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王都の勇者たちとダンジョンへ④

「マオ……。マオ……、起きてください」


「うん?」


 寝ていたところにマオは肩を叩かれて目を覚ます。

 正面にはアズがいて、彼女が起こしてくれたのだと理解する。

 顔が赤いように見えるが起きたばかり、そこを深く考えることも出来ない。


「ダンジョンの挑戦を再開するんだな」


 かからまずは次の行動を確認する。

 どうせダンジョンの挑戦を再開するのだろうと考えていたが確認せずに別の行動をしてしまうよりは遥かにマシだ。

 

「いえ。諦めて脱出します」


「は?」


 だから続けられた言葉にマオは驚く。

 どういう心変わりが起きたのか疑問だ。

 マオからすれば最後まで諦めないと思っていた。


「流石にトラップが多すぎますので全員が最低限は知識を得たほうが良いと話し合うことになったんです。似たようなダンジョンに挑んだら死んでしまうかもしれませんし」


「あぁ、うん。俺が強引に引っ張ったりしないと何度か死ぬかもしれない目にあっていたよな……」


 アズの言葉に納得するマオ。

 それを考えれば納得しかなかった。


「わかった」


 それにマオにとっては何よりも朗報だ。

 挑みたいダンジョンもこれで終わりだと判断して街へと戻れる。

 他にもあるかもしれないが一つじゃないとは言っていないし強引に帰ってやろうと考えている。

 早くキリカやカイルに会いたかった。


「妙に浮足立っているな」


「そんなにダンジョンから脱出したかったのか?」


 テブリスたちから見ても早く帰りたくて浮足立ってしまっている。

 それが少しだけテブリスたちを呆れさせていた。


「さてと………」


 マオが一歩踏み出す。

 真横から弓矢が襲ってくる。

 掴んで投げ捨てる。


 更に一歩進む。

 落とし穴に落ちそうになる。

 それ一瞬で察して落とし穴の範囲外に出る。


 その直後に勢いよくモンスターが突撃してくる。

 それを蹴飛ばし安全を確保する。


 それらを一瞬でこなし、距離もテブリスたちから数十メートルも離れている。

 テブリスたち一緒に行動するよりもソロで行動したほうが早く確実に攻略できると示してしまっている。

 言外に足手まといだと言われてテブリスたちは葉を食いしばる。


「どうした?早く来い。とりあえず、俺の通ったあとは大丈夫のはずだ」


 あとについていけばトラップは大丈夫だとマオに言われる。

 確かに罠は発動してしまっていて、直ぐに移動すれば大丈夫なのかもしれない。

 だがあまりにも最初に挑んでいたときとは違う。

 手を抜いていたのか、それとも気を遣っていたのか。

 どちらにしても実力の差をハッキリと見せつけられた。


「それじゃあ進んでいくぞ」


 そして背後も気にしないといけないことにマオは少しだけ面倒に思いながら進んでいった。




「面倒だったな」


 ダンジョンから脱出してマオは思わず深い溜め息と同時に零す。

 後ろにいるテブリスたちがちゃんとあとを付いてこれるか何度か確認しないといけないし、攻撃的なトラップが襲ってきた場合は避けたら後ろにいる者たちに飛んでいってしまうかもしれないから受け止めなきゃ行けない。

 普通にダンジョンに挑むよりも余計に疲れてしまう。


「それにしても朝か………」


 ダンジョンから脱出すると決めてから休まずに進み続けて外に出たら陽の光が差し込んでくる。

 眩しいそれに思わず腕で目を守ってしまう。

 ダンジョンに入ってから何日経ったのか確認もしたくなる。


「…………ついた」


 そして、その後ろにいるテブリスたちはダンジョンから脱出できたことに心底安心しきっていた。

 トラップを解除して進んでいたとはいえモンスターが多く途中で何度も襲われてしまった。

 まだモンスターが弱いから突然襲われてもなんとかなったが心臓に悪すぎる。


「それじゃあな」


 どうせならモンスターに関しても、もっと対処してくれても良かったのに何もしなかったことに文句を言おうとすると急に別れの言葉を言い出される。

 あまりのことに困惑と、ダンジョンに挑んでいた疲労で何も言うことが出来ない。


「何?」


 だからアズは引き止めるためにマオに抱きつく。

 マオは離してほしいと思っているからもしれないが、まだ王都にいてほしい。

 色々と話を聞きたいし、自分たちとパーティを組むチャンスはまだまだ欲しかった。


「もう少し王都「何を抱きついてるのよ?離れなさい」きゃっ!!?」


 そして何とか言葉に出して引き留めようとすると急に引き離される。

 マオでもない第三者に引き離されて誰だとアズは睨みつけようとする。

 あまりにも勢いが強すぎたせいで吹き飛ばされたせいだ。


「だ……れ…」


 突然のことに誰なのか確認してから非難しようとしたが言葉がでなくなる。

 それは他のパーティの皆も同じで、その相手を見て何も言えなくなる。


「久しぶりね?何をしているのよ?マオも、ねぇ?」


「何をしているってダンジョンから脱出してきたんだが?」


 怒りをぶつけられている自覚が無いのか平然と返すマオ。

 その様子にマジかこいつとテブリスたちパーティ以外にも少しはいる周囲の者たちに思われてしまう。


「………そうかも知れないけど抱きつかれていたじゃない」


「俺には強引にでも引き留めようとしているようにしか感じなかったけど……。邪魔だから引き離そうとしていたから助かった。一緒にダンジョンに挑んだから要件は終わったし、あとは街に戻るだけだ。丁度よいし一緒に街に戻らない?」


「……………ふぅ。そうね」


 確かにマオならたとえ相手が女性であっても無理やり離そうとする姿が容易に想像できる。

 それにマオの実力から引き留めようとするのも簡単に予想できた。


「あ………」


 だからキリカはマオの腕を強引に取って腕を組む。

 それでも引き離そうとしない姿をアズに見せつけ勝ち誇った笑みを浮かべる。

 勘違いかもしれないが、それでも警戒をするべきだとキリカは感じていた。


「そういえばカイルも来ているのか?」


「私だけ。久しぶりに王都に来たし直ぐに帰る前に色んな所を寄っていい?私オススメのところも案内したいし」


「へぇー。じゃあ頼む」


 仲良く歩いている姿にアズは苛立ちを覚えてしまう。

 恋人なのは知っていたが、それでも意識している相手が別の女と仲良くしているのは腹が立つ。

 しかも勝ち誇った笑みを向けられてのが拍車をかける。


「奪ってみせるのも良いかもしれませんね……」


 逆に恋人を奪って見せつけたらどんな表情を見せるのか。

 見てやりたいと思うようになっていた。



「それでマオはどんなダンジョンに挑んでいたのよ?」


「トラップとモンスターの数が非常に多いダンジョンだな。あまりにも数が多くて面倒でしょうがなかった」


 面倒くさそうな表情を浮かべたマオにキリカはよっぽど面倒だったのだと理解する。

 あまりに自分では挑もうと思えなかった。

 挑むとしたら最低でも何人かトラップ解除の専門家もいたほうが良いだろう。


「そうなんだ……。ついた」


 そしてたどり着いたのはマオがこの街でパンを買った店。

 見習い勇者たちから人気のパン屋だ。


「ここは………」


「ここのパン屋は私達が見習い時代から通っていた店で美味しいわよ。かなり人気だったんだから」


「知っている」


「へ」


 教会で話を聞いていたから知っている。

 それに味の方もだ。


「おっ、またパンを買いに来てくれたのかい?そこまで気に入ってくれたのなら嬉しいねぇ。それにキリカちゃんもいるのかい?久しぶりだね」


「えっと、はい…。お知り合いですか?」


「おぉ。最近知り合ってな。キリカちゃんこそ知り合いかい?」


「えぇ、まぁ……」


「恋人です」


「へっ?」


 仲良さそうに会話をするキリカとパン屋の亭主にマオは関係を答える。

 その答えにキリカは顔を赤くしてうなずき、店主は驚いた声を上げる。

 キリカの否定せずに頷いたことにそれが事実なのだと納得する。


「そうか……。あのキリカちゃんに恋人か」


 双子ともどもパーティを組んでは裏切られてきたことを知っているから感慨深くなる。

 そして同時に嬉しくなる。

 恋人だということはつまりパーティを組んでも裏切られることは無いと言うことだからだ。


「呪いからは開放されたんだな」


「いいえ」


「え」


「マオとはパーティを組んでいません」


「え?」


 思わずマオにパン屋の店主は視線を向けるが頷かれてしまう。

 まだ呪いは健在なのか、別れることを防ぐためにわざとパーティを組んでいないのか。

 色々と考えたがパーティは別同士でも恋人同士なのは他にもいるから、これ以上は考えるのをやめて本日のオススメのパンを勧めた。


「お前って呪いの方も有名なんだな……」


「まぁね………」


 そして二人は買ったパンをパーティを組まない理由を話題にしながら食べ歩いていく。

 これからもきっと本格的に組むことは無いだろう。


「それにしても、ほとんど変わっていないわね」


 キリカは王都に戻ってきて感想を口に零す。

 細かいところは変わっているが大部分において変わっていない。

 そのせいで懐かしく感じてしまい思わず教会へと歩いてしまう。


「ここは………」


「あっ」


 マオも一日世話になった教会。

 キリカの方を見ると本人も驚いている。

 マオももしかして無意識に教会まで歩いてきたのかと察して呆れる。


「ここは「見習い勇者たちを鍛えている教会だろ。何日か前に来た」………そうなんだ」


 一緒に行ったのはテブリスたちなんだろうなとキリカは想像して不満を抱く。

 他に行ったところは無いか確認しようと考えていた。


「マオ………。それにキリカも」


 そう考えていると神父やシスターと行った懐かしき恩師たちが教会から出てくる。


「どうしたの?もしかしてまた授業をしてくれるの?」


「いえ。キリカが懐かしそうに歩いていたら偶然教会についただけです」


「そうか。キリカも久しぶりだね。彼には一日教会で授業をしてもらって助かったよ」


 何日か前に来たどころか授業までしていたことにキリカはマオを睨む。

 嘘は言っていないが、本当はもっと関わっている。

 なんで本当のことを言ってくれないんだと考えていた。


「また見習い勇者たちの意識を矯正するために授業を受けてくれないか?」


「すいません。流石にそのために王都に来るっていうのは……。さすがに街からは遠いですし」


「それは残念だ」


 どうせなら王都に来てほしいが住み馴れた街のほうが良いのだろう。

 それに頻度が高く来ていたら彼は勇者じゃないだけで特別な存在だとみなして自分以外の者たちを見下すのは変わらない。

 それなら王都でも普段から見かけないように離れたところに済んでももらうのも良いだろう。

 そしてある時期になったら色々と特典をつけて来てもらう。


「よし相談するか」


 そう考えた神父は早速マザーに相談しようと動き始めていた。

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