無双②
「くそっ!全員、いったん距離を取れ!」
マオが反撃もせず、ただ避けるだけで仲間が倒れていくことにリーダ格の冒険者の一人が指示を出す。
その言葉に次々と仲間が倒れていき、仲間割れもし始めそうになったこともあり指示に従う。
倒れた味方を回収しながら距離を取って頭を冷やそうとする。
「今回だけは味方に攻撃を当てられても当たっても許してやれ!気にしていたら本当にマオに勝つどころか一撃も与えられないぞ!」
マオに一撃も与えられないと聞いて挑戦者たちは顔を見合わせる。
そして覚悟を決めたのか頷き合った。
例え自分の攻撃が味方に当たってしまっても気にしないこと、そして許すことをだ。
そうでないと攻撃を当てることも出来ないというのは最早否定できなかった。
「………覚悟を決め過ぎじゃないか?」
マオはその様子を見て引いた様子を見せる。
自分に勝つために色々と覚悟を決め過ぎだと。
自分に勝ちたいというのは前々から知っていたが、その度合いまでは知らなかった。
「いくぞぉぉぉ!!!」
「「「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」」」」」」
そして同時に羨ましく思う。
マオには強敵を相手に手を取り合って挑んだ経験が無い。
それがどんなものか興味があっても体験することは出来なかったし、これからも無かった。
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
死ねば良いとは思っていない、それでも挑戦者は殺す気で剣をマオに向けて振り降ろす。
これもマオの強さを信頼しているからこその行動だ。
自分のせいでマオが死ぬなんて夢にも思っていない。
「当たれぇぇぇぇぇ!!」
それは他の者も同じで殺意が溢れる魔法を撃っておきながら当たれと叫ぶ。
死ねとか、傷つけとか、喰らえとか、攻撃的なモノではなく当たれと情けなかった。
「弱い」
人間サイズの台風が炎を纏ってマオへと襲っていた。
普通の相手なら、それが直撃したら炎に焼かれるだろう。
それを防ぐために障壁を張るか避けるかもしれない。
だがマオはその二つを選ばなかった。
「ちっ!」
マオは裏拳を叩きつけるだけで無効化した。
いや威力に関しては上だったのだろう。
何人も近くにいた挑戦者たちはそれに巻き込まれないために距離を取った。
巻き込まれたら、それで意識を刈り取られるかもしれないと思ったのかもしれない。
「まだまだぁ!!」
そして、もう一度攻撃するために接近する。
あまりにも近く避けられた攻撃が他の挑戦者に当たってしまっているが、今度こそ誰も気にせずマオへと攻撃を続けていた。
マオが剣を避ければ隣にいた仲間に当たり、魔法を避ければ後ろにいた仲間に当たる。
「…………必死だな」
そして、その言葉を聞いて更に勢いが強くなる。
挑戦者たちからすれば多くの数で一斉に攻撃しているのに感想を口に出している余裕があるのが気に喰わなかった。
火の魔法を撃ち、風の魔法で威力を強め、攻撃が当たるように接近戦で妨害しようとする。
それら全てをマオは避けるだけ。
決して反撃をせずに避け続ける。
マオもどれだけ避け続けることが出来るのか面白半分になっている。
避けた結果、挑戦者に攻撃がぶつかって数が減るがそれも含めて面白くなっていた。
そして、倒れた挑戦者が回復してまた挑んでくるのが楽しい。
倒れる前とは違う方法で挑むから面白い。
それでも数だけは多いから、どうしても同じ方法で挑んでくる者も多いが。
「くっそがぁぁぁぁ!!!!」
それに気づいているから挑戦者たちはマオへの攻撃に更に力が入る。
マオにとって自分達の挑戦が娯楽扱いされているからだ。
挑戦者たちはそれを否定したくてしょうがない。
「何でだ…………」
マオが強いのは知っている。
それでも全く攻撃を当てることが出来ない。
街にいるほとんどの冒険者で挑んでも攻撃を当てることすら難しい。
どうして、ここまで実力者があるのか不思議に思い悔しさも思える。
「何で…………」
何をしても余裕をもって避けられる。
剣を振り降ろしても、槍を突きだしても、弓を射っても、魔法を撃っても全て当たり前のように避けらる。
段々と何をしても無駄なんじゃないかという考えが浮かんでくる者もいる。
「なんでだよ……………」
年齢は変わらないどころか年下。
しかも酒を飲まずミルクを飲むような相手。
いくら強いことは知っていも実力差を実感させられるのは悔しい。
しかも戦力的にも圧倒的に有利なのは挑戦者なのに、それでもまともにダメージを与えられないという格の差を見せつけられて自分はこの程度なんだと心が折られそうになる。
「なんでなんだよ……………」
目の前でマオは何人もの挑戦者の攻撃を一歩だけ動くことで回避する。
それが完璧にそこしかないタイミングだったのが目に焼き付いた。
もし少しでもズレていたら何人かの攻撃が直撃していたはずだ。
それでも当たり前のように実行した度胸はどこでついたのか考え思いつく。
「やっぱりソロで行動しているからか……」
誰もフォローはしてくれず一つのミスが死につながる状況でソロで行動しているから度胸があるのかもしれないと予想する。
強くなるために自分もソロでダンジョンに挑んだ方が良いかもしれないと考える。
そして自分がダンジョンにソロで挑む姿を想像して身体を震わせる。
「無理だ………」
想像してソロでダンジョンに挑むのは無理だと諦める挑戦者。
何故なら普段からパーティでダンジョンを挑んでいるのだ。
そしてパーティを組んでいるからこそ役割を分担することが出来る。
それを一人で全てこなすと考えると諦めてしまう。
モンスターの察知、怪我や毒などの治療、罠の回避、そして戦闘。
明らかに手が回らない。
なんでマオはソロでダンジョンに挑むことが出来るのだと理不尽に思う。
「くっそ……」
マオへと挑んでは攻撃を何度も避けられる挑戦者たち。
実力差を実感して諦めている自分とは違い、何度も挑んでいる姿にも嫉妬してしまいそうになる。
何で彼らが諦めないのかも疑問に思ってしまう。
「まだまだ!!」
「そこぉ!!」
「舐めるな!!」
更に注意深く見ていると挑んでいる皆は笑顔だった。
自分より強い相手に挑んで全く相手にされていないのに何が楽しいのだろうと思う。
「このままじゃ終われないな………」
だけど、どんな理由であれ圧倒的に格上相手に挑み続けている姿に自分だけが諦めているわけにはいかないと考えてしまう。
それに楽しそうな笑顔で挑んでいる姿が自分と違って少しだけ苛立ちを覚える。
そして剣を構え気合を入れ、自分にとって絶好のチャンスを探る。
「らぁぁぁぁぁ!!!」
そして人生の中で最も優れた攻撃をマオに対して向ける出来た。
「驚いた………」
その結果、その攻撃はマオに受け止められる。
だが手にした剣をマオは掴んでいたが、その表情は驚いている。
まさか避けることが出来なかったからだ。
その表情と言葉に挑戦者は嬉しくなる。
一矢報いたからだ。
だが、その一瞬後にその表情は消える。
自分の攻撃は受け止められダメージは受けていない。
そして、この程度で満足していたらこれ以上の結果はでなくなりそうだった。
「あぶなっ」
そしてマオは剣を受け止めた手で振り回し、接近してきた挑戦者を剣の持ち主ごと殴り飛ばす。
面白半分で避けることに専念していたが、それを破られたため再び反撃することにマオは行動を変えた。
そして自分のことをやはりまだまだ未熟だと反省する。
結局避けるだけで終わらなかったのだから。
それでも、まだ勝負を積極的に終わらせる気はマオにはまだまだ無かった。
「すごいっ……」
そしてマオの実力に純粋に憧れている挑戦者は感動していた。
マオが一人に対し圧倒的な数の差があるのに傷一つついていない。
どうやって傷をつけるか考えても全く想像できなかった。
「だったら」
だから憧れている挑戦者はがむしゃらにマオに挑んでいく。
全く想像することが出来ないのなら自分の全てをぶつけることしか出来ないと。
突撃しても避けられ、別の挑戦者の攻撃が当たっても何度も挑んでいく。
「今度こそ!!」
視界の端ではマオの避けた攻撃が原因で意識を失ったはずの仲間が意識を取り戻して、もう一度挑んでいる。
更に自分達の後ろを確認すると意識を失った者を運んだり回復させている者がいた。
「ありがたいな……」
意識を失っても回収して回復してくれるのは有難いと思ってしまう。
お陰で何度もマオに挑むことが出来るからだ。
「いくぞ」
マオに接近する。
だがマオが横に避けるのと同時に火の魔法が飛んできて燃えてしまう。
慌ててかき消すと今度は真正面から衝撃が飛んでくる。
「すまん!」
「っ気にしないで下さい!」
正体は一緒にマオへと挑んでいる仲間だった。
マオに攻撃を避けられてぶつかったようだ。
謝罪を言われたが気にしないと返すと同時にぶつかってきた仲間が今度は横に吹き飛ぶ。
「ぐっ!?」
どうやら今度は風の魔法が飛んできたらしい。
かなりの勢いで飛んでいく。
「さてと………」
そしてマオがその言葉と同時に構える。
それだけで挑戦者たち全員が動きを止めた。
「どうした?俺はまだ終わらせる気は無いよ」
動きが止まったことにマオは疑問に思って口に出すが誰も動けなかった。
マオの速さを知っているからこそ警戒して動けない。
「「「「「「「「「………………」」」」」」」」」」
マオは動かないし、挑戦者たちも警戒して動く様子が無い。
だからこそ挑戦者の一人が動き始める。
誰かが動かないとずっとこのままだからだ。
それに本気でマオが終わらせに来たのなら既に終わっている。
だから挑戦者の方から動く必要があった。
「はぁっ!!」
「ふっ!」
そして槍を手に襲い掛かる。
それをマオは刃のない部分を殴って槍を壊す。
「は?」
武器を壊されたことに思考が止まってしまっている挑戦者を置いてマオは次の攻撃へと身構える。
攻撃を避けるだけでなく、今度は防いだり受け流したりと行動を変えるつもりだ。
それでも先ほど言ったようにまだ終わらせるつもりは無い。
だからマオの方から攻撃をするつもりは無かった。
「っ喰らえ!!」
「もう少し威力を強くしろよ………。簡単に相殺できる」
人の大きさ程の火球を作り出してマオに向けてくる。
それを見てマオは呆れる。
マオ自身も同じ魔法を撃って相殺する。
「…………?」
そしてマオは更に疑問に思う。
最初は似たようなことをして接近した挑戦者が武器を振るっていたのに今はいない。
まだ距離を取って警戒している。
「まぁ良いや」
飽きるまでは相手の挑戦を待とうとマオは考えていた。
「っ…………」
そして挑戦者たちはマオの行動が変わったことに一歩引いてしまう。
最初は反撃もありで、次は回避に専念していた。
最初と同じようだが実際は違う。
なにせマオは最初は反撃をしてもダメージを与えないように配慮していたが、今は容赦なくダメージを与えてくる。
味方だけでなくマオからも攻撃が飛んでくると考えると、何も出来ずに終わってしまいそうだと挑戦者は二の足を踏んでしまう。
「どうした?」
全く攻撃をしてこない挑戦者たちにマオは視線を向ける。
それだけで視線を向けられた方向の挑戦者たちは一斉にマオへと挑んでいった。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
一番最初に辿り着いた挑戦者はナイフを突き刺そうとする。
それをマオは接近してきた挑戦者を拳で薙ぎ払うことで対処する。
それだけで他の接近してきた挑戦者も一緒に薙ぎ払うことができ、同時に離れた相手にも薙ぎ払われた挑戦が飛んできて攻撃の妨害をされる。
「「「火嵐!!」」」
何人かが同時に同じ魔法をマオに向けて撃つ。
同じ魔法だからか、それとも目的が同じだからか相殺されることは無く相乗していって威力が跳ね上がる。
その威力は撃った本人たちも、そしてマオも驚いていた。
「かき消せるか?」
その威力にマオは相殺できるか悩む。
本当なら避けるだけで良い。
それだけで対処は終わる。
だがマオは拳だけで相殺できるか興味を持った。
「やってみるか」
マオは気合を入れて拳に魔力を集める。
その間にマオに攻撃すれば良いかもしれないが、相乗して威力が跳ね上がった魔法のせいで視界が悪くなり狙いが付けられない。
そして接近しようとしても近づけない。
「っ」
そしてマオは一息を吐いて拳をぶつける。
その結果、相乗して威力が跳ね上がった魔法は消滅し比較的近くにいた挑戦者たちは倒れてしまった。
音にならなかった音が挑戦者たちの全身を叩いたせいだ。
拳一つで魔法を消し飛ばしたマオに挑戦者たちは自分が誰に挑んでいるのか心を新たにしていた。




