寝取られ勇者とその友人④
「すいません。マオという男の子を知らないでしょうか?」
カイルとキリカの教師だったシスターは酒場につくと早速、マオについて情報を集め始める。
「マオ?あいつなら今日はまだ来ていないな。もしかしてパーティの勧誘か?」
「まぁ、そんなものです」
マオをパーティの勧誘に来たと頷くと否定される。
「止めとけ止めとけ。よく他所のパーティに襲撃されているし、ソロが気楽で良いと言って行動する奴だぞ。相手にしないって」
「襲撃されるからパーティを組まないけど、そもそも敵視されているから襲われているんだよな」
「でもパーティに入るのを断ったから襲撃されるって理不尽じゃね?」
「そもそも武器を奪って売っているじゃん」
「何を言っているんだ?武器を奪っているのは襲撃してきたヤツだけだろ?だから悪いのは相手だろ」
「そうそう。それに最近は挑む迷惑料として武器を奪われて売られるの前提で挑みに行く奴もいるし」
「あぁ~。マオの奴、強いもんな。強い奴と実際に戦って引き上げてもらえるんじゃ挑む価値はあるか」
「俺らも挑む?」
「それは面白そうだ」
そうして笑いが溢れる酒場。
話を聞いていてマオは強すぎて嫉妬もされているのだとシスターは理解する。
だけど同時にその強さで尊敬されていることも理解できた。
「話には聞いていましたが、そんなに強いのですか?」
「まぁ、そうだな。もしかしたら、ここにいる全員で挑んでも勝てるんじゃないか?」
その言葉にシスターはマオがそれだけ強いのだと口を吊り上げる。
彼さえ勇者のいるパーティに入れば、それだけダンジョンの破壊数が増えると思っていた。
「それはそれは挑みがいがありそうです」
マオという子は男の子だとシスターは知っている。
それなら喧嘩を売って勝ち、上手く挑発すればパーティに入れれるだろうと考えている。
この場にいる全員に勝てると言っても、全員が自分より弱いと感じていた。
元勇者である自分なら勝てると確信も抱いていた。
「おっ、挑むのか?あいつ女相手でも容赦なく腹に拳を叩き込んでくるからな。無理だと思ったら諦めろよ」
そんなアドバイスも受けるが勝つのは自分だと確信しているのもあって話半分でシスターは聞いていた。
「ありがとうございます。それでマオという男の子は今はどこにいるのでしょう?それか、ここで待っていたら来ますか?」
「多分、ここで待っていたら来るんじゃないか?あいつ、ここのミルクが好きだし?」
「ミルク?酒場に来て、そんなものを頼むんですか?」
健康には良いかもしれないが酒場にはふさわしくない飲み物だとシスターは考える。
子供っぽいよな、と聞こえてくる声に同意していると肩を叩かれた。
「呼びましたか?」
振り向くと黒髪の少年がいた。
同時に彼の声が聞こえたかと思うと周囲が静まり返る。
もしかして彼がマオなのではないかとシスターは予想する。
「貴方がマオ君ですか?」
「そうですよ?何か用でしょうか?」
「私は見ての通り教会のシスターです。今日はあなたにパーティを組んでもらいたくて来ました」
「そうですか。わざわざ、ありがとうございます。ですけど、俺はパーティを組む気がありませんので」
予想通りの答えにシスターはマオを挑発することに決める。
この年頃の男の子ならバカにされたら直ぐに挑発に乗るだろうと高をくくっていた。
「そうですか。貴方程度の実力では直ぐに死にますよ?だからパーティを組んではどうです?」
「そうでしょうね。でも変える気はありませんので、お気にならさずで結構です」
「…いえいえ。私はあなたより年上なのです。ですから心配するのは当然のこと。だから聞き入れてパーティを組んでみませんか?」
「……押し売りですか?必要ありません」
「……死んだら貴方の近しい人は悲しんでしまうのですよ?ですからパーティを組むべきです」
「たしかにそうかもしれませんね」
「なら……!」
「でも嫌です」
「………どうして、そこまでパーティを組むのを否定するのですか?」
「ソロの方が気楽ですし」
「…………貴方は私から見ると弱い。無駄死には嫌いですから言っているのですよ?」
「死んだら忠告を聞かなかったからだと嗤えば?」
「ふざけんな―!!!」
優しく忠告していたらにべもなく断るマオにシスターはキレる。
口調も変わって怒声も上げている。
本当はシスターが挑発するつもりだったのに逆に挑発されている。
「少し痛い目を見せて上げるわ……!」
武器を取り出し構えるシスター。
美しく静謐な雰囲気が感じ取られる槍。
それを見てマオの眼は変わる。
売ったら、どれだけの金額になるのだろうと思っていた。
「…………っ!!」
シスターもマオの眼が変わったことを察して更に怒りのボルテージが上がる。
他人の物を奪って売ろうとするなんて、どれだけ最低なんだと。
もしかして他の者にもしているんじゃないかと考えてしまう。
パーティを組ませようと考えていたこと自体が間違いだった。
パーティを組ませた仲間の武器を売りそうで信用ならない。
本当に武器を売っているのは襲ってきた相手だけなのか証拠も無い。
誰か被害が受けない様に罰するべきだとシスターは考えていた。
「へぇ……」
本気で自分を害しに来たのだと察してマオは笑う。
これで武器を奪って売っても正当防衛に出来る。
「ふっ!」
シスターは槍で突き、払い、叩く。
だがマオには全く当たらない。
最初は手加減していたが今は全力だ。
元勇者なのに全く当たる気がしない。
「おっそいなぁ……」
マオはシスターの攻撃をかわし続けながらつぶやく。
全く反撃する気にもならず、ただ躱しているだけ。
ただ攻撃された全てを余裕をもって躱している。
「ぐっ!?」
当然、その声はシスターにも届いていた。
そして目の前にいて躱し続けているからマオの言っていることが事実だと理解している。
「まぁ、でも最近の奴らからすれば強い方か?」
マオは自分に挑んでくる者たちのことを思い出して、そう零す。
だが実際には攻撃を当てれていないから、そこまで実感はない。
何となく、そう思ったぐらいだ。
「いつまでも相手をするのにもな……」
良い加減に躱し続けるのも飽きたと思いマオはシスターの腹に拳を叩き込んだ。
「「先生ーーーーー!!?」」
そして聞こえてくる知っている二人の声。
二人の知り合いだとマオは理解し、そして目の前でつい蹴り飛ばした。
「あ………」
「あ……。キリカ」
二人の双子は帰宅途中、ばったりと出会う。
そして弟の言葉に姉は首を絞めた。
「何よ。何か言いたいことがあるわけ?」
首を絞めてくる姉にいくつか言いたいことがあるが、それよりも伝えなくてはいけないことがあった。
「先生が来てる………」
「え?」
カイルの発言にキリカも顔を青褪めさせる。
教会で成長させてもらったシスターは恩師だし尊敬しているが、厳しくてトラウマを持っている。
「マジで……?」
「マジで……。しかもマオに用があるらしい……」
普段のマオを思い出して何となく恩師であるシスターが殴り飛ばされるのを脳裏に思い浮かべる。
双子たちからすれば恩師よりマオの方が強いという認識だった。
「二人とも……!もと勇者らしきシスターがマオを相手に暴れている!!止めるのを協力してくれ!!」
そして酒場の方向から協力を要請されて双子は頭を抱える。
片方は恩師、片方は格上。
頼まれても止められる気は一切なかった。
「早く!!」
それなのに強引に腕を取られて連れて行かれる。
どうやって止めれば良いのか想像がつかず双子は死んだ目になった。
「「先生ーーーーー!!」」
そして酒場について目に映ったのはマオが恩師の腹を殴って拳を突きあげているところ。
更に双子たちに気付いたのか二人に向かってシスターを蹴り飛ばす。
「あ………」
マオもついやってしまったと言わんばかりの表情になっている。
どうやら蹴り飛ばしたのは意図的ではないらしい。
だが同時についでやってしまうほどに襲ってきた相手を蹴り飛ばしているのかと思ってしまう。
「まぁいっか」
そしてマオはシスターから奪い取った槍を片手に酒場から出て行こうとする。
「待って」
「なに……?」
流石にそれはとキリカも止める。
教会のシスターの道具を持ち出して売ろうとするなんて罰当たりすぎる。
「もしかして売る気は無いわよね?罰当たりよ……?」
「喧嘩を売ってきた方が悪い。それに迷惑料だ……」
マオの言葉にどちらが先に喧嘩を売ったのか知らないが、それでも罰当たりだとキリカは止めようと説得する。
それはカイルも同じだ。
「一応、この人は俺たちの恩師だから大事な武器を売るのは辞めて……」
「それが恩師なのと俺が喧嘩を売られたことに関して関係あるのか?」
「恩師だから情けない姿は出来るだけ見たくないんだ……」
カイルの言葉にマオは何となく納得する。
確かに世話になった者の情けない姿は見たくは無い。
憧れや尊敬の念がその場で壊れてしまうのは実感したくはない。
「………わかった」
ため息を吐いてマオは頷き、手にした槍をシスターの元まで投げ渡す。
その方法がいらないゴミを捨てているみたいで見ていた教会関係者はイラっと来る。
当然、カイルとキリカもだ。
「お前……!」
「何?」
「何で槍を投げ捨てた……!?」
「パーティに入るのを断ったからって問答無用で襲う。これは自分の思い通りにならないから癇癪を起したのと同じ」
「それは……」
「そんな奴を育てているのがシスターや神父だろう?尊敬の念が湧かないな」
「そうですね……」
何も言えなかった。
シスターも言葉で説得するどころか結局最後は暴力に走ったのだろう。
だから、そんな教会の使者に尊敬もせずにぞんざいに扱ったのだ。
もしかしたらマオは教会を一切、信用していないのかもしれない。
「さてと……。それじゃあ金はあるかな」
そして今度はマオはシスターの服をまさぐって金目のものを探ろうとしている。
無言でカイルやキリカはマオを蹴ろうとした。
「何をしているんだ(のよ)!」
恩師であるシスターの服をまさぐるマオに二人は怒声を上げる。
酒場にいた者たちも冷たい目を向けていた。
「とりあえず、この酒場で多少は壊れたから敗者として代わりに金を払ってもらおうかなって……」
「そこに正座しなさい」
マオの言葉に誰よりも先にキレたキリカが正座しろと言い、マオもそれに素直に従った。
「これは何?」
シスターは自分を一発で気絶させたマオがキリカの前で正座をされて説教をされている姿に目を丸くする。
「先生、体は無事ですか?」
「えぇ。少し痛みますが問題ありません。それよりも、これは一体?」
恩師の言葉に安堵してカイルは説明を続ける。
少しだけ顔を赤くして言いづらそうにはしているが。
「その……。代わり金目のものを奪おうとマオが服をまさぐり始めて両片想いの姉が説教している最中です」
ここでカイルは姉とマオが想い合っていることをバラす。
機会があったら協力して欲しいと思っていたからだ。
そしてシスターは身体をまさぐられた不快感と教え子の恋路に微笑ましさと、金目のものを奪おうとした野蛮さに嫌悪感を抱く。
あんな男に好意を持つなんて男を見る目がないと不安になる。
「あの一応言っておきますけど奪った金は酒場で暴れた修繕費と迷惑料、後は突然武器で攻撃してきた迷惑料です」
「……………」
理由はある程度とはいえ納得できる。
酒場で暴れたために修繕費と迷惑料を払うのは良い。
いくらキレたとしても酒場の外でやるべきだった。
更に最初に武器を使って攻撃したのはシスターだ。
払うのは文句が無い。
だけど身体をまさぐられたという事実が納得しきれなかった。
「一応、言っておきますけど多分あいつ教会関係者は多分嫌いです」
「……何故?」
「いろんな勇者がパーティに入らないという理由で襲ってくるから、癇癪を起した子供のよう思うって言ってました。そういう風に育てた神父もシスターも嫌いだそうです………」
シスターは頭を抱える。
ソロの方が気楽だと言っていたが、本当の理由はそれなんじゃないかと思えてきた。
そもそも自分も先に手を出して側だ。
自分達の教育に不安になる。
「はぁ………。教会に対する不信感か……。しかも自業自得。貴方たちは襲っていないわよね?」
「襲ってはいませんけど、偶に勝負を挑んでいます。格上相手に挑むのは勉強になるので」
それなら良いかとシスターは安堵する。
もしかして、他の勇者と違ってマトモだから好意を抱いてしまっているんじゃないかとシスターは邪推してしまっていた。




