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怒りと修羅場③

 マオたちがコロシアムにつくと視線が集まってくる。

 ほとんどが以前に数の差があって挑んだのに負けた者たちで、今度こそは勝ってやると戦意を込めて睨んでいる。

 キリカはその視線に王都でも変わらないと苦笑を浮かべてしまう。


「さてと、どちらからやる?」


 それらを無視してコロシアムの中に入ると振り返り、テブリスたちへと疑問をぶつけた。

 先にマオと戦うか、それともキリカと戦うか。

 どちらにしてもマオとしては構わない。


「わるいけど、やはり俺から挑ませてもらう」


 そういった前に進んだのはビース。

 戦意に溢れていて今すぐにでも挑んできそうだ。


「そうか………。なら来い」


 迷っているようなら早いものがちで決めるしか無い。

 そしてテブリスたちはどうするか顔を見合わせあっている。

 それならビースを最優先しても問題ないなとマオも戦うために気合を入れていた。



「それじゃあ挑ませてもらうぞ!!」


 マオの近くにはキリカ。

 そしてビースの近くにはテブリスたちがいる。

 それなのにビースは急に挑みかかってくる。


「そうか」


 ビースは拳を叩きつけるように殴りかかるが平然とマオに受け止められる。

 そして同時にマオから見て珍しく思われる。

 剣やら槍やら武器を装備してくると思ったら、そのまま拳のみで挑んでくるのは珍しい。


「へぇ」


 だから面白そうに笑うが、それがビースにとって怒りを沸かせる。

 受け止めながら笑うということは余裕があるということだ。

 余裕があるということは相手にもならないということ。

 それが悔しくて、その分の怒りも攻撃に回す。


「あぁぁぁぁぁぁ!!!」


 横蹴り、回し蹴り、前蹴り、肘打ち、膝蹴り、正拳突き、休まずに攻撃を続けていく。

 だがマオはそれら全てを避け、受け流して無効化していく。


「おぉ。すごいな」


 本気で感心しているような声。

 しかもマオは未だに攻撃を一切していない。

 それが更に苛立ちを覚えさせる。

 

「何で攻撃をしてこない!?」


「したら、それで終わるだろ?」


 たまらずに疑問をぶつけるが即答されてしまう。

 隠した扱いされていることに更に攻撃が激しくなった。



「…………」


 マオは攻撃を避け、防ぎ、受け流しながら思案する。

 今のビースの攻撃の激しさは自分に対する怒りもあるが、自分が反撃に出ていないからだろうなという確信があった。

 それなら一度でも反撃に出れば攻撃の手が緩む。

 そうなればつまらないとマオは考えてしまう。


「はぁ………」


 今が少し楽しいと思えるのは自分が一切反撃をしていないからだ。

 キリカたちもそうだが、少しは普通に戦っても楽しませるようになってほしい。

 大体が自分からハンデを付けて楽しんでいるが、そんなことをする必要がなくなるぐらいには皆が強くなってほしかった。


「………全くマオは攻撃していないな」


「………うん。しかも全て最小限でかわしていない?」


「勉強にはなるな」


 テブリスたちはマオへの挑戦を見て感心を覚えている。

 マオの動きが参考になるから、もう少し続けてほしい。

 それは他のコロシアムにいる全員が同じでマオの動きを見ていた。


「あぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 そしてマオはビースの攻撃を避けながら、段々と微妙な表情を浮かべていく。

 あまりにもビースが攻撃に集中しすぎていて、攻撃されること可能性を考えていない。

 もし奇襲でもされたら、あっさりと直撃して意識を落としてしまいそうだ。


「そろそろかな………」


 もう十分、好きに攻撃することが出来ただろうとマオは判断した。

 ストレスも溜まったかもしれないが、それは攻撃を当てることも出来ない自分の実力不足を睨んでほしいと思っている。

 だからマオも反撃に出る。


「これで終わり」


 そしてマオはビースの攻撃にカウンターで裏拳を叩き込み、数十メートルも吹き飛ばして気絶させて終わらせた。

 こころなしか満足そうな表情を浮かべて気絶しているビースを見てマオは困惑していた。



「俺の方は終わり。次はキリカたちがやっていいぞ」


 マオは吹き飛ばしたビースを回収してキリカたちの元へと戻る。

 ビースを回収したのはキリカたちの勝負の邪魔になるかもしれないと判断したからだ。

 拾ってきたビースは観客席で横にして休ませる。


「………そうね」


 マオの言葉に一番最初に飲み込んだのはキリカだ。

 立ち上がりコロシアムの中心に移動する。

 旗から見ていて気合は十分だ。


「それで誰からくる?」


 そしてテブリスたちの方を見て挑発をするかのように問いかける。

 それに一番最初に反応したのはカレンだった。


「私からよ」


 できれば最初はテブリスかリュミが良かったとキリカは考える。

 マオの言っていることが本当なら後に後に回して自分の情報を盗られた分だけ勝てる可能性が低くなる。

 一番最初に相手をするなら勝てたが、二回戦目以降は不利だろう。

 それでも勝とうとするのなら自分の手札を隠し続けてテブリスかリュミにぶつけるしか無い。


「ねぇ」


「何?」


「最初はそちらに戦う順番を求めたけど、次は私が決めて良い?」


「かまわないわ」


 最低でもテブリスかリュミのどちらかに勝ちたい。

 そのために提案する。

 数の差もあり確実に最後は自分たちが勝てると思っているからかカレンは頷く。

 テブリスたちの方を確認すると、そちらも頷いていた。


「ありがとう。それじゃあ始めましょう」


「ええ。………まずはこちらから、いかせてもらうわよ」


 そして試合を開始すると同時に炎の魔法を撃ってくるカレン。

 それは炎を球体に集めて相手を一気に燃やし尽くす魔法。

 結界で護ろうとしても焼やす威力がある。


 それに対してキリカは勢いのままに突撃していく。

 もちろん魔力を最大まで使って全身を結界で防いでいる。


「「「「は?」」」」


 テブリスたちから見れば自殺行為だ。

 いくら魔力を最大まで使って結界を強くしても、カレンの炎の方が強い。

 一人目で終わると確信する。


「瞬殺か」


 そしてマオはそれを見てキリカは次は誰と戦うのだろうと考えていた。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 カレンは自分の最大魔法が直撃したのだと油断する。

 だから炎に耐え直進してきたキリカの一撃を直撃してしまい意識を落としてしまった。


「次はリュミよ」


 そして勝ちを確信したキリカは次の相手にリュミを指名する。

 マオはキリカの様子を見てリュミとの戦いが終わったら今日は終わらせようと考える。

 いま止めようと考えないのはテンションが上って絶好調だろうから邪魔をしたくなかった。


「本当に大丈夫?」


「むしろ絶好調だろうから、さっさと行け。それが終わったら今日は終わりだ」


 だがリュミはキリカの状態に不安を抱く。

 一瞬で終わったとはいえ攻撃を受けている。

 万全の状態で戦いたいから戦うのに二の足を踏む。


 だからマオはむしろ絶好調だから戦えとリュミを掴んでコロシアムの中へと投げる。

 リュミは当たり前のように体制を整えて着地したが突然のマオの行動に睨みつける。


「全力で行くわよ」


 だが後ろからキリカの好戦的な視線が突き刺さる。

 そのこともあってマオに文句を言うのは後に決める。

 今はキリカと戦うことに意識を集中することにしていた。


 目の前にいるキリカは気合十分。

 マオも戦闘能力ならキリカの方が優れていると言っていた。

 だがリュミは王都でもトップクラスのパーティの一人なのだ。

 そのこともあって、簡単に負けるつもりはなかった。





「………キリカの勝ちだな」


「あぁ」


 二人の戦いを見てテブリスはたしかにキリカは自分たちより戦闘能力は優れていると認める。

 だがキリカの戦いをじっくりと見ることが出来た。

 弱点も把握したし、後は実際に対処することができれば十分に勝つことが出来る。


「それにしても強くなったな……」


 そして、ともに教会で鍛えられていたころを思い出す。

 あの頃はカレンたちはともかく、リュミやテブリスはキリカに負けることは想像できなかった。

 だけど今は十分以上に負ける可能性がある。

 自分たちも成長はしているが、それ以上にともに教会で鍛えられていた中で一番成長しているのはキリカだと認識する。


「何?」


 そしてマオに視線を向ける。

 キリカが強くなったのはおそらくマオのおかげだ。

 彼がキリカをここまで鍛えたのだろうと想像できた。


「さてと、どこに泊まるか………」


 そして視線を外さずに見ていたのに全く動く姿が見えずに目の前からマオが消える。

 声が聞こえてきた方に目を向けると、そこにはコロシアムの中。

 しかも倒れそうになったキリカを支えていた。

 もう片方のリュミの方は刺させてくれる者もおらず倒れている。


「私達の家に泊まらないんですか?そのぐらいなら構いませんけど………」


「……そうだな。ところで質問だけど、まだ戦うのか?」


「どういうことですか?」


 テブリスたちの家に今日も泊まることに頷いたマオの疑問に首を傾げるアズ。

 テブリスたちも同じ気持ちだ。


「リュミはお前たちの中でも一番か二番目に強い奴だろ?それで俺の言っていたことが正しいとわかったはずだが?」


 否定は出来ない。

 そもそも戦うことを決めたのはマオの評価を認めたくなかった。

 だがリュミとテブリスよりは確実に弱い他のメンバーは自分たちよりは強いと認めるしかなかった。

 そして、それが証明された以上はたしかにマオたちが残る必要はない。


「悪いけど、俺も戦いたい。だから王都に残ってくれないか?万全の状態で戦いたいし一週間後に戦い終わったら好きなときに街に戻って良い」


 全員と戦うとなると、もしかしたら拒否されるかもしれない。

 だからテブリスは自分一人だけにする。

 そして万全の状態で戦いたいからといって一週間後にしたのは時間が欲しいからだ。

 その間に出来る限りのことをしてマオを自分たちのパーティに引き込みたい。

 そしてキリカがあれだけ強くなったのだから自分たちも鍛えてほしいと考えていた。


「それらの話はキリカが起きてからだ。こいつが嫌だと言ったら俺は街に戻るし、まだ王都に残るなら俺も残る」


 王都に残るかどうかはキリカの意思のようだ。

 それなら意識が戻り次第、必死にキリカに頼もうとテブリスは考えていた。



「キリカ、起きたか?」


 キリカが目を覚ますと目の前にマオがいた。

 そのことに驚いたが、それ以上に確認したことがあった。


「どっちが勝った?」


「お前の勝ち。どうする?テブリスたちのパーティは全員がお前のほうが戦闘能力は優れていると認めた。それでも、まだ戦うか?ちなみにテブリスはお前と戦いたいと言っていたけど」


「いいわ。さっさと街に戻りたい」


 万全の状態で戦えないから不利になるし、そもそもキリカの方だけ情報を盗られているから不利だ。

 そして互いに万全の状態で戦うにしても、その間王都にいる必要がある。

 そうなると、マオに向けられている色情の視線が長くなる。

 それがキリカにとって苛立ちを覚えさせる。

 そもそも今も泊まらせてもらっている家にもマオに色情の視線を向けている者がいるのだ。

 さっさと街に戻りたかった。


「わかった。それじゃあ伝えてくる」


「お願い」


 マオが目の前から消えたことを確認してため息を吐く。

 ビース相手に結構な暴力を振るい引いていたのに色情の視線はほとんど変わらない。

 おそらくはマオの強さが原因なのだろう。


 街の外に一歩でも出ればモンスターの影響で油断できず命の危険がある世界。

 隣りにいる相手が強ければ強いほど安心できる。

 それにビースも一応とはいえ勇者だ。

 それを一方的にボコっていたことで実力も証明されている。


「さっさと街に戻らないと」


 特にその筆頭がアズだ。

 しかも同じ家に泊まっている以上、それを見続けないといけない。

 それが嫌だった。

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