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約束と弟子④

「あの……?」


「何?」


「もしかして森の中に入ったのは最初から私の服を剥いで呪いをかけるためだったんですか?」


「そうだが?」


 シュナの疑問にマオは頷く。

 街中でやったら捕まってしまう。

 だからマオはわざわざ森の中に入った。


 森の中なら服を剥いでも外からは見えにくいし、悲鳴を上げられても隠れることが出来る。

 隠し事をするのなら都合が良かった。


「それにしても、どうするか………」


 だが、それでも失敗したことがある。

 それは剥いだシュナの服の代わりが無いこと。

 もともと来ていた服は強引に剥いだために使えなくなっている。


「今度からは予備の服も持ってくるか……」


 次からは女性だけでなく男性も使えるような服を用意しようと考えていた。


「どうするつもりですか?」


 そしてシュナは服を剥いだマオを睨む。

 このままだと街に戻れない。

 露出しているのは胸だけとはいえ、それでも強い劣情の視線は送られる。

 それを色々とネタにされるのも嫌だった。


「そうだな……。これを着て隠してくれ」


 そういってマオは自分の来ていた上着を脱いで渡す。

 その結果、今度はマオが上半身ハダカになるが女性が半裸でいるよりは確実にマシだった。


「…………大きいですね」


 マオの上着を着てシュナは背は変わらないのに、ぶかぶかだと声に上げてしまった。

 そして更に性差を理解させられて顔を赤くする。


「それじゃあ街に戻るか」


 そう口にしたマオの言葉に頷いてシュナは一緒に街へと戻っていった。



「……………」


 そして街の中へと戻ると多くの者達がマオとシュナを二度見をしてからチラチラと視線を送る。

 信じられないような目で見てくるそれにマオもシュナも居心地悪く感じる。


「ねぇ、マオ?」


 そんな中、話しかけてくる者がいた。

 そのことに有り難く感じる。

 何で誰もがチラチラ視線を送ってくるのか答えてくれる気がしたからだ。


「何でその女の子はマオの上着を着ているの?それにマオも上半身裸だし………」


「実力を確かめるために戦っていたら、やりすぎてシュナの服がボロボロになったからだが?」


 マオの言葉にそういうことかと納得してチラチラと送ってくる視線が落ち着いていく。

 中には安堵のため息を吐いているものもいた。


 そしてシュナはマオを信じられないような目で見る。

 あまりにも流れるように嘘を言ったからだ。

 実力を確かめるために戦ったのは本当。

 だが服がボロボロになったのは戦ったのが理由ではなく、マオが呪いを掛けるために強引に服を脱がしたからだ。


「なんだ。そういうことだったのね。マオの服を着せているし浮気をしたのかと思ったわ」


「しないが」


 そして嘘だと疑うことなくあっさりと信じる目の前の女性。

 どれだけの信頼されているのかと考えてしまう。


「まぁ、そうよね……」


 そしてマオの浮気の否定に少しだけ残念そうにしながらシュナは頷く。

 シュナはマオが流れるように嘘を吐いたし、本当は浮気をしているんじゃないかと疑った。

 もしそうなら自分にも愛人としてチャンスがあるんじゃないかと考えてしまう。

 そうなればマオとキリカのイチャついている姿が文句を言われずに間近で見ることだ出来るから絶好の機会だった。


「それよりも服をボロボロにしてしまったんなら新しい服を買ってあげたら?」


「そうだな……。お前はどこで服を買っている?」


「えっ。街の中央にある女性服専門店だけど……」


「わかった。シュナも行くぞ」


 マオは質問してきた女性に普段服を買っている店を聞いて、シュナの手を引いてそこへと向かっていく。

 手を引かれていることにシュナは動揺し、そして女性や話を聞いていた者たちは下手したらキリカに浮気だと思われれるんじゃないかと心配になった。




「さてと、何を選んでも良いぞ。ただし一品だけな」


「下着も壊れたから、それも買って」


「…………良いぞ」


 破いてしまった服を弁償のために買うのだから破れたのなら下着も買うべきかもしれないとマオも納得して頷く。

 だがキリカには何も言わないでいると誤解されてしまうだろうなと予想する。

 言い訳になったとしても絶対に今日のことは話さなきゃいけないと考えていた。

 恋人でもない女性の下着を買うのだ。

 浮気だと思われても仕方がない。


「…………」


 そして現に今、店の中に入るとマオへと向けて驚きと困惑、そして冷たい目で見られる。


「新しい彼女ですか?」


「実力を見るために戦ったら服が破けたから賠償として買いに来ただけ」


 予想していた通りの質問にマオはそうではないと否定するために力強く反論した。

 その御蔭か聞こえていた者たちの冷たい視線は和らぐ。


「それじゃあ決まったら教えてくれ。そのときに金を払う」


 そう言ってマオは服屋の適当なところに座る。

 客は女性ばかりだし視線が集まるから早く終わって欲しいとマオは祈っていた。



「長い………」


 そしてシュナが服を選ぶのを待ち、数時間が経つ。

 日も暮れ始めていて、かなり退屈だ。


「何をしているのよ?」


「破いた服を賠償するために好きな服を買って上げるんだが、全然来ない」


「あぁ……。見知らぬ女の子と女性服店に入ったと聞いたけど、そういうことだったのね。次からは破かないようにしなさいよ」


「おぉ、ぉぉ?」


 頷こうとして聞き慣れた声にマオは視線を向けると、そこにはキリカがいた。

 退屈すぎて頭が回らないが言い訳をしないといけないと慌てる。


「あぁ、言い訳はしなくて良いわよ。話は聞いていたし。それに服を選ぶのに意見を出さなくて良いの?私の時は一緒に並んで意見も出してくれたじゃない?」


「キリカだから意見を出しただけ。それ以外の女に出しても、どうでも良い」


 言い訳をしなくても話は聞いていると言われ安堵し、そして聞かれた疑問にあくびを吐きながら返すマオ。

 そのことにキリカは安堵する。

 あくびを吐いたり、頭が回らない油断した状態での答えなのだ。

 普段よりも本音が出ているから安心できる。


「それじゃあ私の服も買ってもらって良い?」


「良いぞ」


 キリカの質問にマオは立ち上がって答える。

 シュナの場合は座って待ち、キリカの場合は立ち上がって一緒に見ようとする。

 その違いに見ていた店員はちゃんと恋人とそれ以外で分別しているのだなと好意的に映った。


「これなんて、どう?」


「………一緒に来るたびに思うけど、何で露出の高い服を何度も聞くんだ?俺は何度聞かれても否定するぞ?」


「ふふっ、なら諦めるわ」


 そして最初に選ばれた服をマオに見せて否定される。

 キリカはそれが独占心から否定されているのだと感じて嬉しくなった。

 むしろ、そのためにわざと見せている部分もある。


「それじゃあ、これはどう?」


「良いんじゃないか?」


 次に選ばれたのはロングスカート。

 スリットも入っていて動きやすそうだ。


「へぇ、じゃあこれはって」


 キリカは更に次の服を見せようかと考えているとシュナを見つける。

 まだ悩んでいるらしく服を何着か手にもって見比べている。


「確かに何でも好きな服を買うとは言ったけどさっさと選べ」


 マオはシュナを見つけると文句を言う。

 何時間も待たせられたのだ。

 このぐらいは言っても良いと思っている。


「すいません。どの服もすごく良くて悩んでしまうんです………」


「さっさと選んで、その服を脱げ」


 申し訳ないように謝罪するシュナ。

 だがキリカはシュナの来ている上着を見て、さっさと選べと口にする。


「ひえっ」


 それに込められた怒りにシュナは悲鳴を上げる。

 さっさと選ばないと恐ろしい目に合いそうだと思わされる。


「これとこれをお願いします!……ひぅ!」


 そしてシュナはキリカの前でマオに選んだ下着と服をマオに差し出す。

 それが更にシュナの怒りを湧き上がらせる。


 服までは、まだ良かった。

 だが下着もとなると許容範囲外だ。

 マオも何も言わない様子に最初から下着も買うことを認めていたのだとキリカは察する。

 そうなるとシュナが二枚なのに自分は一枚だということに不公平を感じる。


「マオ。私にも下着を買って」


「もう家に帰りたいんだが……」


「それじゃあ何?私は一枚だけで、こっちは二枚なの?」


「服を破いた代わりだと思えばよいだろ?」


「あわわ」


 キリカとマオが喧嘩をし始めたことにシュナは動揺する。

 もしかして自分がマオの愛人にでもなれたら良いなとは思っているが自分のせいで恋人同士が喧嘩してしまうのは万死に値する。

 どうにか止めたいが二人のことは、まだ詳しく知らないために難しい。


「へぇ。私以外の女性に下着を買っておいて?」


「どうせ見ないし」


「…………あなたが買った下着を履くのよ?それを想像しなさいよ」


「……………?」


 キリカの言葉にシュナは顔を赤くし、マオは全く意味がわからなず困惑した表情をする。

 その様子がまた自分に性的な意味で魅力を感じないのだと言われた気分になって複雑な表情を浮かべる。


「………なら私があなたが買った下着を着たら?」


 今度は少しだけ顔を赤くするマオ。

 シュナに対してとは全く違う反応にキリカは気分を良くして機嫌も治す。

 自分にしか興味を抱いていないというのは自分の魅力に溺れている感じがしていた。


「それよりもさっさと服を買って帰るぞ」


 キリカの視線に恥ずかしく感じているのか帰ろうと促すマオ。

 気分が良くなったキリカはマオの意見に同意して服を買って帰るのに同意する。


「そうね。あなたもさっさと服を出して買ってもらうわよ」


 機嫌が治っても、まだ出された服と下着を見ると苛つくが最初に見たときよりは十分に抑え込める。

 だから、さっさと帰ることにして見ないようにしたかった。


「あ、はい」


 それにしてもキリカは思う。

 攻撃を防いだとはいえ、それだけが弟子にした理由なのかと。

 だがマオがそんなことで嘘を吐くはずがないと考えてしまう。


「ありがとうございましたー」


 そして互いに買ってもらった服を持って店に出る。


「それじゃあね」


「あっ、はい。今日はありがとうございました」


 シュナへと見送られ、マオとキリカは同じ方向に帰っていった。



「はぁ………」


 キリカとマオを見送り、シュナはこれから過ごす部屋へと戻る。

 思い出すのはマオと一緒にいた時間。

 まさか聞かれていて呪われるとは思わなかった。


 おかげで服や下着を破かれたが、そこは新しく買ってくれたから良い。

 そもそも覗きなんて口に出してしまったことを反省する。

 それさえなければ呪われることも服も破かれることもなかった。


「私が個人的に見て楽しみたいだけなのに……」


 個人的に見て思い出すために記録に取るだけで商売にするつもりは無かったが、しょうがないと諦める。

 それが外に流出しただけでもヤバいし、それが原因で脅され破局の原因になったらと考えると納得するしか無い。

 それに実物がなくても心のなかで記憶していれば良かった。


「まぁ、それでも心のなかに記憶すれば良いだけだし!マオさんもそれは許していた!むしろ心のなかに記録してこそ本当に楽しめる!」


 そのためには今まで以上に視線を向けハッキリと覚えている必要がある。

 さらに見られていることを察知されないように気配も隠せるようにならないといけない。

 見られていることを気づいた上でイチャついているのも良いが、シュナとしては気づかずに自然体でイチャついている姿こそが至高だ。


「がんばらないと……!!」


 そのために強くならないといけない。

 そしてマオという王都でも戦闘能力が最強クラスの勇者集団のパーティを圧倒したマオに師事することができた。

 そのこともあってシュナは色々なカップルを観察するために気合を入れていた。

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