弱点を探す④
「さてと………」
マオは目覚めてから少しだけ気合を入れる。
今日は挑戦者が襲ってくる。
相手が何人か奇襲をするのか、それとも正面から挑んで来るのか、まだ分からないが少しだけ楽しみだった。
「マオ?」
目を覚ましたのかキリカがマオの部屋に入ってくる。
取り敢えずマオとカイル、そしてキリカの男女で部屋を別れたが何の用かと首を傾げる。
「ねぇ。一緒に迷宮に挑んでいい?私は貴方の戦いを参考にしたいわ」
「巻き込んでしまうから俺としては嫌。昨日、挑戦を受け付けたのは見ていただろ?」
「それでも私は見たいわ」
「俺も見たい」
突然にカイルの声も聞こえてきて振り返る。
そこには、つい先ほどまで寝ていたカイルが起き上がっていた。
「ごめん。うるさかったか?」
「いや、朝だからタイミングがぶつかっただけだろ。それよりも俺も参考にするためにお前が戦っているところを見たいんだが」
「巻き込んでしまうって言ってるだろうが」
「それでもだ」
「お願い」
挑戦に対処するのに巻き込んでしまうから拒否しようとするが、それでも一緒に行動したいという二人。
何を言っても一緒に着いてきそうだと考え、マオは諦めた。
「何時から襲ってくるんだろうな」
そしてマオは二人と一緒に適当なダンジョンの中へと入る。
途中ギルドに寄って、どのダンジョンに挑むのか口に出した。
そうでもしないと、どこにいるのかまずは探す必要があった。
「さぁ………」
「何時だろうな………」
キリカとカイルの二人は冷や汗を流す。
ギルドにいたほとんどがマオに向けて挑戦者としての視線を向けていた。
まさか全員が挑んでこないだろなと思う。
「なぁ、マオ?」
「何?」
「何人挑んでくると思う?」
「…………さぁ」
「「……………」」
マオの答えに本当に分からないのかと二人は白い眼を向ける。
今までの行動から本当は知っているんじゃないかと思っている。
「結構な数だな………。挑戦すると宣言した奴以外も本当に何人いるんだか」
マオはため息を吐いて飛んできた矢を掴む。
それに対して思ったより挑んでくるのが早いと思っていた。
もう少し余裕を持ってから挑んでくると考えていたせいだ。
「あぶなっ!」
「もう一度言うけど、巻きまれたくなかったらダンジョンから脱出しな」
「いいえ。何度も言うけど参考として近くで観察させてもらいます」
「……………」
やはり巻き込まれて怪我をしそうだなとマオは思った。
「ふっ」
取り敢えずマオは掴んだ矢を手にして撃ってきた相手の元へと移動する。
色々と確認したことがあった。
「なぁ」
「っ………。何だよ?」
マオは矢を撃ってきた二人の肩を組む。
その二人は昨日、マオに直接挑戦すると宣言して来た者たちだ。
正面から近づいたのに後ろから肩を組まれる形になって鈍いとマオは思う。
「何人、今日は挑戦しに来るんだ?」
「…………基本は俺たちだけ。だけどお前が良いならかなりの人数がお前を挑むことになっている」
「俺の答え次第?」
「そう」
マオの答え次第で更に挑戦者が増えるかどうか決まるらしい。
それならば、とマオは更に挑んで良いと許可を出す。
「わかった。それなら何人でも挑んで来れば良い。ただし俺が街に戻ったら、そこで終了。それと挑む前に潰しても文句を言うなよ?」
「………いいのか?」
「さっき言った条件を飲むならオッケー」
「なら皆に伝えてくる!お前がダメだと言ったら準備はしても挑む気は皆無かったからな。これで皆、お前に挑戦できる」
目の前の男に言葉に変なところで行儀がいいなとマオは思う。
それならマオは出来る限り気絶させずに負けを認めさせてやろうと考えた。
意識を失った冒険者を置いて行ったらダンジョンのモンスターに殺されるし、マオはそんなことをさせるつもりは無い。
「さてどうするかな………」
二人が他の挑戦者たちに伝えに行ってからマオは悩む。
もし意識を奪ってしまったら、どうするか。
放置はモンスターに殺されてしまうからダメだ。
何か意見が無いか二人にも聞いて見ようと視線を向ける。
「あ………。そうだ二人もいるんだよな」
マオは二人を見たことで二人に頼めば良いと思いつく。
気絶してしまった者を二人に任せて意識を取り戻すまで護ってもらえば良いと考えた。
「二人にも頼んでみるか」
そしてマオもその場から離れて二人の前へと戻る。
「全く動きに目が負えないんだけど」
「速すぎないか?」
「目に追えないのなら観察するのは諦めろ。それよりも挑戦者はまだまだいるから、気絶した相手を意識を取り戻すまでは護って欲しい」
「え?」
「は?」
実力不足だと言われ、更に頼みごとをされて二人は混乱してしまう。
「頼む。お前らしか今は頼れない」
「わかったわ」
「任せてくれ」
そして更に続けて頼まれて二人は頷いてしまう。
マオは二人が頷いたことに満足げな表情を作っていた。
「頼んだ」
そしてマオはまた移動する。
今度もまた二人の眼には追いつくことも出来ず、マオとの実力差に悔しさを覚えていた、
「まずは一人」
マオは隠れていた一人を見つけてぶん殴る。
当然、殺さない様に気を付けて手加減もしていた。
だが、それでもその威力に意識を失ってしまう。
「…………キツイな。一人か二人ずつ運ぶか。それ以上は途中で落としてしまいそうだ」
マオは意識を奪った者たちをカイルとキリカの所へ運ぼうと決めたが何人も同時に運ぶのはキツイと最大数を決める。
それ以上は途中で落としてしまいそうで不安になる。
「距離はあるんだから反応ぐらいはしろよ……」
そしてマオは最初に意識を奪った相手を背負って二人目の背後に回る。
マオの声に気付いて二人目も後ろを振り向くが、その前にマオは後ろ回し蹴りをして相手の意識を奪う。
「本当に鈍い……」
成す術もなぐ直撃を受けた目の前に相手にマオはため息を吐く。
何もかもが遅かった。
「取り敢えず二人の元へと運ぶか………」
マオは他の者にも期待できそうにないと残念に思いながら、まずは二人を運んだ。
「まずはこいつらをモンスターに襲われない様に護っててくれ」
「…………別に良いけど早くない?」
マオが二人の元へと戻るとキリカはあまりにも早すぎないかとマオに疑問を向ける。
奇襲を仕掛けるために隠れていた者たちを見つけるのが早すぎる。
そして気絶をさせて連れて来るのものだ。
カイルもキリカの言葉に首を縦に振って頷いている。
「そうか?どこに隠れているのかなんて直ぐに視線で分かるだろ?」
「いや無理じゃない?」
「向きは分かっても正確な位置まではわからないだろ?」
そしてマオの言葉に否定する二人。
二人には視線を向けられた方向は分かっても位置までは特定できない。
「でも俺は分かるし……っ。また連れて来るから意識を取り戻すまで護っていてくれ!」
そう言ってマオはまた移動する。
視線を向けられたのに気づいて、迎撃に向かったのだろう。
その光景を何度繰り返してもキリカ達は見切ることが出来なかった。
「わかりやすい」
「遅い」
「鈍い」
「せめて一撃は耐えろ」
「脆すぎる」
マオは自分に挑む者たちを見つけては気絶させカイルとキリカのいる所へ運ぶということを何度も繰り返す。
そのせいで二人のいるスペースが狭くなっており、しまいには積み重なっていく。
二人や三人と積み重なっていて一番下の者が意識を取り戻しても、重さでまた意識を失いかねない。
「………思った以上にいるな」
運んでは迎撃に行ってを繰り返したマオが一度足を止めて、その光景を見る。
そして自分で作り出した光景なのに微妙な表情をしていた。
「なぁ、まだいるのか?」
「いる」
困ったような表情のカイルにマオは真顔で答える。
まだまだ挑戦者はいる。
繰り返し運んだらカイルたちは護り切れないし、スペースもほとんど無くなってしまう。
「取り敢えず無理矢理起こすか」
気絶させた相手を目覚めるまで待つのではなく強引に起こすことを決めるマオ。
そうでもしないとスペースが開かないし、目覚めるまで待つことにしてずっとダンジョンにいることになるのも嫌だった。
「ふっ!!」
一人一人、活を入れて目覚めさせていくマオ。
焦ることは無く確実に気絶した者たちを起こしていく。
その姿にキリカやカイルも活を入れて行ったり、目覚めた者たちに持って来ていた水を与えたりとする。
「俺たちも手伝うよ」
そこにダンジョンにまだ隠れていた挑戦者たちも集まってきて目覚めさせるのに手伝ってくれる。
マオは予想外だと驚く。
気絶した者たちが目覚めたら挑んで来るかと思っていた。
「その代わり聞きたいことがあるから答えてくれないか?」
「別に良いけど?」
マオはわざわざ聞きたいことがあると言われて質問内容を考える。
どうやって移動していたのか?
どうすればマオの攻撃を防げるのか?
全く反応が出来ていない挑戦者たちを思い出して、この辺りかなと想像する。
「お前は遠距離から攻撃が苦手なのか?全部後ろに回り込んでの攻撃だったが?」
「え?ただのハンデだけど?」
「…………あぁ、そう」
全く予想していなかった質問にマオは即答する。
その答えに聞いていた者たちは納得していた。
正面から殴っても意識を奪うくらいの拳は持っているのに、わざわざ背後に回ってから攻撃していたのだ。
ハンデと言われても納得できてしまう。
「結局、遠距離からの攻撃は苦手なのか分からないか………」
「それなら普通じゃないか?単純に俺は遠距離から攻撃するよりも接近戦の方が得意だから、あまりしないだけだし。…………あれ?よくよく思い出せば、あまり遠距離戦はしたことないな。もしかしたら下手っていうか苦手になってないか?」
マオは遠距離戦の自分の実力に不安になってしまう。
そしてそれを聞いた者たちは目を輝かせる。
苦手らしいそれに確信を持てたからだ。
今度は条件付きで挑んだら、もしかしたら勝てるかもしれないと聞いていた者たちは考えてしまう。
それはキリカも同じで、一番最初に挑んで勝てたら苦手を克服する為に二人きりで特訓をしようと考えていた。
そして。
「意外とやれるな」
それでも遠距離戦で挑戦者たちはマオに勝てなかった。
ダンジョンに隠れていた数人と正面から距離を取って魔法を撃ちあっていたが、マオは相手の攻撃を全て避けていた。
そしてマオの攻撃だけが当たって挑戦者たちは敗れてしまう。
「遠距離戦は苦手なんじゃないのか………」
「いやお前らが下手過ぎるだけだろ」
遠距離で挑んでも全く勝てないことに思わず挑戦者の一人が不満を口にするが、マオに即座に否定する。
ほとんどやることも無かった遠距離戦でマオに掠ることすら出来なかった。
だが逆にマオは外すことも多かったが一方的に当てることが出来た。
マオと挑戦者にはそれだけの差がある。
「もはや一方的だったじゃないか……」
挑戦者たちはそう言うが、ある意味では当然のことだ。
もともとマオは目にも映らぬ速度で動いている。
その速度を扱いきれないどころか使いこなしている時点で他の者たちよりも目が良い。
挑戦者たちの攻撃もそれと比べれば、はるかに遅く感じているのだろう。
だから挑戦者たちの攻撃が当たらない。
文字通りに住んでいる世界が違う。
「一応言っておくけど遠距離から攻撃するなんて久しぶりだからな?何度か外したのは見たし経験もしただろ?」
その言葉に頷く挑戦者たち。
「もう正確性よりお前らの場合は攻撃の速度を上げた方が良いんじゃないか?遅くてどれだけ正確でも余裕で避けることが出来るし……」
勝てないと落ち込んだ様子の挑戦者たちにマオは何となくフォローを入れてしまう。
目の前で落ち込まれたせいで無視することが出来なかったせいかもしれない。
「取り敢えずスピードか………」
マオと戦うのに最低限必要なことを教えられて挑戦者たちは顔を見合わせる。
そもそも気付かぬ間に接近されて殴られていた為、スピードが足りないと言われ深く納得していた。
マオと同じステージで戦えるようになるために、まずは反応速度を含めたありとあらゆるスピードを上昇する必要がある。
それまでは、どれだけ挑んでも相手にならないだろうなと挑戦者たちはマオに勝つことを今は諦めていた。




