弱点を探す③
「マオの弱点を見つけることが出来たか!?」
カイルとキリカの二人がギルドに戻ってきて、早速と言わんばかりにギルドにいる者たちが近づいてくる。
早くマオの情報を知りたかった。
「ごめん。得意な魔法は身体能力を強化するものだとしか分からなかった」
「いや。それでも十分だ。得意な魔法すらも知らなかったんだ。少なくとも、それだけで接近戦は避けた方が良いと分かる」
なるほど、とカイルも頷く。
マオを相手にするときは確かに接近戦は止めた方が良いと今日のことを思い出して納得する。
遠距離から攻撃は一切していない。
全てが接近してからの攻撃だった。
「もしかして遠距離からの攻撃が苦手なのか?」
今までの奇襲からのマオの反撃を思い出しても、いつの間にか接近して攻撃している。
遠距離から攻撃することは、ほとんどなかった。
「有り得そうだな……」
距離を取って攻撃すれば勝てるかもしれないと皆が頷き合う。
今度こそ勝てるかもしれないと気合が入る。
「でも、それでもマオには奇襲を仕掛けないで勝負を申し込んだ方がいいと思うわよ」
「………まぁ、そうだな」
勝てるかもしれないと思っても奇襲を仕掛けない方が良いとキリカは忠告する。
あくまでも勝てるかもしれないだ。
本当に勝てるとは限らない。
「それに気づかない間に移動することがあるからな。攻撃することによって位置を把握されて反撃されたら勝てるとは思えないんだが………」
「「「「「…………」」」」」
続けられたカイルの言葉にギルドにいた者たちは何も言い返せない。
ほとんどがマオに挑んで敗けた経験があるから、気付いたら接近されて殴られた経験がある。
だからこそ距離を取っただけでは勝てないと認識を改めていた。
「そうだったな………」
「それでも一度挑戦してみたいな………。奇襲ありで挑んで良いかマオに確認してみるか?事前に申し込んだら受け入れてくれそうだし」
「どうだろう……。やってみる価値はあるんじゃない?」
頼むだけ頼んでみたらどうだという言葉に、そうするかと決意する者達。
早速、頼みに行くために、まずはキリカとカイルへと近づく。
二人ならマオの住んでいる家の位置を知ってからだ。
「俺たちはマオの家を知らないから案内してくれないか?マオに挑戦していいか頼みたい」
「それぐらいなら良いわよ。今から行く?」
「頼む」
「カイルも一緒に来るわよね?」
「えっ、うん」
急に姉に呼ばれてカイルは驚き、頷いてしまう。
だが同時にマオの家に行くのは久しぶりだなと考え、丁度良いと思いなおす。
外も暗くなっているし、食材を買って行こうかと考える。
ついでに出来るならキリカと一緒にマオの家に泊ろうかと思っていた。
「…………悪いけど、食材も一緒に買いに寄り道していいか?すぐ終わるつもりだし」
「そのくらいなら良いぞ」
「?」
案内してもらう者たちはそのぐらいなら構わないと頷く。
だがキリカは家の食料を思い出して必要か首を傾げる。
まだまだ食料は余っていたはずだ。
「悪いな」
少しだけ申し訳なさそうな顔をするカイル。
だが案内してもらう側からすれば、気にしなくても良い程度のことだった。
「マオ、いるか?」
そしてマオの家の前に着き扉を叩く。
すると時間も空かずにマオが出てくる。
「何の用だ?もしかして何か忘れていたか?」
大した約束もしていないのに急に来たことにマオは疑問を覚えるが、目に入った者たちを見て更に困惑する。
あまり関りが無い者たちだから予想も難しい。
宣戦布告に来たのかもしれないが弱点を探しているにしては早すぎるからマオは予想から除外していた。
「明日、奇襲ありで挑みたいんだが大丈夫か?」
「……………」
まさか事前に勝負を挑まれるとは思わなかった。
だが、それなら都合が悪い時は断れるし良い案だと思う。
「わかった………。それでも、いくつか条件があるけど良いな?」
また条件を出されるのかと思うが、それを受け入れなきゃ挑めないのだから我慢する。
どんな条件を出されるのか今かでも少し緊張する。
「まず一つ」
「「「……」」」
「街中で奇襲は仕掛けるな」
「あっ、はい」
「二つ。事前に日にちだけは決めて。一週間の間はダメ。一日だけにしろ。何日も警戒してられるか。あと時間は決めて伝えなくて良いから」
「あぁ………。うん」
「三つ。拒否権を与えろ。毎日毎日、挑まれたら自分の時間が減ってストレスが溜まる」
「わかった……」
一つ目は妥当、二つ目は少しだけ残念に、三つ目はマオは一人しかいないし、しょうがないかと納得していた。
特に一つ目は街中で挑んだら被害が関係のない相手にまで飛びかねないから、まさしく妥当だ。
「よしっ!決まりだな!」
カイルの言葉に頼みに来た者たちも安心する。
そして安心した様子でマオが住んでいる家から離れて行った。
明日の準備のために、この場を離れて話し合いをしたかったのかもしれなかった。
「それじゃマオ、今日は泊めてくれないか?お土産も持ってきたし一緒に食べようぜ!」
そして頼みに来た者たちが見えなくって、カイルがマオに買ってきた食材を見せながら頼み込む。
キリカは自分達の家には食材がまだまだあるのに、そのために食材を買ってきたのかと理解する。
「まぁ、良いけど………」
「じゃあ中に入るな。キリカも泊っていくだろ?」
「………そうね」
カイルの誘いにキリカも頷いて家の中に入った。
「それにしても何時からあんな話し合いをしていたんだ?」
「………あんなって?」
マオの家の中で買ってきたお土産を一緒に食べながらマオは二人に質問する。
二人もマオが聞いてきた質問の内容は予想できるが何を示しているのか確認したくて内容を確認する。
「俺の弱点を探すとか?」
「う……」
「それは……」
マオの疑問に二人は何も言えない。
特にキリカは裏切ったと思われたのかもしれないと顔を今更ながら青くする。
「別に気にしてないから安心しろ。純粋に気になっただけだから」
マオの言葉に本当かと不安に溢れてた目で見るキリカ。
嘘は言っていないとマオはキリカとカイルに笑いかける。
それでも不安は残ったままだ。
「それで何時からだ?」
本当に気にしていないなら聞かないで欲しいと二人は思う。
少なくともキリカは本当に裏切っていない。
だからカイルはマオにキリカが何で参加していたのか説明をする。
「マオ?キリカは下手したら集まっていた皆を後ろから撃つつもりだったからな?俺はそれを止めるためにパーティを組むように頼まれたし………」
「そうなのか?」
顔を赤くして逸らすキリカ。
それが事実だと知らしめていた。
「それで結局何時からなんだ?」
マオもそのことに顔を赤くする。
キリカが他者を殺すぐらいに自分を好きなことに嬉しくなる。
それを誤魔化すために話を変えるつもりなのか話を戻す。
「そんなに聞きたいのかよ?」
「当然」
誤魔化すためかもしれないがマオは話を変える。
だが興味は確かに向けていた。
「………結構な数がマオに負けて集まって、いつの間にか?俺もお前に勝ちたくて参加したし」
「俺に勝ちたくて集まったの?」
「うん」
「………まぁ良いか」
弱点を探す以上、勝ちたいのだと予想していたが実際に口に出して言われると微妙な表情を浮かべてしまう。
そんなに勝ちたいのかと疑問だ。
「強いからこそ挑戦し甲斐があるからな。冒険者のほとんどはお前に勝つことを目標をしているからぞ」
「まじか……」
勝てないと諦めるどころか目標にされていることにマオは頭を抱える。
それだと多くの者が挑戦しに来るじゃないかと考えていた。
「お前も?」
「当然だろ?」
そういえばさっきもマオに勝ちたいと言っていたことを思い出す。
もっと弱ければ、こんなことはあり得なかっただろうとマオは考えていた。
「強いというのも面倒だな……」
「あはは………」
「ガンバ!俺も挑むけど、その時はよろしくな」
「はぁ………」
取り敢えず勝負を挑むのに断る権利を条件に入れるのは正解だったとマオは考える。
そうでないと毎日の様に挑まれる可能性があった。
ギルドにいたマオに勝ちたいと集まった者たちは大勢いたから、そのぐらいのことは出来る可能性はある。
そうなったら殺してやろうとマオは考える。
「マオ?」
「どうした?」
「今、殺してやろうと考えてなかった?目が凄く怖かったんだけど?」
「しないって。街の外や迷宮ないじゃないとバレて面倒なことになるし」
「いや怖いって。最近、キリカも敵には殺意が溢れているし影響を受け合っていないか?」
機嫌が悪いとマオは襲ってきた相手を殺そうとするし、キリカもマオを襲おうと考えていた者たちを後ろから撃とうとしていた。
明らかに影響を受けていた。
「おーい。許可を貰ったぞ」
「マジか!?」
頼みに来た者たちがギルドに戻るとマオに勝つために集まった者たちがまだギルドの中にいた。
そして許可をもらってきたことに驚愕していた。
「いくつか条件があるけど、それを護れば挑戦を受け入れてくれるから皆も聞いてくれ」
その言葉に全員が視線を向ける。
マオの機嫌を損ねて殺されたくなかった。
「まず街中ではな絶対に襲わない」
「そりゃそうだろ。街の中には戦えない者も入るんだし、飛び火したら大変だろ?」
「いや、でも注意をするのは当然じゃないか?デート中に街中でマオは襲われたし」
「………当たり前だけど必要だな」
一つ目の理由に納得する全員。
文句は無いとして続けていく。
「次に事前に襲う日は決めて欲しいだって。一週間の間に襲うとかは止めろって言っていた。時間は決めなくても大丈夫みたいだ」
「えぇー」
「それは………」
これに対しては不満の声が上がる。
時間は決めなくても良いらしいが、日にちが決まっているだけで十分に対処されやすくなっている。
せめて一週間とは言わなくても何日間か空けてほしい。
「続けて三つ目は勝負を挑まれても拒否権を与えること。毎日とか挑まれたらストレスが溜まるみたいです」
「「「「「……………」」」」」
三つ目の理由に不満もいったん止まる。
ストレスを溜めさせて、どうなるか想像したら殺されてしまうんじゃないかと考える。
もしかして二つ目の理由も本当はストレス対策の為なんじゃないかと思ってしまう。
「………受け入れるか」
「………そうだな」
「………死にたくないしね」
ストレスを爆発されて殺されたくないと皆が想う。
しょうがないと、マオの条件を受け入れるしかなかった。
「決まったところで明日、俺たちはマオに挑むつもりだ。誰か一緒に挑むか?」
「もう?」
「もう」
その言葉に挑むのは早すぎないかと思う。
もう少し弱点を探ってからの方が良いと皆は考える。
「今なら無条件で挑戦を受け入れてくれると思うからな。それに実際に戦って遠距離が苦手なのか確かめたい」
「それは……」
本当に遠距離からの攻撃は苦手なのか確かめるつもりのようだ。
率先して確かめてくれる姿にギルドにいた者たちは有難く思う。
「ちゃんと戦っている姿を確認してくれよ。今は敗けていても、いつかは俺もあいつに勝ちたいんだ」
マオに勝ちたいという言葉に全員が頷く。
そして一緒に挑みたいと手を上げるものが出てくる。
「なら私も挑みたいです!防御には自信があるので囮にしてください!」
「それなら俺も!相手の攻撃を防ぐのに自身がある!」
次々と上がってくる手。
それなら参加したい者、全員で挑もうかと考える。
数が多ければ多いだけ、それだけ有利に長時間戦うことが出来る。
「よしっ。挑みたい者、全員でマオに挑むか?よくよく考えればマオに一度に挑んな数はパーティ規模ぐらいだろうし。もっと大勢で挑んだから勝てるかもしれないな」
「………面白そうだ。俺も乗る」
「そうだな。いっそ、一度全員で挑んでみようか」
「いや。遠くから観察できる者は何人か残した方が良いんじゃないか?記録に残して確認したい」
「それは良いな。…………かなりの数でマオに襲って大丈夫?数が多すぎるってキレられない?」
皆で挑もうと纏まってきたところで一人が不安を口に出す。
その言葉を聞いて皆が冷や汗を流す。
「どうだろう…。最初に挑んだ者が説明すれば大丈夫かも?」
「そこも話し合うか………」
結果として最初にマオに挑んだ者が説明し、それでダメだったら残った者たちに説明して中止にすることを伝える。
そこもマオと詳しく話し合えば良かったと後悔していた。




