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召喚勇者②

「実際に動いてみてどうでしたか?」


「………正直、自分の体とは思えないぐらいに動けたんだけど」


 午前中、騎士たちの言っていたとおりに身体能力の検査をさせられ、その結果自分の体を確認する。

 この世界に来るまでなら確実に途中で力尽きていたのに最後までやり切った上でまだ余裕がある。

 もしかして、これが異世界に来た結果得たチートなんじゃないかと考えていた。

 だが、もしそうだとするとかなり地味だし、しょぼく感じてしまう。


「そうですか。何事も体力は重要ですしラッキーと思いましょう」


 これから更に鍛えるにしても、やはり体力は重要だ。

 体力はあればあるだけ訓練の量もこなせる。

 そうなれば強くなれるのも早いはずだ。


「そういえば、あの人達ってこの国ではどのくらい強いんだ?」


「全体から見て上から数えたほうが早いですけど強い者は多くいますよ。あの者たちは教師として特に優れた者たちですし」


「へぇ〜」


 ハニルの言葉に、相手は教官として優れている者たちだと秀一は知る。

 なら超えるのも案外早そうだと考えていた。

 なにせ秀一は勇者なのだ。

 他の者と同じぐらいのスピードで成長しても何も役に立たない。


「ちなみに、この世界にいる最強と思わしき者とは絶対に敵対しないでくださいね?」


「へっ?」


 そして続けられた言葉に秀一は困惑する。

 余程のことが無い限り敵対しないのは当然だが、わざわざ注意してくる理由が想像できない。


「どうあがいても絶対に勝てないと思いますので………。以前は街にいる冒険者や勇者を圧倒的な数の差があったのに一人で叩き潰しましたし……。多分、勝てる者はいません」


「…………どのくらいの数の差があったんだ?」


「たしか五十は超えていたかと………」


「……………」


 絶対にそいつには喧嘩を売らないようにしようと誓う秀一。

 一人で何人も相手に叩き潰すというのは実力的にかなりやばい相手だと考えてしまう。


「それよりも他にも勇者っているんですか?」


「えぇ。言ってませんでしたっけ?私達の世界ではダンジョンを破壊することが出来る者を勇者と呼んでいます」


 話を帰るために、そして秀一は勇者と聞いて気になったことを確認する。

 そして帰ってきた言葉に他に勇者がいるのなら自分を呼んだ意味は無いんじゃないかと考え、それとも他に勇者がいても手が足りないほどに大変な状況なのかと想像する。


「勇者が既にいるのに足りないのか………」


「はい。どれだけ実力者がいてもダンジョンを破壊できる勇者が足りないのです。それにダンジョンは王都の近くだけでなく世界のどこにでもありますから」


 秀一は納得するしか無かった。

 そもそも人手が足りているのなら異世界から呼ぶことは無かったのだろう。

 既にダンジョンを破壊する手段はあるのだ。

 ただ、どうしても人手がたりないだけで。


「世界中にあるのなら、俺もこの世界を回るってことでしょうか?」


「いいえ。この国の王都の周りだけで十分です。それだけでもかなり助かります」


 秀一はその言葉にかなり切羽詰まっているのだろうと予想する。

 そして聞きたいことがある。


「ダンジョンの数を減らしたら帰れるって聞いたけど、どれだけの数を減らしたら帰れるんだ?」


「…………とりあえずダンジョンは破壊しても破壊しても新しく発生しますので、もう少し勇者の実力と数が増えないと何とも」


 目を逸らして答えるハニル。

 有能だったら、どんな手を使っても異世界に帰す気は無いし、そのために大切な何かを作らせるつもりなのだ。

 下手なことは言えない。


「そうか………」


 その態度に秀一は、もしかしたら帰れないんじゃないかと予想する。

 そうなった場合どうやって復讐しようかと考える。

 一番簡単そうなのは王族の娘であるハニルをさらい、犯し子供を産ませるまでの日々を記録し配布することだ。

 皆から慕われる王女を穢すことで、この国に対する復讐になるし召喚した王とハニルにも望むぬ子を妊娠することになるから復讐になる。

 そして、もし生まれた子が勇者だと殺したくても殺せず、ずっと自分たちがされたことを覚えていることになる。

 そう考えると生まれてくる子は勇者だと良いなと秀一は考えていた。



「そういえば、この世界における最強の名前って何なんだ?」


 秀一は最強らしき者の名前を聞いていないと思い出して確認する。

 できれば会いたい。

 それだけ強かったら相手をしてもらうだけでも強くなれるんじゃないかと想像してしまう。


「マオですけど………。一応、言っておきますが人嫌いですから会っても話を聞いてくれるとは思いませんよ?どうも特定の相手としかパーティを組まないようですし」


「人嫌いなの?」


「おそらくは」


 それでも王族なんだから命令して従わせれば良いのに、それすら出来ないのかと秀一は思う。

 異世界から勇者を呼ぶほど人手が足りないのなら、そのぐらいは出来るはずだ。


「そのマオって人に協力してもらえないのか?」


「先程も言ったように勇者しかダンジョンは壊せませんから……。それに下手に刺激して反撃をされたくありませんし………」


 ハニルの言葉にどれだけマオという人を恐れているんだと思う秀一。

 それだけ強いのだろうが、流石に国相手に勝てないだろうと考える。

 だが、ここは異世界だ。

 もしかしたらがあるかもしれない。


「隠れて見ていたからわかりますが、絶対に国では勝てません」


 微妙な顔をしているのが見えたのだろう。

 ハニルは更にマオについて自分の見た感想を伝える。

 それで理解して欲しいと考える。


「まず彼の行動が速いからか動きを認識することが出来ません。そんなの簡単に私達のもとまで侵入されてしまいます。そうなったら簡単に殺されることしか想像できません。そうなったら終わりです」


「暗殺者なのか、そいつは」


 話を聞いていて秀一はそう思う。

 誰にも悟られずに侵入するとか、そうとしか思えない。

 それにハニルも殺されるとか物騒すぎる。


「それに認識することが出来ないということはバレないように逃げることも出来るということ。まず私達に勝ち目はありません」


 それはたしかにと納得する。

 認識できないのなら、たしかにマオが有利だ。

 だが気になることがある。

 そんな自分たちより強い相手を排除しようとしないのかと。

 物語では王族が自分たちより人気だったり圧倒的な実力があるから危険視をして色々な冤罪を掛けたりして排除することがある。


「俺たちの世界では、そういう相手は冤罪をかけて排除したりする物語があるけどしないのか?」


「それ喧嘩を売っているだけですよね?まず間違いなく命令を下した私達が殺されますよ?」


 それもそうだと秀一は頷く。

 バレないように侵入することが出来るのなら、たしかに冤罪を掛けた復讐も容易いだろう。

 殺されるとわかって喧嘩を売るやつはいない。

 それでも物語では嫉妬や怒りで冤罪を掛ける物があるが、あれは物語だからこそかもしれない。


「それよりもこの話はもう終わりにしましょう?私は美味しいモノを気分良く食べたいです。いつまでも殺されるかもしれない話はしたくありません」


「………たしかに」


 秀一はハニルの言葉にマオのことを話すのは止め違う話題に切り替える。

 そのことに理解してくれて有り難く思い、カフェで何を食べようかと考えていた。




「まずはここです。ここのカフェはケーキがとても甘くて美味しいんです!」


 カフェにたどり着くとテンション高くハニルは紹介をする。

 その姿によっぽど気に入っているんだろうと秀一は考える。


「うわぁ………」


 そして中に入ると同時に秀一は思わず引いてしまう。

 中にいるのは女性ばかりだったからだ。

 男もいるにはいるが数えるほどしかいない。

 そのことに気後れしていた。


「どうしましたか?ここのケーキは甘くて美味しんです。疲れたときに最高ですよ」


「そんなことを言われても………」


 女子ばかりの空間はやはりキツイ。

 既に中にいる男たちに思わず尊敬してしまう。

 いや、よく見ると中にいる男子たちもキツそうにしている。


「もしかして甘いものが苦手なんですか?もし、そうなら甘くない違う店にしますけど………」


「是非………!?いや、ここで良いです………」


 違う店にするかと聞かれて是非と頷こうとすると強い視線を感じてしまう。

 甘いモノ以外の店なら女性も少ないと思ったのに、その視線が他の場所に行くことを許してくれない。


「本当に大丈夫?苦手なモノなら無理して食べなくて良いわよ?」


「本当に大丈夫だから気にしなくて良いって。それよりもオススメを任せてもよいか?」


「構わないけど……」


 秀一の言葉に頷きながらも心配する素振りを見せるハニル。

 その光景に更に敵意をぶつける店にいる者たち。

 それによって何故、睨まれているのか秀一は理解する。

 ハニルはこの店の常連のアイドル、もしくはこの国の王女だからこそ見知らぬ男が馴れ馴れしく接していることに敵意をぶつけているのだ。

 愛されているな、と秀一は思う。

 この分だとマオという者に冤罪をかけても民は味方してくれるんじゃないかと考える。


「それじゃあ持ってくるから、そこに座っていて」


 ハニルの言葉に頷いて秀一は座るが視線はキツイ。

 そのことに少しだけ秀一は苛つく。

 そもそも自分は被害者なのだ。

 何で合意も無しに連れてこられた場所で理不尽に睨まれなければいけない。


「よぉ、にいちゃん。あの娘とはどんな関係だ?」


「ちょっとした知り合いですが?なにか用ですか?」


「ちょっとした知り合いってどこで会ったんだ?喋れないなら怪しいなぁ?」


 秀一はその言葉に苛立ちを覚える。

 何度でも言うが、合意も連れてこられたのだ。

 しかも、その原因はこの世界の者たちが実力不足なのが原因だ。

 それなのに怪しいと責められる。

 たまったものじゃない。


「何をしているんですか?」


「あっ、いや別に………」


 そしてハニルが来ると嫌われたくないのか取り繕う。

 だが秀一はそんなことは知ったことではない。


「シュウイチ、何があったのですか?」


 誤魔化そうとする男にハニルは秀一に聞こうとする。

 そして、それを睨んで止めようとする店にいる者たち。


「俺がハニルと一緒に来たことに怪しまれただけ」


「てめっ!?」


 秀一が正直に話したことに焦る者たち。

 何で離したのかと更に強く睨む。


「は?」


 そしてハニルはそのことに静かに怒りを見せる。

 自分が連れてきた男を怪しまれたことに信頼されていないのだと認識を新たにする。


「この店にいる殆どの者たちは私が誰なのか知っていますよね?彼はその客人ですよ?こちらに来たのは初めてですよ?店側の人たちも止めようとしないなんて………。折角私のお気に入りの店を紹介したのに不快です。これからは新しい友人が出来ても連れてきません」


 ハニルの言葉に顔を青くする店にいた者たち。

 言葉のとおりにハニルが誰なのか知っている。

 当然、お忍びで来ていることもだ。

 店の者たちは常連の信頼を失ってしまったと思い、そして王族の客人を疑ってしまったことに顔を青くしていた。


「シュウイチ、悪いけど別の場所にして良いでしょうか?こんな場所よりも良い店もまだ私は知っていますし」


 その言葉に完全に信用を失ったと判断する店の者たち。

 慌てて釈明をしようとするが、既にハニルは秀一の手を引いて店から出ようとしている。

 その前に振り返ってくれたことに店員たちは慈悲をくれるのかと目を輝かせる。


「折角作って貰ったけど食べずに出て行かせてもらいますね。頼んだ分のお金は置いておきますので」


 それだけを言ってハニルは今度こそ店を出ていった。

 そして店員は出ていかれたことに膝をついた。



「良いのか?」


「なにがでしょうか?」


 ハニルの行動に秀一は折角のお気に入りの店だったのに、もう来ないと宣言して大丈夫なのかと声を掛ける。

 最初に案内するぐらいには気に入っていただろうに本当にそれで良いのか不安だ。


「いや気に入っていた店なんだろ?本当にもう行かなくて良いのか?」


「当然です。どんな理由であれ始めて来た客にあんな対応を取ったのです。今まで見てこなかっただけかもしれなませんが信頼できません」


 自分のせいで気に入っていた店が嫌いになって欲しくなく秀一は説得をしようとする。


「いや、でもお前のことを王女だと知っていたんだろ?」


「えぇ。気づいていてもなにも言わないのもお気に入りの一つでした。だけど他にもそういう店は何件かあります」


 少し話していて意固地になっていると秀一は思う。

 こうなると時間が経たないと話を聞かないだろうなと考える。


「それよりも貴方の世界の話を聞かせてくださいませんか?異世界だからこそ、どんな生活をしているのか気になりますし」


「あぁ………」


 これ以上はあの店のことで話したくないのか話題を変えようとするハニル。

 秀一もそれを察して自分の過ごしていた世界のことについて話していった。

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