王都の勇者たちと④
「腹が減ったな………」
ずっと起きていたせいでマオは腹が減っていた。
何か食べたいが、他人の家のものを勝手に食うのは拒否感がある。
だから、この家の外に出て開いている店はないか探そうと考えてしまう。
「………出る前に何か書置きしていくか」
勝手に外に出て居なくなったと混乱させてしまうのも悪い気がしてマオは書置きを残してリュミたちのパーティの家から外に出た。
ちなみにドアのカギを外から閉めることは出来ないため、適当な窓の外から出る。
そして外から適当に結解を張って侵入を防ぐことにした。
「さてと。開いている店はあるかな?」
どうしようもなく腹が減っているのだ。
一軒ぐらいは開いている店があってほしかった。
「おっ!朝、早いな!初めて見る顔だけど王都に来るのは初めてか!」
「そうなりますね。………どうしようもなく腹が減っているんですけど何所か開いている店はありませんか?」
マオは歩いていると途中で中年の男に話しかけられる。
その疑問に頷いて質問すると笑われてしまった。
「そんなに腹が減っているのか!?ならうちに来い!美味しいものを食わせてやる!」
「ありがとうございます!」
リュミたちの家では誰も起きていないから勝手に食べるのは遠慮したが、当人から誘われたのならとマオは受け入れる。
多少の口に合う合わないがあるかもしれないが腹が減っている以上なんでも食べるつもりだった。
「そういえば何かアレルギーはあるか?」
「特に無いと思います」
「そうか!それじゃあ大丈夫だな!」
付いてきてくれと案内する男にマオは素直に後を追った。
「ここが俺の店だ!」
そして付いて行った先には店が並んでいた。
そこに中のうちの一つが男の店らしい。
「うちはパン屋でな!未熟だが勇者が好んで買い食いに来るくらいには人気だ!」
「それは期待できそうだ」
マオはそれを聞いて涎を垂らしそうになる。
好んで買い食いに来るのだ。
それなり以上には美味しいのだろうと期待していた。
「おう!焼きたてのパンだから美味しいぞ!」
マオが涎を垂らしそうになっていたのを察して男は嬉しそうに笑みを作る。
そして期待以上に美味しいものを作ってやろうと気合を入れていた。
「少し待っていろ!」
それはマオも見ていて理解ができ、美味しいパンを食べれるのだと期待していた。
そして渡されたパンを食べ、その美味しさにマオは目を輝かせる。
「これって一ついくら?何個か買いたいんだけど?」
マオの言葉に男は嬉しそうに笑い、そして普段よりはある程度安い値段でパンを売った。
「お兄さん!それもしかして、そこのパン屋に売っていたパン!?」
「そうだけど君は?」
「ズルい!今の時間は開いていないか開店まで待たないといけないのに!」
こっちの疑問を無視して好き勝手話してくる子供。
マオは相手をするつもりもなかった。
「何をしているんですか!?」
しかも視線はパンが入っている袋に向けており欲しがっているのがわかってしまう。
当然だがマオも腹が減っているし渡すつもりはない。
それなのに視線を全く動かさずマオは困った表情を浮かべる。
そんな二人に子供の後ろから注意をしながら駆け寄ってくる者がいた。
「いくら何でも初めて会った人に物をもらおうとしない!」
よく見ると注意してきた相手はシスター服を着ている。
もしかしたら、この子供は勇者の見習いかもしれない。
「もしかして勇者の見習い?パンを上げるから教会まで案内して貰って良いか?知り合いに勇者がいるから昔の話を聞きたいんだ」
「そうなの?俺は良いよ。シスターはどう思う?」
「…………そうですね。来てもらって構いませんよ」
もし悪意があれば返り討ちにすればよい。
元勇者として自分なら目の前の男に勝てるとシスターの女性は考えていた。
「それじゃあ、よろしくお願いします。あと、これもどうぞ?」
マオは二人に焼きたてのパンを渡す。
リュミたちの分も買ってあったが家の中には食料もあるはずだから問題ないだろうと考えていた。
「ここが教会!そういえば勇者の知り合いって誰なんだ?」
「……………でか」
二人に案内されてマオは教会にたどり着く。
教会の広さ、大きさに唖然としてしまっていた。
近くにはいくつか寮があり、そこに神父やシスター、見習い勇者たちが住んでいることも予想できる。
思った以上にあらゆる意味で規模がでかい。
「おーい!」
マオが呆然としているとシスターの女性は何でそうなっているのか理解ができて苦笑し、見習い勇者はわからずに服を引っ張って自分に意識を向けようとしていた。
「すいません」
「えっ」
いつまでも呆然としていても近くに通りかかった者たちの邪魔になるだろうとシスターの女性はマオを軽く殴って正気に戻す。
見習い勇者はその行動に初めてあった人に乱暴過ぎないかと引いてしまった。
「あぁ、すいません。………大きいですね」
「まぁ、何人もの勇者を育てる教育機関でもありますので。それで知り合いの勇者とは誰か教えてもらっても?」
殴られても気にしていないマオに見習い勇者は信じられない目を向ける。
自分なら絶対に頭を抑えて転がっていた。
たまに聞く勇者よりも優れている者は多くいると聞いていたが、それが事実だと目のあたりにして目を輝かせていた。
「やっぱりいた」
そして答えようとするとリュミたちがいた。
「えっ?せん「飯食った?食っていないなら、これでも食う?商店街にある見習い勇者たちがよく買いに来るパン屋だって言っていたけど」……え?」
「ありがたく頂くけど……。こんな時間から開いていたっけ?」
「特別サービスだって」
リュミたちが目の前に現れ、そして親しげに話している様子に二人は何度も視線を行き来させる。
知り合いの勇者の話を知りたいと言っていたが、それがリュミたちのパーティとは思わなかった。
おそらくは世界で唯一の勇者だけで形成されたパーティ。
ダンジョンを破壊できる存在が一か所に固まるのは問題だが全て実力で黙らせたパーティだ。
憧れている者も多い。
「書置きをしていたけど私たちを起こせばよかったじゃない。それにカイルやキリカの話も私たちだけじゃ足りない?」
「え?」
「同じ見習い時代の話は聞いたけど恩師からの話も聞きたい」
「は?」
リュミたちと知り合いだということに驚いたが、それ以上にキリカとカイルの知り合いだということにシスターの女性は驚く。
前世で相当あくどいことをしたんじゃないかというぐらいに仲間が誰かに奪われてしまうことを知っているから二人の裏切り者じゃないかと不安を抱く。
「あぁ、そういうこと」
それならしょうがないと納得をするリュミ。
それに自分たちも久しぶりに恩師に会いたい。
後輩を指導することも面白そうだと考えていた。
「たしかに私たちが知らないことも知っていそう」
楽しそうに笑うリュミ。
リュミ以外のパーティの皆も久しぶりに会って、からかうネタにしようと思う。
マオが住んでいた街にいるのだ。
他のどこにいるのか調べなきゃ分らない者たちより確実にからかえる。
「………はぁ。その様子だと教会の中に入るんですね?その場合、特別講師として見習いたちに授業をしてもらいますが文句はありませんか?」
シスターの女性の言葉に当然だと頷くリュミたち。
その程度のことは文句はない。
「それじゃあ久しぶりに恩師たちに会いに行きますか」
リュミたちは久しぶりに学び舎に入ったことに鍛えてもらっていた時代を思い出し懐かしんでいた。
「久しぶりですね?」
リュミたちが懐かしんでいると初老の女性が近づいてきた。
その女性を確認するとマオを除いた全員が頭を下げて挨拶する。
「おはようございます。邪魔をしています」
マオも突然のことに驚いて何秒か挨拶を忘れていたが、すぐに頭を下げて挨拶をする。
「初めて見る顔ですね?もしかして勇者として今まで自覚していなかったとか?」
「違いますよ。知り合いの勇者の話を聞きたくて来ました」
「知り合いのですか?」
「はい。街に戻ったら、からかいたいので」
この教会で鍛えられた勇者と仲が良さそうでトップとしては嬉しくなって笑顔になってしまう。
誰と仲良くなっているのか興味を抱いた。
「そうですか。もちろん良いですよ。………それと街にいる勇者は誰でしょうか?」
「キリカとカイルです」
「…………そう。あなたがマオさんですか」
そして仲が良い勇者の名前を聞いて目の前の初めて見る顔が誰なのかマザーは理解する。
マザーにとってマオという名前はよく聞く名前だ。
勇者も含めた色んなパーティが挑んでは返り討ちにしたと聞く名前。
しかも挑んできたパーティの武器を奪って売るという話も聞いている。
「彼を知っているんですか、マザー?」
「えぇ。おそらくは私たちが束になっても勝てない相手です」
「え?何を言ってんですか?そんなわけないで………。あの……?」
マザーの言葉に同意を求めようとシスターの女性はリュミたちに視線を向けるが逸らされてしまう。
見習い勇者も憧れの相手の行動に信じられない目を向けてしまう。
自分が憧れている相手は最強であって欲しいのだ。
「実際、私たちはテブリスを除いて更に何人も含めて一斉に挑みましたけど勝てませんでした………」
「え」
「は」
リュミの言葉に信じられない者を見る目でマオに視線を向けてしまう。
二人から見てマオはそこまで強そうに見えない。
自分たちをからかうために冗談を言っているんじゃないかと考えてしまう。
「まぁ、良いか」
そして、それを感じたマオは少しだけ笑う。
耐えられない者がほとんどだと思うが良い経験になるだろうとプレッシャーを放った。
「え」
「くっ」
「あ」
「これだけの………!」
マオがプレッシャーを放ったことで近くにいた勇者たちは全員が膝をついてしまう。
だが見習い勇者はおびえた目でマオを見上げる。
「気絶しないように手加減するのはやっぱりめんどいな」
シスターや勇者が意識を失っていないのは当然だが、見習いまで意識まで失っていないのはマオが手加減をしているからだ。
それかもしかしたら生存本能が働いて意識を失ったら死ぬと考えてしまったせいかもしれない。
「………っ。ここは勇者といっても見習いがほとんどです!彼らには耐えられないので止めなさい!」
「そうですね。すいません、舐められているよりは実力を見せて理解させた方が良いと思ったので」
マザーの静止にマオは頷いてプレッシャーを止める。
それを成したマザーに尊敬の視線が送られていた。
「ふぅ。貴方の要望はわかりました。教えるのは構いませんが、その代わりに見習い勇者たちを鍛えてくれませんか?」
「構いませんよ」
カイルとキリカの話を教えてもらう報酬と考えればマオには全く文句はない。
むしろ、ただで教えてもらうよりはやりやすいと感じている。
「ところで鍛えるって、どんな方法でどんな内容か指定はありますか?」
「そうですね。自分たち勇者は選ばれた存在で、自分たちより強い存在はいないと考えているので鼻柱を折ってください」
「?」
シスターの言葉に首を傾げるマオ。
たしかにダンジョンを破壊できるのは勇者だけで選ばれた存在だというのは間違っていない。
だが、それだけで他の勇者出ない者たちより強いと考えている理由が全く分からない。
「何か理解できないことでも?」
「なんで勇者がそれ以外の者より優れていると勘違いをしているんですか?どんな教育をしたら、そうなるんだ?」
心底不思議そうに疑問を口にするマオ。
だが元勇者であるシスターやリュミたちは気まずそうに視線を逸らす。
「あなたが今まで会ってきた勇者たちは、そんなことは考えていませんでしたか?」
「えぇ?」
どうしてそんなことを確認するのかマオは疑問に思い、そして頷かれたマザーは嬉しそうに笑う。
「実はそこにいるシスターやリュミたちも昔は勘違いしていたんですよ?その度に外部から勇者以外の者を読んで鼻柱を折っていただいています」
「……………」
思わずマオはリュミたちに視線を向け、それから逃げるように顔を逸らされる。
そのせいで事実なのだとわかってしまう。
「教会内には勇者以外で強い者は入れないんですか?」
「それをやると今度はその者だけが特別なのだと勘違いしてしまって………」
「うわあ………」
マオは教育現場の面倒臭さを知って引いた声を上げてしまう。
そしてリュミたちやシスターは心当たりがあるせいで恥ずかしさで顔を真っ赤にして隠していた。




