キリカとキャンプ①
「マオ!キャンプに行くわよ!」
「わかった」
「え?」
「は?」
「ん?」
マオがキリカのキャンプの誘いに即答で頷いたことに、キリカだけでなく近くにいたカイルも驚く。
そのことにマオは何を驚いているんだと疑問を持つ。
「まさか即答するとは思わなかったわ………。まぁ良いわ。それなら早速行くわよ」
そう言ってキリカはマオの腕を掴んで街の外へと行こうとする。
急な行動にマオは疑問を持つ。
まだ何も準備をしていないのに行くつもりなのかと思ったからだ。
マオは当然だが、キリカも何も準備をしていない。
「待って。このまま行くつもりか?」
「そうだけど?」
キリカの答えにマオは本気で言っているのかと視線を向け、そしてカイルに助けを求めようと視線を向ける。
そこにはキリカの行動に何も疑問を持たないカイルの姿があった。
準備が不足でもマオが一緒なら大丈夫だろうと考えているのかもしれない。
キリカを止めるのは期待できそうにないとマオは諦める。
「テントも何も準備していないのに無理だろ。それでも行くならキャンプじゃなくてサバイバルだと思うんだけど?」
「別にどちらでも良いじゃない。貴方と二人きりで街の外に出るのは変わらないんだし」
「いや変わるだろ」
キリカの言葉にマオは否定する。
だがカイルはキリカの言葉に否定することが出来ずに微妙な表情を浮かべる。
姉がマオと二人きりの行動をするためにキャンプを提案したのだと察したからだ。
それにキャンプと言うことは夜は泊まるのだろ。
夜、男女が二人きり、街の外というスリル。
二人に巻き込まれない様にカイルは離れる。
あまり聞きたくなかった。
「それじゃあテントだけでも用意するわよ?」
「それなら、まぁ?」
キャンプをすると言っているのに用意するのは本当にそれだけで良いのかとカイルは思う。
だが聞きたくなる気持ちをこらえてカイルは二人の前から消える。
「そのテントはあるのか?」
「あるわよ。それじゃあ今度こそ行くわよ」
キリカの言葉にマオは頷き、今度こそ二人で街の外へと歩いて行った。
当然のように二人は手を掴んでおり、街の中で二人を見かけた者たちはデートかと想像していた。
「二人ともどうしたんだ?」
街の外に出ようとして門番に止められるマオとキリカ。
二人して仲良く手を繋いでいることに嫉妬と微笑ましさが混ざった表情を見せながら質問をする。
デートだと想像できるが、街の外に出る理由が分からなかった。
「キャンプよ」
「キャンプ?」
「キャンプだな………」
キリカが自信満々に言い、門番が聞き返し、マオが再度答える。
その結果、門番は混乱してしまう。
デートのような雰囲気で街の外出て、しかもキャンプ何て危険だ。
「街の外で……?」
「そうよ」
「……………」
門番は確認し視線をキリカに向けたら肯定され、マオには視線を逸らされる。
そしてため息を吐いて道を譲った。
街の外でキャンプをするなんて信じられないがマオがいるのなら大丈夫だろうと思ったせいだ。
「わかった。マオがいるから大丈夫とは言え気を付けろよ」
門番の言葉にキリカは頷き、マオの手を引っ張って街の外へと出ていく。
その様子に主導しているのはキリカかと門番は察する。
どちらにしても無事で戻ってくれば良いと考えていた。
「さてと、どこにテントを張るんだ?」
「もう少し先よ」
マオの疑問にキリカはまだ先だと答える。
結構な距離を歩いているが、まだ進み続けている。
どこまで歩くのかマオは気になってしまう。
「着いたわ」
そして山の中に入り、木々の間を歩き、川の近くまで進んでいく。
そこまで進んだことでようやくキリカは止まった。
途中、モンスターも当然襲ってくることもあったが何も問題は無い。
襲ってきても苦労せずに撃退できた。
「ここか………」
目の前には川があり周囲には緑が溢れている。
これまでも何度か似たような光景は見たことがあるが気にしたことは無かった。
だから落ち着いて見ることができ綺麗な景色だと感嘆する。
「どう?」
「綺麗だな………」
マオの言葉にキリカは嬉しそうに笑った。
キャンプだと言ってこの光景を見せた意味があったからだ。
これで何も反応が無かったらマオのことが不安になるし色々と心配していた。
「それでキャンプだけど食材はあるのか?」
準備をしていたのはテントだけ。
それでもマオは気にしなかったのは最悪モンスターを食べれば良いと考えていたからだ。
「無いわよ?」
だから食材は無いと即答されても何も思わなかった。
それでも念のために確認する。
「モンスターを狩って喰うつもりか?」
「えぇ。私達なら余裕でしょ?」
そしてその疑問に頷くキリカ。
予想通りの言葉にマオはため息を吐いた。
「そうか………」
自分もそう考えていたとはいえマオは実際に行動するとなると面倒に感じてしまう。
大きいモンスターでも問題なく狩れるが量が問題になる。
二人では喰いきれないし余った分を運ぶのも面倒だ。
だから丁度いい大きさのモンスターを狩る必要はあるが、そうなると小さいモンスターを狩る必要がある。
小さいモンスターは実際に探すとなると見つけるのが面倒だ。
「面倒くさいし、先に三食分の食料を探すか……」
「お願いね。私はテントを張っているわ」
マオの言葉にキリカもテントを張り始める。
マオなら簡単に見つけて来れると思っているが、これぐらいは自分だけでもやりたいと思ってしまう。
「頼んだ」
そして消えて行ったマオを見て、戻ってくる前に終わらせようと決意していた。
「どこだ?」
マオは森の中に入って小型のモンスターを探す。
大きいモンスターは見つけやすいが、小さいモンスターとなると自然の中に隠れていて見つけにくい。
「本当に面倒だ」
そして深くため息を吐く。
大型のモンスターを見つけやすいということは相手からも見つけやすい。
だから探している最中にも大型のモンスターに襲われてしまう。
マオからすれば実力からして何も問題は無いが、大型のモンスターのせいで小型のモンスターが逃げるのが面倒だった。
「まぁ良い」
大型のモンスターが来ると小型のモンスターは慌てて逃げ始めるから、音がした方向を探せばよいとマオは考える。
だから襲ってくれとも思ってしまう。
そうして歩き回っているとマオのいる場所以外からガサガサという音が聞こえ始める。
しかもマオのいる方向に走ってきている。
その中には小型のモンスターもいて、六匹ほどマオは首の骨を折って殺して捕まえる。
「これだけあれば大丈夫かな?戻ったら魚も獲るつもりだし足りるだろ」
マオは捕まえたモンスターを見て満足げに笑う。
もし足りなかったら魚でも獲れば良いと考えて気楽だった。
「ガアァァァァアァァァァ!!!」
そして襲ってきた大型のモンスターにマオは正面から踵落としで頭を潰した。
「そういえば釣りの道具を持って来ていたっけな?」
そしてマオは頭を潰したモンスターに目をくれない。
マオからすれば食材にもする気は無いし運ぶのも面倒だから、どうでも良い存在でしかなかった。
それよりも釣りの道具があるかの方がはるかに気になる。
無かった場合素手で捕まえるしか無い。
その場合を予想してマオは身体を震わせる。
池の中に身体を入れるのは寒そうだった。
「その場合は身体を温めないとな………」
その場合は魔法で火を起して身体を温めようと考えるマオ。
ついでに捕まえた魚やモンスターも一緒に焼こうと思っていた。
「ふぅ。こんなものかしら」
キリカはテントを設置し終えて、後はマオを待つだけ。
それまでは暇だと持って来ていた本を読み始める。
暖かな日差しと偶に吹く風、そして流れる水の音がキリカの気持ちを落ち着かせていた。
「あれ?テントは一つだけ?」
そうして読書をしているとマオが戻ってくる。
キリカは直ぐに本を閉じて声の聞こえた方向へと身体を向けた。
「マオ!」
そして急いで駆け寄る。
「えぇ。二つも必要ないでしょ?二人で使えば良いじゃない」
「は?」
男女で一つのテントを使うことにマオは困惑する。
ただでさえテントの中はスペースが狭いのに二人で使うとなると更に狭くなる。
それでも一つのテントだけを使うならかなり密着することになる。
そのことをキリカはわかっているのか疑問に思う。
「なぁ………」
「これ以上はテントを持って来ていないし必要ないわよ。一応言っておくけどテントの外で寝るのはダメよ」
「いや、それは………」
「別に良いでしょ?私は構わないし。ね?」
「………………」
マオはキリカの同意を求める言葉に頷くことしか出来なかった。
何を言っても諦めないだろうし、何よりも最後の言葉に力強い圧力が掛かって考えるよりも先に頷いてしまっていた。
「それなら良かったわ。…………それにしても」
キリカはマオの手に持った食料を見る。
見事に小動物だけ。
半分でも自分なら足りそうだとキリカは思うが、男子には足りないんじゃないかと思う。
「貴方はそれだけで足りるの?」
「足りると思うし。もし足りなかったらそこの川から魚を獲れば良いだろ?」
「それもそうね」
キリカはテントの他にも設置していた椅子の上にマオを座らせて、さらにその上にキリカが座る。
そのまま本を読み始め、マオは黙って受け止める。
「ふふっ」
「……………」
キリカはマオの女の子の身体とは違う身体の硬さと匂い、そしてこの状況にマオが緊張して震えているのを感じて嬉しく笑う。
そしてマオは女の子の身体と匂い、そして少し力を込めれば壊してしまいそうな脆さに不安を抱く。
「はぁ………」
正直に言ってマオはずっとキリカの身体の感触と匂いだけで、ずっとこうしてられるが恥ずかしくてバレたくなかった。
だからキリカは風の魔法で狩ってきたモンスターの毛皮を剥ぎ、部位ごとに切断し、内臓を捨て、火の魔法で燃やす。
魔法で簡単な調理をしていた。
「おぉ!」
キリカはそれを見て感嘆の声を出す。
マオのことだからテントさえあれば他は必要ないとキリカは考えていたが予想取りだった。
あそこまで巧みに魔法を使って調理をするのは見事だ。
「すごいわね」
「それはどうも」
マオはキリカの賞賛に気分を良くして川に視線を向ける。
そこには泳いでいる魚の姿が見えていた。
川の中に入って魚を獲る方法を最初は考えていたが魔法だけで十分じゃないかと考えたからだ。
「…………やってみるか」
マオは土の魔法で岩を二つ作る。
まず一つ目はそのまま川の中に投げ込み、二つ目は一つ目の岩へと当てる。
その結果の衝撃と音が響くがキリカの耳をマオは抑えているため、キリカの身には何も影響は無かった。
そして一瞬後に魚が何匹も意識を失って浮かび上がる。
「取り敢えず刺して地面に突き立てるか」
そして今度は細長い針を魚に刺して地面に突き立てる。
食べるときに燃やして喰えば良いと考えていた。
「本当に凄いわね……」
キリカは本当にマオさえいれば準備をほとんどしていなくても解決できることに呆れてしまう。
風の魔法での調理や以前に挑んだ時に身体を温めた時に使っていた火の魔法、そして今も使った岩の魔法。
キリカは自分が同じように使っても威力が強すぎて同じ結果が得られないと分かる。
だからマオに身体を預けながら、自分ならどうすれば同じことが出来るか教えてもらおうと考える。
もしものために自分も同じことが出来るようになりたいと思っていた。
「ねぇ……。私にも同じことが出来るようになりたいから教えてくれない?」
「…………?」
だがマオはキリカの言葉の意味が分からないのか首を傾げてしまう。
マオからすれば教えるまでもなく簡単なことだからだ。
「無理?」
「魔法に込める魔力の量を調節すれば良いだけだから教えろと言われても……」
キリカはマオの言葉に信じられない気持ちになるが、困ったような表情を見て何も言えなくなる。
もしかしたら本当かもしれない。
「魔力が弱かったりすると威力も弱くなるだろ。それと同じことだし他にも同じことをしている者は多くいるからな?数が少ないだけで」
数が少ないのは、そんなことに魔力を使うよりは耐えて節約した方が良いと考えている者が多いからだ。
それでも使う者は魔力が豊富か、魔力があっても先天的に威力が低くなってしまう者ぐらいしかいない。
後は引退した魔法使いとかだ。
ちなみにマオは単純に今回は戦闘をする機会も少ないと判断したために使っている。
普段はもしもの時のために魔力を節約しているから、こんな風に魔法を使うことは少ない。
「そうなの?」
「そうなんだ」
キリカはマオの話を聞いて思った以上に自分が知らないことにショックを受けていた。
そして家に戻ったらカイルにも話してみようと考える。
もし、それでカイルも知っていたら更に深くショックを受けて崩れ落ちてしまいそうだった。




