無双①
「さてと」
マオは街の外に出て周りを見渡す。
一見すると誰もいない様に見えるが、マオは視線を感じていた。
それが何処に挑戦者がいるのかマオに伝えてしまう。
「どうしよっか」
マオはこちら側から動くか、それとも受け身で相手をするのか悩み始める。
例え、どっちを選んでも何も問題は無い。
それだけの実力差があるのだと自信を持っていた。
「火弾!!」「水弾!!」「土弾!!」「風弾!!」「雷弾!!」「氷弾!!」「光弾!!」「闇弾!!」
そうして悩んでいると様々な属性の魔法がマオに襲ってくる。
どうやら先手を奪われたらしい。
だが、これで方針は決まった。
挑戦者の攻撃を受け止めていくことにする。
「おぉ………」
その攻撃は隙間が無く逃げ場が無い。
視界全てが攻撃魔法で埋まってしまうのはなかなかに無い状況でマオは色とりどりなこともあり、綺麗で少しだけ感動する。
後ろを振り返っても同じ状況。
逃げ場が無かった。
「数は多いけど、初級魔法だしな………。しかも幾つかはこのまま動かなければ当たらなそうのもあるし」
どう対処すべきかマオは悩む。
全身に障壁を張れば防げるかもしれない。
だが同時にこれだけの魔法の数を撃ってきたのだ。
更に魔法の数が増えれば耐えきれない可能性もある。
「うん。なら反撃するか。相手にダメージを与えない様に」
全方位から襲ってくる魔法にマオは、自分も同じように全方位へと魔法を撃った。
ただし、それは襲ってくる魔法とは比較にならない太さであり、一本で相手の魔法を数十本ほど消し去る威力があった。
「まぁ、こんなもんか」
それを全方位に数十本ほど撃つことで自分に向かってくる魔法を全て相殺する。
視界を覆うほどの魔法を見せられたこともあり、次は何をしてくるのかとマオは期待さえしていた。
「はっ!!」
そして遠くにいる挑戦者たちに視線を向けると直ぐ近くに拳を構えている挑戦者がいた。
「もう少し鍛えたら?」
いつの間に近づいていたのか少しだけ驚き、マオは手のひらを向ける。
そして放たれた拳は簡単にマオに受け止められた。
「ぐうう……!!?」
それだけでなく掴まれた拳をマオは握りつぶそうとしていた。
必死に拳を掴まれた挑戦者は離れようとするが力の差があって逃げられなかった。
「ふっ!!」
それを助けるためかマオに剣を持った挑戦者と更に背後から魔法が襲ってくる。
剣を受け止めたら魔法を避けれないし、魔法を防ごうとしたら拳を掴んでいる相手が邪魔で受け止めきれない。
いや本当は問題は無いがマオは拳を離して避ける。
「あぶなっ………」
そして咄嗟に屈んで後ろから来た襲ってきた後ろ回し蹴りを避ける。
避けなければ頭に直撃していた
それに他の者たちよりも頭一つ高く感じられる実力に誰か確認する。
「うん?」
そこにはシスターがいた。
頭一つ高い実力だと感じた正体がわかって納得したが、同時に違和感を覚える。
それはシスターの服装のせいだった。
「なぁ……。今、俺って後ろ回し蹴りをされた?」
「え?………そうだけど」
「それがどうかしましたか?何か文句でも?」
思わず質問してしまうマオに、これまた正直に返す挑戦者たち。
シスターも後ろから蹴ったはずなのに避けられ、しかもどういう攻撃か理解されていたことに悔しく思いながらも聞き返す。
「その服で?」
マオが指差したのはシスター服。
正直に言って動きにくそうにしか見えない。
特に足回りが不便そうだ。
それなのに後ろ周し蹴りを出来たのが不思議でしかなかった。
「ふふっ」
本当に疑問に思っており、そして感心している姿にシスターはおかしくなって笑ってしまう。
ロングスカートで動きにくそうに見えているらしい。
「動きにくそうに見えるだけで、実際は問題ありませんよ」
「そうなのか…………」
マオは服装が黒いから重そうに感じてしまったのかと想像する。
それでもマオからすれば修道服で挑んできたのはおかしく感じる。
何せロングスカートだ。
挑戦に来てスカートなのは絶対におかしい。
今まで他の挑戦者たちの中で他にスカートで来たのは流石に記憶にない。
初めて会ったときもシスターはスカートだったが、それはマオよりも自分の方が強いと考えていたからだろう。
元勇者だし勝てると思ったから、何も疑問に思わなったが実力差を知っているのなら、もっと動きやすい服装にしたらどうだとマオは思ってしまう。
「それに…………」
続けられた言葉にシスターを確認しようとすると中身を見せようとするかのようにシスターはスカートを翻そうとしている。
その光景にマオは思考が止まり、行動が固まる。
「そこっ!!」
「殺った!!」
「これでぇ!!」
その好きに上から、背後から、前から突撃してくる挑戦者たち。
マオはそれを避けていく。
まず上から剣を振り降ろして来た挑戦者は障壁を張った腕で受け流す。
前から突撃してきた槍使いは刃を同じく障壁を張った拳で殴って逸らす。
そして後ろから突撃して来た戦鎚使いは殴り逸らした二人の前に出て盾にすることで防ごうとする。
後ろから突撃してきた戦鎚使いはマオの予想通りに突撃をすることができなくなった。
「色仕掛けって………」
マオは仮にもシスターが色仕掛けをするのなんてと思わず非難の目を向けてしまう。
そもそも勇者はダンジョンに挑んで破壊するのが役目だ。
だから相手をするのは基本的にモンスターのはずなのに、どこでそんなものを覚えたのかと疑問に思う。
「ふっ……。男の子ね?」
「いくら痴女でもいきなり脱がれたらそりゃ驚くだろ」
次の瞬間、マオの目の前に槍が襲ってくる。
顔を逸らして避けることは出来たが、ここ最近で一番の速さだった。
「あぶなっ!」
避けることは出来たがマオはかなり驚く。
今まで生きてきた中でもトップクラスのスピード。
これが本来のシスターの速さなら油断することも出来ない。
「誰が痴女でしょうか?」
「スカートの中身を見せようとする相手は痴女だろう?それに手馴れているように見えるし。ダンジョンには色仕掛けが効くモンスターがいるのか?」
「…………知らないの?」
色仕掛けが効くモンスターがいるのかという言葉に逆に知らないのかとシスターに驚かれるマオ。
その様子にいるのだと察してマオも驚く。
その間も攻撃が飛んでくるがそれを全て避け、受け流していた。
「くそっ!」
「会話に意識を向けているのに!」
「当たれぇぇぇ!」
「始めて聞きました。性的な目で見てくるモンスターもいるんですね………」
「……………そうよ」
ありとあらゆる攻撃を別のことに意識を向けながら避けていくマオを見てシスターは表情が消える。
全く別のことに意識を向けているのに避けていく姿は全く脅威にも思われていないことを雄弁に相手に伝えていて激しくプライドを傷つけている。
それはシスターも同じだった。
「そういうモンスターもいるから色仕掛けも手馴れているのか。…………カイルやキリカも色仕掛けを覚えているのか!」
「今度使って上げましょうか?」
「男は対策だけだ。つーか男が使って誰得だよ」
「女の子とか。顔は良いし、一度そこらの女の子にやってみたら?」
「好きな相手でも無いのにそんなことをしたらクズだろ」
「やったら姉として殺すわ」
「誰もやると言ってないんだけど!?」
カイルが剣を振るい、キリカが槍を突きだす。
カイルが火の魔法を使えば、キリカが風の魔法を使って魔法の威力を高める。
カイルが距離を取って大技を使おうとすれば、キリカは逆に接近して妨害を防ごうとする。
姉弟だからこそ息の合っている連携にマオは受け止め続けていた。
「喰らえ!!太陽の墜落!!」
そしてカイルの魔法が完成する。
それは炎の球体で太陽のように見える。
それがマオを目標に堕ちてくる。
どれだけの熱量があるのか、まだ何十メートルか離れているのに炎の熱を感じた。
それを直撃させるためかキリカはマオからは離れようとせず、行動の妨害をし続けている。
「…………いつまで妨害し続けるつもりだ?」
全く離れようとしないキリカにマオは興味を持つ。
このままでマオと同時にカイルの攻撃を受けてしまう。
どのタイミングで自分の前から離脱するのか知りたかった。
そうでなければ、既にこの場から離れていた。
キリカは必死に妨害しているが、マオからすれば問題にもならない。
「今!」
そしてマオとカイルの魔法が一メートルも離れていない距離になってキリカは消えた。
動いた姿が全く見えなかったことにマオは驚く。
マオにも見切れない速度で動くことができるのなら、マオに勝つことは簡単なはずだ。
それなのに今まで勝てなかったのは、今ようやくその速さで動けるようになったのか、もしくは何かの条件があるか。
それにマオからはキリカは存在自体が本当に何処かへと消えたように見えていた。
つまり、それは転移したんじゃないかとマオは想像して笑みを浮かべた。
転移は自分の存在を別の場所に距離と関係なく移動することができる魔法だ。
それはあらゆることに応用することができ、そして自分以外にも移動させることが出来るからこそ習得するにはかなり難易度が高い。
それを使いこなしていることにマオは感心し、シスターは教え子がそれだけの実力を持っていることに感動し、他の多くの者たちはやはりマオの恋人だなと思っていた。
「すごいな………」
それを見せられてマオも拳に魔力を集める。
カイルの魔法はマオに直撃する寸前で髪に触れるか触れないかの距離。
「おらぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ!!!」
マオはそれを魔力を集めた腕でぶん殴る。
魔力は使用者のイメージによって魔法へと変わる。
曖昧なイメージだとちゃんとした形にならないし、魔力そのものが足りないと威力も出ない。
特に魔力が足りない場合は不発で終わるが、イメージが不足だと爆発したり魔法が撃った本人にも襲ったりと、どんな結果になるのか分からなくなる。
だからまずはイメージがしやすいように魔法にはわかりやすい名前が付けられているのが多い。
だが逆にいえばイメージと魔力が足りていれば魔法は発動できる。
マオが今イメージしているのは目の前に太陽のような炎を殴り、消し飛ばすこと。
だから気合を入れてマオは拳を拳を突き出した。
「くそ……………」
その光景を見てカイルは悔しさを覚える。
自分の最大の魔法を拳一つで無効化されたのだ。
当然だろう。
例え魔力を拳に集めた結果だと分かっていても、見た目の印象が強すぎる。
「まだだ!」
だがカイルは悔しさを覚えても、そこでショックを受けて終わることは無かった。
相手はマオだからという信頼で次の行動に入っている。
「俺たちも加勢するぞ!」
それを見て他の者たちも攻撃に参加する。
カイルの最大の攻撃を見て、そしてそれを無効化したマオに実力差を感じて腰が引けてしまったが、カイルが最大の攻撃を無効化されたことに気にもせずに直ぐに行動を起こしたことに他の者たちも動き始める。
マオが強いのは当たり前で、このぐらいなら出来ると信頼していたのを思い出せたおかけだ。
「急に他の奴らもやる気を出し始めたな………」
マオは休憩は終わりかと、その様子を眺める。
最初の攻撃と連携以外は何も行動しなかったから驚く。
とはいえシスターにカイルやキリカという勇者の実力者がそれぞれ連携を組んで挑んできたため、その邪魔になるかもしれないと加勢しなかったのもしれなかった。
「……………っ」
最初とは違い魔法の攻撃だけではなく、挑戦者自身も突撃してくる。
いくつか魔法も飛んできているが、それよりも挑戦者自身が多い。
強力な魔法で消し飛ばすわけにもいかず、前後左右をかくにんしても視界が挑戦者で埋め尽くされていた。
「「「「「「「「「おぉぉぉぉぉ!!!……………がっ!?」」」」」」」」
そして当然のように、剣が、槍が、魔法が飛んでくる。
あまりにも距離が近く攻撃を一度でも避けただけで他の挑戦者に当たっていた。
マオはこの光景を見て、やはり連携は大事だなと学ぶ。
これだけでも挑戦を受け入れた価値はあるんじゃないかと考えていた。
そして、それは挑戦者たちも同じだと考える。
知識では知ってはいても、やはり実際に経験した方が記憶に残る。
「はぁ………」
避けるだけで他の挑戦者が減っていく。
そうでなくても挑戦者の攻撃が他の挑戦者に当たりそうになって慌てて止める光景もあり、最初は視界が埋まっていたのが段々と抜け出す隙間が空いてくる。
「ま……がっ!?」「逃げるな!」「くそっ…!」「がっ…!?テメェ!?」「邪魔だ!」
マオが挑戦者の攻撃を避けて逃げ出すと同士討ちすら始まりそうな気配になっている。
マオ自身の自信でまだ一人も倒していないのに仲間割れで結果的に勝つことになりそうで思わず苦笑を浮かべてしまった。




