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デートと追跡②

「そういえばマオの家の中に入るのは初めてね……」


 しかも他には誰もいない。

 マオとキリカの二人だけだ。

 そのことを自覚して顔を赤くする。


「やっぱり卒業することになるのかしら……」


 マオは手を出さないと口にしたが男女が二人きりでいるのだ。

 気が変わってもおかしくない。

 それにキリカも手を出されることを少しだけ期待していた。


「よしっ……」


 キリカは自分の頬を叩いてマオの住んでいる家の中に入る。

 興味もあるし覚悟も決めた。

 マオが相手なら何をされても文句は無い。


「………手は出さないって言ったんだけどなぁ」


 そんなキリカを見てマオは苦笑する。

 警戒されるのはしょうがないと思っていたし、して当然だと思っている。

 それでも家に来てくれるぐらいには信頼されていると考えれてマオは嬉しくなる。


「…………何も無いわね」


「そうか?」


 そしてキリカがマオの家の中に入ると思わず口に出してしまう。

 最低限の生活するのに必要な道具はあるし、使われている様子もあるがそれだけだ。

 趣味がわかるような物が何もない。


「えぇ。本とか読まないの?」


「普段からダンジョンとか依頼を受けているから、読む暇は無いからな。それだと買っても無駄になるだろ?それにおススメの本とか知らないし」


 マオの言葉にキリカはそれだけダンジョンや他の勇者たちと戦っているのだと予想できる。

 だから、あれだけ強いのだと納得できそうになる。


「はぁ……。明日、私の買い物に付き合ってもらうと言ったけど、貴方の物もいくつか買うわよ。おススメの本も教えて上げるわ。あと寝る前に少しだけでも読み進めていけば良いじゃない?」


 ため息を吐くキリカ。

 だがマオは疲れているのに頭まで使いたくはなかった。


「そういえば私はどこで寝れば良いのよ?」


「そこにあるベッドでも使えば?俺は適当な場所で寝ているから」


 客だからとはいえ自分だけベッドを使わせてもらうのは流石に辛いとキリカは拒否をしようとする。

 だがマオはこちらの話を聞かずに勝手に毛布を用意してソファの上に寝転がる。


「女性をソファの上で寝かせる方が問題なのでベッドで寝てろ。………おやすみ」


 それだけを言ってマオはさっさと眠り始める。

 その様子にキリカは何も言えなくなりベッドの中へと沈んだ。


(あれ?このベッドって普段、マオが使っているのよね……?)


 が今、自分が使っているベッドを誰が普段使っているのか思い出して眠れなかった。

 僅かにある匂いがマオのものだと考えが及ぶと息を吸って匂いを嗅ぎ始める。

 男性の匂いだが全く不快にならず、もっと嗅いでいたいと思ってしまう。


 そしてキリカはマオの方を見る。

 これだけ良い匂いがするのだから直接匂いを嗅いだら、どんな匂いなのだろうと想像してベッドの上で回転して転げまわる。

 実際にやるとしたら想像するだけで恥ずかしい。


(寝てるよね……?)


 だがマオは寝ている。

 今なら直接、匂いを嗅いでもバレないんじゃないかとキリカは想像しベッドの上から起き上がりマオへと抱き着こうとする。


「よし!」


 そして少しずつマオへと近づいていきながら寝ているのを確認する。

 後は顔を近づけて臭いを嗅ぐだけだと行動したら、急に首に感触が伝った。


「キリカ?何の用……?」


 首に触れてある感触はマオの手だった。

 急に触れられ、まるで自分の命がマオの掌にある感触にキリカは興奮し顔を赤くする。


「………抱き枕が無いと眠れないわけでは無いだろう?」


「……別に良いじゃない。ちょっと貴方が私と一緒に寝ているのに気づいて驚く顔が見たかったし」


 咄嗟に思いついた説得にマオは納得する。

 そのことに安堵するが首から手を放してくれない。

 夜、男に触れられてドキドキするのが全く収まらなかった。


「まぁ、いっか」


 そしてマオはキリカの首から手を放し、そのことにキリカは不満を少しだけ抱いてしまったら、次の瞬間にマオの腕の中に閉じ込められた。


「……………!!」


 キリカはマオから抱きしめられたことに声にならない悲鳴を上げる。

 ガッシリと抱き締められ逃げることも出来ない。

 男性と女性の腕力差を理解させられてしまう。


「………すー」


 その状態のままマオは寝てしまい、キリカはマオが寝ている間に抜け出そうとする。

 だが寝ているのに、もしくは寝ているからこそ力が強かった。

 次第に抜け出すのは諦めるしかなかった。


 諦めるとマオの身体の感触と匂いを感じる。

 予想外に望んでいた状況が手に入ったことに幸運だと考え直す。


(予想以上に良い匂い……)


 キリカはマオの匂いを嗅いで身体を更に匂いを嗅ぐために顔を埋める。

 マオの匂いはキリカにとっていくら嗅いでも飽きない匂いらしい。


(それに身体もガッシリしている……)


 ベッドで寝るよりは確実に狭い。

 だがマオの身体の感触と匂いに包まれて、ベッドの上にいるよりはキリカは幸福を感じている。

 ずっとこうしていたいと思っているぐらいだ。


「このまま朝まで寝ていたいわね」


 ここ最近では一番深く眠れそうだとキリカは予想する。

 自分を今抱きしめているマオにとっても、そうだったら良いなと考え、キリカも眠りについた。




「うぅん……?」


 朝、目が覚めると自由に動けないことにキリカは疑問を持つ。

 そしてマオに抱きしめられて眠っていたことを思い出す。

 そのことを思い出し顔を真っ赤にして逃げ出そうとしたがマオの力が強くて逃げられなかった。


「マオが起きるまでで我慢するしかないか……」


 諦めて口にするがキリカはずっと男の腕の中にいるということに恥ずかしくてたまらない。

 早く起きてくれとも、もう少しこのままでいたいと思うから眠っていて欲しいと思っていた。


「なんだ。俺よりも先もキリカの方が起きていたか」


 そして思ったより早くマオの眼が覚める。

 女を腕の中にしまっておきながら、そして平然と放すマオにキリカは不満を抱いた。

 マオ自身が女の子を腕の中にしまって寝ていたことを恥ずかしがってほしかったから。


「………そういえば朝食を作ってくれるんだっけ?」


「………!!」


 解放してからも平然と放すマオにキリカは苛立ちを覚えてしまう。

 本当に自分のことが好きなのか疑問だ。

 少なくとも本当に好きなら、もっと色々と動揺している筈だと思う。


「………作らないわよ」


「……そうか。…………残念だ」


 そうだけを言ってマオは台所へと歩いていく。

 その様子にキリカは自分で用意するつもりだと察して自分も台所へと向かう。

 何となく、マオだけに任せるのだけは嫌だった。


「何だ?………ちゃんとお前の分も準備するから安心しろ」


「そこは気にしてないわよ。それに作らないと言ったのは女の子を抱き枕にして寝たくせに平然としているから嫌がらせで言っただけだし」


「そうか……」


 平然としているだけで嫌味を言われたのかとマオはため息を吐く。

 そんなことで嫌がらせをするのかとマオは思う。


「正直にかなり女慣れしていてようにしか思えなかった。今まで何人の女の子と付き合ったの?」


「……………」


 予想していなかった言葉にマオは何も言えなかった。

 女慣れしていると思われていたことにショックを受ける。


「何で今までに恋人がいたことがあると思ったんだ?」


「普通は女の子を抱きしめて平然としているなんて過去に恋人がいたからとしか思えないんだけど。違う?」


「…………恋人はいたことはない」


「恋人は?」


 問い詰められてマオは顔を逸らす。

 何人かの女性と流されたりして色々と経験がある。


「…………まぁ、良いけど。朝食を食べ終わったら買い物に行くわよ」


「…………はい」


 マオはキリカに冷めた目で見られながらただ頷くことしか出来なかった。

 付き合ってもいないのに浮気がバレた気分で肩身が狭い気分でいた。




「今日の買い物は全部貴方の奢りで荷物も持ってね?」


「…………はい」


 良い笑顔で奢りだというキリカの言葉にマオは拒否できなかった。

 そのまま自分に従ってくれるマオにキリカは気分を良くして手を繋いで歩く。


「買う物はたくさんあるからね……」


 マオは奢ると言ったがお金が足りるのか不安になった。


「まずは服を買うわよ」


 キリカは自分の金では無いからと色々とたくさんの物を買うつもりだ。

 もしお金が足りなくなって生活が辛くなっても口に出してもらえば止めるつもりだ。


「貴方の服も買うから、ちゃんと着いてきなさい」


 キリカは自分の服だけでなくマオの服も一緒に買うつもりでいる。

 どうせなら自分の選んだ服で自分の好みの服を着て欲しいからだ。

 そしてデートの時はそれを着て来て欲しいと思っている。


「貴方も何回も着替えてもらうからか覚悟してね?」


「わかった」


 面倒だが直ぐに終わるだろうと軽くマオは頷く。

 そして絶望した。



「これなんてどうかしら………」


「そうね。あとこれも着て欲しいわね」


 服をキリカの好みで着替えていたら、店員や何故か他の客の女、しまいには男性客まで集まってくる。

 マオが好みの服を着てくれるということで、それぞれが色んな服を提案してくる。

 中にはマオが見世物にされていることを聞いて興味を持ち実際に見て面白そうにしている者もいた。


 そして店員たちはこの状況に好意的だった。

 積極的に他の客にも見えるように設備を設置していた。


 客たちの注目が集まるということは客が来るということ。

 客たちが来れば中には服を買ってくれる者もいる。

 そうなれば、いつもよりお金が稼げそうだと考えていた。


 見世物にされているマオに関しては割引券を何枚か上げるから許して欲しいと思っている。

 そして今後も定期的にやって欲しいと考える。

 ここまで注目を集めたのも、あのマオが着せ替え人形になっているからだと考えていた。



「…………やっと終わった」


 見世物が終わったのは日が暮れ始めてからだった。

 それまで昼食も軽くパンと飲み物で済ませ見世物になりに行った。

 店員たちは普段の数倍お金を稼げたらしく気分がよさそうだ。


「………もう二度と見世物は嫌だ」


「あはは………」


 マオの言葉にキリカも苦笑する。

 自分はマオの服装を選んでいて楽しかったが、マオは休憩もほとんどなく忙しそうだった。

 少なくとも自分も同じようなことはしたくないと思ってしまう。


「まぁ、良いや。それよりも買う服は選んだのか?」


「えぇ。特に私が気に入った服を買ったわ。次に一緒に買い物に行くときはこれを着て行きなさいよ?」


 それにマオは頷き一緒にレジへと向かう。

 かなりの服の量があるが、どれだけの金額が掛かるのか心配になった。


「お二人とも!!今日はありがとうございます!お陰でいつもの倍は稼ぐことは出来ました!!」


 レジへとたどり着くと早速、頭を下げて礼を言われた。

 そのことに頷きつつもマオは買うことに決めた服を差し出す。


「それとお礼として本日、購入していただいた服は無料で差し上げます。その代わ「わかった。じゃあな」……あ」


 無料と聞いてマオはラッキーだと思ったが、条件を差し出されそうになってキリカの腕を引いて逃げる。

 また見世物にされるのは嫌だった。

 条件に関しては聞いていないと言い返せば良いし、本人に無許可で販売に利用していたと言い張れば報酬として服を貰ったことに出来ると考えていた。



「服を一度置いてから夕食を食べに行かないか?後、おススメの本も教えて欲しいし」


 腕を掴まれて服屋の外を走らされてのマオの言葉にキリカも頷く。

 かなり予定は違っているが自分の好きなことに興味を持ってくれるのが凄く嬉しくなる。

 そして自分の買った服も一緒にマオの家に置くことにする。

 それを理由にすればまたマオの家に行けるという魂胆もあった。


「そうね。それじゃあ貴方の家に置いていい?それと今日も泊まるから」


「わかった」


 またあっさりと頷くマオ。

 キリカはやっぱり簡単に受け入れられたことにイラっと来ていたが我慢した。

 昨日も泊まっていたとはいえ、やっぱり少しは動揺して欲しかった。


「…………それにしても、やっぱり疲れた」


 マオは肩を落とし疲れた雰囲気で思わずといった様子で愚痴る。

 その姿にキリカは苦笑してしまう。

 あまりにも疲れ切った雰囲気にイラっとしていたのも完全に消える。

 それだけ疲労をしているのが目に見えていた。


「今日は肉を喰えるだけ喰おう」


 そんなことを据わった目で言うマオに少しだけ緊張が奔る。

 これを邪魔したら怪我だけで済むとは思えない。

 もし自分以外の勇者が邪魔をしたら殺されるかもしれない。

 それを自分が止めることを想像しキリカは無理だと判断する。


 出来れば誰もマオに挑んでほしくない。

 折角のマオとの夕食が不味くなりそうで嫌だった。

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