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寝取られ勇者とその友人③

「よくも今まで彼女を虐めてくれたな!!俺はお前とのパーティを組むのを止めて、彼女と組む!」


「何を言っているの?」


「しらばっくれるな!お前が彼女を散々虐めてきたのは知っている!」


「何を言っているの?」


「誤魔化さないでください!どれだけ私が辛かったか……」


「あぁ、大丈夫だ。これからは私が君を護って見せる。だから泣き止んでくれ……」


「何を言っているの?」


「今は逃げようのない証拠は無いが見つけてお前の罪を暴いてやるからな!後悔しろ!」


「何を言っているの?」


 キリカは自分のパーティメンバーが知らない女と一緒に全員が出て行ったのを見送って呆然とする。

 意味が分からなかった。


「あいつら頭がおかしいんじゃないかしら?」


 キリカの言葉に遠巻きに見ていた者たちは、キリカを敵視する者もいれば、同情する者、何かの本で見た展開そのものになって肩を震わせている者、そして呆れている者がいた。


「……なぁ、一つ質問していいか?」


 そんな中、一人の男がキリカに質問しようとする。

 それに快く頷くと男は疑問を口にした。


「さっきの虐めていた女の子のことを君は知っているのか?」


「いや知らないけど。そもそも勇者として虐めなんてしたら教会で小さい子供たちと道徳の勉強をする羽目になるか絶対にやらないわよ」


「マジで……」


「マジよ」


 キリカから聞く教会の話で思わず真顔になる質問した男。

 それにキリカも真顔で答えマジだと理解してしまう。

 それは確かに嫌だと敵視を向けていた者も考え直す。

 そんな目に遭うぐらいなら虐めなんて普通にするはずがなかった。


「それにしても、あの女の子の顔は凄かったわね」


「どういうことだ?」


「だって私の目の前から去る時、勝ち誇るような顔をしてたわよ?」


 キリカの言葉に女の子の顔を見ていなかった者たちは信じられないという表情をする。

 あんな可愛い女の子が勝ち誇った顔をするなんて信じられなかった。


「それと女性の皆さん、こっちに来てもらって良い?男性陣はこっちに来ないで。少し話したいことがあるんだけど……」


 急に女性だけ集めることに女性陣は首を傾げ、男性陣は不信感を持つ。

 仲間を奪われた直後だし、何で女性だけを集めたのが疑問だった。

 男性より女性の方が虐めなどは悪辣だし出来れば、親しい女性のそんな姿は見たくないと声を掛けようとする。


「何?」


「ちょっとあいつら見て思ったんだけど……」


「おい」


 そして何の用かと女性陣が集まって話しているところに途中で男性の一人が声を掛けてくる。

 話している最中だし女性だけで集まっているのに何の用だとキリカだけでなく女性陣達も声を掛けてきた男性を睨む。

 女性の会話にそんなに興味があるのかと思ってしまった。


「そうだ!私たちの会話に興味があるなら聞きますか!」


「え?」


 男性陣は自分達をのけ者にして何を話しているのか興味があって頷く者もいたが、何人かはこの場から去ろうとしていた。

 それを認識してキリカは逃げないように魔法を使う。


「聞きたいんでしょう?逃がしません」


 キリカが魔法を使うことに止めようと思ったが、キリカの言葉と使う魔法に止めようとするのは辞める。

 むしろ協力しようと思っていた。

 男性は女性の怖いところを見るのは嫌がっているけど、どうせなら見せてやろうと思っていた。


「そんな……」


 逃げようとしていた者たちもこの場から逃げられなくなる。

 それでも聞きたくないと耳を塞ぐものもいた。


「それで話を続けますけど、あの私の仲間を奪った女の子。今夜にでもセックスすると思いません?あんなに勝ち誇った顔をしていたし既成事実を作って逃がさないためにしそうに思うんですけど」


「有り得そう……」


 キリカの奪われた仲間の一人であり抱き着かれていた男はイケメンだった。

 だからこそヤッていると思ってしまう。


「それにしても冤罪だけど奪い返したりするの?」


「あれだけ言われたらイケメンでもいらないわよ。また別の仲間を探すわ」


「もしかしてもうシたの?それに下手糞だったとか?」


「私、まだ処女だから。イケメンは観賞用としては良いけど私の好きな人に比べれば弱すぎて魅力的に思えないし……」


「夜の?」


「殺し合いとか試合の!」


 女の子がセックスとか性のことを話すのは聞きたくなかった。

 何でこんなことを聞かせるのかと考え、原因は声を掛けてきた男だと思い睨みつける。


「というか処女って本当に?結構な数のイケメンとパーティを組んでいるじゃない?」


「イケメンと確かにパーティを組んでいるけど、だからといってシないわよ。そもそも男なんて直ぐに別のところに行くし。まぁ、それは女も何だけど……」


「あぁ、寝取られ勇者だもんね……」


「それは本当に辞めて!!何で広まっているの!?」


 マオの言っていた寝取られ勇者という名前が広がっていることにキリカは悲鳴を上がる。

 最初は敵視をしていた者たちも彼女が寝取られ勇者だと聞いて敵意も完全になくなった。

 むしろ同情の念が湧いていた。


「そもそも寝取られ勇者は弟の方よ!私は恋人なんて出来たことも無いし違うわ!!」


「いや、二人ともに寝取られ勇者って呼ばれていたじゃん。現実を認めなよ」


 認めたくないと顔を背けるキリカ。

 聞いていた者たちも辛くなってきて話を終わらせてほしいと思ってしまう。


「そういえば何回、仲間を奪われたのよ。寝取られ勇者と呼ばれるぐらいだし気になるんだけど」


「………十回から先は数えていない。パーティを解散することになったも同じぐらいよ」


「「「「「「……………」」」」」」


 二桁を超えていると聞いて思わず真顔になる話を聞いていた者達。

 それを聞いたからにはからかえないと思ってしまう。

 もう皆でキリカの愚痴を聞いて飯でも何でも奢ってあげようと考えてしまう。


「………呪われていない?」


「教会では呪われていないって言われました。ってそんなことはどうでも良いんです!寝取られ勇者と呼ぶのは辞めてください!」


「………うん」


 取り敢えずキリカのいる前では寝取られ勇者と呼ばない様に気を付けることを声に出さずとも皆が頷いて決めていた。



「それにしても何で貴女も弟君もパーティメンバーを奪われるのかしら?」


「さぁ?」


 教会は呪われていないと言っていたからこそ不思議だ。

 そういう星の元に生まれたとしても奪われ過ぎだろうと思っている。


「しかも何かの本の内容のようにパーティを解散することになることが多いから、最初はまるで劇を見ている気分になるけど、後からパーティを解散したことを自覚して辛くなんだよね……。折角、今回こそは仲良くなれたと思ったのに………」


「大丈夫だから!きっと奪われたりしないパーティメンバーも出来るから!!」


 パーティメンバーを奪われるときの気持ちを赤裸々に話されて全力で慰める羽目になってしまう。

 どうか奪われないパーティメンバーをキリカに会わせて欲しいと祈る。


「どうせ、そんなのいないわよ……」


「ほら、マオ君とか!?」


「何度か誘っているのに全部、断られているのに?」


 何でマオは誘われているのにパーティメンバーにならないんだと憤りを感じてしまう。

 どうせ二人を知っている者からは確証は無いが両片想いだと見ていて分かるのに疑問だ。

 一緒にいたいと思わないのだろうか?


「何で断られるのか知っている?教えてくれれば協力できるかもしれないわ」


「何か私達とパーティを組むと心変わりがしそうだって………。あとソロの方が気楽みたい……」


 どっちがマオの本音だと疑問に思ってしまった。

 どっちが本音でもマオならおかしくない。

 だけどソロが理由なら説得できるんじゃないかと考えてしまった。


「まぁ、それ以前にマオは私たちを足手纏いに思っている可能性があるんですけどね……」


 誰もが否定できなかった。

 マオの実力は知っている。

 何ならこの中にでもマオを襲い返り討ちにあった者もいる。


「他人に気を遣って神経を減らすぐらいならソロの方が気楽なんでしょうね……」


 それでもソロだからこそ心配だとため息を吐くキリカに話しを聞いていた者たちは確認したくなった。

 キリカはマオが好きなのかを。

 口に出して好きだとは聞いていないから証拠は無い。

 態度から予想しているだけ。


 出来れば口に出して好きだと言っていたのを録音して、今この場にいない者たちにも協力させて手伝おうかと考えていた。

 他人の恋愛ごとだから他の皆もよろこんで協力してくれるだろうと想像する。

 

 マオについては確認する必要が無い。

 酒場にいたときにプロポーズじみたことを言っていたのだ。

 聞いていた者たちはキリカが好きなのだと確信していた。


「ふぅん…。ねぇ、キリカはマオのことが好き?」


「はぁ!?」


 そんな中一人の女性がキリカにマオが好きなのかと問いかける。

 キリカはマオのことが好きなのかと聞かれて顔を真っ赤にする。

 それに怒りの色は見えず照れと恥ずかしさが見えていた。


「いきなり何を言っているの!?」


「だってマオ君、かなり強いじゃない?性格もそこまで難があるように見えないし。結婚したらお金もたくさん稼げて楽そうじゃない?キリカが好きな男の子じゃないなら狙ってみようかなって?」


 嘘だった。

 言っていること自体は嘘では無いが年齢の差があり過ぎて、そういう目では見れない。

 正真正銘子供としてしかマオを見ていなかった。

 だが……。


「そういえば、そうよね……」


「マオって優良物件?」


「そもそもキリカに譲る必要はある……?」


「恋は戦争よね……!」


 恋に協力させるつもりが恋敵を生み出してしまった。

 ほんの一部だとはいえ優良な部分を口に出してしまったせいで何人かの女が狙い始める。

 流石にこれはマズいと更に口を出す。


「マオ君も君にプロポーズをしていたし」


「は?」


 一瞬でこの場が静まり返る。

 キリカも言われた意味を理解できなくて口を何度も開いては閉じている。


「仲間に誘った時に嫁になるなら考えて上げるって言われてたでしょ?」


「あ………」


 それを思い出し意味を理解してキリカは顔が真っ赤になる。

 他の者たちも顔を赤くしたり感心の声を上げたりしている。


「まぁ、酒場の軽い調子で言われていたから聞き逃してもしょうがないし場所と雰囲気を考えろと私も文句を言いたくなるけどね」


 プロポーズをしたと聞いて絶望的になった女たちも、まだ終わっていないと気合を入れなおす。

 まだ終わっていないと最終的にキリカより自分を惚れさせれば良いのだと何人かは考えていた。


「それで?」


「え?」


「キリカはマオのことが好き?」


 再度、質問する。

 どうしても確認したかった。

 恋敵が出来てしまったが考え直して、それも良いと思ってしまっている。

 一人の男を複数人の女の子が取り合うなんて物語みたいだと考えていた。

 まるで本の世界にいるみたいで、もっと楽しませろと思っている。


「………別に良いでしょ」


 顔を赤くして顔を逸らすキリカ。

 それで大体は分かるが、それでも口にして証拠が欲しかったと質問する女性は思う。


 そしてキリカは恥ずかしくて口にしたくなかった。

 何で自分の思いを多くの者が聞いている赤裸々に暴かれなきゃいけないんだと思っている。

 それに話したところで協力してくれるわけでも無いのにと思ってしまう。

 むしろ弱みを握られてしまうんじゃないかと考えてしまう。


「ねぇ、ちょっと良い?」


 そんな中、マオのことが好きなのかと聞いてくる年上の女性とは違って同年代の女の子たちがキリカに話しかけてくる。

 それも一人ではなく複数人で、だ。

 年上の女性はそれを見て笑顔になっていた。


「貴女がマオが好きがどうかは関係ない。それでも宣戦布告に来たわ」


 代表してか一歩前に進んだ女の子の言葉に他の娘たちも頷く。

 それを聞いて年上の女性は喜色満面の笑みになっていた。


「ふぅん……」


 キリカは同年代の女の子の言葉に敵意に満ちた顔をする。

 それがもう答えみたいなものだったが、ある意味わかり切っていたことだから誰も気にしない。

 それよりも冗談だったとしてもプロポーズをされた彼女にどうやって勝つが大事だった。


 そして男子にはマオに対して嫉妬の念を向けている者もいた。

 キリカに宣戦布告した女の子たちの中には気になっていた可愛い女の子もいたせいだ。

 あいつばかりモテるのはズルいと思っている。


 大人たちはそんな少年少女を見て面白そうにしている。

 モテる者も、それに嫉妬する者も見ていて自分の若いころを思い出す。

 ここに酒があれば、それを飲みながら見ていただろう。

 そして同時に若い子たちが、これからどんな風に成長するのか想像して楽しみになっていた。

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