王都の勇者たちと②
「さてと………」
マオは話はここまでだと膝を曲げたり腕を伸ばしたりと準備運動をする。
それはテブリスも同じで、マオと同じように準備運動をしていた。
「よーいドンで始めるのか?それとも互いに準備が出来たら好きに襲って良いのか?」
「そうだな………。リュミ!試合の合図を頼む!」
「わかったわ!これで良い!?」
言葉と共にリュミは魔法で作った拳位の大きさの石を落とす。
これが落ちたら開始の合図にするらしい。
それにマオは文句は無く、それはテブリスも同じだった。
「それで頼む!」
互いに頷き合い、後は何時落ちてくるのかと構えるだけだ。
そしてテブリスとマオの間に石が落ちてきたのを確認して二人はぶつかり合った。
「まずは小手調べだ」
「っ!?」
まずはマオからテブリスへと攻撃する。
テブリスの背後へと一瞬で移動し裏拳を放つ。
街では、ほとんどの実力者がこれで終わる。
だがテブリスはそれを間一髪で避ける。
「まぁ、当然だな」
「何が……!?」
だがマオからすれば当然だ。
攻撃する直前に声を出したのだ。
避けれないはずが無いと考えている。
そのままマオは蹴り上げ、それをしっかりとテブリスは受け止める。
それだけでもマオからすれば十分に満足だ。
だが相手は王都でもトップクラスの実力者らしい。
この程度では全く相手にならないだろうとマオは更に勢いを強めていった。
蹴り上げ、蹴り降ろし、回し蹴りに正拳突き、裏拳、肘撃ち、膝蹴りと連続して攻撃していく。
テブリスは回避することしか出来ない。
「っ……!ぐっ!………ふっ!」
マオの攻撃を避け、受け止め、そして体制を整える。
攻撃が激しく、全く反撃の隙が見当たらない。
そのことにテブリスは歯軋りをする。
このままではマオに勝てないと判断したせいだ。
「くそっ!?」
「反撃をしたらどうだ?」
受け身のままになっているテブリスにマオは反撃をしないのかと疑問をぶつける。
マオからすれば自分の攻撃にしっかりと反応しているからこそ疑問に思っていた。
住んでいた街では反応できる者も少なかったからこそマオはこの程度では終わらないと期待している。
マオにとってはまだまだ本気では無かった。
「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
だがそんなことはテブリスには知るはずのない事だった。
テブリスはただただ必死にマオの攻撃を避けることしか出来なかった。
「うそ………」
そしてテブリスとマオの戦いを見ている全員が信じられない気持ちでいる。
テブリスは王都でも最強クラスのパーティの一員で、その中でも上位に位置する実力者だ。
それなのに防戦一方に追い込まれているのが信じられなかった。
「何だよ、あいつ………」
強いという話は聞いていた。
それでもここまでとは思わなかったし多少は盛っているだろうと思っていた。
だが実際はテブリスよりも実力は上だった。
今の観客たちの眼にはマオを相手に防戦一方になっているテブリスが映っている。
全く勝てる姿が想像出きない。
「クソっ!!」
「おまっ……!?」
「ちょっと!?」
「それはダメじゃっ……!!」
そしてアードがコロシアムの観戦席から立ちあがる。
まさか援護しに行くつもりかと動揺する。
だが他のパーティの皆もテブリスが負ける姿は見たくないと思うが、援護をするのは卑怯だと思って立ち上がらなかったのにズルいと思ってしまう。
「テブリス、勝てーー!!」
そしてアードは大声で声援を送る。
その姿にバランスを崩して転び、同時に安堵する。
「何をしているんだ?お前らも応援ぐらいはしろよ」
安心したと同時にアードの言葉にパーティだけでなく他の観戦していた者たちもハッとする。
自分達は見ていただけだ。
声援が力になるのならアードを応援したいと思う。
「がんばれーー!!」
「勝て、アード!」
「お前なら勝てるはずだ!」
「敗けるなー!!」
パーティを問わずに王都に住んでいる観戦者がテブリスに声援を送り始める。
防戦一方だったテブリスの瞳に火が灯る。
常に一方的に攻撃をされてテブリス自身もあとどれくらい耐えられるか、耐えきれなくなったら敗北だと思っていた。
だが今はどうやって反撃するかマオの攻撃を耐えながら隙を狙っている。
「へぇ?」
「ぐっ!?」
「「「「「「「はっ?」」」」」」
それを見てマオは笑みを浮かべ更に攻撃を激しくする。
そしてテブリスは激しくなった攻撃に驚きながらも気合を入れて耐え、そして観客たちは驚く。
まだ本気では無いことを理解したせいだ。
村での天才が街では凡人のように、普通は王都にいる者たちの方が平均的に優れている。
だからテブリスを相手にまだ本気を出していないことが信じられなかった。
だが観客たちには優秀な者が多い。
直ぐにそれを受け止めてテブリスの応援を再開する。
マオがいくら強くても体力が無限にあるはずがない。
耐えきれれば勝算はあると考えている。
「…………っ」
「おぉっ!」
「っし!」
「もう少しだ!」
「耐えきれ!」
だからほんの少しだけマオの攻撃が緩んだことに喜色の声を上げる。
そして、それはテブリスも同じだ。
むしろ実際に戦っているからこそ観客たちよりも早くに気付いていた。
「ふぅ………」
そしてマオが一息を吐いた瞬間に隙だと判断して反撃に出る。
一瞬で拳に魔力を込めた。
込めた魔力は闇属性で、これが決まればマオは重力で身体が動きづらくなり視界が闇に染まる。
それだけでなく五感も奪うため、完全に無防備になる。
その状況に陥らせることが出来れば何も出来ないために勝ちが決定する。
「「「「「「「「「いけぇぇぇぇぇぇ!!」」」」」」」」
観客もテブリスも一緒になって叫ぶ。
自分達にとって最強クラスの実力者が手も足も出ないのだ。
例え一矢だとしても報いたかった。
「わっかりやすいなぁ」
だが、それもマオに簡単に受け止められる。
マオがしたことは単純だ。
テブリスが拳に込めた魔力以上を掌に込めて受け止めただけだ。
それだけで最後に込めた一撃を防ぐ。
「な…………」
今まで自分以上の魔力の持ち主にも防がれたことが無いからこそテブリスは動揺する。
それは今までテブリスと共に戦ていた者たちも同じだ。
「態と攻撃を緩めたんだけど、その隙に攻撃してくるのか………」
「え?」
呆れたように言うマオ。
それを聞いてテブリスは誘われたのだと理解する。
あれだけの攻撃を仕掛けてきて余裕があったことにテブリスは驚きの視線を向けた。
「少しぐらいは面白くなると思ったんだけど期待外れだったな……」
そして続けられた言葉に怒りを覚える。
握った拳に更に力を込め、殴り飛ばそうとする。
「そこまで怒るなよ。俺が一方的に攻撃して、お前は反撃できなかったんだ。ワザととか言うなよ?俺の攻撃を避け、受け止め反撃をすれば良かった。それなのにお前は何もしなかったんだ。それにこの攻撃。簡単に受け止められる」
マオの言葉に歯軋りをするテブリス。
聞こえていた観客たちも悔しそうにする。
目の前に事実があるからこそ何も言えない。
だが同時にマオがここまで強いと知っていたら、もっとやりようがあったと思っている。
「俺がここまで強いから本領が発揮できなかった?初見のモンスターや詳しく知らない犯罪者相手でも同じことが言えるの?」
マオの言葉に否定できないが途中で疑問を持つ。
実力を知らなかったから本来の実力を発揮できなかったと一切口に出していない。
それに観客席にいる者たちは位置も離れていて声が聞こえないはずだ。
心を読めるのかと思ってしまう。
「心を読んだのかとも思ったのか?お前らが考えることなんて簡単だ」
「ごふっ!?」
そう言ってマオはテブリスをリュミたちのいる所まで蹴り上げる。
一発でリュミの元まで落ちてきたテブリスを見てマオは挑発する。
「大体の実力は分かった。お前らが何人来ても問題は無い。全員掛かってこいよ」
その言葉にリュミたちはマオに襲い掛かった。
「簡単に挑発に乗るなぁ………」
一斉に襲い掛かる冒険者たちを見てマオは思わず呆れてしまう。
いくら王都に住んでいる冒険者でも街にいる者たちと変わらないとマオは思う。
しかも挑発に乗っているからか動きが単純だ。
余裕をもって避けることが出来る。
魔法を使おうが、自分の肉体で襲ってこようが問題にならない。
期待外れだとマオは思っていた。
「あぁぁぁぁぁぁ!!」
気合を入れているが簡単に受け止めることが出来る。
それだけでなく数の差で押し寄せてくるがマオにとっては今も受け止め掴んでいる相手を武器に振り回すだけで事足りる。
実際に襲ってきた者たちもそれだけで立ちすくんでしまっていた。
「どうした?挑んでこないのか?」
マオの手には武器として振り回している者がいる。
知っている相手だからこそ武器として振り回されていることに怒りを感じるし、色んな意味で近寄りがたい。
武器として攻撃されたら受け止めるか避けるか迷ってしまいそうだ。
「くそっ」
「あぁ、そういうこと」
マオは挑戦者たちの様子を見て戸惑っているのは自分が武器として人を振り回しているせいだと理解する。
流石に今回は普通に戦おうと考え直したのか武器として振り回した相手を放り投げる。
そうすれば挑んで来るだろうと考えたからだ。
「おまえぇぇぇぇぇぇ!!」
「ふざけるな!!」
「人の心がないのか!?」
「人でなしが!!」
だがマオの行動に非難を浴びせる挑戦者たち。
それも当然かもしれない。
マオが投げた相手は女性だったからだ。
「何をそんなに怒っているんだ?お前らが戦いにくそうだから気を利かせて武器としては手放したのに?」
「お前………!?」
心底不思議そうにしているマオに頭がおかしいんじゃないかと挑戦者たちは思う。
どんな理由があったとしても女性には最低限は優しく気遣うべきだ。
「女性には優しくするべきだろうがぁ!っぶ!!?」
「戦っている最中に誰がそんなことをするか」
挑戦者の言葉にマオは苛立ちを覚えると同時に顔面を蹴った。
「なっ!?」
「女だろうが男だろうが闘っている最中に何でそんなことを気にしなくちゃいけないんだ。女だからと手加減してほしいのなら冒険者は止めろ。いつか死ぬぞ」
そして続けられた言葉に何も言えなくなる。
マオに挑んでいる女性の中にはかつて女だからと手加減するなと叫んだ者もおり、それを言わなくても全く手加減をしないが、それでもマオに怒りを抱くものもいる。
理不尽だが悔しさをぶつけるもようなものだろう。
そして困らせてスッキリしているのかもしれない。
だがマオは正論を言ってさらに苛立たせる。
「はっ!まるで闘っている以外なら気にかけているみたいじゃない!?どうせ貴方は気にかけても女性には不評でしょうね!?」
「好きな相手ならともかく、それ以外の相手に何で積極的に気にかけなきゃいけないんだ?」
「え…………。それはその…………。優しさを見せるとか?」
「好きな相手以外の者にやさしくして勘違いされたらどうするんだ?あと、それが原因で好きになられたら?好きでもない相手に勘違いさせるなと言われたら?」
「ごめんなさい」
次々に続けられるマオの言葉に思わず謝罪する挑戦者。
言葉に説得力があり経験をしたのだと理解させられる。
それでもマオの女性への扱いの不満は変わらない。
だから挑戦者たちはそれはそれ、これはこれとマオを一発殴るために突撃していった。




