転生勇者の挑戦①
「ここに最強の男がいるんだな」
「はい。リーネ様を差し置いて最強と呼ばれていますが、リーネ様なら勝てるはずです!」
「全くだ。お前の実力なら仲間としてパーティに参加してもらえるはずだ」
マオたちが住んでいる街の中に新しき勇者たちが入ってくる。
目的はマオをパーティに参加させることらしい。
そして自分達の勇者の方がマオより強いと考えていた。
「街の中に入ったらマオという男の情報を集めるか……。どこにいるのか分からないし」
「そうですね。冒険者らしいですしギルドに着いたら確認しましょう」
その言葉に頷くリーネと呼ばれた勇者の仲間たち。
マオがどんな男なのか期待と不安を抱いていた。
そして全員がマオをパーティに出来ると疑いもしなかった。
(最強ね………)
リーネは街の中に入ってマオのことを考える。
彼は前世の記憶があり、その知識と幼いころからの努力によって最強と呼ばれるようになった。
だからこそマオのことを聞いて思い至ったことがある。
それはマオは物語に置いて強すぎて扱いに困って殺されるキャラかもしくは何かと駆けつけて別の問題を対処に出番が無いキャラのどちらかと。
リーネにとって、この世界は知っている物語では無いが転生という物語そのものの経験をしているため、自分は知らないだけで、この世界は物語がある世界なんじゃないかと疑ってしまう。
もしくは年齢がまだ少年だから自分と同じ転生者じゃないかと期待していた。
「どうしましたか?」
「いや、どんな奴なんだろうなって」
「大丈夫です!リーネ様ならマオという男にも勝てます!」
考え込んでいたリーネに神官の女の子が心配そうに声を掛ける。
そして不安になっていると思い励ますが、マオに勝てるという言葉に聞こえた街の者たちは一斉にリーネたちに視線を向ける。
「うぉっ!!」
「ひっ!」
「何だ!?」
その行動にリーネたちはビビり、更にその中から代表として一人が近づいてくる。
「え?なになになに?」
「…………君はマオに挑むつもりなのか?」
「え……えぇ」
代表として近づいてきた者からの質問に頷くリーネ。
他の者たちも聞いていた者たちの圧に何も言えない。
「奇襲だけは止めておけ………!」
「はい?」
突然にそんなことを言われて困惑するリーネ。
代わりにもう一人の仲間がどういうことか聞いてくれる。
「マオの奴、何度も何度も奇襲されてな………。しかも恋人とデート中にまで奇襲をされてブチ切れたんだよ。その結果、奇襲して来た者たちを殺してしまってな…………」
「マジか………」
話を聞いていてヤバいと感じるリーネたち。
殺してしまったと聞いて捕まってしまったんじゃないかと考える。
そうだったら仲間にするために来たのに無駄足だ。
「もしかして捕まったのか………?」
「いや。普通に正当防衛として許されたけど?」
「…………………殺してしまったのに?」
人を殺したのに許されていることにマオはこの街でどんな存在なのか不安に思う。
普通は捕まるんじゃないかのかと考える。
もしかしたら、その強さで街を治める貴族を脅したり、それか街を救ったりと大きい功績があったのかと考える。
「あぁ~。そこらへんは街中で襲ってきた相手が悪いとなってな。実際、襲われなきゃマオも殺すことも無かったし」
街中で襲うと聞いて嫌われているのかと考えるリーネたち。
だが目の前で話している者からは敵意を感じられない。
それに相手から襲ってきたら確かに正当防衛だ。
それでも、やり過ぎじゃないかと思ってしまうが命の危険があったのだと予想して納得しようとする。
「いつものこととはいえ相手は武器を持っていたり、それまでは奇襲をされても武器を奪うだけで殺されることは無かったからな。それを知っているから、殺された方が余程悪質だったんだと判断されて許されたかたちだな」
やり過ぎだと思うのに許されたことに不満を持っていたが納得する。
今まで奇襲をされても殺さなかったぐらいに温厚な相手だ。
殺された方が問題だと思わせるぐらいには信頼を集めていたらしい。
「それでも奇襲をしたいぐらいなら事前に宣戦布告しておけよ。あと時間は告げなくても日にちはちゃんと伝えること。そうすれば殺されあることは無いから」
「「「……………」」」
宣戦布告をして奇襲をするなんて意味はあるのかと思うが、同時にそれさえすれば許してくれることにやはり温厚なんじゃないかとリーネたちは思ってしまう。
「だけど大事な武器を壊されたくないなら普通の武器を買って挑んだ方が良いぞ。壊されたり挑戦料として奪われて売ったりしているからな」
「「「……………」」」
マオの話を聞いて何も口に出すことが出来ないリーネたち。
だが話を聞いて武器や鎧は普段使っている物とは違う物を使おうと決める。
愛用していた武器を奪われ売られるなんて考えるだけで苦痛だった。
「ところで先程から奇襲のことばかりですが、正面からは挑めないんですか?」
神官が話を聞いていて奇襲のことばかり話していることに気付く。
奇襲をした結果のことばかり話していて正面からの話が出てこない。
正面から挑んだ結果が知りたい。
「あぁ。その場合は日付だけでなく時刻も決めて相談しないといけないな。奇襲とは違って清々堂々と挑むわけだし……」
「なるほど」
奇襲よりは色々と条件がありそうだと考える。
だが、よくよく考えれば奇襲は本来なら何も情報がないところで襲うから効果があるのであって時間まで告げていたら奇襲の意味がなくなってしまう。
だから条件が増えたのに納得して、神官は正面から挑んだ方が良いと考える。
「それじゃあリーネ様。正面から挑みましょう?」
そうでなければリーネがマオよりも弱いと示してしまうことになる。
そんなことは神官にとって認められない。
何故なら奇襲は弱者が強者に勝つための一つだからだ。
「え?」
「?だって奇襲は弱者が勝者に勝つための知恵でしょう?私は貴方が最強だと信じています。だから必要ないでしょう?」
強い信頼を込めた目でリーネを見る神官。
それを聞いて聞いていた者たちは笑う。
「おい。何がおかしい」
もう一人の仲間である戦士が笑ったことに対して睨みつける。
リーネが最強だと信じて笑われたのが不快だった。
「ごめんごめん……っぷ。あははっ」
謝って笑い続ける目の前の男にリーネは顔を赤くし、仲間たちはバカにされていると思ってしまう。
そして拳を振り降ろそうとするのをリーネは必死に抑える。
その光景に更に笑いが出てくる。
「何だ何だ?二人の女性に自分の男が最強だと思われているなんて羨ましいじゃねぇか!?」
笑いを抑えながらも殴られまいと抑えてくれるリーネの背中を叩く男。
他の者たちも男たちはリーネを羨ましい、ちゃんと幸せにしろよと、可愛い女の子に好かれていることの嫉妬に背中を叩く。
「ねぇ。二人とも彼のことが好きなんでしょう?お姉さんたちに教えてくれない?」
そして女子たちは話を聞かせてくれと女性陣達に連れられて行く。
中には神官たちよりも年下の子供たちもいて興味津々だ。
同じパーティで同じ男を好きなのに取り合っている姿が見えないことに興味を抱いた。
ぶっちゃけどんな恋愛事情なのか興味があった。
「…………新入りか」
マオはギルドに入っていつもと違う光景に驚く。
普段はもっと散らばっている筈なのに一か所に人が集まっている。
その理由に集まっている者たちの中心に見慣れない者たちがいたのを確認して理解する。
新人だから可愛がろうとしているのかもしれない。
「どんな奴らだ?」
もしかしたら他の者たちと同じように自分に挑んでくるかもしれない。
そう考えてマオは相手の武器だけでも確認しようとする。
「それにしてもお前は勇者か?」
「はい。そうです」
新入りは勇者らしい。
持っている武器は普通の長さの剣。
勇者だし魔法も使えるのだろうと考える。
「えっと、その………」
「聞かないでくれ………」
女性陣の方を確認するとそこには盾を持った女性と杖を持った少女がいる。
武器だけでタンク役と回復役だと分かった。
そして新入りの勇者は万能役かなと考えてしまう。
「何か面白そうなのあるかな?」
それだけ分かれば十分だとマオは考えて依頼を確認していく。
相変わらず雑用のような依頼が多い。
だが色々と経験を積むことができ、知識も得られる価値のある依頼だ。
「これにするか……」
選んだのは薬の調合の依頼。
内容は人手が足りから誰でもできる単純な作業。
薬の材料を粉末にするだけだ
報酬は少ないが薬の知識を得られるから、それを選ぶ。
「…………それ以上をさせられないよな」
何度も似たような依頼を受けているからか、興味を持っているのだと勘違いされ調合について教えてもらった。
更に資格を取るためのお金も出してもらった経験がある。
有難いが、やっぱり更に仕事を増やされそうだなとマオは考えてしまった。
粉末にする仕事を受けたのだから、それ以外は止めて欲しい。
依頼の内容が変わってしまう。
そうなると依頼の報酬がおかしくなりそうだ。
「最低限、資格持ちは別の仕事もお願いする可能性があります。ぐらいは書いてもらう様にしないとな………」
今回の依頼で別の仕事を任された絶対にそう言おうとマオは決めて依頼を受けようと受付に行く。
「すいません。これを受けるので受理を「マオ!?」……そうですけど、受理を「マジで!?」………」
何度も邪魔をされて何の用だとマオは後ろを振り向く。
そこには中心になっていた新入りを前にしてギルドにいた冒険者たちがいた。
「こいつ。お前と戦いたいらしいから相手にしてくれねぇ。お前に勝つ自信があるみたいだぞ」
「…………今から依頼を受けようと思っていたのに?」
面倒だとマオは嫌そうな顔で答えを返す。
その表情に相手の都合を考えずに頼んでしまったことに怯んで一歩引いてしまう。
「すいません。この依頼を受けるので受理してください」
「わ……わかりました」
そうして勝負を薦めてきた者たちが怯んでいる間にマオは依頼を受注してギルドから出ていく。
ギルドにいた者たちはそれを黙って見ていることしか出来なかった。
「あ………」
「やべっ、約束をつけるのも忘れてしまったな」
約束を事前にすれば戦うことが出来るが、あまりにも嫌そうな顔をしたために頼むことすら出来なかった。
「しょうがない。依頼の終わりに頼むか、明日の朝に頼むぐらいしかないな……」
「そうですね。明日の朝に頼もうと思います」
新入りの勇者の言葉にそれは楽しみだとギルドにいる者たちは思う。
勝負の日が決まったら是非とも観戦をしたかった。
調子に乗った勇者がどう敗けるのかギルドの皆は今から楽しみにしていた。
マオが負ける可能性のことは全く考えていなかった
「そういえば、あの人ってどんな戦い方をするんですか?」
リーネはマオの情報を手に入れようと質問をし始める。
教えてもギルドにいる者たちはマオに勝てるはずが無いと考えていた。
「あいつは基本的に格闘がメインだ。武器を使う時もあるが、それはたまにしか使わないし」
「そうそう。あとは魔法ぐらいじゃないか?」
「えっ、魔法なんて使っているか?」
「使っているだろ。身体強化とか幻覚魔法とか」
「身体強化は使っているかもしれないけど、幻覚魔法は使ってないだろ」
「えっ、でもどうやっても見切れないのなら魔法で自分の本当の位置を誤魔化している可能性もあるだろ?」
「それは………」
マオの情報を教えるはずがギルドにいる者たちは、マオの戦闘について語り合い始める。
いくら実力差があっても動き始める姿も見えなのには何か細工をしているんじゃないかと考えたのもある。
リーネたちも詳しく話を聞こうとその中に入っていった。
「この街の最強に勝つと言ったにあそこまで協力してくれるなんて良い人たちでしたね」
「うん。絶対に勝たないと」
日が暗くなるまで話し合ってリーネと神官の二人はギルドの者たちに良い人たちだなと思う。
だが女戦士の方は不快そうな表情をしていた。
「二人とも何を言っているんだ!あいつらは私たちを本気で応援していたけど勝てるとは全く思っていない!勝てるわけが無いと思っているから少しでも戦えるように協力しているんだ!」
「そんなこと………」
「じゃなきゃ、あそこまで協力してくれるはずが無い!」
女戦士の言葉に二人は何も言えなくなる。
マオが嫌われているなら納得できるが、そんな感じはしなかった。
むしろ目指すべき相手だと認識されているように感じた。
「だから勝つぞ。お前らがアドバイスした相手がマオとやらに勝った姿を見せて後悔させてやる!」
その強い言葉に二人も頷く。
特に神官の少女は自分が最強だと思う勇者がこの街の勇者より弱いとは思われたくなくて深く深く女戦士の言葉に頷いていた。




