洗脳と病み④
「それじゃあ行くぞ」
道具が少なくなったから補充すると言った仲間と合流して言ったテイクの言葉に仲間たち全員が頷く。
他の仲間たちも皆、それぞれ道具の補充もしたから準備は出来ている。
「ねぇ。依頼されたダンジョンの情報を聞いたんだよね?詳しいこと内容を歩きながら教えてもらっても良い?」
「あぁ。わかっている」
その言葉に依頼されたダンジョンについて集めた情報を教えられる。
どうやら依頼されたダンジョンは比較的に罠が少ないが道が広いらしい。
その分、モンスターは大きいものが多いようだ。
「巨大なモンスターが多いんだ?」
「あぁ……」
それは厄介だなと思う。
大きいというのはそれだけで武器なのだ。
単純な攻撃だけでも威力は強いし、通常のモンスターよりはるかにタフ。
あまり連続して相手をしたくないモンスターだ。
「そこで薬草を獲りに行くのか?別の場所じゃダメなのかな?」
「お前も聞いただろ?巨大なモンスターが多いから他のダンジョンと比べて効果に差があるかもしれないって話。俺も出来れば詳しい結果を聞きたい」
そうだったと思い出し、更に続けられた言葉に同意する。
もし効果が高かったら今度からは危険なダンジョンで薬草などアイテムを収穫するのが流行るのかもしれないと考えていた。
「着いたな」
そして依頼されたダンジョンへとたどり着く。
周囲には誰もいないし気配も感じない。
自分達だけしかいないと思っていた。
「俺たちしかいないな………」
「単純にまだ時間が早いからじゃないか?あとから人が増えるだろ」
時間が早いだけだと言われて誰も否定できなかった。
後から来る可能性も考えると邪魔をしないうちに依頼を達成したかった。・
「それじゃあ中に入るぞ」
そしてテイクの言葉に皆が頷いてダンジョンの中に入る。
そこは今まで挑んできたダンジョンの中でも特に広い。
「広いな………」
あまりの広さに薬草を探すのも一苦労だと思ってしまう。
そして同時に、この広さが必要なモンスターが襲ってくるのだと理解して気を引き締めていた。
「ダンジョンの中に入って行ったな……」
「えぇ……。どうやってはぐれさせる?」
「あいつらがモンスターと争っている間に煙幕でも目潰しになるアイテムをなげれば良いんじゃないか?それか他のモンスターが更に襲ってきた時か奇襲して来た時に使った方が良い。まぁ、その場合は俺個人でも攫うことは出来るだろうけど……」
「ならお願いするわ」
「頼む」
「マオの実力は深く知っています。だから頼みますね」
マオの自分なら一人でも攫うことは出来るという発言に他の三人は否定ではなく、出来るだろうなと頷く。
そして、それなら頼むとそれぞれが口にしていく。
「………否定とかすると思ったんだけど」
「でもできるでしょ?」
「まぁ、うん」
否定や拒否されると思ったが一人でやることに肯定されて驚くマオ。
それなら成功しなきゃいけないなと少しプレッシャーが掛かってしまう。
「取り敢えずマオの提案を実行するにしても、まずはモンスターに襲われるまでは意味が無いわよね」
「その状況に更にモンスターに襲われる状況がなきゃいけないのですよね?」
「そこは意外と大丈夫じゃないか?このダンジョンに何度か挑んだことがあるけど普通に連戦もしたことはあるし」
キリカとカイルの意見にシスターはそんなものかと納得する。
あまりダンジョンに挑む機会は少ないから知らなかった。
「そうなんですね。それじゃあ彼らが戦い始めたら教えますので、それまでマオはゆっくりしていてください。肝心な時に動けなかったら困りますし」
「…………わかった」
シスターの提案にマオは少し考えてから頷く。
少しでも確実にチャンスを手にするために確認したいが、いつでも動けるように休んでいるのも正論だ。
「わかっていると思うけどバレるなよ?視線を向けただけで勘の良い奴は見抜いてくるから」
「「わかっている」」
だからマオは三人に警告をするが、キリカとカイルの二人はマオを見て深く頷く。
マオはシスターと一緒に何故自分が見て深く頷かれるのか理解ができなく首を傾げる。
だが二人にとっては当然だ。
マオは今回の件でも洗脳のことなど色々と気付いていた。
それ以外にも以前に色々と見抜いていた記憶が二人にある。
そもそも前に挑んだ勝負でも確実に見えない様に隠れていたのに当たり前のように見つけられた。
ある程度以上の実力になると色々と見抜けるようになるのだろうと二人は考えている。
むしろそうでないと色々と納得できないことが多い。
それに自分たちでも覚えがある。
自分達も格下相手に敵意を持って隠れて視線を向けられたら気付いたことがある。
きっとそれはシスターもだろう。
そう考えると何で驚いていたのか逆に謎だ。
「それじゃあ俺は適当に休んでいるから連戦になったら教えてくれ。単体のモンスターの戦いは教えなくて良いから」
マオの言葉に三人は頷く。
単体でモンスターと戦っていても問題なく戦えるのだろうとマオは判断しているのがわかったからだ。
それに、その状況で奇襲をしても直ぐに攫われたことが気付く可能性が高い。
だから連戦で戦う状況が早く来ないかとキリカとカイルの二人は祈っていた。
「くそっ!」
テイクたちは襲ってきたモンスターたちを倒すと苛立ちに声を荒げる。
知ってはいたが、本当に巨大なモンスターばかりが出る。
倒すのは問題が無いが疲労が普段よりはるかに溜まってしまう。
「休憩をしないか?流石に疲れた………」
仲間の一人の言葉にテイクを含めた全員が頷く。
そしてモンスターを近づかせないための結界を張ろうとし始める。
「ふぅ………」
その様子を見てテイクを含めて何人かは、その場に座り込んでしまう。
ようやく休めると思ったのだろう。
まだモンスター除けの結界は張り終わっていないのに安堵していた。
警戒しているのは一人だけだった。
「危ない!」
そして結界を張っている途中の仲間に警戒していた一人は声を上げる。
モンスターが近寄っていたのが見えたせいだ。
「え?」
そして結界を張ろうとしていた最中にモンスターの奇襲が直撃してしまい吹き飛んでいく。
それを目で追おうとするが中断されてしまう。
「「「グオォォォォ!!」」」
モンスターの叫びが響き渡ったせいだ。
吹き飛ばされた仲間も気になる。
だが、それで意識を向けてしまえばモンスターに殺される可能性が高くなるから耐える。
「まずは目の前のモンスターを倒すぞ!」
「「「「おぉ!!」」」」
疲労がたまり、万全の状態では無いが仲間を助けるためにまずは目の前のモンスターを倒すことに決めるテイク。
仲間たちもそれに同意し、少しでも早く倒して仲間を助けるために気合を入れていた。
「ただの油断じゃん」
それを見てマオは冷めた目を向けて呆れたように口にする。
その言葉に双子の勇者にシスターも同意する。
彼らは自分達ならダンジョンにいる以上油断はしないし、そもそも地面に座ることはしないと考えている。
むしろ、その行動をとった目の前の冒険者たちが信じられない。
「取り敢えず吹き飛んで行った奴を連れて来るから、そいつを確認するぞ」
マオの言葉に頷く三人。
彼らは誰一人として吹き飛んで行った仲間に視線を向けていない。
彼らからしても都合が良かった。
「お前らも油断するなよ」
そう言ってマオは吹き飛んで行った相手を連れて来るために移動していった。
「ほんっとうに速いですね」
「ですよね」
マオが一瞬で移動したことにシスターは思わず口に出す。
何度見ても全く見切ることが出来ない。
それがショックだった。
それはキリカとカイルも同じで、何度も頷いている。
どれだけ実力差があっても諦めるつもりは無い。
だがマオの動きを見切ることが出来なければ勝つことも無理だとも理解していた。
「はぁ……。どうやったら追いつけるんだろ」
自分達が更に鍛えてもマオもまた実力を伸ばしている。
一生埋まらないのかもしれないと考えてしまう。
「さぁ?それよりも確認してくれないか?」
「な……ん…だ?お…ま……ら………」
どうしたら追いつけるのか頭を悩ませているとマオの声が聞こえてくる。
そして意識を失いそうになっている声もだ。
「ほんっとうに速いわね……」
マオがほとんど時間も空けずに戻ってきたことに呆れる三人。
そして運ばれた者は仲間がまだモンスター相手に戦っているのに助けようともしていない四人を睨みつける。
「なん………だ?ど……し……た……ない?」
「さてと………」
シスターは睨みつけながら文句を言ってくる目の前の相手を無視して出来る限りの解呪魔法を使う。
先に治療をしなかったのは仲間を助けるためにと言って逃げ出さないためにだ。
「な……を…?…………………えあ?」
「成功したか………」
吹き飛ばされた怪我で話すのも辛い状況で更に困惑した表情になる。
それを見てマオはやはり洗脳されていたと確信して魔法で怪我を治す。
「はむぐっ!?」
更に自分が今までどんな状況だったのか理解して怒りの雄たけびを上げそうになったのを強引に手で口を塞いで止めた。
「洗脳されていたのを気付いて解いた恩があるよな?他の奴も洗脳されているだろうから、まだ洗脳されている振りをして他の奴らも教会に連れて来い。確実にバレないように行動しろよ?」
「むぐっ!?」
更に力を込めて従わせようとするマオ。
人助けのはずなのに脅しているような状況になってしまっている。
たった今洗脳から解除された相手もマオの口を塞いでいる手の力と従わせようとするプレッシャーで怯えてしまっている。
「何をしているのよ?助けた相手を脅すなんて」
だからキリカはマオの頭を叩く。
マオは洗脳された怒りから自分勝手な行動をしないように行動したのかもしれないが、キリカからすれば逆に信じられず暴走してしまんじゃないかと考えてしまう。
だから安心できるように笑顔で話し掛ける。
「安心しなさい。私もこいつも洗脳されたと気づいたから助けようとしているわ。だからあなた達を助けるために私たちに協力して」
手を握り上目遣いにし、首を少しだけ傾げて頼みこむ。
シスターは感心し、カイルは引き、マオは複雑な感情をキリカに向ける。
そして頷いた相手にシスターはチョロいと思い、カイルは複雑になり、マオは嫉妬の感情を向けていた。
「それじゃあ一緒に行こうか?キリカ達は先に帰ってろ」
「え?」
自分達に協力すると頷いたのを確認してマオは一緒に来た三人に指示を出す。
そして他の四人はマオの言葉に困惑する。
「シスターは依頼を出したのにここにいることに疑われるからバレる前に帰ってください。他の二人はどっちでも良いや」
「そういえばそうでしたね。それじゃあ私は先に帰らせてもらいます」
マオの言葉に納得してシスターは先に帰る。
ここにいることがバレたら、たしかに面倒なことになってしまう。
街に戻るシスターにマオたちは手を振って見送った。
「さてとそれじゃあ助けに入るか」
マオはそう言ってテイクたちの戦いを見る。
巨大なモンスターたちと何度も戦っているせいで疲労が溜まっている。
そのせいで満足に戦えていない。
「とりあえず、あいつらの近くにいるモンスターは倒すか」
だから、それを助けるためにマオは行動した。
マオからすれば図体がデカいだけのモンスター。
攻撃が当たる範囲も広く、動きも鈍い。
簡単に倒せるモンスターだ。
「俺からすれば小型のモンスターの方が厄介だな」
マオは最初に複数いた巨大なモンスターの一体の目の前に立ち、その巨体を思いきり殴る。
それだけでモンスターは吹き飛び、腹が抉れる。
「すごい……」
そして次に回し蹴りを、裏拳を次々とモンスター相手にぶつけていく。
一撃一撃を放つたびにモンスターが倒されていく。
その光景を見ていた者たちは憧れの視線を向ける。
自分達と同じぐらいの身長しかないのに数倍の大きさを持つ巨大なモンスターを一撃で倒している光景は心惹かれてしまう。
それはマオの実力を知っているキリカ達もそうなのだ。
詳しい実力を知らなかったテイクたちは更に心惹かれる。
そして、これだけの力を持ったマオを手に入れたいと暗い瞳でマオを見つめていた。
そのテイクの視線に二人ほど気付いた者がいる。
その一人であるキリカはその視線を向けるテイクに冷めきった視線を向ける。
そしてもう一人はテイクをどんな手を使っても自分だけしか見えないようにしてやると決意を強めていた。




