パーティを追い出されて④
「それで何があったんだ?」
カイルが寝たのを確認してマオとキリカの二人は外に出る。
夜風が吹いて肌寒い。
「そのカイルってパーティに裏切られて初めて仕返ししたじゃない?」
「まぁ、そうだけど………。仕返し位は普通だろ?今までやられっぱなしだったのがおかしいだけで。そもそもキリカがカイルのことを言えるのかよ?」
そういう意味ではキリカも同じだ。
少なくともキリカが仕返ししたのをマオは見たことが無い。
「別に私は良いわよ。貴方がいるんだし………」
顔を赤くして言われた言葉にマオは嬉しくなる。
自分さえいれば、どんな辛いことがあっても耐えられると言われたようなものだ。
それだけキリカの心の支えになっていると考えると嬉しかった。
「そんなことより!!話を戻すけど、今までが今までだから裏切られることに心が限界に近付いているんじゃないかと思うんだけど、マオはどう思う?」
そう言われると、たしかに有り得そうだとマオも納得する。
今までがおかしかったとはいえ、やはり限界だったのかもしれない。
「観察する必要はあるかもしれないけど、やっぱり大丈夫なんじゃないか?」
マオの言葉に信じられないという表情をするキリカ。
何でそんなことを言うのかと信じられない気持ちだ。
「ようやく仕返しする気になったからな………。やり返せば溜まった鬱憤も解消するだろうし。それに一度やり返せば、また裏切られた時にやり返すはずだから裏切られて鬱憤が溜まるのは減るんじゃないか?」
マオなりに考えて心配していないのだと理解して溜息を下げるキリカ。
どうやらマオからすれば、やられたままにして仕返ししていないから限界まで鬱憤が溜まるんだと考えていたみたいだ。
「そう………。なら良いんだけど………」
「まぁ、それでもさっきも言ったように確認としてカイルの様子を観察する必要はあると思うけどな」
最低限はそれが必要だと言われてキリカも頷く。
だが、その場合はキリカが一人では足りない。
マオにも協力して欲しかった。
「ならマオも手伝って。一人じゃ手が足りないわ」
「わかった」
マオもカイルに何かあったら心配だ。
だからそのぐらいなら構わないとマオも頷く。
「それにしても………」
「何よ?」
「お前ら本当に仲が良いよな……」
正直に言って姉弟でそこまで仲が良いのは珍しいとマオは思う。
普通はパーティを組む相手がお互いしかいないくても嫌がるものだし、その光景を見たこともある。
「は?………何?もしかして嫉妬?血のつながった家族相手に?」
多分、同じ苦労をしたからかもしれないが、マオは嫉妬と聞かれても否定できない。
ニヤニヤとした顔で確認されても顔を逸らすことしか出来なかった。
そしてキリカは図星だと理解し、満面の笑みを浮かべる。
弟相手にも嫉妬しているということは、それだけ執着されているのだと理解して気分が良かった。
そしてニヤニヤとした笑みを浮かべてキリカはマオの腕を組んで家へと戻っていった。
「それで二人とも何をしていたんだ?」
家に戻るとカイルが待ち構えてた。
寝ていると思っていたのに起きていたことに二人は驚いてしまう。
「…………星を見ながら夜空デート」
「わざわざ俺が寝たのを確認してから?」
「デートに行くって、わざわざ聞きたかったのか?」
「ぐっ……」
二人が自分をのけ者にして何をしていたのか気になってカイルは質問するが誤魔化される。
だが本当にデートだとしても納得できてしまう天候なのも事実だ。
実際に外に出たら肌寒いかもしれないが、それでも厚着などをすれば耐えれそうだった。
「そうだな。………それと出来ればエッチなことはマオの家でやってくれよ?この家は俺も使っているんだし」
「今日はそういうことはしていない!」
「そうよ!余計な心配はしないで!?」
「いや。普通に俺もこの家のシャワー室とかでヤられたら嫌だからね?この部屋で二人がエッチなことしていたとか考えながら使いたくないから」
「やかましい!!」
キリカはカイルに余計な心配をされて掴みかかる。
握りこぶしを作り、振り降ろそうとしたところでマオは止めに動く。
「落ち着け!」
「離しなさい!さすがに一発は殴らないと気が済まないわ!!」
だが羽交い絞めをしても暴れて抜け出そうとして殴ろうとしている。
流石に止めるのは難しそうだとマオはカイルに謝れと視線で訴える。
そもそも相手が身内だとしても性的な事でカイルが悪いとマオも思う。
それでも止めたのはキリカは一発と言っているが、どう見ても何十発も殴るように見えたからだ。
「いや、ごめんって!!でも実際に気になるんだよ!頼むから家ではやらないでくれ!」
「………!!」
謝りながらも話を続けるカイル。
キリカは声にならない声を上げ、更に暴れる。
マオはこれはもう無理だと諦めキリカを離した。
「ちょっ………!!?」
取り敢えずマオはカイルが大怪我をする前に止めようと殴られ続けるカイルを見ていた。
「ふん!」
そして満足したのかキリカは自分の部屋へと戻っていく。
カイルはたしかに殴られていたが怪我はいくつか青痣が出来ている程度だ。
あれでもキリカは手加減をしたのだろう。
眠るぶんには何も影響はないと軽く治療してカイルとマオもそれぞれ今度こそ眠りについた。
そして朝になる。
「早速見に行くか?」
三人ともに起き上がったのを確認してカイルは二人に元パーティの様子を見に行こうと誘う。
それに対して二人とも頷く。
朝食も近くに喫茶店で食べるつもりだ。
「そうだ、マオ」
「どうした?」
「今日の朝食は俺が奢るから好きなのを頼んで良いぞ」
「…………わかった」
カイルの奢りと聞いてマオは何も聞かずに頷く。
いつもカイルやキリカが奢る時は何かのお礼だ。
よくお礼だと口に出すが、偶に言い忘れているのか口に出さない時もあるから、そういうことだろうと納得していた。
「それじゃあ何を頼むか………」
奢りなら出来れば高いモノを頼みたいと考えるマオ。
今から楽しみだった。
「あら?私には奢らないの?」
「必要ないだろ?ほとんどマオが手伝ってくれたんだし」
「…………そうね」
カイルに自分には奢ってくれないのかと問いかけるが返された言葉にキリカは否定できない。
そしてマオは三人でいたときに何があったかなと思い出そうとしていた。
昨日の看板を組み立てたり運んだりしたことは全く考慮していなかった。
「それより喫茶店に行こうぜ。腹も減ってきたし何か食べたい」
マオの言葉にカイルたちも自分達の腹の具合を確かめてしまう。
そして腹が減っていることを自覚して頷いた。
「誰もが遠巻きに見ていて、助けもしようとしていないな………。もしかして嫌われている?」
マオは喫茶店に向かう途中でカイルを裏切った元パーティを見て思わずつぶやく。
正直マオからすれば日が刺して外の景色が良く見えるようになったら誰か助けるかもしれないと思っていた。
それはおそらくキリカも同じだろう。
キリカもカイルの元パーティを見て驚いた表情をしている。
だがマオとしては、そしてカイルとしても運が良かったとも思える。
もしかしたら誰かが助けて既にいなくなっていた可能性があるのだ。
それがなく屈辱的な姿を見られていることを確認できていることで、もう十分に目的を達せられてある程度満足する。
後は何時まで助けが来ないのか確認するぐらいだった。
「あっ、そうだ。悪いけどちょっとあいつらの所へ行ってくる」
カイルが突然そんなことを言ってきたことに二人は興味を持つ。
何があったのかと二人もカイルと一緒に元のパーティへと近づいていく。
「起きているか?」
カイルが元パーティに近づくと全員が睨んでくる。
それに対してカイルは平然とした表情で受け流す。
「これが何なのか知らないよな?」
そしてカイルが腕輪を見せる。
元パーティメンバーたちはそれを見て分からない顔をしていたが周りはどよめいていた。
「え?あれ何?」
「ばっか!?あれは真面目に働いていたら数十年は真面目に働かないと手に入らない代物だからな!!」
「そうなの!?」
周りの声に元パーティたちは信じられない目を向ける。
特に元恋人と奪った男は驚愕で目を見開いていた。
「お前らは俺のことをお金も持っていいない男だとそれは勘違いだ。それなりに俺は稼いでいるんだよ」
カイルの言葉に絶望する表情を浮かべる元恋人。
自分達を数的に不利なのにも関わらずボコボコにし、金も持っているのなら裏切らなければ良かったと後悔している。
だが元恋人だけにとどまらず元パーティたちは声を出すことも出来なかった。
夜風によって身体の熱を奪われ震えているせいもある。
「それじゃあな」
元恋人と奪った男がショックを受けているのを見て満足したのかカイルは、それだけを言って元パーティから離れる。
一緒についていたキリカとマオもカイルの後を付いて行った。
「そういえばカイルはどうして裏切られたんだ?」
マオは裏切られたことそのものに意識を向けていて、どうして裏切られたのか聞いていなかったことを思い出す。
先程の腕輪とお金の話から想像は出来るが確認したかった。
「あぁ、俺に金が無いからだってさ。それにケチだって」
「使う時には使わないと女の子どころか男の子にも嫌われるぞ。というか死ぬ」
「勇者だから知っている。それとは別にあいつは無駄使いが激しすぎるんだよ。使わない何の効果も無いお洒落だけのアクセサリや服を買いまくっているから止めたくなる」
「…………武器や防具よりも?」
キリカの質問に黙って頷くカイル。
それならどんな理由であれ、別れて正解じゃないかと二人は思う。
「別れて正解じゃないか?冒険者なのに、そっちに金を使うとか……」
「そうよね。使うなとは言わないけど、使い過ぎはダメじゃない。しかも注意してもケチで終わらせたんでしょ」
しかもそれが原因で不満を持って別れる。
やっぱり別れて正解だと二人は顔を見合わせて頷き合った。
「そうだな……」
ため息を吐いて頷くカイル。
そして三人で喫茶店の中へと入っていった。
「そうだ。どうせだし、何時あいつらが助けられるのか賭けをしないか?」
席に着くと急にマオがそんなことを言う。
視線の先は元パーティ。
外が明るくなっても誰も助けない状態を見ての発言だ。
「そうね……。それじゃあ私は昼には助けてもらえるに賭けるわ」
「じゃあ俺はそろそろかな?マオは?」
「俺も午前中。流石に立場的に誰か報告したりするだろ」
今は誰も助けていないし、もしかしたら連絡もしていないが直ぐに騎士たちに伝わるだろうとマオは考えている。
そうでなくても見回りに来た騎士が助ける可能性も十分にある。
「つまり私とマオは同じでカイルだけは違うわね。そろそろと言っていたけど後十分ぐらいで良い?」
「それは………」
今から十分以内には助けてもらえないだろうとカイルは考える。
あと一時間ぐらいは時間を延ばして欲しい。
「あと一時間は延ばしてくれないか………?」
「………わかった」
「マオ!?」
後十分だと賭けの結果は決まったようなものだしスリルを楽しむのだから一時間ぐらいはかまわないとマオは考える。
だがキリカにとっては不満らしい。
マオの決定に声を上げてしまう。
「別にいいだろ?賭けるものはまだ決めていないけど今決めまれば良いし。それに、ちょとしたスリルああった方が楽しいし。あと十分というのは結果が決まっているようなものじゃん」
「…………わかったわよ」
マオがそういうのならとキリカも納得する。
確かにあと十分というのは、もう結果が決まっているようなものだ。
確実に勝てるが、つまらない。
「その代わり今賭けるものを決めるわよ。私は服を買ってもらうかと思うけどマオは?」
「明日の夕食も奢りで」
「まぁ、それが一番問題ないからな………。俺はあと一時間だし二日分奢ってくれないか?」
「…………別に良いけど。あと私も明日の夕食を奢りに変更するわ」
カイルはあと一時間に比べて、こちらはまだ時間が余っている。
それに数的に一対二だから服よりもはるかに安い食事にする。
「よし!それで決まりだな!」
そして結果的に賭けはカイルが勝った。
助けに来たのは十一分後。
キリカが最初に言った十分より一分だけ遅かった。
そのことに気付いて三人とも、こんなことがあるのかと笑ってしまう。
そして三人でギルドの依頼を受け、賭けにしていた奢りを明日から今日に変更し一緒に夕食を楽しんでいた。




