デートと追跡③
「それじゃあ行くわよ」
買った服を一度マオの家に置いてからのキリカの言葉にマオは頷く。
マオもお腹を空かせていて何かを食べたい。
キリカが行きたいレストランが無ければ自分が良く食べに行くレストランに行こうと考えていた。
「………私はどこでも良いけどマオはどこか行きたいところがある?」
「悪いけどかなり疲れたから肉を喰いに行こうと思っている。たらふく喰いたい……」
マオの欲望だらけの言葉にキリカは苦笑する。
多くの者に見世物にされたらからストレスも思った以上に溜めているようだ。
だから肉を喰ってストレスを解消したいのかもしれない。
「それじゃあ貴方のおススメのレストランに行くわよ。案内してね」
「わかった」
キリカはマオのおススメのレストランに行くことを決めて腕を組む。
それに対してマオは拒否することもせず腕を組んだまま自分のおススメのレストランへと向かっていった。
「はぁ……」
「どうしたのよ?」
歩いている途中、急にマオがため息を吐いてキリカは気になってしまう。
嫌な予感が先程から止まらない。
「なんと言うべきか暇なんだな………」
マオの更に深いため息がキリカに冷や汗が流れる。
もしかしてマオを襲いに来たのかと想像してしまった。
「今だ!!」
マオの左手はキリカが腕を組んでいるせいで塞がれている。
そして自由に動くのも難しそうに見えた。
だから全方位からマオを攻撃する。
武器を持って突撃する者もいれば、魔法を撃ってくる者もいる。
そして中にはキリカごと攻撃しようとマオの左側から攻撃する者もいた。
むしろそちらの方が威力が強く、他の攻撃はそれから意識を分散するための攻撃に見えた。
だからマオは容赦しないことに決めた。
「バカなんだな………」
「ふぇっ!!?」
マオは左手をキリカの腰に回して回転する。
そしてその勢いのままに抱きかかえ全ての攻撃を弾いた。
「本当に腹が立つ!」
そして一番、勢いのあった男の右目を狙って思いきり殴った。
「っづぁ!!」
「そもそもさぁ!俺はお前らが喧嘩を売って来なきゃ何もしねぇよ!!それなのに何被害者ぶってんだ!!お前、俺が何時までも武器を奪って売るだけ許してくれると勘違いしてんのか!」
「おっ!?がっ!!?」
そして足払いをして転ばせ、片方の膝を踏み砕く。
これで目の前の男は逃げることも出来なくなる。
そして眼を殴られ、足払いをされ膝を砕かれた男は状況を理解できずに困惑していた。
いつもなら殴られ武器を奪われ売られてしまってで終わりだ。
追撃なんて無かった。
「壊れろ!それか死ね!」
マオは同じように男の眼を狙って踏みつける。
完全に失明されるつもりであり、その結果戦えなくなっても死んでしまってもどうでも良いと思っていた。
その結果、男の眼は潰れ失明することになった。
「次……」
次は突撃して来た者の一人である女だった。
マオの急な凶行に距離を取ることも出来ず固まってしまい近くにいたせいだ。
「思ったより柔らかいな……。女ってこんなに脆いのか……」
「おぶっ!!?」
マオの腕が自分の腹を貫通していた。
「ふぅん?」
そしてマオの手が引き抜かれると同時にその手には赤く染まった白い何かがある。
それを見て女は血の気が引く。
自分の骨だと直感的に理解できたせいだ。
「何かあっさり簡単に折ることが出来たな……。女だからか?」
そして次にマオは女の腕を蹴る。
それだけで女の腕は身体から外れた。
「あ………。うん、やっぱり脆いわ」
「…………………」
女は自分にされたことに現実味がなく、それでも腕が奪われた激痛で意識を失い倒れてしまった。
「あぁ………」
マオを襲った者たちは酷く後悔をしていた。
自分は何を襲ったのだろうと。
容赦なく攻撃され冒険者としての生命、それどころか人生の生命され奪われようとしている。
目の前の化け物は同じ生き物相手に戸惑いもなく、どこか楽し気に実験しているような気分で攻撃しているように見える。
自分の攻撃で人が死のうと、どうでも良さそうなのが酷く恐ろしい。
「そういえばお前らって、俺がお前らのように襲って来た者を殺したことがあるって知っている?」
「は?」
「何だ、知らないのか。…………バッカじゃねぇの?何で俺が何時までも相手をしてやる必要があるんだよ!何度も武器や魔法で襲ってきて無事で済むと思ってんじゃねぇよ!普通に殺し返しても無問題になるに決まっているだろうが!!」
「ごめ………」
マオは謝ろうとしていた相手の顔を蹴り、首から刎ね飛ばす。
即死しただろう。
そのことにマオはやっぱり男の方が頑丈だと感触を味わっている。
そもそもストレスが溜まっているから手加減や相手のことを気に掛ける余裕なんて無い。
暴れたくてたまらなくなるから相手がことを気にせず容赦なく反撃するし、いつも通りに武器を奪って売り捨てる。
良くも悪くもマオにとって武器は必要とせず売って金を得るだけの物でしかなかった。
「…………飽きたな」
マオは男と女の感触の違いを実感し、そして重傷者を出すほどに暴れてストレスも解消されていく。
そしてまだ襲撃した者が残っているのに動きを止めたことに多くの者は安堵する。
これで残虐な行為はようやく終わるのかと。
「本当に面倒くさいなぁ」
マオは自分を襲ってきた者たちを適当に拾った武器を投げ、くし刺しにすることで逃がさないようにする。
そのことに飽きたんじゃないのかと終わったことに安堵した者たちは顔を青くする。
飽きただけで報復は終わってないのだと理解したのだろう。
「さてと、どうしようか?」
マオからすれば飽きたから、どうでも良かった。
だけど報復をきちんとしないと、また襲撃に来るだろうと予想する。
それを防ぐために拷問などして決して逆らわない様に躾ける方法もあるだろうが一人に時間をかなり使わないといけないため面倒くさい。
それに自分の家に血だらけの他人を運ぶのは嫌だった。
「取り敢えず両腕両足を切り落とすか……」
だからマオは治療して動けるようになっても影響が出るはずだと切断しようとする。
両腕両足を切断されるのはトラウマになるだろうと考えていた。
死んで終わるのなら生きてずっと苦しめば良いと考えていた。
「十人は超えてそうだな………」
マオは全員の両腕両脚を切断しようと思っているが面倒くさいとため息を吐く。
それでもこれ以上は喧嘩を売られないためと実行しようとしていた。
「まずは一人」
マオは最初は男の両腕両足を切断する。
「あぁぁぁぁぁ!!!!??」
当たり前のようにマオは切断する。
切られた相手は絶叫を上げ、その光景に吐く者まで出る。
「二人目」
「いや………。やめでぇぇぇ!!!??」
「やっぱり男の方が色々と硬いな」
二人目を切断して、実験しているような気軽さで切断のしやすさを話しているマオ。
周囲の者たちは完全に怯え、標的にされている者たちは恐怖で漏らしてしまう。
「良い加減にしなさい!!」
だからキリカはマオの頭を叩く。
これ以上はダメだと止めるつもりだ。
「何?」
「何じゃないわよ。貴方に喧嘩を売ってきた者たちも、もう喧嘩を売らないわよ。充分以上に怯えているし………」
キリカの言葉にマオは襲ってきた者たちに、もう一度視線を向ける。
たしかに自分に対して怯えの視線が向けられている。
そしてキリカには尊敬の視線が向けられていた。
「貴方のせいで今日は私、肉を食べられなくなったんだけど?」
「それは悪い。だけど俺からすれば弱いくせに喧嘩を売ってきた方が悪い」
マオの言い分にも納得できる。
だが、それよりもキリカの方に意識が向けてしまう。
生身の人間が切断されているのを見て肉を食べれないのは今日だけというのが信じられなかった。
「それでもよ」
キリカの言葉に不満そうにしながらも頷くマオ。
まだ男女一人づつしか試していなかったが面倒だったのも事実だ。
怯えの視線を自分に向けられていることを確認してマオはキリカと一緒にこの場から去った。
「すごかったな」
「あぁ……」
マオの反撃をただ見ていた者たちは、ただただ圧倒されたいた。
マオの実力も、それを言葉だけで止めたキリカも到底まねできる者では無かった。
「取り敢えず生きている奴らは治療するぞ!!」
マオが見えなくなって急いで生存者を確認する。
明らかに死んでしまっているのは二人だけだ。
首を蹴り飛ばされたものと眼を踏みつぶされた者。
だが他にも急いで治療しなければ死んでしまう者もいた。
「わかっている!!」
例えば腹を貫通させられた者、両腕両脚を切断された者、そして腕を蹴り飛ばされた意識を失った者。
出血多量で死ぬ可能性がある者が多くいた。
それでも襲撃した者たち全員と比べると、かなり数が少ない。
襲ってきた者たち全員が死んでしまうような怪我をするよりは、はるかにマシだった。
そうなれば怪我人が多すぎて手が回らず死んだ者も増えていただろう。
途中から面倒くさくなって助かった。
「………デートか?」
「似たようなもん。こっちはメニューを実際に決めてから選ぶだろうけど、俺には肉を大盛でいつものくれ」
「あぁ。なんか服屋の見世物にされていたんだっけか?それでストレスを溜めてきたんだな」
襲撃者たちが襲ってきた場所で一人でも多く助かるために騒いでいる間にマオとキリカは腕を組みながらマオの行きつけのレストランに行く。
「それにしても話だけは聞こえてきたがやり過ぎじゃないか?」
「そうか?プライベートでも武器を持って襲ってくるほうが悪いと思うけど?問題になっても格下だからと言って手を抜いて周りの者にも被害を与えてしまうよりはマシだと説明するつもりだし……」
「まぁ、たしかに相手は武器や魔法を手に襲ってきたもんな下手に手を抜くと周りに被害が出るか……」
マオの言葉にキリカも店主も確かに周りに被害を与える可能性があったかと納得する。
それを防ぐために反撃したと聞けば他も納得するかもしれない。
マオだけでなく他の者も使う道で他者の迷惑を考えずに襲ってきた者たち。
たしかに危険だった。
「…………ところでそっちの嬢ちゃんは肉は大丈夫なのか?喰わないにしても一緒の席になるなら肉を見るのも辛いと思うけど?」
「食べるのは辛いけど見るぐらいなら大丈夫よ。よくよく考えたら、ああいう風に無惨な姿にされるのも冒険者としては普通の光景だし」
「そうなのか?」
キリカの言葉に店主はマオに事実か確認する。
他の冒険者の客にも視線を向けていく。
「そういえば………」
「珍しいといえば珍しいけど無いことでは無いよな……」
「モンスターを相手にしているしなぁ。ダンジョンの外でも運が悪かったり、質の悪い盗賊に襲われたりしたら、似たようなことにはなるか」
冒険者たちの言葉に話しを聞いていた者たちも心当たりがあるのか頷いている者もいた。
それでも実際に、その光景を見て肉を喰えるかどうかは別だが。
喰えても日にちを開けるのが普通だ。
「まぁ、そんなもんか」
そして、それらの言葉に店主も納得する。
たしかに大して強くもない一般人がモンスターに殺されれば悲惨な状況になるだろう。
今でも大人の目を離れて外に出た子供がモンスターに食い殺されたって言うのは偶にあるのだ。
それを目にするのなら、ある程度は慣れていて当然だ。
「にしても、そんなにストレスが溜まっていたのか?見世物にされていたぐらいならマオなら耐えれたと思うんだが……」
「八つ当たりも入ってたと思う……。それに普段から襲ってきてウザかったし。何時までも甘い対応しているから調子に乗って襲ってきたんだと判断したんだよ。それで痛い目に遭わせようと考えた結果がアレだ」
目を逸らしながら言われた言葉にだろうな、と思った。
見世物にされた八つ当たりに普段からの鬱憤がプラスされて、あれだけの被害をマオは出してしまった。
もしかしたら他に腕試しとして襲ってくる者も同じようにウザいと感じているのかもしれない。
身近にもいるから警戒するように伝えようと決意する。
「………なぁ、今日は俺が奢ってやるよ」
「そうだな。好きなだけ食べてくれ。俺も金を出す」
「そうね。そっちの女の子も私たちが払うわ。だからいっぱい食べてね?」
店にいる客たちが自分が代わりにマオとキリカの分の金額を払うと言い出す。
少しでも借りを作ったり好感を持たせることによって殺されなように配慮してもらおうと考えていた。
そしてキリカにも、もしもの場合は止めることを期待して奢る。
キリカがいるのなら本当に危険な時は止めてくるだろうと客たちは考えている。
実際に今回もキリカが最後にはマオを止めていたと聞いていたのも理由だった。