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パーティを追い出されて③

「待て!それは何だ!?」


「一人でいたところを襲ってきたから逆にボコボコにした奴らだけど?」


「はい?」


 カイルが縄で一まとめにして運んでいた者たちを見て門番は声を上げて確認するが当たり前のように返された答えに思わず聞き返してしまう。

 マオと一緒にいるし勇者だとは知っているが、一人でパーティを返り討ちに出来るとは思わなかった。


「うん?」


 そして顔を確認するとボコボコにされているのはカイルのパーティメンバーじゃないかと思ってしまう。


「あぁ。そいつらは今日、俺をパーティから追い出したからもう同じパーティじゃないぞ。というか追い出したその日に一人でいたところを襲って来るって酷くね?」


「たしかに………」


 カイルの言葉に頷いてしまう門番。

 遠目から見て仲が良かったのに追い出されるなんて何があったんだと思ってしまう。

 しかもパーティから追い出した当日に一人でいたところを襲うなんて、人の気持ちは分からないものだと思う。

 仲が良さそうに見えたのは目の錯覚で自分の目が信じられなくなりそうだった。


「だから街の中に入ったらパーティで一人を襲ったのに逆に返り討ちにあった雑魚だと看板かプラカードを作って放置するつもりだけど、どっちが良いと思う?」


「………俺なら看板だな。プラカードだと一人一人に準備する必要はあるけど、看板なら一つで済むはずだし目立たせることも出来る」


 大きい看板に矢印を付ければ誰もが視線を向けるはずだと門番は思う。

 カイルもその意見に納得して看板を立てることに決める。


「なるほど。それじゃあ看板の方が良いな」


 ボコボコにして晒しているのだ。

 見た者は笑い助ける者は少ないだろう。

 それなら屈辱を覚えるはずだとカイルは考えた。



「さてと………」


 適当な所に元パーティメンバーたちを置いて看板の材料を探す。

 その間に病院に連れて行かれるかもしれないが、そうならない様にカイルは祈る。

 どこかに連れて行かれる可能性を減らすためにカイルは全員の口を塞いで見つかりにくい場所へと移動させる。


「出来れば目に付きやすいように大きいのが良いな………」


 壁に描く方法もあるが、それはカイルは遠慮したい。

 街の中を汚すようなものだし、直ぐに壊せて片付けることも出来る看板の方が良かった。

 何よりもシスターにバレて説教されるのが嫌だった。


「もう暗いし店は閉まっているか?」


 もし、そうならどうしようとカイルは悩む。

 最悪、もう一度街の外に出て板になりそうなものと某代わりになりそうな木の枝を見つけようかと悩む。


「何をしているんだ?」


 そんな中、マオとキリカが目の前に現れる。

 腕を組んで歩いており、付き合っていないのは口だけで本当は付き合っているんだろうな、とカイルは思う。


「二人とも………。ちょっと探しものをしているだけだから」


「ふぅん……」


「手伝おうか?」


 キリカはカイルの答えに興味は無く聞き流し、マオは手伝おうかと提案する。

 その答えに二人もぎょっと視線をマオに向ける。


「いや、そんなことは良いからキリカに付き合ってやって……」


 キリカはマオにそんなことをさせるなと睨みつけ、反射的に必要ないと答えを返すカイル。

 姉の視線が怖かったのもある。

 折角の二人きりなのに邪魔をするなと言われた気分だ。


「そうか……。まぁ、最悪ギルドに行けば手伝ってくれる奴もいるだろ。ギルドの依頼で探しものもあるし」


 それを聞いてカイルはギルドは24時間営業だったことを思い出す。

 急な依頼を何時でも受けることが出来るために時間交代で人が変わって受けている。

 依頼を受ける者も夜専門の者もいるぐらいだ。


「ところで探しているモノってカイルのパーティメンバー?ボコボコにされていたけど無視したけど」


「………………」


「え」


 こいつ本当は全て知っているんじゃないかとカイルは思う。

 そして何時の間に見ていたんだと思う。

 カイルは見られている気配は感じなかったし、様子からしてキリカも一緒にいたはずだ。

 それなのにキリカは驚いていることから見ていないのだろうと想像できる。


「まぁ、お前らだしな。元パーティメンバーに何か盗まれて隠されたとかだと考えれば納得できるし」


 納得しているように頷くマオにカイルとキリカも止めて欲しいと思う。

 自分の人運のなさに嘆きたくなる。


「……………はぁ」


 もう、どうでも良くなって本当のことを話そうとカイルは思う。

 そして手伝ってもらおうかと考える。

 マオはともかく同じ苦労をするキリカなら興味を持つはずだと考えた。


「あいつらの直ぐ隣に『一人相手に襲い掛かって逆に返り討ちにあった雑魚』という看板を立てようと思っているんだ。そのための材料を探しているんだが手伝ってくれないか」


「…………おう」


「良いわよ。私にも手伝わせて頂戴!」


 マオは、まぁしょうがないかと頷き、そしてキリカは協力を申し出る。

 何も悪いことをしていないのに裏切られるのは鬱憤が溜まるのだろう。

 キリカはそれを解消しようとしているのかもしれない。


「取り敢えず文字を書く板はギルドからもらったら?使わない道具とかあるだろうし」


「「おお!!」」


 それがあったかと二人は感嘆の声を上げる。

 そして目的のものを貰うために早速、ギルドへと向かおうとする。

 マオもカイルとキリカの二人に手を繋がれて一緒に行くことになった。



「あれ?三人ともどうしましたか?もしかして依頼を受けに来たんでしょうか?」


 ギルドにいる受付はギルドに入ってきた三人を見て、そう確認する。

 一人ずつならともかく三人同時に来ると、よく一緒の依頼を受けているからの確認だった。


「それも良いけど違う。看板に使える物を貰いに来たんだけど何か無い?捨てる予定の物でも良いんだけど………」


「あると思いますけど何に使うんですか?」


「一人でいた時にパーティで襲ってきた相手のちょっとした罰ゲームに……」


「なるほど」


 三人で依頼を受けるのかと疑問には否定されたが、逆にカイルたちから確認された内容にギルドの受付は頷く。

 どう使うのかはまだ予測が出来ないが、一人でいる時を集団で襲うなんて卑怯者にはギルドの受付も協力したいと考える。

 むしろ実力差から逆に殺されていないだけ有難いんじゃないかとさえ考えていた。


「それじゃあ案内しますので付いてきてください。………すいません!ちょっと席を外すので代わりをおねがいします!!」


「わかりました!今、行きます!」


 案内してくれるというギルドの受付に感謝し、その後を付いて行く。

 そして着いたのは倉庫の中だった。


「ここにある物は使って良いですよ。もともと近々捨てる物でしたし」


 それなら気楽に使えるとカイルたちは思い使えそうなものを探す。

 看板そのものは無かったが組み合わせて使えば代わりに出来そうなのが複数あった。


「それじゃあ、これとこれを貰いますね。組み合わせて使えば良い感じの看板になるでしょうし」


 キリカがそう言って手にしたのは二人以上で運ぶ板といくつかの棒。

 重量はともかく大きさが理由で二人や三人では運ぶのが大変そうな物だ。


「まあ、たしかに。だけど大きすぎて運ぶのが大変そうだけど………」


「運び終わったら返すので台車とか借りられませんか?」


「良いですよ。その変わり明日には返してくださいね?」


「わかりました」


 カイルの申請に受付も台車を許可を出す。

 そしてカイルたちは台車に材料を入れていき、カイルの元パーティのいるところまで運んだ。




「うわぁ……。悲惨ね」


 キリカはカイルの元パーティを見てため息を吐く。

 女も男も関係なくボコボコにされている。

 中には元の顔が分からないぐらいに殴られていた者もいた。


「奇襲されたけど無傷で勝ったんじゃないの?やり過ぎじゃない?」


 格下相手なのに容赦がなさすぎるんじゃないかとキリカは弟に呆れる。

 そして数舜して思い直し可哀想に思ってしまう。

 それだけ情があったのだと思い至ったせいだ。

 裏切られたからこそ、ここまでやってしまったのかもしれない。


「殺しに来たんだから別に良いだろ?」


 可哀想な目で見られたことに反抗的になるカイル。

 カイルからすればキリカが羨ましくてしょうがないのに、かわいそうな目で見られたことが更に拍車をかけている。


「……………こんなもんで良いか」


 それらを無視してマオは材料を使って看板を組み立てている。

 流石に拳を振るい始めたら止めるつもりだが、口喧嘩程度なら止めるつもりにもならない。

 しかも、ここなら口喧嘩で声が多きくなっても誰にも迷惑が掛からないだろうと思っているから猶更だった。


「あとは文言だけか………」


 だが、それも看板が組み立て終わるまでだった。

 看板を作っても文字が無ければ意味が無い。

 それをカイルに書いてもらおうとマオは口喧嘩を止めようとする。


「えい」


 だから二人の服を掴んで地面から持ち上げた。

 まだ口喧嘩の範疇だった二人はそれだけで驚いて意識をマオに向けた。


「は………?」


「え………?」


「取り敢えずカイル。看板に何か書いとけ」


 そうして組み立てられた看板を見てカイルは顔が赤くなる。

 本当なら自分がやるべきことなのに、ほとんどを任せてしまったからだ。

 そしてそれはキリカも同じだ。

 協力すると自分で言ったのに、結局ほとんど行動したのはマオだ。

 もう自分のやることは無かった。


「ごめん………」


「別に良いよ。それよりも何て書くんだ?」


 許してくれるのは有難いが、それが少しだけ心苦しく感じてしまう。

 本当に申し訳ないから、今度は食事でも奢りたくなる。

 そのぐらいならマオも気に留めないはずだ。


「そうだな。そのまま書くか」


 それは後にしてカイルはペンを取り出して板に文字を書き始める。

 その文言に片方は微妙な表情に、片方は苦笑する。


「あとはこれをみんなの目に触れるところに置くだけだな。悪いけど、もう少し手伝ってくれ」


 カイルの頼みに二人も頷く。

 一人で街の外から運んできたとはいえ、看板とか台車も増えたからきついだろうと思ったのもある。

 あとはそれを見て街の者たちがどんな反応をするのか、元パーティがどんな顔を浮かべるのか興味があった。


「明日、皆がどんな顔をするんだろうな?」


「さぁ?取り敢えず皆で明日の朝から見に行かないか?」


 キリカはまだカイルにかわいそうな目を向けていた。

 情がある相手に自分からこんなことをして辛くないのかと思う。

 自分も裏切られているから分かるが、何度も裏切られるのはやっぱり辛い。

 キリカにはマオがいるから大丈夫だが、カイルには誰もいない。

 もしマオに裏切られたらキリカは壊れるかもしれないと自分で思っている。


「そうね」


 だからキリカはカイルのことが心配になる。

 キリカにとってのマオがいない。

 だからこそ慣れたと言ってもそれは心を護るための壁だろう。

 それが、いつか壊れてしまったら姉として、カイルがどうなってしまうのか不安だ。


「それじゃあ皆が視線を向ける場所として門番の近くに置くか?」


「いや、俺はゆっくりと見たいから出来れば喫茶店とか店の中から見える位置に置きたい」


「なら適当な広場の真ん中か?」


「そうだな………。キリカもそれで良いか?」


「そっちで先に決めて良いわよ」


 キリカとしてはどっちでも良い。

 二人で思う存分に話し合って決めた方にキリカも付き合うつもりだ。

 カイルを裏切った者たちが辱めを受けるのを見るのは気分が良いが、そのことに弟がどう思っているのか心配だった。

 キリカからすればカイルが裏切られた相手に反撃をするのは初めてだった。

 今までは裏切られても諦めたのにどんな変化だと、姉として気になっていた。


「それじゃあマオ。広場に置いたら家に泊らないか?ついでに明日の朝は奢ってやる」


「良いのか?」


「当然だろ。キリカも良いよな?」


「そうね………。私も構わないわ」


 強いて言うのなら手料理を食べさせるか、一緒に料理を作ることが出来ないのは残念だが機会は別にあると諦める。

 だが同時に丁度良かった。

 マオさえいれば一緒にカイルの変化にも気を付けれるのかもしれない。


「マオ、後で相談したいことがあるんだけど良いわよね?」


「別にいいけど、どうした?」


「詳しいことは二人きりで相談したいから、カイルが寝てからで良い?」


「…………わかった」


 何を相談したいのか分からないがキリカの力になるのならとマオも頷く。

 だがカイルを外すとなると、もしかしたら相談したいことはカイルのことかもしれないとマオは予想する。

 もしかしてカイルに何かあったのかと予想し、マオはカイルは大丈夫なのか不安に思った。

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