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転生勇者の挑戦④

「敗けたなぁ」


 意識を失って回復したリーネは開口一番にそれを口にする。

 最終的にリーネたちはマオの手によって気絶させられ挑戦は終わった。

 最後は見切ることができなかったことに実力差を改めて実感させられた。


「そうね………」


「そうですね………」


 満足げなリーネと違い、女性二人は不満げな表情になっている。

 リーネが最強でないことは別に良い。

 それよりもリーネがマオに向ける視線が気に入らなかった。


「他の所に行くよりもここにいる方が強くなれるし、拠点はここにするか」


 強くなることに意欲的なのは良い。

 だが女である自分達よりも男に意識を向けているのが気に喰わない。


「よっ。相手にはなっていなかったけど、お前ら頑張っていたじゃねぇか」


「本当にね。今度は私達と勝負する?良い勝負は出来ると思うわよ?」


「そうそう。そうそうお前らの戦い方は勉強になるし。まさか勿体ないとはいえ食材を武器に使うとは考えたことも無かった」


 その言葉に女性二人は気まずそうに顔を逸らし、リーネは言葉の意味が分からずに首を傾げてしまう。

 そして少しして理解したのか目を逸らした。

 自分のしたことが、この世界では忌避されることを思い出したせいだ。


「いや、あのその…………」


「どうした?」


「…………もしかして相手が俺だから使っただけで、あとは危険な状況でもない限り使う気は無いのか?」


「そう!……ってマオさん!?」


 リーネが勉強になると言われて勝負を挑まれても戸惑っていることに疑問を抱いたが、マオの言葉で理解する。

 確かにリーネの戦い方は勿体ない。

 実際にマオとの戦いは参考になったが見ていて不快にもなった。

 だが見ていて勉強になったのは事実だし、相手がマオだからと言われると納得もしてしまう。


「それじゃあ仕方ないな。ところで食材以外にも似たような現象を引き起すものは無いのか?」


「単純に食材の方が意表を付けると考えて使っただけなので色々とありますよ。単純に高温の物質に水を掛けただけなので」


「単純な動作だと思ったけど、それだけなのか!?」


「はい。実際に食材を使わなくても爆発は起こせましたし」


 そう言われて確かに二度目はそうだったと思い出す。

 単純な魔法だけで爆発を起こしていた。

 だが同時にそんな簡単に教えて良いのかと考えてしまう。


「なぁ……。聞いたのは俺たちだけど、そんな簡単に教えて良いのか?」


「大丈夫です。どれだけ威力が高くても、それ以上に魔法で良いだけですから」


 そういえばマオは直撃して無傷だったなと思い出す。

 あれだけの爆発なら普通は直撃したら無傷で済まない筈なのに、マオは全くダメージを受けていなかった。

 そのせいで自信を失って教えても大したことでは無いと思っているのかもしれない。


「リーネ、一度宿に帰るぞ。相談したことがある」


「え?」


「……そうですね。申し訳ありませんけど、宿に帰らせてもらいます。今後のことで相談したいですから」


「あぁ………」


 パーティの二人の言葉にリーネは相談したいこととは何かと考え、ギルドの者たちも予想する。

 中にはこれからのことだと言っているし、もしかしたらパーティの解散もあり得るのかもしれないと想像している者もいた。


 そして、それを予想した者たちの中には睨んでいる者もいた。

 リーネを最強だと信じていて、そうでなかったら失望して解散するような奴らは身勝手だと考えたせいだ。

 自分達もマオが最強だとは信じているが、世の中には更に強い者がいてもおかしくない。

 聞いただけでは信じられなくても実際に見たら上には上がいると納得する自信がギルドに者たちにはあった。


「なぁ。もし問題が無かったら何に対して話し合うのか教えてくれないか?」


 だから踏み込んで質問しようとする。

 もし、それで解散するようだったら説教をするつもりだった。


「………私達パーティの問題なんですが。まぁ、良いです。先程リーネ様が言っていた拠点をここに置いて活動するという話です」


「あぁ、なるほど。好きなだけ話し合ってくると言い。必要ないというわけじゃないけど、ここにも勇者が住んでいるからな。そこのリーネを含めると三人。いや四人になるのかな?」


 拠点にするかどうかの話し合いだと言われて睨んでいた視線は無くなる。

 予想していたこととは違って安心していた。

 そして、たしかにそれは腰を据えて話し合うべき内容だった。


「四人?」


 だがリーネたちは他に勇者がいると聞いて興味を持つ。

 宿に戻る前に話しを聞こうと思ってしまう。

 自分達を除いても三人も勇者がいるなんて、どんな者たちなのか興味があった。


「あぁ。まず二人は双子の勇者で、もう一人の元教え子らしい。引退はしているからシスターだが、この街でもトップクラスに強い」


 元勇者まで居るなんてこの街は戦力は高くないかとリーネは冷や汗を流す。

 シスターは教会で新しい勇者たちを鍛えれるほど経験豊富だ。

 

 たしかに、この街にも教会はある。

 だが勇者は力の問題もあり鍛えるには広大なスペースが必要なのに、この街にはそれが無い。

 ここで新しい勇者を鍛えているとは考えられない。

 おそらくは別の街から来たはずだ。

 そう考えると何故シスターがこの街に来たのか疑問だ。

 シスターである以上、教育者でありその仕事があるはず。


「なんでシスターまで………?」


「マオの勧誘だよ。あいつ基本的にソロだからな。いい加減にパーティを組んでくれって頼むために来たんだ」


「…………マジで」


 新しい勇者を教育している経験豊富な勇者も勧誘に使われるほどマオは強いのだとリーネは理解する。

 それだけ強いのなら勝てないのも納得するし、最強だというのも嘘でなかったと納得した。


「なるほどな。それよりも早く宿に戻って相談するぞ」


 それだけマオは強いのだと女戦士も理解してリーネの首根っこを掴む。

 興味が湧いて話を聞いたのは自分達だが、いつまでも聞いていたら話し合う時間が無くなってしまう。

 だから強引に話を終わらせて運んで行った。




「それでリーネ。お前は本当にこの街を拠点にして活動していくつもりか?あいつらの言う通り元も含めて勇者が四人というのは過剰戦力だと私は思うが?」


「たしかにそうかもしれないけど、ここにはマオさんがいる」


 先程も言っていたが急にマオに対してさん付けをしていることに女戦士は不満そうな表情を浮かべる。

 それはリーネも同じだ。


「なぁ?彼と同じ街にいて何のメリットがある?あいつ個人と戦い続けるよりも他に多くの相手と戦った方が強くなれると私は思う。弱かったしても他の相手もいた方が良いんじゃないか?」


「それは………」


 強くなるために特定の強い誰かと戦い続けるより、色んな相手と戦って経験を得た方が良いという意見にリーネも確かにと考えてしまう。


「そうですね。拠点は違う場所にしませんか?そして偶に寄って勝負を挑んだ方が私は良いと思います」


 そして神官の少女も拠点は別の場所にしようと促す。

 少女からすれば、この街を拠点にするのは嫌だった。


「それでも俺はマオさんの近くにいたい」


「「…………」」


 二人にとって聞きたくない言葉がリーネの口から出てくる。

 リーネの瞳はキラキラと輝いており、それを向けているのはマオに対してだ。

 自分達に向けるよりも、その視線の向ける熱量が上なことに二人は不満だ。

 二人は男よりも自分に視線を向けて欲しいと思っていた。


 だがリーネはマオに意識の大半を割けているために全く気付く様子が無い。

 頭の中には今もどうやったらマオの実力に近づけるか。

 もしくは倒せるのか考えていた。


 ここまでリーネがマオに意識を向けるのも、今まで出会ってきた中で冒険者や勇者はほとんどが武器を持っていたせいだ。

 偶に持っておらず格闘で戦う者もいたがリーネより弱いか同程度の実力者しかいなかった。


 その中でマオはリーネを圧倒した。

 魔法も使っていたが、それは防御のみで攻撃に関しては武器を持たずに圧倒された。

 その姿が頭の中に焼き付いてしまった。

 リーネにとって、素手のみで圧倒する姿は何よりもカッコよく見えてしまい憧れてしまっていた。

 だからリーネは憧れた人に追いつくまで、この街を離れたくなかった。

 次にあったら弟子にしてもらって師匠と呼びたいとすら考えていた。


「「…………」」


 それが予想できて二人は不満だ。

 可愛い女性二人が目の前にいるのに、それよりもリーネは男に夢中になっている。

 確かにマオは圧倒的な強さを持っており、自分達もそれに焼き付かれてしまった。

 どれだけ時を経ったとしてもマオのことを鮮明に思い出せる確信がある。

 それでも二人はリーネにはマオのことよりも自分のことを考えていて欲しいと思う。

 ずっと近くにいるのだ。

 誰よりも意識してもらいたかった。




「それで新入りのリーネは強かったの?」


「いや、お前らよりは弱い」


 マオはキリカと一緒に夕食を食べている最中に質問を投げかけられる。

 それに対して答えを返すとキリカはそうなのねと返す。

 場所はキリカとカイルの家だった。


「実際にどれくらいなんだ?」


 そしてカイルも話に加わってくる。

 それに対してマオは少しだけ悩みながら答えた。


「多分だけど、彼の使う爆発も二人ならダメージを負うかもしれないけど大半は防げると思うから油断しなければ勝てるんじゃないか?」


「そんなもんか?」


「そんなもん」


 あれだけの爆発を起こせるから、もっと強いと思っていたが実際は思ったよりも弱いらしい。

 少しだけ予想外だった。


「ところで明日はパーティを組んでどこかに行かない?」


「悪いけど明日はソロでダンジョンに挑もうと思っている」


 キリカはマオにパーティを組もうと提案するが断られて不満そうな表情を浮かべる。

 それに対してマオはキリカの髪を撫でたり首を触ったりとする。

 キリカはそれに対して照れ臭そうに笑って機嫌が良くなる。


 それを見てカイルは色々と吐きそうになった。

 実の姉の女の顔を見るのは色々とキツイ。

 そしてイチャ付いているのも見ていてキツかった。


「なぁ、俺がいるんだけど?」


 耐えきれなくてカイルは声を出すが、聞こえていないのかイチャつくのを二人は止めない。

 頼むから二人きりで他に誰もいないところでしてほしいとカイルは祈っていた。


「…………それにしてもチョロいな」


 カイルはキリカが不満を浮かべていたのに、ちょっとイチャついただけで誤魔化されて機嫌が良くなったことにチョロいと思う。


「誰がチョロいって?」


「うげ」


 マオとイチャついて聞こえていないと思ったのに、聞いていて地獄耳だとカイルは思う。


「それよりもマオ。明日はソロでダンジョンで挑むって言っていたけど、どこのダンジョンに挑むんだ?」


 誤魔化そうとしてカイルはマオに話しを振る。

 キリカも誤魔化そうとしていることは気付いていたが、どこのダンジョンに挑むのかは気になるため意識をマオに傾ける。


「取り敢えずはモンスターが多く出現するダンジョンだな」


 ひたすらに戦うつもりだなと、二人は理解する。

 もしかしたら一緒に行動しようとしても邪魔になるかもしれない。

 二人は今回は諦めようと考えた。

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