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怒りと修羅場④

「キリカは街に帰るつもりらしいぞ。だから俺も街に戻らせてもらう」


「は?」


 マオはキリカが街に戻ることを伝えるとテブリスたちは絶句する。

 それだとマオを引き留めることも出来ない。

 考え直してほしかった。


「えっ。俺とは戦わないのか?」


「そんなことより街に戻りたいって。だから俺も明日には戻る」


「待ってくれ!」


 待ってくれという言葉にマオは何だといわんばかりの表情をするがテブリスたちにとっては冗談ではない。

 マオに色仕掛けを仕掛ける時間もない。

 そのために一週間も間を開けようとしたのに無駄になってしまう。


「もう少し王都にいないか?街に住んでいるよりは色々と便利だろう?品揃えも良いし」


「たしかにそうだけど、正直そんなことはどうでも良い」


 マオたちの住んでいる街には王都にはない魅力があるのかとテブリスたちは考える。

 そうでなければ王都から直ぐに街へと帰る理由が考えられなかった。


「王都よりも何が良いんだ!?」


「………さぁ?」


 マオはまだ街と王都を比べることが出来るほど王都のことは知らない。

 だが街から出ていくつもりはまだない。

 街では引退した多くの者たちから知識や知恵をただで教えてもらえるし、依頼で色んなことを経験することが出来る。

 打算はあるのかもしれないが試験の費用も代わりに払ってもくれる。

 有り難くて離れることは考えられない。


「なら王都に住んでもよいだろ!?」


「…………」


 だが言葉にも出していないから、それはテブリスたちにはわからない。

 それに本も街にある本屋よりは多くの種類が売ってあって心が揺れそうになる。

 だがマオは何となく嫌な予感がしていた。


「王都に残らせてお前らは何がしたいんだ?」


「そりゃ鍛えてもらったりとか………」


 他に試合をしてほしいのだろうとマオは考える。

 絶対に嫌だった。


 当然だが住んでいる街より王都のほうが広い。

 人口も数倍以上あるだろう。

 街にいるときのように何度も勝負を挑まれていたら、あまりの数の多さに受け入れるにしても拒否をするにしても面倒くさい。


 それならまだ数が少ない街のほうが良いと考える。

 なにせ拒否をするだけでも自分の時間を奪われる。

 そして受け入れても戦うことになるために自分の時間が減ってしまう。

 マオは自分の時間も大事にしたかった。


「お前らがなんと言おうが俺は絶対にキリカを連れて街に戻る」


 マオの急な宣言にテブリスたちは何か不快にさせることを言ってしまったかと不安に思う。

 王都に住んで鍛えて欲しいと言っての宣言なのだ。

 そう思っても不思議ではない。


「あっ、そうだ」


 だが同時にそんなことが本当に街に戻ろうと決意することになるのか疑問だ。

 強い者に鍛えてもらったり挑むのは強くなるためには当然のことだろう。

 たしかに鍛えてもらう相手の時間は奪ってしまうかもしれないが、その代わり鍛えてもらった時間の分の報酬として払うつもりだ。


「また強引に連れて来たりしたら殺すぞ」


「「「「「はい!!!」」」」


 そんなことを考えているとマオに殺すぞと言われ反射的に返事をしてしまうテブリスたち。

 マオの目がマジだった。

 キリカはそんな皆を見て完全にマオに怯えているなと呆れていた。




「今日も泊まらせてくれて礼を言うわ」


「気にしなくて良いよ。そもそもマオを強引に連れてきたのは私達なんだし」


 明日には街に戻ると聞いて、いつもより豪勢なメニューをキリカやマオを含めた皆で食べるテブリスたち。

 そこでのキリカの礼に返した言葉にマオは深く頷き、それを見たキリカは苦笑を浮かべる。

 そしてテブリスたちは目を逸してしまう。


「そ、それで明日の朝一に出発するのよね?」


「そうなるわね」


 リュミの言葉に頷くキリカ。

 久しぶりの王都で懐かしく感じていたが、やはり一番の落ち着く場所は今住んでいる街だった。

 数日しか離れていないのにひどく懐かしく感じてしまう。


「それじゃあ、これをどうぞ」


 渡されたのはパン。

 それも見習い勇者たちが好んで買うパンだ。


「これは……」


「見習い勇者だった頃に皆が買っていたパン。馬車の中で一緒に食いなよ」


「ありがとう!」


 思わず大きな声で感謝を口にしてしまうキリカ。

 思い出の味、そしてそうじゃなくても美味しいパンだから、ついつい大きな声を上げて感謝をしてしまう。

 マオもパンをもらえて嬉しそうな表情を浮かべる。


「それと今日は一緒に寝ない?色々と話したいし」


「ならマオ、俺たちも夜一緒に寝ながら話さないか?」


「………いいよ」


 リュミはキリカにパンを渡した後、パジャマパーティをしないか誘う。

 それを聞いたテブリスは対抗するようにマオを誘う。


 そしてマオは少し考えてから頷く。

 自分たちを残すために何か仕掛けてくる可能性もあるが、ある程度はどうとでも出来ると判断したせいだ。

 それに既に脅している。

 街に戻るには邪魔をしないだろうと考えていた。


 キリカは久しぶりの友人とのパジャマパーティに嬉しくなる。

 多分、マオとのことを聞かれるのだろうと予想するが自分も同じような内容で聞きたいことがあった。

 例えばテブリスとリュミの関係とか。

 例えばカレンの恋はどうなったのか?

 むしろこっちから積極的に聞こうかと予想していた。



「なぁ、どういう風にキリカを鍛えたんだ?」


 テブリスはマオを自分たちの寝る部屋に連れてきて開口一番にそれを聞く。

 キリカがリュミに勝てるようになった秘密を知りたい。

 おそらくは女子たちも同じ質問をしているはずだ。

 

『どうやってマオと知り合って付き合うようになったのよ?』


『王都から離れたくせにあんな男を捕まえるなんて………。ズルいわよ!』


 実際は少し違う。

 色恋沙汰のことでテンションを高くして会話していた。


「さぁ?俺は特にキリカやカイルを鍛えた覚えは無いけど」


「え?でも見習い勇者時代に比べたら、比べ物にならないぐらいには強くなっているんだけど?」


 テブリスの言葉に他も深く頷く。

 見習い時代はテブリスやリュミに勝てる姿なんて誰も思い浮かべること出来ず、他のパーティの皆でもよくて互角に戦えるかどうかという実力だった。

 そして互いに成長しているはずなのにキリカはリュミに勝てる程度の実力を身に着けた。

 その秘訣だけは知りたかった。

 それを知ることができれば自分たちも、もっと強くなれるはずなのだ。


「そうは言ってもな………」


 だが特別なことをした記憶はマオには一切ない。

 あえて言うのなら特別にパーティを組んでいるぐらいで、それも時々だ。

 その程度で強くなるはずがない。

 だからマオには一切わからない。


「組み手とかもしていないのか?」


「まぁ、そうだな……。せいぜい今日みたいに挑戦をたまに受けるぐらいか」


「「「……………」」」


 マオの言葉に特別なことをしているんじゃないか、とテブリスたちは白い目を向ける。

 強者に挑むこと出来ると言うことは、それだけ経験を積むことができ強く慣れる機会があるということだ。

 何でそれで自覚が無いのか。

 逆に意味がわからない。


「それは十分特別なことだろ……」


「そうか?街では俺の都合が優先だけど申し込んできたのなら相手が誰であろうと戦っているけど。その中にキリカやカイルがいるだけで。………そういえば街には勇者じゃないけどお前らより強い奴らもいるな」


「それって………」


 マオという圧倒的な強者相手に挑むことが出来る機会があるのなら、マオの住んでいる街の冒険者達は皆強いのかもしれない。

 もしかしたら王都の冒険者達より強くてもおかしくない。

 そう考えると自分たちより強いと言われても納得だ。


「俺達よりも確実に強い奴らは何人いる?」


 出来るのなら勧誘したいと考えてテブリスは質問する。

 その中の一人はマオだろうが、数が多ければ多いほど勧誘が出来る可能性が高くなる。


「確実にと言われると一人だけど……」


「それは誰だ!?」


 確実に上回っている者がいると聞かれて目を鋭くするテブリス。

 マオの言葉を信じるのなら戦っただけで強くなるのだ。

 勧誘に成功したら組手をお願いしたい。


「止めたほうが良いんじゃないか?」


「なぜ!?」


 かなり厄介な相手なのか複雑そうな表情を浮かべるマオ。

 こちらを同情している視線もあって困惑してしまう。


「キリカやリュミの元恩師のシスターだけど大丈夫か?二人の恩師ということは、お前らにとっても恩師にあたるだろうし勧誘するとなったら一緒のパーティになるんだが………。気まずくないか?」


「「「無理だ」」」


「だろうな」


 自分たちより確実に強い相手がマオが住んでいる街に移り住んだ自分たちの恩師だと言われてテブリスたちは諦める。

 恩師と一緒のパーティになるのは流石にキツい。

 自分の恥ずかしい過去を知っているから、それを口に出されると調子が狂ってしまいそうだ。

 だから、あまり組みたくはない。


「………なぁ。確認だけどお前の住んでいる街には少なくとも俺達と互角レベルの冒険者がいるんだよな?」


 そして話の流れを帰るために別の質問をした。

 自分たちと同じレベルの冒険者がいるのかと。


「そうだが?」


 その答えにテブリスは笑った。

 圧倒的格上に挑戦する以外にも自分たちと同レベルの相手と戦う機会があるからだ。

 特に同レベルの相手と戦うことは圧倒的格上に挑むよりも経験を深く積むことが出来るはずだ。


 だから自分たちもマオの住んでいる街に住もうかと考える。

 マオが封じたのは王都に連れて行くこと。

 なら自分たちがマオの住んでいる街に行くことは問題も無いはずだった。


「面白そうだ………」


 そしてマオの住んでいる街で、マオと出会ったらどんな顔をするのか今からテブリスは楽しみだった。

 パーティの皆にも確認し、全員が賛成したら月に一度はマオに挑むために行こうと思っていた。



「それじゃあな!」


「えぇ、またね!」


 翌日の朝、マオとキリカは住んでいた街へと戻るために馬車に乗り込む。

 それの見送りにテブリスたちも来ており、テブリスたちのせいで非常に目立っていた。


「あぁ、そうだ」


 そして互いに笑顔でさよならをしている時、マオが何か思い出したように声を上げる。

 そのことに何だろうかとテブリスたちは興味を向けた。


「昨日もいったと思うけど、また強引に連れてきたら殺すからな?」


 笑顔で宣言してくるマオ。

 話が聞こえていた者たちは物騒だと思うが笑顔で話していることに軽い警告みたいなものだろうと聞き流す。

 だがテブリスたちは言葉に込められた圧に必死に頷く。


「なら良い」


 テブリスたちの反応に満足し、マオはキリカと一緒に馬車へと乗り込んだ。

 そして二人が乗った馬車が見えなくなったのを確認してテブリスは自分のパーティの皆に質問を投げかける。


「今度から一ヶ月に一回はマオのところに行って勝負を挑もうと思うけど皆はどう思う。俺は圧倒的格上に挑めるから経験を積むことが出来て強くなれるはずだと思っている」


「………それは」


 自分たちがマオをパーティに引き入れたいのは強くなりたいから。

 それが今回は失敗し、それでも強くなれる機会があるのなら飛びつきたい。

 だがマオの言葉もあって、それは本当に良いのか不安だ。


「マオに強引に連れてきたら殺すって、さっき脅されたよな?」


「王都に連れてきたのが問題なだけで俺たちがマオの元へ行くのは問題ないだろ?それに強引に話を聞かずに連れてきたから、あんなに怒っていたんだろうし」


 強引に連れて行かず、そして自分たちの方からマオの元へと行く。

 たしかにそれなら大丈夫かもしれない。

 マオに何か言われたとしても、こちらから来るのは何も言われてないと押し通せば良い。


「そうだな……」


 仏の顔も三度まで。

 もしダメだったとしても、一度目か二度目まではマオも許してくれるはずだ。

 それにもしかしたら偶に色々と説得するぐらいなら許してくれるかもしれない。


「あの………」


 皆がマオに挑むためにマオの住んでいる街へと行くことに賛成しようと頷くと一人の少女がテブリスたちの元へと近づいてくる。


「ん?どうした?」


 外見から判断すると見習い勇者として教会で鍛え始められるぐらいの年頃だ。

 都市幼いこともあって声をかけてきた少女は自分たちのファンかと考える。


「先程、殺すと言っていた人なんですけけど……」


「あぁ、あれは軽い冗談みたいなものだから気にしなくて大丈夫だよ」


 開口一番の言葉に苦笑しテブリスは安心させようとする。

 だが少女はそうじゃないと言わんばかりに首を横にふる。


「あの人はどこの街に住んでいるんですか!?」


「えっ?」

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