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無双③

「飽きた」


 挑戦を受けてから数時間が経ち、マオは挑戦を受けているのが飽きてしまう。

 実際にも口に出してしまい、挑戦者たちに睨まれる。


「ふざけるなよ………!」


 マオの言葉に怒りを覚える挑戦者たち。

 だがマオからすれば飽きてしまう程度の実力しかない挑戦者たちの方が悪いと考える。

 もっと実力があるなら飽きてしまうことは有り得ない。

 だから悪いのは挑戦者たちの方だと考えていた。


「そもそもお前たちは本当に本気で俺に挑んでいるのか?」


 マオはそう言って挑戦者たちの後ろへと回り込む。

 それなのに全く反応しない。

 声に出し、肩まで叩いたのに振り向きもしない。

 本当に勝ちたいのなら直ぐに気付くことができたはずだとマオは考えている。


「もし本気で勝ちたいなら直ぐに反応できるはずだろ?」


 そう言ってマオは近くにいる挑戦者を後ろから蹴る。

 その威力は前にいた挑戦者たちも巻き込んで吹き飛んでいく。


「巻き込まれた奴はまだ戦えるけど、直接蹴った相手は魔法で回復させない限り復活は出来ないな」


 なら、とマオは回復に専念している者たちの方向へと向く。


「っ……!」


「お前ら後ろは絶対に護るぞ!!」


「「「「おぉ!!」」」」


 視線を向けられた挑戦者たちは身構える。

 特に護衛として回復役の前にいた挑戦者たちは気合を入れていた。


「最初に蹴った奴よりは良いな」


 だが護衛役の後ろからマオの声が聞こえてくる。

 振り返るとそこには回復役に拳を叩き込んでいる姿があった。


「ごはっ………」


 だが意識を奪われた回復役は何人もいるなかでの一人。

 まだまだリカバリーは効く。

 だから護衛役は回復役を逃がすためにマオへと突撃する。


「脆いって」


 マオは回復役の護衛に選ばれるだけ攻撃を防ぐという能力が優れている挑戦者たちを真正面から破る。

 鎧を着こんでいる者は鎧をめり込ますほどの威力の拳を叩き込んで意識を奪う。

 盾を構えている相手には盾を破壊した後に本人に拳を叩き込む。

 受け流すことが得意な相手には、それが出来ない程度に勢いのある拳を叩き込んで意識を奪った。

 それらを一瞬で終わらせてマオは回復役へと迫る。


「嘘だろ!」


「回復役が専門でも最低限は身を護る術を身に付けておけよ」


 そしてマオは回復役たちの中心に移動し、回し蹴りでほとんどの回復役の意識を奪う。

 残った者たちも殴り飛ばして意識を奪った。

 あっという間に回復役の者たちの意識を奪えたのは、ある程度固まって移動していたからだ。

 それさえなければ手間はかかっていたかもしれない。


「まぁ、まだ回復役はいるし挑むことができないように閉じ込めるか」


 回復役は数人ずつに別れて行動している。

 当然、護衛役もだ。

 こちらに移動して回復させられた倒した意味がなくなる。

 だからマオは倒した者たちを魔法で結界を作り、その中に入れた。

 そうすれば破壊しない限り救出できないし、中にいる者たちが意識を取り戻し回復してももうマオに挑むことは出来ない。


「離れた位置にいるとはいえ見られたし、どんな対策をしてくるかな?」


 どんな対策をしてくるのかマオは楽しみにする。

 終わらせるつもりはあるし、どんな対策でも乗り越えるつもりはあるが、それはそれとして楽しみに思う。

 そして、また回復役たちが集まっている場所へと移動した。


「おらぁ!!」


「おぉ!!」


 その直後に挑戦者の一人がマオへと攻撃する。

 狙ったかのような攻撃にマオは感動の声を上げた。


「よくわかったな!」


「回復役を最初に狙うと分かっていたら当然だろうが!」


 こちらの思考を読んだ結果だと言われてマオは笑う。

 必死で自分に勝つために行動している。

 それがたまらなく愉快だった。


「そうか………。そうか!」


 だからマオも少しだけ本気を出して拳を叩き込んでしまった。

 その結果として殴られた挑戦者は吹き飛ぶことはなかった。

 だが拳が腹を貫通してしまった。


「やべっ」


 マオは勢い余って腹を貫通してしまったことに冷や汗を流す。

 殴り飛ばしたり蹴り飛ばすより、貫通してしまった方が死にやすいとマオは考えている。

 今回の挑戦で殺す気は全くないマオは少し焦る。


「取り敢えず回復させるか」


 マオは自分で回復(ヒール)の魔法をかける。

 貫通させてから直ぐに魔法を掛けたからか思ったより早く顔色が回復する。

 そのことに安堵して今度は誰も意識を奪うことはせずに結界の中に閉じ込める。

 死んでしまわない様に回復させた挑戦者の経過を見て欲しかったからだ。


 それにこの結界は閉じ込めるためのものだ。

 これを壊せなければ勝負の土俵にすら立てていない。

 一番最初に閉じ込めた者たちと違い多くの者が意識を残して閉じ込めている。

 協力すれば壊せるかなとマオは考える。


「さてと………」


 残ったのはシスターを中心にした纏まりと、カイルとキリカの二人。

 カイルとキリカは二人だけでいて他に誰もいない。

 それならとマオはシスターの方へと移動する。

 途中でカイルとキリカがシスターの方へと合流するかもしれないがマオは楽しみを最後に撮っておきたかった。


「まずはシスターの方へと行くか」


 そしてシスターのいる場所へとたどり着く。

 そこではシスターだけが武器を構えていた。

 他の者たちは皆、盾を構えて距離を取る。

 回復役も同じで最低限は自分の身を自分で護ろうとしていた。


「先にシスターを倒した方が良いのか、これは?」


 槍を突きだしてくるシスターにマオは逆に近づいて相手の攻撃を無効化する。

 武器が槍だからこそ懐に入り込めばリーチのある武器だからこそ連続で攻撃することができなくなる。


「意識を奪ったり、動けなくなるように攻撃したら回復されるんだよな………」


 倒しては回復され、もう一度挑んでくるの繰り返していたら何時まで経っても終われない。

 なら、どうするべきかマオは考える。


「常に動きを封じていれば問題は無くなるか?」


 そしてマオは思いついてしまう。

 回復しても無駄になる方法を。


「武器にするか」


「ぐっ」


 槍という武器を満足に扱えないままの状況から抜け出そうとシスターはマオから距離を取ろうと動き回るが常にマオはシスターの懐へと移動する。

 ならばとシスターは槍を短く持ち替えようとした。

 シスターはマオが自分を相手にしながら何を口にしているのか内容は分からない。

 だが自分を相手にしているのに別のことに気を取られているのが気に喰わなく感じる。


「えっ」


 だから槍を短く持ち突き出そうとした瞬間、目の前にいたマオが消えたことにシスターは驚いた。

 そしてマオはシスターから離れて消えたわけでなく身体を屈めていたせいでシスターの視界から消えていた。

 

「えっ」


 更にマオはシスターの足を掴む。

 シスターは足を掴まれた感触に足元を確認するとマオが掴んでいたことに驚く。

 そして振り払おうと足を動かすが、その前にマオが掴んだ足を持ち上げてバランスを崩す。


「必死に自分の身を護らないと直ぐに自分の意識を失うぞ」


 マオはそんなことを言いながらシスターの身体を逆さまにする。

 自分の持ち方にシスターは何をされるのか想像ができてしまった。


「待ちなさい………」


 必死に止めようとするシスター。

 自分の予想通りにされるのはあまりにもめちゃくちゃ過ぎる。


「お前、今から俺の武器な」


 だがマオはシスターの止める言葉を無視した。

 武器として扱えば意識を失ったり、動けなくなって回復されも再び挑むことができなくなる。

 それを狙ってマオはシスターを武器にする。


「は」


 マオはシスターの足を掴んで振り回す。

 その光景にシスターの近くにいた挑戦者たちは開いた口が閉まらなくなる。

 あまりにもめちゃくちゃで自分に向けられていることも忘れてしまう。


「それじゃあ始めるぞ」


 そして振り回していた勢いのままにマオはシスターの近くにいた挑戦者たちにシスターを叩きつけていく。

 挑戦者たちは自分たちの仲間が武器として振り回されているせいで動くことが出来なくなっている。

 そして、そのせいで何もできないまま直撃していく。


「がっ!」


「やめっ!」


「ふざけんっ……!」


 シスターを武器として挑戦者たちに振り回していくマオ。

 否定の言葉が聞こえているが全く気にしていない。

 むしろ武器としているシスターを見て好都合だと考えていた。


「シスターの意識も何度も叩きつけているせいで無くなってきたな。だから自分の身を護れと言ったのに」


 自分の身を護ることを最優先にしていたら意識を失うことは無かったのにとマオは考える。

 そのお陰でシスターにとどめを刺す必要がなくなった。

 自分の身を護ることを優先していたら、とどめを刺す手間があった。


「あとは結界の中に閉じ込めるか。…………ふっ!」


 回復されて、また挑むことが出来ない様にマオはシスターたちを結界に放り込む。

 それと同時にカイルが突撃して来た。

 その後ろにはキリカもいる。

 どうやらシスターが倒れてから接近して来たらしい。

 その顔は怒りに満ちていた。


「お前……!!」


「何を怒っているんだ?シスターに対しての行動なら例え実力差があったとしても数の差もあるし心理的に有利に立つために当然だろう?お陰で戸惑って上手く対処することが出来なかったし」


 マオがそれを良い終わると同時にいくつかの魔法が飛んできて爆発する。

 どうやらリーネの魔法を参考にしてキリカが攻撃したようだ。


 心理的な面で有利に立つためと言われて理解はするが二人は納得できていない。

 恐怖の対象でもあるが、恩師でもあるシスターを道具のように扱われて怒りを抱く。


「お前はキリカはともかく俺が敵対したら同じようにやりそうだな!」


 流石にキリカ相手には優しくなるだろうと予想してカイルは口に出す。

 それに対して否定の言葉を口にするのと同時に再度突撃をするつもりだ。

 会話をすることで隙を作りだして攻撃するつもりだ。


「いや敵対したらキリカが相手でも同じことをするんじゃないか?」


「は?」


「でしょうね」


 逆にカイルがマオの答えに思考が止まりマオの攻撃が迫る。

 それをキリカがカイルを引っ張って回避させた。


「キリカ?」


 キリカからすればマオがそう答えることは予想していた。

 少しだけ悲しく思うし、恩師に対しての行動に怒りを抱いているが、それでもマオに抱く気持ちは変わらない。

 そういう奴だと知っているし、それが自分に対してだけ本当に特別扱いするようになったらと考えると酷く優越感を覚えれそうだとキリカは思っている。


「キリカはそれで良いのかよ?」


「別に構わないわよ。いつかは私だけを特別扱いするようにさせるつもりだし」


 獲物を見るような目でマオを見るキリカ。

 その様子にマオは無意識に一歩後ろに引いてしまう。

 そしてカイルはマオの行動にキリカに信じられない目を向けてしまう。


「今はそれよりもマオに勝ちにいくわよ」


「へぇ……」


 キリカの言葉にマオは楽しそうな表情を向ける。

 先程までの挑戦者は一撃でも当てることを考えていて勝とうと考えている者は少なかった。

 だから他の者たちよりも期待を向けている。


「ふっ!」


「おぉぉぉぉ!」


 姉弟だからか連携に優れている二人。

 突撃してくるカイルが横にずれるとキリカの魔法が飛んでくる。

 キリカが魔法を連続して撃つ隙間にマオが突撃してくる。

 どちらを避けても、どちらかの攻撃が直撃するように考えられていて厄介だった。


 だがマオからすれば幸いで、カイルとキリカからすれば不幸だった。

 カイルもキリカもマオからすれば遅いし、カイルに至っては接近戦を仕掛けてきたのに腕力も足りない。

 だからマオは焦ることなくカイルの攻撃を避け、腕を掴む。


「え?」


 そしてマオはカイルの腕を振り回してキリカの魔法を防いだ。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ!!」


 当然ながらカイルは魔法を防ぐために利用されて絶叫を上げる。

 キリカの魔法に打ち返すかのように振り回されたから更にダメージを食らっていた。


「カイルはこれで終わりだな」


 回復役もいない以上、カイルはこれで終わりだと投げ捨てる。

 後は残っているのはキリカだけだ。


「最後は私だけね」


「そうだな」


 それを認識してキリカは自分の最大威力の魔法を撃とうと構える。

 最大威力の魔法だけであり発動するのに時間がかかってしまう。

 だが残っているのは自分だけ。

 だから最後の攻撃は真正面から受け止めてくれるだろうとキリカは甘えてしまった。


「悪いが待つつもりは無い」


「おぼっ!?」


 そしてマオは真正面から受け止めるつもりは無く、発動する前にキリカの首を絞める。

 予想外の行動にキリカはマオに視線を向けた。


「…………」


 マオは苦しんでいるキリカの顔をジッと見ていた。

 そのことにキリカは首を絞まられていることも真正面から勝負をしなかったことも、どうでも良くなってしまう。

 だが挑戦の最中とはいえ苦しい。

 だから挑戦が終わったら自分に何かしてもらおうとキリカは思っていた。

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