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転生勇者の挑戦③

「うん?………、あぁパーティで挑むのか」


 マオは約束通りギルドで待っていたら挑戦を挑んできたリーネだけでなくパーティの女の子も気合が入っていることに最初は疑問に思う。

 だが直ぐに女の子たちも戦うのだと気づいて納得する。


「何だ?もしかしてマオに挑むつもりなのか?」


「約束はしていたからな。今日は正々堂々と勝負を挑まれた」


「へぇー。見に行って良いか?」


「相手に確認しろ」


 他にギルドにいた者に確認されマオは頷く。

 それを聞いて確認した者も面白そうだと笑みを浮かべる。

 どうせマオには勝てないのだ。

 どんなふうに挑むのか興味があった。


「お前ら三人ともマオに挑むの?なら観戦して良いか?あいつ相手に戦うのなら色々と勉強になるし」


「マジで?」


「どうせ勝てないから止めとけって」


「何それ?面白そんなんだけど。見に行って良い?」


 先日もマオに挑むと言っていたが本気だとは思わなかった。

 どうせ勝てるはずがないから観戦したいとギルドにいる者たちは考える。

 それにマオに対する戦い方やマオの対策法、色々と見て学びたいとも思っていた。


「あの?見世物じゃないんですけど?」


 学ぶ目的もあるとはいえ観戦気分であることに気付いてリーネたちは拒否をしようとする。

 自分達は本気で挑もうとしているのに見世物にされるのは不快だった。


「別に良いだろ?それに見ることで勉強になるし」


「そうそう。負けても、何所が悪かったとか客観的に見て指摘して上げるわよ?」


 楽しそうにしているが、客観的に指摘としてくれると言われて心が揺らぐリーネたち。

 受け入れても良いんじゃないかと顔を見合わせる。


「俺たちはまだマオに勝てないと思っているけど、いつかは絶対に勝ちたいんだ。その為の協力だと思って。な?」


 その言葉にリーネたちは頷き合って心を決めた。




「正々堂々正面からかぁ。三対一だけど」


「そうだけど問題は無いな?」


「どんな手を使ってでも勝たせてもらう」


「勝つのは私達です」


 マオの言葉に開き直って勝負を挑む三人。

 だがマオもその方が楽しいかもしれないと受け入れる。


「じゃあ始めようか………」


 マオのその言葉に三人とも身構える。

 相手の速度に反応できず、直ぐに敗北してしまうのは嫌だった。


「………………」


「………………」


「………………」


「………………」


 だが誰も動かない。

 リーネたちはマオの動きに反応できるように警戒し、マオはリーネたちが何をしてくるのか楽しみにしていて動かない。

 そして観客たちはいつ動くのかと楽しみにしている。


「…………動かないのか?」


「そちらこそ」


 何も動きがないことにマオは思わず声に出して疑問をぶつける。

 だが、それはリーネたちも同じだ。


「俺はお前らが何をしてくるのか興味があるからな。その前に倒してしまったら見れないだろ?」


 そしてマオの言葉に苛立ちを覚える。

 だからリーネはマオの周りを懐から取り出した粉を風魔法を使って目くらましにする。

 その他にも唐辛子や塩コショウなども一緒に浴びせた。


「…………これは」


 マオも臭いでそれらが唐辛子や塩コショウだと気づいて勿体ないと思う。

 そして風魔法によって常に自分の近くに振りかかってくるから目も開けられない。

 更に匂いが強いせいで、目も鼻も潰されてしまう。


「死ね」


 そしてリーネは火魔法を使ってその中に火を投げ入れる。

 風によって湿度は飛ばされ、そして同時に空気を送られる。

 目潰しに使っているのは唐辛子や塩コショウだけなく、小麦粉も使われていた。

 その中に火を投げ入れたのだ。

 当然、爆発をする。


「これでどうだ」


 自分と同じ転生者なら、これぐらいは防げるだろうとリーネは想像する。

 可燃性の粉末が自分の周りにあるのだ。

 想像は出来ていたはずだと考える。

 生まれ変わった世界では勿体ないと誰も同じことは考えたりしないはずだ。


 なにせ、この世界にはダンジョンがあり、そこからモンスターが生まれ襲ってくる。

 冒険者のように戦える者がいなければ襲われ、せっかくの畑も蹂躙されてしまう。

 だから街の中にしか畑は作れず、いくら広大な土地が使えても街の中だからこそ限度がある。


「リーネ………?」


「おまっ………」


 だからこそリーネの食料を使った攻撃にパーティの女性たちも冷たい目で見る。

 自分達は初めて見たが、もしかして他にも使ったことがあるんじゃないかと。

 貴重な食料をこんなことに使うなんて二人でもマオに厳しい目を向けざるを得ない。


「一応言っておくけど、俺は今回初めて使ったからな?それに食材もいざという時は武器になることを知っていた方が良い」


「ほんとうに?」


 それでも疑いの目を向ける多くの者達。

 この結果を知っているということは何度か実験をしたんじゃないかと疑っている。


「食料を無駄に使って実験をしたんじゃないわよね?」


「…………料理を作っている最中に失敗をしたことがあって、それを経験に実行に移しただけだ」


 料理の失敗と聞いて何人か心当たりある者たちがそう言えばと思い出す。

 実戦で使うなんて考えもしなかった。


「なら良いけど、もったいないから本当にピンチな時だけにして」


「わかっている」


 食料を使った攻撃は効果があったとしてもピンチの時だけにと釘が刺さることになった。

 それを見ていた観客たちも新しい武器だが全くだと頷いていた。


「それよりもマオだ」


 粉塵爆発されてからマオはまだ出てきていない。

 死ねとは言ったがリーネはあれで勝ったとは全く思っていない。

 どんな反撃を受けるのかと警戒している。


「あれだけの爆発だろ。終わっているんじゃないか?」


 女戦士の言葉に神官の少女も頷く。

 煙が天まで上っており街中の全体に響く音。

 騎士たちが事件かと集まり、野次馬も何があったのかと集まってくる。


「何があった!?」


「これ「勝負しているだけなので気にしないで下さい。何も問題は無いです」………やっぱり無事だったか」


 問いかけてくる騎士に観客たちは説明しようとするが、途中で遮られる。

 そしてマオの声にやはり無事だったかとため息を吐く。

 その姿は無傷で、少しは傷を負ったかと期待していたから、ため息を吐く。


「あれだけの爆発だから無事でも傷の一つは負っていると思ったのに無傷か………。何で?」


「魔法で全身を覆って防いだからじゃないか?それに俺の魔法を突破するほどの威力では無かったのもあるな」


「っ」


 天まで煙が立ち上がる程の爆発を直撃させたのに、それでも突破する威力ではないと言われてリーネは歯軋りをする。

 あれはリーネが出せる技の中でも特に威力が高い技だ。

 それなのに突破できないことに、どれだけの威力が必要なのかと考える。


「それにしても面白いな。あんな方法で爆弾をその場で作って起爆するなんて……。それに料理から戦闘の武器に発想をするなんて凄い」


「…………」


 感心するように口にしたマオにリーネは残念に思う。

 料理から発想を得たというのは嘘だから少しだけ罪悪感を抱くが、それ以上にマオが本気で感心している姿が自分とは違うと分かったせいだ。

 折角、自分と同じ世界の記憶を持っている者を見つけたと思ったのに違うことが想像出来て悲しくなる。

 自分しか知らない世界を覚えているのは、世界で一人ぼっちになったみたいで偶に寂しく感じてしまう。


「それでお前らはこれで終わりか?観客が増えたとはいえ、まだまだ相手をしてやる余裕はあるけど?」


 マオはそんなリーネに問いかける。

 残念そうな表情を傷一つ付けられなかったからだと想像したのもある。

 これ以上、挑んでこないのなら時間の無駄だ。


「まだだ………!」


 先程からマオから攻撃してこないのはそれだけ力の差があり余裕があるのだと理解してしまう。

 だからこそ、それをリーネは崩したくてたまらなくなる。

 自分は相手が想っているよりは強く、決して弱くないのだと。

 男の意地だった。


「今度は何をするんだろうなぁ」


 リーネが魔法で炎を作りだし更に持っていた金属に浴びせる。

 それを風の魔法で浮かせながら更に新しい金属を炎で燃やしていく。

 マオはそれを見ながら次は何をしてくるのだろうとワクワクと楽しそうにしている。

 全く動く気配が無くリーネの行動をただ見ているだけだ。


「これでどうだ!」


 それをマオへと飛ばし同時に魔法で作り出した水を浴びせる。

 水蒸気爆発だった。


「へぇ…………」


「勉強になるわね」


「結構手間がかかるな。タンクに長けた奴がいないと使うのも難しそうだ」


「あと魔法に長けている奴もだな。タイミングがずれたら自滅してしまいそうだ」


 先程よりも爆発の規模が大きい、それなのに観客たちはそれぞれ感想を言い合う。

 それでマオが敗北するなんて全く考えることさえしていない。

 そしてそれはリーネたちも同じだ。

 最初の粉塵爆発でさえ無傷なのだ。

 それよりも威力を大きくなるように工夫をしたとはいえ、それだけで勝てるとは思ってもいない。


「…………こういう煙が出る攻撃ってあまりにも無駄だよね」


 そして後ろから肩を組まれる。

 声はマオの物だ。


「「「っ!?」」」


 リーネたちは反射的に腕を解き後ろを振り返る。

 そこには予想通りマオがいた。


「煙のせいで俺だけでなく、お前らにとっても目潰しになってるじゃん。しかも追撃すらもしていないし」


 呆れたように言うマオ。

 どれだけ威力が高くても防がれるだけでなく、自分にとってもデメリットが多いのなら使う意味が無い。

 現に今もこうして背後を取られてしまっている。

 追撃さえしれいればまだマシだった。

 もしくは煙が立ち昇って目潰しになってしまっても、その中にいる相手を見決める方法があるのなら呆れることは無かったのかもしれない。


「まだまだ甘いなぁ………」


 その甘さは、まだ冒険者として経験が浅いからかもしれないと考えると微笑ましい気持ちになる。

 本当に打つ手がなく、破れかぶれの攻撃になるまで相手をしようかとマオは考える。


「ほら、まだまだ相手してやるから挑んできなよ。それとも、それで終わりか?」


 それにリーネの攻撃は面白い。

 マオ自身も色々と勉強になる。

 今のところ爆発しかしていないが、まさか魔法同士を組み合わせて想像も出来ない結果を生み出すのは面白かった。

 もっともっとリーネの攻撃を見たくてたまらない。

 観客たちも気持ちは同じなのかリーネを見て目を輝かせていた。


「舐めるなぁぁぁぁぁ!!」


 更にリーネは水の魔法を使って辺りを更に濡らす。

 観客たち以外は誰もが水に濡れてしまっている。

 そしてリーネは雷の魔法を撃つ。

 水は電気を通すため、確実に当たるためだろう。

 自分も濡れている為に感電してしまうが、確実に当てるためのリスクと考えているのか戸惑いが無い。


「…………無駄だよな」


 だがマオは濡れているせいで感電してもダメージが無い。

 濡れているように見えて実際は魔法で全身を防いでいる。

 そのせいで感電もしていないし濡れてもいない。

 そもそも先に二種類の爆発でも突破できなかったのだ、

 それ以下の威力しかない魔法では傷つけることも出来るはずもない。


「確認したいんだけど、さっきの爆発がお前らの最高威力?」


「…………」


 マオの疑問にリーネは言い返せない。

 その様子に図星かとマオは理解する。


「まぁ、いっか」


 こちらの防御を突破できない以上、敗けることはないが終わらせるつもりはマオにはまだない。

 まさか攻撃を確実に当てるために水の魔法と雷の魔法を組み合わせて来るなんて考えていなかった。

 しかも確認したがリーネたちも水に濡れていて感電するはずなのに、その様子もない。

 対策もしているらしい。


「本当に色々と工夫しているな」


 自分達の攻撃で自滅しない様に色々と考えている。

 だからこそ神官の少女も女戦士もほとんど動いていないことに気になる。

 先程からリーネばかりが攻撃していて女戦士も神官の少女も攻撃を一切していない。


「なぁ、先程からリーネしか攻撃していないけど他の二人は攻撃しないのか?」


「…………彼女たちはそれぞれ防御と回復に特化してもらっている。攻撃役は俺一人しかいない」


「そうか………」


 神官の少女はともかく、女戦士は特化してその程度かとマオは思う。

 少なくともマオの動きに全く反応をしていない。

 その程度で特化していないのなら何か他に出来ることを探した方が良いんじゃないかと助言をしようと考えた。

 神官に関してはまだ未熟なだけだろうとしか思わない。

 最低限動ければ良いとマオは思っている。

 後は経験を積んでいけば良い。

 そうすれば重傷を負った味方がいても直ぐに回復出来て劣勢から立て直すことも出来る。


「その程度の実力で特化しているというのなら諦めて他の役割も身に着けたら?」


 だから女戦士に実際に助言を与えたら殺意が籠った目でマオは睨まれた。

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