約束と弟子②
「ねぇ………」
「どうした?」
キリカはレストランから出た後、マオに声をかける。
レストランでは料理と夜景に意識を奪われて疑問が飛んでいたが、どうしても気になってしまう。
「あのレストランって予約制のはずだけど、どうして顔パスで入れたのよ?しかも席もVIP席みたいだったし」
「前に助けたとこがあるから、その御礼。一度だけ無料で料理を出してくれるって言っていたから今日にした」
「あぁ……」
だから顔パスで許されたのかとキリカは理解する。
命の恩人だから、いつ来ても良いように準備だけはしていたのだろう。
それに便場して自分の分まで無料で食べさせてもらって、ありがたかった。
「また来るとしたら、どのくらいの金額が掛かるのかしら?」
「さぁ?もしかして気に入ったのか?」
「当たり前でしょう?料理も美味しいし夜景も綺麗。また来たいに決まっているじゃない」
「そうか………」
キリカが余程気に入ったことをマオは理解する。
そして今度はご褒美か目出度いに日に連れて行こうと決意した。
今回は御礼だから特別に顔パスだったが次から予約しないといけない。
「そうよ。………それと今日はうちに泊まる?」
「泊まる」
「…………」
全く動揺せず考えることもせずに頷いたマオにキリカは白い目を向ける。
家に誘ったのだから、もう少し動揺してほしかった。
「カイルがいたら合鍵を回収するから手を貸せよ?もしかしたら、いるかもしれないし」
「……………そうね」
恥ずかしいことを言ったら蹴って意識を奪ったが、たしかにその可能性はある。
結構な時間が経ったのだ。
意識を取り戻していてもおかしくない。
そして二人きりの空間を邪魔されないように絶対に鍵を奪う必要がある。
それを思うとキリカはついつい力が入っていく。
「どんな手を使っても奪わないと……!!」
やる気まんまんのキリカにマオは自分の出る幕は無いかもしれないと予想する。
からかわれるのも予想が出来てしまうが肯定したら返してくれるかなと想像する。
もしそれでも返さなかった場合、マオとキリカを二人きりにしたくないシスコンやろうとからかおうと考えていた。
「見つけたぞ、マオ!」
途中から手を繋いで帰っていると後ろから聞き覚えのある声が聞こえてくる。
振り向くとそこにはテブリスたちがいた。
「こんな時間まで探していたのか?」
「うっわ」
マオの言葉にキリカは思い切り引く。
どれだけマオに会いたかったのかと。
住所を聞いて明日にでも尋ねれば良いのに考えつかなかったのか疑問だ。
「違う!」
「じゃあ何?」
「そこのレストランで夕食を食って出てきたら、偶然見つけただけだ!」
「ふぅん。俺は帰るから、またな」
「えっ。あぁ……」
偶然見つけただけと聞いてマオは繋いでいたキリカの手を引っ張ってテブリスたちの前から去ろうとする。
そしてテブリスたちも去っていくマオを見送ろうとしていた。
「って待て!」
「ちっ」
が、その前に正気に戻ってテブリスたちはマオを引き留める。
それに対してマオは面倒くさそうな表情を隠しもせずに振り返る。
逃げようとしないのは結局いつかは捕まるだろうから、さっさと終わらるためだ。
「それで何のよう?」
「俺たちは強くなりたいんだ!そのために戦ってくれ!月に一度でも良いから!」
「…………わかった」
月に一度程度なら構わないとマオも頷く。
自分のことが最優先だが、それで問題が無い限りは挑戦を受け入れようと考えていた。
「………それで、その娘は新しいパーティメンバー?」
それに王都では見かけなかった娘がいることに興味がある。
もしかしたら新しいパーティメンバーが入ったことで以前よりは強くなったかもしれないとマオは期待していた。
「いや。彼女は………」
「始めまして!!シュナです!!弟子にしてください!!」
「は?」
開口一番に弟子にしてくださいと言われマオは思考が止まった。
「お願いします!」
マオの思考が止まってしまったのは今まで鍛えてくれ、戦ってくれと言われたことはあるが弟子にしてくれと言われたことはないからだ。
似たような意味はあるのかもしれないが、それでもハッキリと言われたのは初めてだ。
「弟子にしてくれるのなら何でもします。望むのなら身体を差し出しますし、犯罪も犯してみせます!ですからお願いします!」
「……………」
マオは聞こえてきた内容に自分がどういう風に思われているのか疑問に思う。
そんなに犯罪を犯すか、それとも色情狂にみえるのか疑問だ。
「一応言っておくけどヤらないからな?」
「身体を求めないということですか?それとも犯罪を犯さないことですか?」
少しだけ残念そうに確認してくる眼の前の女。
そのことにマオは冷めた目を向けてしまう。
身体を求めるといわれてハニートラップを予想してしまう。
そうでなくても関係を持つことでマオという強者の庇護に入ろうとしているんじゃないかと考えてしまう。
「どちらもだ」
「そうですか………。残念です」
そして犯罪を犯すということは互いに弱点を握ることになってしまう。
自爆覚悟でリークをさせられたら捕まってしまうだろう。
もし、どうしてもやるならマオは個人でやる。
「でも毎日、同じ相手を抱くのは飽きませんか?私を加えたら変化もあって飽きが来ないと思いますよ?」
「死ね」
シュナの言葉にキリカは暴れ始める。
拳を握り本気で殺そうと遅いかかろうとしていた。
「あぶなっ」
そして振り下ろそうとしていた拳はシュナの目前で止まる。
マオがギリギリで止めたせいだ。
「何で止めるのよ?」
「こんな時間に騒ぎになったら面倒くさいだろ。さっさと帰るぞ」
あくびをしながら言うマオにキリカも納得する。
さっさと帰りたいのだと理解したのだろう。
マオと腕を組んで帰り道につく。
そのままキリカはシュナに向けて勝ち誇るかのような笑みを向ける。
「あっ、そうだ」
それを向けられてシュナは平然とし、アズは少しだけ悲しそうな表情を浮かべる。
シュナが平然としていることにキリカは警戒心を強くし、そしてアズの表情に自分の行動は間違っていないと確信する。
そんな中で急にマオが何か忘れていたのか声に出す。
「とりあえず攻撃をするから」
そして続けられた言葉にシュナは腕を交差させる。
その直後にマオの攻撃が飛んできた。
防げたのは直感に従っただけ。
運が良かった。
「防いだか………」
マオはキリカをいつの間にか横抱きにして抱えている。
その状況にキリカは顔を赤くしているが、シュナはお姫様抱っこを目の前で見れて目を輝かせる。
防げたのは運が良かっただけし、そもそもいつ動いたのか全くわからなかった。
「弟子にしても良いよ。詳しいことは、また後で」
「は?」「え?」
マオの突然の弟子の受け入れに驚くキリカは怒りの視線をぶつけ、シュナは嬉しそうにする。
「なら早速、私も一緒についていきますか!?」
シュナは顔を赤くして興奮した様子でマオに問いかける。
キリカはそのことに怒りで表情を消す。
「明日、ギルドにいて。弟子として、どういう風に鍛えるか話し合いたいから」
「あの?一緒について行くのはダメなんですか?」
身体も許すと言っているし、早速求めるのかと期待して一緒に家に行こうとするが拒否をされてしまう。
「初撃を防いだから特別に弟子にしてやるだけだ。面白そうだから受け入れようと考えているだけで身体を求めているわけじゃない。どうしてもシたいのなら、そういう店に行くかどっかの誰かでも誘っていろ」
それだけを言ってマオは今度こそシュナたちの前から去っていく。
今度は追いつかれないようにキリカを横抱きにしたまま走り去っていった。
「ねぇ」
部屋に入ると同時にキリカはマオの胸元を掴んで締め上げる。
本当は押し倒して締め上げたかったが体重を掛けてもびくともしなかったせいだ。
「まさか、あいつに手を出すわけじゃないわよね?」
キリカの表情は全くの無であり目も一切笑っていない。
本気で聞いてきていてマオはため息を吐く。
「しないから。単純に攻撃も防げたし興味があるだけ」
マオは少しは信頼してほしいとキリカに文句を言う。
いくらモテたとしても手を出すのはキリカだけで十分だと思っているのだ。
シェラに関しても、弟子にすることでどんな結果になるのか興味を持っただけだ。
「なら良いけど………」
マオという強者を求めて群がるからキリカは心配になる。
そしてマオもそれで良い気になって一度くらいはと流されてしまわないかと不安だ。
「浮気をしたら死んでやる」
だからキリカは本気でそんなことを言う。
マオは強いし冒険者としての戦力を増やすために相手を増やせと言われるかもしれないが二人の時間が減るからキリカは嫌だった。
「わかっている」
そしてマオはそこで殺しやると言わないあたりに実力差を理解しているのだと考える。
殺して後悔させてやるのではなく、絶望して死んでやると言う。
負け犬の言葉に聞こえてしまう。
「俺はお前意外と子供を授かる気はないよ」
子供の教育は聞いたり見たりするだけでも面倒だ。
そんなものは本当に愛した相手以外の者は積極的に関わる気になれない。
「こどもって…………」
顔を赤くするキリカ。
マオとしては何で顔を赤くするのか疑問だ。
先に話題を出したのはキリカだ。
そして浮気や手を出すと言ってきた以上、それも考えなくてはならない。
どれだけ気をつけていても子供が生まれない確率は百パーセントにはならないらしいからだ。
「何で顔を赤くするんだ?」
「あなたがこどもって言うからでしょ!?」
呆れたように言うマオ。
キリカはそれを聞いて顔を赤くして反論し、そしてお腹に手を当てる。
子供を授かるための方法とその内容を思い出したせいだ。
意識をしてしまうと恥ずかしくなってしまう。
「今更なのにな………」
「〜〜〜〜!!」
マオの言葉に必死に叩くキリカ。
そのことにマオはやっぱり今のままで良いのかなと考える。
慣れてしまうことで浮気につながるのなら、このまま恥ずかしがっていたほうが都合がよい。
キリカが浮気に絶望して死ぬのなら、マオは浮気をされたら殺してやろうと考えていた。
自分の子供を育てるのなら愛おしく感じるが、他人の子を育てていると考えていると子供も妻も嫌悪感で殺したくなる。
「それよりもカイルはいるか?」
いつまでも子供がどうこうと話すのは流石にマオも気が早すぎると思って話を逸らす。
それに目的も忘れていない。
カイルがいたら合鍵を奪うつもりだ。
「こどもか………」
キリカがふと声に出すが聞かなかったふりをする。
マオはまだまだ子供をほしいわけではない。
「えっ、何?子供が出来たの?もしかしてデキ婚?げふっ………!?」
そして、いた。
予定通りにカイルからマオは合鍵を奪う。
勘違いをしていることに関しては後で訂正すれば良いと考えていた。
「あった。これで、こいつはもう俺の家に入ってこれないな」
例外はキリカが合鍵を貸すこと。
だからマオはキリカにも注意する。
せっかく二人きりになれるのに手放したくない。
「………当然でしょ」
キリカも二人きりを邪魔をされたくないと顔を赤くして頷く。
そしてその表情は期待しているように見える。
それがマオにドキッとさせる。
「………今はマオの家に誰もいないわよね?」
キリカの言葉にそういえばとマオも頷く。
そしてカイルの合鍵を回収する理由は二人きりの時間を邪魔されないため。
意識を奪い、そして合鍵を奪った今は家に戻ったら誰にも邪魔をされない絶好の機会だ。
そこまで考えると顔が赤くなっている理由も察する。
「俺の家に来る?」
マオの確認にキリカは顔を赤くして頷いた。




