
そのことを考えると確かに自分たちより個人の戦闘能力が低いと考えることが出来る。
「なるほど………」
秀一の世界は安全な世界なのだなと予想するハニル。
もし危険な世界だったら、この世界の者の身体能力よりかなり優れていたはずだ。
「そういえば娯楽で思い出したんだけど、この世界における言語ってどうなっているんだ?別の世界だし使う言葉や文字が違っていてもおかしくないんだが?」
「文化ならともかく言葉や文字もですか?」
「そういうところも違うんだな………。俺達の世界だと国ごとに違う言葉を使っていたりするから気になってな」
そんなことを言いながら、そういえばまだ秀一はこの世界の文字を見ていないことを思い出す。
会話しかしていないから、その問題について全く気づいていなかった。
「え?それじゃ使う言葉も違う国とどうやって話し合ったりするんですか?」
「互いにその国の言葉を覚えて会話をしたりして………」
秀一の世界は面倒くさいと感じるハニル。
世界の言語を統一すれば新たに覚える必要はないのに手間がかかることをしているなと思う。
その点は自分たちの世界のほうが便利だなと考えていた。
「そうなんですね………。それじゃあ秀一も色んな言語を使えるんですか?」
「いや勉強している最中かな?外国の人が近くにいるわけでもないし使う機会がほとんど無いから」
たしかにこの世界でも他国のものがいるという状況は珍しい。
それを考えると使う機会がなくて覚える必要性が薄いというのも納得できてしまった。
「そうなんですか……。そういえば元々は私達の世界の文字が読めるかの話でしたね。お腹も減っているままですし、食べ終わったら一緒に本屋に行きませんか?一緒に文字がどう見えているのか確かめましょう」
ハニルの言葉に同意しお腹を満たしてから、文字についてどう見えるか確認することになった。
「いらっしゃいませ!」
店の中に入ると最初に入った店と同じように視線が秀一に集まる。
敵視とまでは言わないが、初めて見る顔に怪訝な視線を向けていた。
そのことに、この店の者たちもハニルのことを知っているのだろうと察する。
「それじゃあオススメの料理を持ってくるから、この席で待っていてくださいね?」
今度こそは大丈夫かもしれないとハニルは考えて秀一から離れて注文をしに行く。
それに、この店でも自分の連れてきた客人に危害を加えるようなら二度と来なければ良いと考えている。
ある意味では、この状況を利用して店側を試しているようなものだ。
「ふぅ………」
秀一が席について一息を吐くが誰も近づいてこない。
むしろ怪訝な視線を向けられたのは最初だけで、それ以降はこちらに意識を向けていないことがわかる。
「さてと………」
そのことに少しだけ安堵しながら秀一は机の上にあるメニューを見る。
よくよく考えれば本屋に行かなくても、そこらに文字はあるのだ。
それを見て確認すれば良い。
「…………何で分かるんだ?」
そして実際にそれを見て秀一は頭をかしげてしまう。
全く見たことが無い文字。
それなのに意味が理解できてしまう。
もしかしたら言葉も実際は違う言語を話しているんじゃないかと考えることが出来る。
「だとしたら便利かな………?」
「なにがでしょうか?」
秀一が実際に使っている言語に悩んでいるとハニルが戻ってくる。
手には美味しそうなサンドイッチが運ばれている。
そのことに世界が変わっても基本的な料理は変わらないんだなと何となく思う。
「いや初めて見る文字なのに意味が理解るなって……」
「そうですか……。それなら安心ですね!」
秀一がメニュー表を眺めているのを見て、たしかに本屋に行かなくても調べることは出来たなと納得するハニル。
そして文字が理解できるということに教えなくても大丈夫そうだと安心する。
文字が読めるというのは重要なのだ。
それが出来るかどうかでやれる仕事が増える。
「もしかしたら異世界から召喚したということで、こちらの文字と言葉が理解できるようになっているのでしょうか?」
「そうかもしれないな。言葉も伝わるし、もしかしたら文字も書けるかもしれないな」
言葉も違うかもしれないのに互いに理解して伝わるのは、とても便利だ。
だけど少しだけ実際にはどんな言語で話しているのか知ることが出来なくて少しだけ残念だった。
「それに言葉も実際に口にしていることが違う言語なら言いたいことが誤解なく伝わるのかな」
「?……あぁ、たしかにそうですね」
実際に使っている言葉が違っていても意味が伝わるのなら誤解を与えることなく言いたいことが伝わるかもしれない。
もしかしたら変な勘違いをしたり悪意を持って受け止められることもなくなるはずだ。
「でも悪意を言葉にしたら誤魔化しようもありませんね」
それはハニルにとって厄介だった。
秀一を前にする時は使う言葉を考えないといけない。
もしかしたら有能だったら元の世界に戻すことは考えていないことがバレるかもしれないからだ。
だが、これまでの会話でまだバレていないはずだ。
これまで以上に言葉に気をつけて気づかせないようしないといけない。
そして秀一も自分の言葉に気をつけようと考える。
自分では隠して建前を話したつもりになっていても実際は本音を口に出してしまう可能性がある。
もし帰れなかったらお姫様を誘拐して孕ませようと考えていることがバレてしまうのは避けたい。
身寄りのない異世界の人間とこの世界のお姫様。
大切なのは後者だろう。
バレたら処刑される。
絶対にバレないようにしなくてはいけなかった。
「「ふふっ(ははっ)」」
二人は互いに腹の中を相手にバレないように隠して笑う。
そして怪しまれるのを承知して、自分たちの言葉がどれだけ相手に伝わるか検証しようと考えていた。
「なるほど……」
その結果、自分たちの言葉がそのまま伝わっていた。
本来の意味を隠して「お茶漬けでもどうですか?」という言葉もそのままに伝わっていて心の中が読めるわけではないと安堵する。
そして同時にハニルはお茶漬けというものに興味を持つ。
「心のなかで思っていたことが声に出るわけではないのか」
二人は安堵しながらも少しだけ残念に思う。
自分さえ気をつけていれば相手の心が読めるチャンスだったのだ。
リスクを背負うことになるが相手が何を考えているのか読めるのは便利だ。
危害を加えようとしているのが事前に察知できたら逃げることも出来る。
「そんなことよりもお茶漬けってなんでしょうか?」
先程試していた以上、本来とは違う意味があるのかもしれないが例えとして出てきたから気になる。
「………お茶漬けっていうのは米っていう食べ物に魚とか梅とか好みの具材を上に置いてお茶を掛ける料理です」
「………ドリアとは違うのですか?」
「………違いますね」
ハニルはお茶漬けを説明されてドリアをイメージし、秀一はドリアと聞いて興味深く思いながらも否定する。
異世界なのに同じ料理があることが面白く感じたせいだ。
異世界召喚なんてモノがあるのだし、もしかしたら遥か昔にも異世界から召喚された者もいるのかもしれない。
その他にも異世界転生なんてこともあり得る。
彼らが普及したのかもしれないと考えるのも面白いし、もしかたらこの世界独自に生み出されたと考えても面白い。
この世界の歴史に秀一は興味を持った。
文字は問題なく読めるし調べてみようと決める。
「違うのですか?」
「ドリアがあるってことは米もあるんだよな?かなり簡単な料理だし作ってみるか?」
「おねがい………?シュウイチの世界にもドリアって料理があるのですか?」
秀一の提案に頷こうとしてハニルも異世界なのに同じ料理があることに気づいて目を輝かせる。
これはちょっとした奇跡なんじゃないかと考えていた。
「もしかしたら、お茶漬けも遠い所に同じ物があるかもしれないな。少し調べてみるか?」
秀一は自分一人では時間がかかるから他にも手を貸してもらおうと打算でハニルに提案する。
それを受けたハニルも目を輝かせており答えは決まったようなものだ。
「それじゃあ城に戻ったら一緒に調べましょう!異世界同士なのに同じような食べ物があるなんて面白そうです!」
ハニルもまた異世界から召喚された者が普及したものもあるのだろうと思いつく。
もしかしたら調べていくついでに過去に何人が異世界から召喚され帰還したのか、それとも残ったのか知ることができそうだ。
その上で秀一との距離を縮め信頼させようと考えていた。




