王都の勇者たちとダンジョンへ③
「くそっ………」
そして更にダンジョンへと進んでいくと疲弊したせいでリュミたちは息を荒げる。
それに対してマオは余裕を持っており息も荒らげていない。
「………」
だからマオはリュミたちを見てパーティを組む気は更に失せてしまっていた。
体力にあまりにも差がありすぎて一緒に行動するのもストレスが溜まりそうだと考えてさえいる。
「お前ら、よくこのダンジョンに挑もうと思えたな………。まだダンジョンは半分もすぎていないだろうに……」
マオが半分も過ぎていないというのは一週間はこもると言っていたのに、まだ一日しか経っていないからだ。
「そうは言ってもモンスターもトラップも多すぎる………」
リュミたちはモンスターとトラップの数の多さに少しずつ精神的にも体力的にも疲労が溜まっていた。
全て避けて対処することが出来ても、どうしても少しづつ溜まっていく。
「もう少し体力をつけたらどうだ?もしくはトラップ対する知識を身に着けろ。そうすれば少しは疲労も減るだろうし」
「そうだな、そうしとく。それじゃあマオ、よろしく頼む」
「俺は教えないぞ。今教えても覚える余裕は無いだろうし、俺よりも専門にしている相手に教えてもらったほうが良い。俺はソロで挑むために色々と覚えているけど、その分専門の相手には劣っているだろうし」
「そうか」
自分が教えるよりは専門の相手に教わったほうが良いというマオの言葉にリュミたちも納得する。
それに今教わっても覚えるのはキツイだろうという言葉にも否定できない。
だから少しだけ残念だが諦めることにする。
「それにしてもお前って逆に何が出来ないんだ?」
「さぁ?ダンジョンに挑むのに必要なことなら大抵はできるけど。そうじゃなきゃソロで挑んでも死ぬだけだし」
「まぁ、そうだろうな」
普通はソロで挑むなんて自殺行為でしか無い。
それを貫くためには何でもできるようになる必要がある。
そう考えると万能なのも何もおかしいことではない。
「…………悪いけど本当に無理なら引きずってでも帰るからな。無理なときは早く言えよ?」
「………わかっている。お前こそ無理なら言ってくれ」
「当然。俺はまだ死にたくないしな」
「「「「「……………………」」」」」
「何だ?」
「いや、なんでも……」
本当に死にたくないのならソロで挑まないとリュミたちは思う。
どれだけ強くても多く者はパーティを組んでいるのにマオはソロでいる。
自殺志願者だと思われても不思議ではない。
「ふぅん。まぁ、良いけど………」
マオはとりあえず一人でも倒れたら脱出することに決める。
ただ願わくば同時に倒れるのは一人だけであって欲しい。
何人も同時に運ぶのはかなりきつい。
「面倒だな………」
マオの言葉に何が面倒なのかと確認したくなるリュミたち。
だがそれさえも体力がもったいなかった。
「体力がなさすぎる………」
マオは休憩中、結界を張ることでモンスターに対処して呟く。
リュミたち全員が死んだように眠っており、自分がいなかったら挑むことも出来なかっただろうなと思う。
この程度で王都でも最強クラスのパーティだというのは信じられない。
それとも戦闘能力に限ってだけ最強なだけで、他の部分は未熟なのかもしれないと自分自身を納得させる。
「どうやって連れて帰ろうか………」
はっきり言ってマオはもう挑戦する気がわかない。
これだけトラップがあるなら、それについての知識を最低限学べばよいのにそれをしなかった。
最初から他人を当てにするつもり満々でマオ自信に負担が多すぎる。
たとえ、それが微小だとしてもマオにとっては負担が溜まってしまう。
「というか異常なほどトラップが多い。これはパーティが複数協力して挑まなきゃ攻略できないな」
他のダンジョンを破壊して最後に後回しにされたのだ。
別のパーティも余裕はあるはずだとマオは考えている。
幸いにもリュミたちは戦闘能力に優れている。
ならあとはサポートやトラップの解除に優れた者たちとダンジョンに挑めば良い。
マオは自分がいなくても攻略できるはずだと予想する。
「本当に面倒だ………」
全員を同時に運ぶこと自体は出来るが、トラップとモンスターの数に途中で落としてしまいそうだと予想できてしまう。
それに途中で起きたら止められるのも想像できてしまった。
「さっさと諦めてくれないかな……」
そうすればダンジョンから脱出することが出来る。
マオは早く街に戻りたかった。
「悪いな、マオ」
「起きたのか?」
「あぁ……」
テブリスが起きて謝罪してきたことにマオはしっかりと目が覚めているのか確認をする。
まだ意識がハッキリとしていないのなら、まだ寝かせるつもりだ。
「…………見張ってくれて助かる。次は俺が見張るから寝ても大丈夫だ」
「そうか……。なら俺は仮眠をしておく」
他の者達はまだ起きる気配が無い。
だからマオも受け入れて仮眠をする。
それでも最低限、直ぐに起きれるように眠りは浅くしているが。
起きた時、ダンジョンから脱出することを提案することを決める。
ここに挑むのなら最低限トラップについての知識を得てからにしてほしかった。
「はぁ……」
そしてマオが眠ったのを確認するとテブリスは深くため息を吐く。
トラップが多いのは知っていた。
自分たちの予想より遥かに多いそれに油断をしすぎたと後悔する。
なにせほとんどマオに頼りきりだったのだ。
それなのに、ただ一緒にダンジョンに挑んでいるだけで疲労が溜まってしまい死んだように眠ってしまった。
それに比べてマオは自分たちより遥かに疲労が溜まっているはずなのに平然としている。
自分の疲れている姿を見せたくなくて強がっている可能性もあるが、それでも差は歴然としていた。
このままだとマオばかりに負担がかかってしまう。
最悪な見方をすれば規制しているようにしか見えない。
だからテブリスはダンジョンを脱出することを頭の中で考える。
最低でもトラップにたいする知識を得てから挑むべきだった。
「テブリス……?マオは……?」
「あぁ、俺と変わって休ませている。一番、負担がかかっているのはマオだからな……」
続いて起きてきたカレンにマオのことを聞かれるが見張りを変わって休ませていると答えるテブリス。
それを聞いてカレンも納得する。
自分たちの未熟のせいで負担がかかっているのだ。
もう少し休んでいても文句はない。
「そう。………それにしても私達は未熟すぎたわね。戦闘能力ばかり鍛えていたせいで他の部分が疎そかになりすぎているわ」
「そうだな……」
「一度、皆でいろんなことを学ぶための勉強をするわよ。今のままじゃ似たようなダンジョンに挑んでも進むことも出来ないわ」
カレンもテブリスと同じことを考えていたらしい。
自分と同じことを考えていたことに説得も楽だと嬉しくなる。
「お前も同じことを考えていたか!それなら反対する奴らがいたら一緒に説得をしてくれないか!?」
「別に良いわよ?」
テブリスが嬉しそうにしていることにカレンは少しだけ疑問に思う。
今、こうして痛い目にあっているのに同じような目に合わないために努力しないやつはいないと考えている。
簡単に頷くだろうと予想していた。
「………それにしてもアズだけど、どう思う?」
「どう思うって、マオに対してか?」
「そうよ」
全員がアズの行動を見て惹かれているのを確信しているが同じ意見か確認したわけではない。
話し合う必要があると考えていた。
「やっぱりマオに惹かれているんじゃないか?」
「やっぱりそう思うわよね!?私達も協力したほうが良いと思わない!?」
「まぁ、そのほうがマオも俺たちと同じパーティに所属してくれるだろうしな。一緒のパーティを組んで、是非その強さを学びたい」
「キリカと恋人らしいけど、そこは目を離してしまったほうが悪いし……。それにキリカなら他に良い恋人も見つけれるでしょ!」
無理やり連れてきたのは自分たちだがマオを逃したくない。
そのためなら、かつての同級生の恋人を奪うことも構わないと考えていた。
「なら他の皆の意見も聞いて賛成したらアズを焚きつければ良いな」
「あとは積極的に二人きりにするのも良いわね。それでマオもアズを意識してもらえば成功するはずよ」
とりあえずはアズとマオを除いた全員で話し合うべきだろうと二人は考えた。
「そこもダンジョンから脱出したら話し合うか………。それと今確認したいことがあるが良いか?」
「何?」
「俺はもうダンジョンは脱出するべきだと思っている。あまりにもマオに対して負担が大きすぎて倒れたら脱出するのも厳しい気がする」
「それは………」
モンスターだけなら、なんとかなった。
だがトラップも含めるとなると脱出するのは確かに厳しい。
諦めるしかなかった。
「そうね………。残念だけど諦めるわ。とりあえず皆が起きたら確認するわよ。マオに関しては私達の決定に従ってもらうで良いわね」
「そうだな。マオには悪いが俺たちの意見にしたがってもらおう。本人も無理だと判断したら無理矢理にでも帰らせるって言っていたし」
「たしかに………」
テブリスの言葉にそういえばと思い出すカレン。
それならマオも不満は少ないだろうと思う。
「それならマオ以外の皆も起こして確認する?マオはまだまだ休んでもらったほうが良いけど、皆はもう十分休んだだろうし」
「たしかに。それじゃあ俺は男どもを起こすから、そっちは女性たちを頼む」
「わかっているわよ」
テブリスの言葉に頷いてカレンは女連中を起こしに行く。
ついでにマオを起こすときはアズに任せようかと考えている。
小さなことからでも接近させていけば少しは意識するだろうと想像していた。
「起きたわね。マオが起き次第ダンジョンから脱出しようと思っているけど、なにか意見はある?」
全員の意識が覚めるとそんなことを言われて少しだけ混乱する。
だが冷静に考えると、それもしょうがないかと考える。
なにせ自分たちは死んだように眠っていた。
それを考えると納得しかなかった。
「それはマオに負担がかかりすぎているからか?」
「そうよ」
他の皆も理解していることに嬉しそうに頷くカレン。
その反応にやはりかと皆も納得する。
「そうですね………。あまりにもトラップが多すぎる。彼もトラップを見抜くことが出来るというだけで専門じゃないらしいですし……。私達もある程度はトラップを見抜けるようになってから挑んだほうが良いのでしょう」
「たしかにな……。似たようなダンジョンに挑むことになったら、このままじゃ攻略が出来ない。トラップについての知識も学ぶべきだろう」
「そうね。それに関してはマオの言っていたとおり専門の者に頼むわよ。彼自信は出来るだけで本職にはかなわないと言っていたし」
「もしくは専門の者をパーティに入れることだな」
新しくパーティを加える意見もでるが受け入れるつもりはない。
マオはそのつもりだが、それはマオが強いからだ。
それにマオも含めて更に増やすとなると数が多くなりすぎてしまう。
「とりあえずだがパーティを増やす気は無いから、それぞれトラップに対する知識を学ぶことにしないか?」
その意見に全員が頷いた。
「確認するけどマオのことはどう思っている?」
「はぁ!?」
突然の疑問にアズは困惑の声を上げる。
いくら真剣な表情をしても恋人がいる以上、奪う気は無い。
「本気で答えて……。その結果次第では、これ以上からかったりしない」
「…………付き合えたら良いなと思っています」
本気で答えろと言われ、つい本音で答えてしまうアズ。
だが恋人がいるから無理だと判断している。
「私達も協力してキリカからマオを奪うわよ。そうすれば私達はマオをパーティに引き入れるし、あなたは好きな人と一緒に入れる。何も悪いことは無いはずよ」
「それは………」
「それにもし付き合えたとしても奪われるキリカが悪いわ。それだけあなたよりも魅力が劣っているのだから。本当に奪ってしまってもあなたは悪くないわ」
キリカのことを除いて考えたらたしかに悪いことではない。
だがそれでも知り合いの恋人を奪うことには抵抗がある。
それをパーティの皆が取り払っていく。
「そ………そうですね」
そしてアズも自分にキリカよりも惚れさせたら勝ちだと考えてしまう。
それに、もしそうなったらキリカという恋人がいるのに惚れさせるほど魅力的な女性なのだと優越感を覚えれそうで乗り気になっていった。




