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約束と弟子①

「〜〜!久しぶりね!」


「そうだな〜」


 マオたちは数日しか経っていないが、久しぶりに街に戻ってきたことに歓喜の声を上げる。

 普段と違うところで過ごしていたから、王都では普段より気が張っていたのかもしれない。


「久しぶりに戻ってきたし今日はゆっくりするか」


「なら私もマオの家によっていいかしら?」


 その言葉に当然だと頷くマオ。

 断る理由も特になかった。


「そういえば聞いてなかったけどダンジョンに挑んでいたのよね?あいつらはどうだった?」


「戦闘能力が高いだけで、あまり役に立たなかったな………。冒険者としてもお前のほうが優秀なんじゃないか?トラップだらけのダンジョンではあいつら全く役に立たなかったし」


「そうなんだ」


 テブリスたちは思った以上に欠点が多そうだと話を聞いてキリカは思う。

 少なくともダンジョンにトラップは付き物なのによく今まで生きてこれたなと考える。


「………え?それってどうやってダンジョンを攻略していったの?」


「トラップの少ないダンジョンに挑んでいたんだろ?連鎖して続くトラップが苦手なだけでトラップの解除自体は出来るだろうし。あとは力づくで回避してきたんだろ」


 マオの推測に有り得そうだと納得するキリカ。

 トラップの知識がなくても能力自体が優れていれば回避することが出来る。

 実際にマオもそうやって回避をしていることもある。

 だからテブリスたちも自分たちの能力のゴリ押しで回避しているのを用意に想像することが出来た。


「そうなんだ。………そうだ!今日は一緒に外食にいかない?今日はもう夕食を作るのも面倒だし」


 せっかく街に戻ってきたのに、ずっとテブリスたちの話をしていることに気づいたキリカは強引に話を変える。

 いつまでも話していたら今度は王都が懐かしく感じてしまう。

 キリカはそれが嫌だった。


「そうだな……。どこで食べる?」


「どうせなら沢山の種類の料理が食べられる場所が良いわね……」


「わかった」


 何故なら王都の方が住んでいる住人が多い。

 そのせいでマオを狙っている女の数が増えてしまう。

 誘いにかける女も出てくるだろう。

 そうなれば、いくら信頼していても良い気分にはなれない。


「とりあえず腹が減るまでは家にいるだろう?」


「えぇ」


 意識を別の方向へと向きながらマオの言葉に頷くキリカ。

 そんなキリカにマオは手を繋いで家まで引っ張っていった。




「おっ、二人共お帰り」


 マオとキリカが家に帰ると中にはカイルがいた。

 アイスを片手に本を読んでおり、すっかりくつろいでいる。

 そして二人の手を見て、からかうネタが出来たとニヤける。


「何だ王都に行ったって聞いたけどデートだったのか?もしかして最後までシ「死ね」」


 最後まで言い切る前にキリカに思いけり顔面を蹴られるカイル。

 本はカイルが蹴り飛ばされる前にマオが回収したから無事だ。

 ちなみにマオはカイルのことを全く心配する気は無い。

 意識を失ってはいるが回復させようとは全く考えてもいなかった。


「カイルがいるんじゃ二人きりで休めないわね……」


「いっそお前の家に行く?」


「……………うん」


 今ならカイルも気絶して意識を失っているし確実に二人きりになれると頷くキリカ。

 そうと決まったのなら早速、キリカの家に向かうことに決まった。


「………それにしても何でカイルがマオの家にいるのよ。いや合鍵は私達も持っているけど!」


「まぁ、合鍵を渡してあるとはいえ住んでいる本人がいないと知っているのに、くつろぐために使うのわな」


 これからも家で二人きりになろうとしたら邪魔をされてしまいそうだ。

 カイルの分の合鍵だけは返してもらうと考えている。


「それに今までが運が良かっただけで、これからも二人きりでいたい時は邪魔されそうだな。返してもらうか」


 マオの言葉にキリカは深く頷く。

 是非とも返してほしかった。


「…………あれ?」


「どうしたのよ?」


 そして二人がカイルから合鍵を返してもらうことに同意していると、急にマオが馬車の方を見て首を傾げる。

 その姿にキリカはどうかしたのかとマオの袖を掴むが馬車から降りてきた者たちを見て表情を消す。

 降りてきたのはテブリスたちだった。


「なぁ?」


「何?」


「テブリスたちが街に来るって聞いていたか?」


「私は聞いてないわ。マオは?」


「俺も聞いていない」


 折角の二人きりが邪魔されたら嫌だとマオはキリカの体を抱き上げる。

 二人で一緒に手を繋いで逃げるよりは、こっちのほうが確実だ。


「マオ!?」


 キリカの声に反応したテブリスたちがマオたちの方向へと視線を向ける。

 その反応にマオはやはり自分たちを探しているのだと察して一瞬でその場から離れる。

 そしてテブリスたちは馬車から降りて急いで声が聞こえた方に向かったが、そのときにはもう既にいなかった。


「………なぁ?」


「…………なに?」


「人って軽すぎると病気になったりするんだけど大丈夫か?」


 そう言いながらマオは抱き上げたキリカの体を上げ下げする。

 あまりにも軽くて本当に心配になる。


「〜〜〜〜!!」


 今のキリカはかなり複雑な気分だ。

 男に体重を調べられた恥ずかしさと怒りもあり、心配されたことによる感謝と嬉しさもある。

 その二つに挟まったせいで動くことも出来ない。


「キリカ?」


 そしてマオはそんなキリカに声をかけるが顔を見せたくないのか逆にマオの胸に顔を押し付けてくる。

 その行為にマオは面倒そうな表情を浮かべる。

 まだ家の外。

 周囲には何人か見られている。

 絶対にからかわれるだろうなと確信する。


 もし、からかわれたら出来る限り逃げてやろうと決意しマオは持っていたキリカたちの家の合鍵で部屋を開けて中に入った。

 最悪はキリカを生贄にして逃げる算段も考えている。

 からかわれるのは反応を引き出したくて、しつこいから嫌いだった。

 目的地に移動している時は純粋に邪魔だとしかマオは思えなかった。




「マオ?」


 マオは部屋の中に入るとキリカをベッドの上に投げる。

 その行動にキリカは顔を赤くしてマオを見上げる。


「この本読んで良いか?」


 そしてマオが部屋にあった本を片手に確認してきたのを見て思いきり顔面を目掛けて蹴りを放った。


「あぶなっ……。いきなり何をするんだ?」


 キリカの行動にマオを驚きながらも簡単に受け止め突然の行動に疑問をぶつける。

 当たり前のように受け止めたられたことにキリカはキリカは色々と苛立ちを覚える。

 色々と覚悟をしたのに全く別のことに興味を持たれたせいだ。


「………別に」


「そうか?」


 マオは言いたくないのなら知らなくても良いかと流す。

 それよりも本の内容に興味があった。


「何も聞かないのね?」


「聞いてほしいのか?」


「…………別に?マオって本当に性欲とかあるの?」


「ぶつけられたことがある癖に何を言っているんだ?」


 キリカの言葉に怒りや恥ずかしさを覚える前にマオは困惑する。

 そして、あまりにもあっさりと言われた内容にキリカは顔を赤くする。


「何?シたかったの?」


 そしてマオはまだベッドの上にいるキリカを倒して覆いかぶさる。


「え………。え………」


「キリカ………」


 続けてマオはキリカの頬に手を当て、キリカはそれに合わせて顔をマオに向ける。

 キリカの顔は真っ赤で熱くなっていた。


「下手したらカイルが帰ってくるからシない。俺は普通に見られたくない」


「…………そうね」


 キリカはマオの言葉にそれはたしかに自分も嫌だと納得する。

 そして、やはりカイルからマオの部屋の鍵は絶対に回収するべきだと決意する。

 マオの家にいても最悪は邪魔をされてしまいそうだ。


「それにそんなことをしたら夕食のことは忘れてしまいそうだしな」


「そう?」


 そんなことは無いとキリカは思うが、マオがそう言うのならと受け入れる。

 その代わり時間までかまってほしいと考える。


「なら、その時間まで私にかまってよ」


「こうか?」


 マオはベッドの上に倒れているキリカを抱きまくらのように抱きしめながら本を読む。

 キリカはマオの行動にこんなことをするのなら自分も本を読みたいと考える。

 だが、そのために抱きしめられている今を一時でも手放さすのはもったいないと思ってしまった。



「そろそろ時間だな」


「あっ……」


 そうしてキリカはずっと抱きしめられていることだけに甘んじていると開放されてしまう。

 どうして離したのかと不満を抱いてマオに振り向いたが赤い日差しが差し込んでくる。


「そろそろ夕食を食いにいくか?」


「………………」


「キリカ?」


 キリカは何時間もマオに抱きしめられていたことだけで満足していたことに恥ずかしく覚える。

 調子も絶好調で我ながらどこまでマオのことが好きなんだと呆れてしまった。

 だけど全く悪い気はしなかった。


「えい」


「キャッ!!」


 顔を赤くしたり百面相をするキリカにマオは心配になって猫騙しをする。

 それで正気に戻るのなら安いものだという気持ちだ。


「いきなり何をするのかしら?」


「急に顔を赤くしたり百面相をしたりするからな。心配になって正気に戻そうとした」


 心配そうな顔をしてくるマオに本気で言っていることがわかってしまうキリカ。

 それでも驚かされたことにキリカはマオを睨む。

 もう少しやり方を考えて欲しい。


「それじゃあ行くか?」


 キリカに睨まれているがマオは気にすることはせずにキリカに手を差し伸べる。

 それにため息を吐いてキリカは差し伸べられた手を掴んだ。


「それでどこに行くのかしら?」


「夜景が見えるレストラン。結構な金額がするけど大丈夫だろ」


「ふぅん」


 マオがそういうのなら隠れた名店かなとキリカは考える。

 街の中でも有名な場所だったら事前に予約しないといけない。

 そんな素振りは覚えている限りは無いし、そんな行動もしていないはずだ。

 抱きしめられていたことで意識が呆けていてもマオが何をしていたかの記憶はある。


「どんな店なの?」


「行ったらわかる」


 サプライズ要素だとキリカは言われ、たどり着くまでは楽しみにしていようと考えた。


「ついたぞ」


「は?」


 そしてついたのは街の中でもトップクラスのレストラン。

 最低限でも予約をする必要があるレストランだ。


「待って!」


 急に来てもレストラン側が受け入れるわけがないとキリカはマオを止めようとする。

 だが、マオは大丈夫だとキリカを引きずって中へと入る。


「あの……?」


 そして当然のように声をレストランのスタッフに声を掛けられる。

 そのことにキリカは当たり前だと呆れ、断られるのだと予想する。


「本日は私どものレストランでご食事ですか?」


「キリカも一緒だけど、たしか大丈夫だったはずだよな?」


「えぇ。問題ありません。それでは案内させてもらいますね?」


「頼みます」


「え?」


 予約制のレストランで受け入れられ、そして案内されるキリカは困惑する。

 そしてそのまま、まさしくVIP席にふさわしい席まで案内された。


「それでは注文が決まりましたら、お呼びください」


 ふと外を見ると夜景が綺麗だった。



「キリカ」


 目が虚ろになっているキリカにマオは正気に戻すために体を揺さぶる。

 いつまでもメニューを決めないのは迷惑だ。


「マオ?」


「いい加減に頼むメニューを決めろ」


「えっ……。あ……うん」


 マオの言葉に促されてキリカはメニューを決めていく。

 まだ完全に正気に戻っているわけではなく完全に金額やカロリーなどを気にせずに好みの料理を選んでいった。


「じゃあ、これとこれと………」


「かしこまりました。それではお待ち下さい」


 いつの間にか近くにいたスタッフがそれを聞いて戻っていく。

 まだキリカは正気に戻っていない。


「おまたせしました」


 結局正気に戻ったのは頼んだメニューが来てからだった。

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