パーティを追い出されて②
「悪いわね。私、貴女より彼と一緒にいる方が幸せになれると気づいたの」
「そういうことだ。だからもうこいつには近づくなよ?パーティも離脱しろ」
「な………」
「別に良いだろ。お前も元カノと同じパーティにいるのは辛いだろ?」
カイルは彼女を奪われパーティを離脱しろと迫られる。
今、所属しているパーティはカイルが作ったのにだ。
むしろ離脱するのは目の前の二人だと思っている。
「…………わかった」
だが他のパーティメンバーの視線にカイルは頷くことにする。
同じパーティに所属しているのに関わりたくないという視線。
助けを求めても無駄だろうなと考える。
迷惑だとしか思わないはずだ。
「あぁ、そうそう。恋人を奪われたくなかったから金を持っていた方が良いぜ。少なくてもあいつはお前に金が無いから浮気したんだし」
「はぁ………」
それを教えてくれたのは嫌味だろうとカイルは想像してため息を吐いた。
多分、無駄な買い物をしないように注意していたから金を持っていない様に思われたのかもしれない。
金遣いが荒い女に目の前の男がどうなるか想像して同情の視線を向けてしまう。
「何だよ、その目は?」
「これなんだ?」
カイルが見せたのはかなり高価の腕輪。
普通に働いて十数年は働かないと購入も出来ない代物。
「それがなんだ?」
「そんなものを見せて何なのよ?」
「はぁ……」
二人の言葉にカイルはため息を吐く。
金をカイルより持っているという癖に腕輪の価値がわかっていなかった。
「何だよ、その目は……?」
「別に?」
だがカイルはパーティを追い出される以上、教える必要は無いと考える。
そのまま元パーティの前から去ろうとする。
「待てよ!」
それに対して男はカイルに掴みかかろうとする。
握り拳も作っており今にも振り下ろしそうだ。
「なめんな」
そして男の口には笑みが浮かんでいる。
思いきり殴って、どっちが強いか分からせれば自分に従うと思っているのかもしれない。
「クロスカウンターだ!!!」
だからカイルは逆にカウンターを打つ。
見事なカウンターに元カノも含めた見ていた者たち全員がカイルに喝采を浴びせる。
それらを無視してカイルはカウンターに倒れた男の髪を掴んで目を合わせる。
「勘違いするなよ、雑魚。お前よりも俺の方が強い」
それだけを言ってカイルは男を離して元パーティメンバーを見渡す。
「「「「ひっ………」」」」
見渡されたことで怯える元パーティメンバーたち。
それを見下し、カイルは元パーティの目の前から去っていった。
「本当にふざけやがって………!」
カイルは街の外に出て苛立ちで力任せにモンスターを殺しながら愚痴る。
全く同じとは思わないがマオが雑魚に絡まれている時の気持ちが分かってしまう。
弱いくせに自分の方が強いと絡まれるのは腹が立つ。
「何で俺がお前らの言いなりになると思ってんだよ!」
力づくで従わせようとしたことも腹が立つ。
元カノも止める気配がなく、何であんな女を好きになったんだと自分に腹が立っていた。
「待てよ……。テメェ……」
後ろを振り返ると元パーティメンバーたちがいる。
中心には寝取り男。
全員が武器を構えていた。
「何の用?」
そう言いながらもカイルもまた武器を構える。
いつ襲い掛かってきても対処できるようにするためだ。
それにしてもと他のパーティメンバーを見てカイルは思う。
敵意もほとんど持っていないが流されて武器を構えているのだろう。
何か問題になっても男のせいにすれば良いし、この数だから死んでしまっても街の外だから誤魔化せると思っているのかもしれない。
もし、そうでなくても武器を構えている時点で敵だ、
容赦をするつもりは無い。
「何の用だと!?俺を殴っていて、その言葉か!?」
「はぁ……」
カイルはため息を吐く。
人の恋人を奪って、作ったパーティを追い出しての言葉だ。
呆れるしかない。
そもそも殴ったのだって向こうからじゃなかったらカウンターを打つことも無かった。
「今度はパーティの全員だ。お前に勝てるはずが無い」
どんな手を使っても勝ちに行く。
パーティとして迷宮に挑んだり、強大なモンスターと戦うなら問題は無い。
むしろ好感を持つ者が多い。
だけど個人の問題で関わって襲ってくるのは情けないと思ってしまう。
「いや、そうでもないか……」
マオはよく奇襲でパーティで襲われている。
格上に対しての腕試しだが見ようによっては同じだ。
そう考えると目の前の元パーティメンバーたちはカイルを格上だと判断していることで気分が良くなる。
「何を言っているんだ、お前は!?」
元パーティメンバーからすれば急にカイルが意味の分からない独り言を言い出したように見えない。
だが隙だらけだと奪った男は剣を振りかぶって突撃した。
「ふっ!」
カイルは振り下ろされた剣を自分の剣で防いで回復役の位置を確認する。
最初につぶすべきは彼女からだ。
元パーティメンバーとはいえ殺しに来たのだから容赦をするつもりは無い。
更にいえば”流されて”武器を向けてきたのだ。
ある意味、奪った男より危険だ。
「え?」
だからカイルは寝取り男の剣を受け流して回復役の女に突撃する。
女はまさか自分の方へと向かってくると思わなかったのか呆然としている。
「死ね」
カイルは回復役の女へと向けて剣を振り降ろす。
目の前には護る相手もいない。
だから回復役の女は無防備にカイルの反撃を受けてしまった。
「これで倒しても復活することは無いな」
回復役がいると倒しても倒しても復活してきて襲ってくる可能性がある。
だからカイルは最初に回復役の女を一番に倒す。
そして上手くいったことに無意識にガッツポーズを作ってしまう。
「お前ぇぇぇぇ!!!」
そして、その行動を見てタンク役の男はカイルにタックルを仕掛ける。
だが、ぶつかる前にカイルは距離を取って避ける。
「何でそんなに怒っているんだ?殺しに来たのはお前らだろ?」
「は?」
「は?じゃないだろ。人を殺せる武器を相手に向けているんだ。やり返して何が悪い。それに実際に本気で殺しに来たしな」
そう言ってカイルは奪った男を見る。
剣で防がなければ切り裂かれていた。
つまり殺す気だった。
「それは、そいつだけだ……!」
「一緒に来ていて何を言っているんだ?」
一緒に来て同時に武器を向けてくる。
それを敵だと判断して何が悪いのだとカイルは思う。
敵じゃないというのなら別々に来れば良い。
「それにしても、そいつが倒されて一番悪いのはお前だろ?」
それにカイルに怒りを向けているが、それは見当違いだとカイルは思っている。
だってタンクなのだ。
それは自分以外の誰かを護るための役割。
それを果たせなかった癖に文句を言われる筋合いはない。
「何だと!?」
「お前はタンクだろ。ならちゃんと護ってやれよ」
それが出来ないのなら価値は無いとカイルはタンクの顔面を殴る。
鼻血は出ているが、タンクだけあって倒れない。
それだけ頑丈なら回復役の女も護れただろうにと思いながらカイルは何度も何度もタンクの顔面を殴った。
「……………」
最終的には元の顔の面影がなくなるまで殴られ、見ただけ痛そうな顔になる。
そして意識が失ったのを確認してカイルは放り投げる。
「………」
「ひっ………!」
次にカイルは盗賊役を確認する。
それだけで盗賊役は悲鳴を上げて逃げようとする。
カイルに向けて背を向けて逃げ出そうと足を動かしたところで転ぶ。
「残念」
「あぁぁぁぁ!!!!?」
そして足の骨をフミ折られて悲鳴を上げた。
そもそも転んだのは後ろを向いた瞬間にカイルが石を足に当てるように投げたせいだ。
かなりの威力があって遅らせるどころから転ばせてしまった。
「戦う相手はちゃんと選んだ方が良いぞ」
そう言ってカイルは盗賊役の腹を蹴って黙らせる。
残るは二人。
元カノと奪った男だった。
「あとは二人」
「ひっ……」
「クソっ……」
実際に口に出して二人を見ると怯えた目でカイルを見る。
「…………っ。ごめんなさい!私は止めた方が良いって言ったのに止められなかったの!でも良かった!あなたが怪我をしなくて!」
元カノがカイルに走り寄ってそんなことを言ってくる。
奪った男は元カノを殺意混じりに睨みつけている。
「本当はあなたがマオって人のことばかり話しているから仕返ししたかったの……。許してくれる?」
もしかしたら半分は事実かもしれない。
だがカイルからすれば武器を向けられた時点で許すも何も無かった。
「何をふざけたことを言っているんだ?」
だからカイルは近づいてきた女を裏拳で殴る。
近づいて欲しくなかった。
「え………」
殴られた事実に頭が真っ白になる女。
思考が戻ってくる前に更に追撃をする。
「まずは足。そして腕」
「がっ………!あぎっ………!ぎゅっ………!いぎっ………!」
両腕両足を踏み砕かれて悲鳴を上げる女。
そして最後に腹を蹴って意識を落とそうと考えていたが、ふと思い至って止める。
何で寝取った男が何もしないのか気になかったせいだ。
何度か攻撃する機会はあったはずなのだ。
例えばカイルが他のメンバーを攻撃している間とか。
それなのに攻撃もしない。
特に最初に攻撃した回復役やタンク役を囮にすれば、ここまで被害は無かったんじゃないかと考えてしまう。
「なぁ、何でお前は挑みかかって来ないんだ?」
そうしてカイルは寝取った男に視線を向けると膝がガクガクと震えていた。
情けないと思う。
まだ許しを求めてきた元カノの方が価値がある。
「うるせぇよ……!!ならやってやるよ!!」
悪態をついているが震えているのが見て分かり、あれで攻撃されても大した威力は無いだろうなとカイルは考える。
だからカイルは女を持ち上げて寝取った男の様子を見せつける。
「だったら、やれば良いのにな?俺がお前にこんなことをしているのに、あいつは何もしてこないんだ。俺が怖いから何も行動に移せないなんて情けないだろ?」
カイルは女の髪を掴んで持ち上げる。
女に対して最低な行為だ。
もし第三者が見たらカイルが加害者だと判断してしまう。
「うあ………」
そして女は後悔していた。
ケチだからとカイルと別れたことも。
最後が気に喰わないからとパーティの全員で襲おうと考えていたことを。
「くそっ………」
そして自分を助けるために動けない目の前の男を軽蔑する。
最初にカウンターを打たれた時も油断していただけだと、今度は俺が勝てると言っていた癖に何も動けないからだ。
「本当に何であんな男を好きになったんだ?まぁ、金遣いが荒いお前だからお似合いなんだろうけど……」
呆れたように言うカイルに口を出す余裕があったとしても何も言えなくなる。
そして女は自分とカイルは金に対する価値観が違うのだと理解した。
「直ぐに金を使い果たすだろうけど、俺は助けないから苦労しな」
そしてカイルの言葉に女は安堵した。
未来の話をしているということは殺す気は無いのだと理解できたからだ。
そして安堵のため息を吐くと同時に浮遊感を味わう。
その一瞬後、女の視界が真っ暗に染まった。
「最後はお前だな」
そしてカイルは最後の寝取った男を見る。
震えて何も動けない男。
こんな男に女を奪われたのかと涙が出てきそうになる。
「少なくとも自分の女は助けるために動いてやれよ……」
「ふざけんな………!」
男にも言いたいことは山ほどある。
パーティを追い出したとはいえ、まだ一日も経っていない。
そして元カノと別れたとも同じだ。
それなのに容赦なく攻撃するカイルが恐ろしかった。
元パーティに対する優しさが一切ない姿に、本当は一切心を許していなかったんじゃないかと思ってしまう。
「何で皆にあんなに容赦がない攻撃が出来るんだよ……!?まだ追い出されて一日も経っていないんだぞ!!?」
「別に理不尽な理由でパーティを追い出されているのは慣れているし」
そういって剣を振り降ろしてくるカイル。
避ける余裕もなく直撃し、意識を男は落としてしまった。
「はぁ………」
カイルは元パーティメンバー全員を叩き潰してため息を吐く。
我ながら甘いと思ったせいだ。
殺意を向けてきたから殺そうと思ったのに結局は全員が生きていた。
「結局は骨を折って意識を落としただけだしな………。ついでだし街の中まで連れて行くか……」
このままだとモンスターに喰われて死んでしまうしとカイルは全員を落としてしまわない様に一つに纏めて強く縛り上げて運び始める。
何人も一度に運ぼうとしているから重いが運べない程ではない。
「街の中に着いたら、街の外で一人でいる相手にパーティで襲い掛かって返り討ちにあった弱者ですと書いてある看板でも立てるか」
屈辱だろうなと想像して笑い、どんな目を向けられるのかと考えて楽しみになって運ぶスピードが上がる。
その様子をカイルはマオとキリカの二人で眺めようと思っていた。




