キリカとキャンプ②
夜になり二人はテントの中へと入る。
テントの中は二人で使っているからかスペースが狭くキリカとマオは密着して使っている。
もう少し大きいテントは無かったのかとマオは考えていた。
「ふふっ」
そしてキリカはマオと密着していることに笑う。
密着しているせいで熱く汗をかいてしまうが苦にも思わない。
それにマオも汗をかいているから深く息を吸う。
「キリカ?」
「何?」
密着されながら息を深く吸われてマオは思わずキリカに問いかけるが、何もしてないように聞き返されてしまい何も言えなくなる。
むしろマオもあまりに自然に返されたせいで気のせいかと考え直してしまった。
「それじゃあマオ。お休みなさい」
「………お休み」
後ろからキリカに抱きしめられながら言われた言葉にマオも返事をする。
だがマオは眠れなかった。
「……………あつい」
キリカの寝息が聞こえてきてから思わず零した言葉が原因だ。
身体が密着しているせいで互いの熱が伝わり暑苦しく感じてしまう。
今も酷く汗をかいているし、キリカはよくこんな状態で寝られるなとマオは感心すらしていた。
「くそっ」
しかもキリカに抱きしめられているために下手に抜け出すことも出来ない。
無理矢理にでも引き離すことは出来るが、せっかく寝ているのに起こしたくは無かった。
(ヘタレが………)
そしてキリカはマオの背中に顔を埋め匂いをかきながら心の中でマオに対して文句を言う。
女の子が自分から抱き着いて寝ているのだ。
こんなことは好きな相手でもないとしない。
それに寝ているから、どこを触っても大丈夫なのに何もしてこない。
それが不満だ。
「……………あつい」
それは自分も同じだとキリカは思う。
特にキリカは自分は好きな相手の匂い嗅げて幸せな気分になるから、マオも同じことをすれば良いとさえ考えている。
(あっ)
そしてマオの行動に少しだけ嬉しくなった。
思わず口に出してしまうほど暑いと言っているのに全然払いのけようとしないからだ。
寝ているから起こさない様にと大事にされているのがわかって嬉しくなる。
暑いのなら無理矢理にでも引き離せば良いのに、全くその行動をしようとしない。
マオなら嫌なら無理矢理にでも引き離すはずだ。
それは例え相手が女性でも関係ない。
だから決して引き剥がすことはせずに受け入れてくれていることがキリカは嬉しかった。
「うん………。男と女なのに、こんなことをしてくるキリカが悪い」
(キターーーー!!)
マオの言葉にキリカは自分に悪戯()をしてくるのだと想像する。
そして悪戯()の内容を考えて顔が赤くなり、腰がふらふらと揺り始めてしまう。
起きているのがバレたら悪戯()を止めるのが想像できるから必死に腰の動きを抑えようとする。
顔は自分でも自覚できるくらいに熱く真っ赤になっているが暗闇の中だから誤魔化せれるはずだ。
最悪の場合は寝ぼけたふりをしてマオの顔を胸の中に埋めればバレないと考える。
「ん?」
マオが最初に何をしてくるのかとドキドキをしながら待っていると最初に腕を触られる。
後ろから抱きしめているから動きやすいように振りほどこうとしているのだろう。
だが、マオは腕を触った瞬間に違和感を持ったような声を出す。
そのことにキリカは更にドキリとした。
これは寝ている振りをしていることがバレたのかもしれないと考えたせいだ。
「ふぅん」
腕を振りほどきながらマオは振り返る。
目を瞑っているが顔に視線が突き刺さってきて分かってしあう。
予定通り寝ぼけたふりをして胸に埋めようかと考えていると、その前にマオがキリカの顔に触れてくる。
そのせいで何も出来なくなる。
「うん」
マオはキリカの頬に指を突き刺したり、引っ張ったり、撫でたりして感触を楽しむ。
その他にも髪に触れてきたり、撫でたりしてくる。
相手がマオだから特別に許しているが、他の相手なら本気で殺したくなる。
「やわらかいな………」
頬や髪を撫でての感想が本気で言っているのが分かるから、少しだけキリカは嬉しくなる。
だから少しぐらいは好きなように触らせてやろうと考えてしまった。
そして後悔をする。
目を瞑っていて触れられているのも慣れたからか気付いたらキリカは眠ってしまっていたが、それまではずっと触られていた。
正確な時間は分からないが何時間も触られていた感覚はあった。
「んん………?」
そしてキリカが目を覚ますとまだマオに頬を触られていた。
テントの中からでも外が明るくなったのが分かる。
更に目の前のマオを見ると目が真っ赤になっている。
「待ちなさい」
思わずキリカは撫でている手を掴む。
もしかしたらずっとマオは自分の頬を撫でていたんじゃないかと思いついたせいだ。
そうだとしたら良い加減に飽きないのかと思うし、手は疲れないのかと思う。
それに眠くないのかと考える。
「マオ。もしかしてずっと私の頬を撫でていたの……?寝もしないで……?」
そうだとしたら嬉しさ半分呆れ半分になる。
そこまで魅了しているのは嬉しいが、やはり寝ろと思ってしまう。
「…………もう朝か」
キリカの言葉にマオも朝の日差しが指し始めたのをようやく自覚する。
それだけキリカの頬は魅力的だったようだ。
「もう朝か……じゃないわよ」
ずっと触っていたということは、つまり寝ていないということだ。
街の外にいるのに徹夜を実行して体力を回復しないなんて阿保だとしか思えない。
「起きれる?というよりは動けるの?テントを片付けて街に帰らないと行けないんだけど……」
「問題ない。さっさと片付けるぞ。…………家に帰ったら寝るか」
欠伸をしながら言ったマオの言葉にキリカはやはり眠いんじゃないかと思う。
街までマオが無事に帰れるか不安になる。
「はぁ………」
そしてマオは身体を起き上がらせると一番最初に上着を脱いだ。
「ちょっ!?」
突然の行動にキリカは顔を赤くして手で顔を隠すが、僅かに開けた指の隙間からチラチラとマオの身体を見る。
脱いだ服はべっちゃりと地面に落ちていた。
原因は抱き着いて寝た暑さから出てきた汗だ。
「あぁ、ごめん。テントの外に出るからキリカも着替えたら?汗で凄いことになっているだろうし。このままじゃ汗で風邪を引く」
マオの言葉にキリカも自分の服装を確認するが、汗でべったりだった。
自分以外にはマオしかいないから覗きもオッケーだが今回は遠慮してほしいと思う。
あまり汗だくになった自分の裸は見られたくなかった。
もしかしたら使うかもしれないと代わりの服を持って来て良かったとキリカは考えていた。
「はぁ………」
服を脱いでキリカはタオルで汗を拭きとっていく。
それだけでも意外とスッキリできた。
「それにしても………」
キリカは服を着替えている最中に自分の頬を撫でる。
マオにずっと徹夜で触られていたことを思い出したせいだ。
そんなに自分の頬は魅力的なのかとキリカは頬を突いたり、撫でたり、つまんだりもする。
だが自分では全く分からない。
「キリカ?」
そうして考え込みながら撫でているとマオから声がかかる。
もしかしたら服を着替えるのに時間が掛かって心配しているのかもしれない。
そう予想して急いで服を着始める。
「ごめん。少し遅れたわ」
「何も問題ないなら良いけど大丈夫か?」
「大丈夫よ。ちょっと着替えるのに手間取っただけ」
キリカの言葉にマオも女性だから色々と準備もしていたのだろうと納得する。
むしろ自分が急かしてしまったかもしれないと反省していた。
「そういえばマオは私の頬をずっと触っていたけど、そんなに好き?」
「ずっと触っていて飽きないぐらいには好きだな」
二人はテントを片付けて街へと足を進める。
その途中キリカはそういえば呆れてしまって頬を触っていた感想を聞いていなかったことを思い出す。
そして質問をぶつけたら即答されてしまい、その上また頬を触られて顔が赤くなる。
「そう………」
マオは顔を赤くして何も言えなくなっているキリカを面白そうに触れる。
触っていた場所が赤くなり熱さも感じてくる。
人体は不思議だなと思っていた。
「あと、そろそろ頬を触るのを止めて………」
「そうだな」
「えっ」
流石に恥ずかしさが限界を迎えたのかキリカはマオに撫でるのを止めてくれと頼むが、あっさりと受け入れられて困惑してしまう。
ずっと触っていれるぐらい好きだと言っていたのに嘘だったのだと少しだけ悲しく思う。
「そんな悲しそうにされても流石にずっと歩きながら頬を触るのは危ないし……」
正論を言われてキリカは何も言えなくなってしまう。
だから直ぐにまた触ってくれるようにキリカは何も考えることはせずダッシュで街へと戻っていった。
「危なくないか?」
そしてマオはダッシュでは走り始めたキリカに焦ってしまう。
モンスターがそこらにいるのに何も考えずにダッシュをしているからだ。
全く周囲を警戒していない。
「すこし待てって………」
だからマオは本気で走ってキリカに追いつく。
モンスターに襲われたら危険だからだ。
「……………っ」
だがキリカはマオに追いつかれたと自覚すると更に顔を赤くして速度を上げる。
マオもまた周囲にモンスターがいないか警戒しながら走っていた。
そして途中で絶対に抱きかかえてようと決意もしていた。
「え…………」
そして警戒していたようにモンスターがキリカに牙を向けて襲い掛かる。
キリカが気付いた時には既に距離が牙が突き立てられる直前だった。
「もうこのまま街に戻った方が安心なんだけど………」
だからマオはキリカを抱きしめ、同時に牙を突き立てようとしたモンスターの首を裏拳で吹き飛ばす。
面白いようにモンスターの首は吹き飛んで、マオはそれを尻目にキリカを抱えながら走り始める。
「マオ!?」
「危ないから、このまま街まで戻るぞ」
ニッコリとした笑み。
マオのその笑みを向けられたキリカは襲われたことと助けられたことによって生じた胸鳴りと、抱きしめられたまま街に戻される恥ずかしさと、怒られている恐怖によって何も言えなくなった。
「マオと………。キリカか」
街に戻り門番に会うと最初は笑顔だったが、マオが抱えている者を確認して嫌そうな顔をされる。
いちゃ付くのを見せつけられて苛立ちを覚えてしまう。
「こんな朝早くから何をしているんだ?」
「キャンプから返ってきたところ。途中でモンスターに襲われたからキリカを抱きしめながら帰ってきた」
「…………そうか、次は気を付けろよ。お前は大丈夫かもしれないが、お前以外の者はそこまで強くないんだ」
「……………………そうだな」
マオがいるから抱きしめられているキリカも油断をしたのかもしれないが、あえてマオを注意する門番。
また同じようなことが起こってもマオなら気を付けてくれると思ったからだ。
そしてキリカはマオが門番の言葉に頷いたことに悲しくなる。
マオが門番のマオ以外はそこまで強くないと言われたことに孤独を感じたのが理解できてしまったせいだ。
門番に言われるまでは、そこまで抱きしめる力が強くなかったのに言われた途端に僅かに強くなった。
きっと本当に自分と同等の実力が無い相手と会えない限りマオは孤独かもしれないとキリカは考える。
「ねぇ……。私は絶対に貴方に勝てるようになるわ」
「そうか……」
マオはキリカの言葉に無理だと思っているしキリカもそれを察する。
どんな手を使っても勝ってやろうと決意を強くする。
「あぁ~。取り敢えず中に入ってくれ。また街の外に行くわけじゃないんだろ」
門番の言葉に見つめ合っていた二人は街の中に入る。
いつまでも門番の前にいるのは邪魔だった。
そして街の中に入ると視線が集まる。
いつもだったら挨拶をしたり返したりするのにそれさえない。
そのことに疑問を思いながらマオとキリカは家へと向かって歩いていく。
「着いたな」
そして家の中へと入るとカイルがいてマオとキリカの二人を見て驚く。
そのことに不思議そうな顔をしながらもマオはキリカをベッドの上へと乗せた。
「なぁ……。もしかして街の中をキリカを抱きしめて運びながら歩いてきたのか?」
「そうだが?街の中、抱きしめて運びながら歩いて来たけど何かあったか?」
「あっ。…………………っ!!」
カイルの言葉にマオは自分がどんな状態だったか思い出してベッドの中へと潜りこむ。
つまりはずっとお姫様抱っこをされていた状態を街の人に見られていたのだ。
走っていたのなら気のせいだと思われるし、見えていたとしても見間違いか何か怪我をしたのだろうと考えたかもしれない。
だが実際は歩いていた。
気のせいだと思われないし見間違いでもない。
そして歩いていた姿から怪我はしていないのだと予想できる。
そこまで考えてキリカは顔がとても真っ赤になる。
しばらくは街の中に出るのに覚悟が必要そうだった。




