弱点を探す②
「準備が出来たし、それじゃあ目当てのモンスターに挑みに行くぞ」
マオが戻ってきたのを確認してキリカとカイルの二人は頷く。
それじゃあ、と早速迷宮へと挑むことにする。
「そういえばマオ、今度からは勝負を挑む前に事前に頼まれるかもしれないわよ」
「は?」
どういうことだとマオはキリカに視線を向ける。
今まで奇襲ばかりだったのに、どんな心変わりかと思っていた。
「前に貴方が奇襲して来た者を殺したじゃない。そのせいで考え直そうということになったみたいよ」
「あぁ、なるほど」
確かに死ぬのは嫌だろうなとマオも納得する。
今までは、ほとんど殺すことは無かったから奇襲を何度も仕掛けてきた。
だが街の中で多くの者の目に映る場所で殺したことがきっかけで殺されるかもしれないと考え直すようになったらしい。
マオはそのことに少しだけ情けないと思ってしまった。
「普通は襲ってきたら殺されても文句は言えないのに……。覚悟してなかったのか……」
「そうね………」
マオに挑んでいた者たちは調子に乗っていたと言われても否定できない。
いくらマオに武器を奪われ売られていたとしても、最初に襲ったのは相手の方だ。
その上、襲っても殺されないと勘違いし何度も武器を手に襲っていた。
今まで殺されなかった者たちは運が良かっただけだった。
「そんなことより迷宮についたぞ」
話を変えようとカイルは二人に声を掛ける。
これ以上はマオの不満を聞きたくなかった。
「ところでここは物理的に頑丈だけど、俺は物理的な攻撃だけで魔法を使わない方が良いか?」
「………お願い」
キリカはマオが自分からそう言うのなら問題は無いだろうと考えて頷く。
もしかしたら拳ではなく剣や槍といった武器を使うのかもしれない。
そう考えると今まで知らなかったことに不満を抱くと同時にマオのことを知ることが出来るのだと嬉しくなる。
「じゃあ行くぞ」
そしてマオは迷宮の中へと入っていった。
二人もその後を追い中に入ると、早速とばかりにゴーレムが攻撃を仕掛けてくる。
ゴーレムは鉱石は積み重ねて出来た人型の姿をしており、その分だけ巨大だ。
そして優に人を十分につぶせる大きさの拳を振り降ろす。
「くっ!!」
とっさにゴーレムの攻撃から身を護ろうと構える二人。
だがマオは逆に拳を構える。
「「マオ!?」」
そしてゴーレムからの攻撃が襲ってくる前にマオは拳を振るう。
それだけでゴーレムは粉砕され、物言わぬ石ころとなった。
「「え」」
マオが拳の一つでゴーレムを破壊したことに二人は呆気にとられる。
モンスターでも特に頑丈なのに、それを大した武器を使わずに拳のみで破壊するのは信じられなかった。
「すげぇ………」
だが見ていた男連中はマオのした行動に目を輝かせる。
遠くから観察している者もだ。
ゴーレムは基本的に人の数倍の大きさをしている。
それを拳だけで倒したのだ。
憧れるのも普通だろう。
「えぇ………」
そして逆に女性陣は引いていた。
拳一つでゴーレムを粉砕するなんて、どれだけ怪力なんだろうと。
それだけ鍛えるよりも魔法だけで十分だろうとさえ思っていた。
「取り敢えず拳一つだけで俺はゴーレムを破壊できるぞ」
そしてマオは自分の実力を示すように話し掛けてくる。
その様子にマオの弱点や弱さを見つけるためにパーティを組んでいるから、二人はほとんどマオに任せて見てるだけにしようかと考えてしまう。
「さてと……。それじゃあ進むか」
マオはそう言って迷宮の中を進む。
二人は慌てて後を追った。
「そういえば目当てのゴーレムはどこにいるんだ?」
「迷宮でも奥の方だな。物理的にはもちろん。魔法の攻撃にも頑丈なゴーレムらしい」
「へぇ……」
基本的にゴーレムは物理的には強いが魔法に弱い。
その欠点を補うゴーレムと聞いて、どんな見た目をしているのか気になる。
やはり見た目からして違うのか今から興味が尽きない。
「うわっ」
そして急にカイルが嫌そうな声を上げる。
目の前にはゴーレムの集団が現れたからだろう。
マオ一人では対処できないと考えたのかキリカもカイルも武器を構える。
「いや、ここまで一人でやらせてきたんだし、そもそも必要ないだろ」
「は……」
何を言っているんだという前にマオがゴーレムの前へと進む。
それに反応してゴーレムがマオへと拳を振り降ろす。
だがマオはそれを横に移動するだけで避ける。
そしてゴーレムの振り降ろした拳を掴み、ゴーレムを振り回し始める。
「あぶなっ!!?」
ゴーレムは巨体だ。
だからこそ後ろにいるキリカ達にも当たりそうになって二人は後ろへと退く。
そして客観的に見る余裕が出来て思わず引いてしまう。
「自分の数倍の大きさをしているゴーレムを振り回すとか……」
「あれってかなりの重量なんだけど、どんだけ怪力なのよ……」
いくら鍛えていても振り回せるはずのない重量を振り回しているマオ。
それは明らかにおかしい。
「もしかして魔法で身体能力を強化しているのか?」
「それならたしかに………」
あの身体能力は魔法で強化していると考えれば納得できる。
もしかしたらマオが一番得意な魔法は身体強化魔法なのかもしれない。
それがわかっただけでも収穫だった。
まだまだ一緒にパーティを組めるのだ。
一つ一つ見つけていけば良いと考えていた。
「ふぅ……」
そしてゴーレムにゴーレムをぶつけて破壊し続けてマオは満足をしたのか一息吐く。
残ったゴーレムはなく、全て破壊したらしい。
マオが手に持ったゴーレムも何度も叩かれたせいで原型が残っていない。
「なぁ、マオ……」
「何?」
「お前って身体能力を強化する魔法が得意なのか?」
「そうだけど、どうかした?」
カイルの質問にマオは首を縦に振って頷く。
実際ゴーレムを振り回すことが出来たのは身体能力を強化しているお陰だ。
流石に素の状態でゴーレムを振り回すのはキツイ。
「そうか………」
念の為にマオ本人にも確認したが肯定される。
だが、少しだけ疑問を抱く。
いくら一か月間、観察する機会があるとはいえ、あっさりと教えられるのはおかしい。
「貴方が一番得意なのは、本当にそれなの?」
「そうだよ?」
同じように疑問を抱いたのかキリカも質問をする。
それに得意だとは言っているが、他にも得意なものが無いとは言っていない。
「他に何が得意なのよ?」
「色々?」
その言葉にキリカは白い眼を向ける。
マオは全く答える気がないせいだ。
「………はぁ」
そのせいでため息を吐く二人。
やはり観察をして見抜くしか方法が無いらしい。
「まぁ、頑張って弱点探せよ。一ヶ月もあるんだし」
マオの言葉にイラっと来る二人。
今のところは情報を得ることが出来ても得意なことだけ。
それも一つしかない。
だが一ヶ月もあるのだ。
確実に見つけてやろうと意気込む。
「それじゃあ進むぞ」
やる気に満ちて自分を観察してくる二人にマオはニヤニヤと笑いながら先へ進もうと促す。
その手にはゴーレムを叩き壊すのに使ったゴーレムをまだ引きずっていた。
「まって!?」
「今度は何?」
何度も質問が飛んできてマオは少しだけ苛立ちを覚えてくる。
今度は何だ?と視線を向けると二人は一歩後ろに引いてしまう。
「それは持ったままなの?」
そう言って指を指していたのはマオが手にしているゴーレム。
捨てないのかと疑問に思ってしまう。
「そりゃ良い武器だし」
「「…………」」
それは武器ではなくモンスターだと二人は言いたいが、マオの本気で言っている目に何も言えなくなる。
たしかに二人の前でも武器として扱っていたが、それを良い武器というのは間違いだった。
マオが武器として持ち運んでいるゴーレムよりも遥かに良い武器はいくらでもある。
「………それを使うよりは良い武器がいくらでもあると思うけど」
「別に良いだろ?これがどれだけ耐えられるのか興味があるし」
カイルはマオの言葉に少しだけ呆れの感情を抱く。
そんなものより普通に武器を使った方が遥かにマシだと思っていた。
そしてキリカは興味を持った。
もしもの時のためにゴーレムの破片がどれだけ頑丈なのか、武器として使うことが出来るのか知っていても損は無いだろうと考えていた。
「予想以上に頑丈だなぁ」
そしてマオはゴーレムを片手に迷宮を進んでいく。
途中でぶつかったゴーレムは全て片手に持っているゴーレムで潰していた。
「うわぁ……」
マオがゴーレムを武器にしている姿を見て、やっぱり他の武器の方が使いやすそうだと二人は考える。
よく見ると少しだけマオも扱いづらそうな顔をしていた。
「なぁ、マオ。やっぱり、もうそれを使わない方が良いんじゃないか?」
そして何度もゴーレムにぶつけていた影響か、至る所が凹んでいたりして武器としても、かなり扱いずらくなっていた。
「そうね。それを武器として使うよりも普通に戦っていた方がまだ戦いやすいと思うわ。もうボロボロじゃない……」
ゴーレムを武器にしていることを止める理由に更にもう一つ。
同じ場所に生まれたモンスターを殺すための武器として扱われる姿に同情してしまったのが理由だ。
武器として扱われているゴーレムを見てキリカ達からはゴーレムから流れるはずのない涙が流れているように見えてしまった。
「……………お前らの言いたいことは分かるけど、もう少しこのまま戦わせてもらうぞ」
絶対に嘘だと二人は思った。
本当に理解しているのなら、ゴーレムを捨てるはずだと思っている。
まだ捨てていないのは何か他に理由があるはずだ。
「貴方はそれを使って何を考えているのよ?」
「………直ぐに分かると思う」
少なくとも目的のモンスターが出るまでは捨てるつもりは無い。
だが一度、手にしているゴーレムを確認する。
「いや………。たしかに二人の言う様に変えた方が良いかもしれないな」
突然の意見を変えてくれたことにようやく理解したのかと嬉しくなる二人。
マオはそれを尻目にゴーレムを投げ捨てる。
そして近づいてきたゴーレムの片腕と両足を砕き新たに持ち運ぶ。
新しい武器とするのだろう。
「「違う!そうじゃない!!」」
手にしたモンスターで、同じ場所から生まれたモンスターを攻撃しているのは変わらない。
むしろ使い捨てにしていると考えればマオが更に残虐に見えてしまった。
「…………本当に運が良い」
二人はマオにどう違うのか説明してやろうと決めるが、その前にマオが意識を強く前へと向ける。
何があるのかと視線を向けると、そこに目当てのモンスターがいた。
「それにしても見ていて目が痛くなりそうだな………」
マオの言う通り目当てのモンスターはこれまでいたゴーレムより巨体で、そして金色だった。
光が反射して輝き目が痛くなる。
「それで完全に破壊して良いんだよな?」
「えっ、うん。鉱石を掘るのに邪魔だし、襲われて危険だから壊して良いみたいね。それに何も条件も書いていないわ」
ゴーレムや採取できるようなモンスターだと危険な相手でも、その一部をゲットして来いというというような依頼があるが、今回はそんなことが無いと確認してマオは気が楽になる。
「それじゃあ始めるか」
だからマオは最初から容赦なく金色のゴーレムに手にしたゴーレムで叩く。
金色のゴーレムも手にしたゴーレムも表情は無いのに困惑しているような感情が伝わってくる。
手にしたゴーレムはまだ意識があるのか武器として扱われていることに特に驚いている。
「………ふっ」
マオは金色のゴーレムからの攻撃を避けながら手にしたゴーレムで叩いていく。
だが金色のゴーレムは全く傷がつかない。
巨体なだけでなく頑丈さも優れているらしい。
「っらぁ!!」
だからマオも更に力を込めて叩きつける。
そのお陰で少しは傷ついたが直ぐに回復されてしまう。
再生も出来ていることにマオだけでなく見ていた二人も厄介だと嫌そうな顔を浮かべる。
「どのくらい持つかな?」
そして懐から時計を取り出し時間を確認するマオ。
厄介だが勝てない相手でないとマオは判断していた。
「あ」
そして金色のゴーレムを叩き続けて、ついに手にしていたゴーレムが壊れる。
残っていた片手の部分が壊れ胴体と別れてしまった。
他の部分もかなり凹み、武器としてもかなり使えなくなっていた。
そして金のゴーレムを見るが途中で再生する原因を壊しても、まだまだ健在だった。
「一、二時間ぐらいか………。もっと壊せると思ったけど頑丈さに差があり過ぎるな………」
金のゴーレムの攻撃を避けながら時間を確認するマオ。
そして金のゴーレムを素手で破壊していく。
最初は足、そして次は腕、最後に最後は胴体を砕く。
「「うっわ………」」
片手にしていたゴーレムでも傷をつけるのも大変だったゴーレムを素手で壊したマオ。
その時点でゴーレムより拳が頑丈なことに気付き二人は引いてしまっていた。




