パーティを追い出されて①
「悪いな、俺はお前よりこいつを選ぶ」
「ふふっ」
キリカの目の前には自分とパーティを組んでいた男が同じくパーティを組んでいた女を抱き寄せて、そんなことを言ってくる。
そして抱きしめられた女はキリカに向けて勝ち誇った笑みを向けていた。
「…………」
キリカには意味が分からずにただ黙ってしまう。
別に目の前の男が誰と付き合おうが自分には関係ないのに何で見せつけるように言ってくるのか、これが理解できない。
いや同じパーティだから教えてくれることは、まだ理解できる。
だが見せつけられることが分からなかった。
「お前より、こいつの方が魅力的なんだ……。悪いがもう近づいてこないでくれ」
キリカは自分から目の前の男に近づいた記憶は無い。
好きな相手は別にいるし、それに他の男に手を出す気も無い。
何でそんなことを言われるのか意味が分からない。
「そういうことなんでもう近づかないで下さいね?」
そして何故か勝ち誇った笑みを浮かべる女。
もしマオが奪われたら嫉妬で怒り狂っていたかもしれないが、そうでないために困惑しかない。
「それじゃあな」
「待って」
「待たない」
別に目の前の男が何を考えていようが別に良い。
だがパーティはどうするのか確認したかった。
「パーティはどうするのよ?」
近づくなと言われてもパーティを組んでいる以上、どうしても近づく必要がある。
それはどうするのかと確認する。
「お前には言っていなかったがパーティは解散だ。皆には伝えてある」
「ふぅん……。そう」
多分だが自分を除いてまた集まるんだろうなとキリカは考える。
そしてパーティを組んでダンジョンへと挑むのだ。
「それだけですか………」
「別に今更でしょ」
何故かキリカの反応に不満を見せる女。
そんなに悔しがる表情を見たいのか疑問だ。
そもそもそんなものを何で見たがるのか理解できない。
どこかで会って恨みを買ったのかと思うが、そんな記憶は思い出せない。
「一応言っておきますけど。彼、貴女のことが好きだったみたいですよ?それなのに彼の誘いを何度も断るなんて……。そんなんだから奪われるんです」
「え………」
目の前の女の言葉にキリカは自分が目の前の男が好きだと思われていたのだと理解する。
そして、それは周りの者たちもそう思っているに違いない。
そのことにキリカは絶望して顔を青くする。
「それでは」
その表情にようやく満足げな笑みを浮かべる女。
そして男もスッキリしたような表情を浮かべている。
「私が好きなのはマオだけなんだけど!!?」
二人が消えた後にキリカはそう叫んだ。
「キリカ?大丈夫?」
「………私ってあの男に惚れているように見えた?マオが好きなのに?」
心配して駆け寄ってくれたギルドにいた友人にキリカは思わず、そう問いかける。
「うーん。私からはそう見えなかったけど、皆は?」
「え!?」
そして帰ってきた答えの半分は見えなかったという答えと、好きでないことに驚いた答えで半分だった。
「違うの!?」
「………私、マオのことが好きで他の男には興味が無いんだけど」
本気で驚いている声。
自分では普通に接していたのに何でそうなったのか理解が出来ない。
「でも、あんなに身体を近づけていたし………」
身体を近づけていたと言われて思い出してみるが、そういえば何度か密着したことがあるような気がする。
だが、それだけで好意を持っていると判断されたのが謎だ。
「それだけで?」
「あと他の男たちに向ける視線や態度より優しいし………」
同じパーティを組んでいるのだから、それ以外の男よりは優しくするのは当然だ。
むしろパーティを組んでいるのに同じ扱いをする方がおかしい。
「同じパーティを組んでいるから当然じゃない?貴女は同じパーティにいるメンバーとそれ以外を同じ扱いをするの?」
「う……」
それを言われるとたしかにそうだと納得してしまう。
共に冒険した相手とそれ以外では無意識でも扱いに差が出てしまう。
「一応言っておくけど、私が好きなのはマオだけだからね?」
そう言ってため息を吐くキリカ。
先程の光景をマオに見られたら誤解されてしまいそうだ。
自分を好きだと言っておきながら、他の男にも声を掛ける。
そう思われたら最悪だ。
「それにしても急にどうしたの?前までは好きなんて言えずに顔を赤くしていたのに……」
そういえばとマオのことが好きだと知っていた面々は思い出す。
いつもなら好きだとは言えなかったのに、素直になっている。
まさか嘆いていたとはいえ、大声でマオのことが好きだと言うのは驚いていた。
「別に……」
何かあったなんてキリカからすれば色々な意味で恥ずかしくて言えない。
一緒に寝たとか、誘ったとに手を出されなかったとか、逆に自分から手を出すことも無かったとか言いたくない。
その代わりに呪いを互いに掛けたが、それが素直になった原因かもしれない。
「えぇ~?教えてくれても良いじゃない?」
「ダメ」
強い口調で教えることを断るキリカ。
その反応に何かがあったのだと察することが出来る。
もしかしたら二人だけの特別な思い出として秘密にしたいのか、それともシタのかと想像して顔をにやけさせる。
そしてその反応にキリカは更に顔を赤くする。
「かっわいいな~!」
更にその要するにギルドにいた女性陣はキリカを可愛がる。
恋バナで人をからかえるなんて愉しくてしょうがない。
「もしかしてシタ?」
「シてない!」
「じゃあキスだ!?」
「違う!」
質問を続けて何があったのかと探るつもりだとキリカは予想がついて逃げようとする。
その為にギルドから逃げようと決めた。
「あっ……」
顔を赤くして逃げ出すキリカに誰も追わない。
本当は追いついて逃がさないことも出来たが、これ以上は嫌われるからと我慢する。
ただ目の前の恋愛は見ていて楽しいし、邪魔をしないように適度にちょっかいをかけて応援していこうと決めている。
いつ付き合うのか、それとも結婚するのか賭けている者もいる。
「顔を赤くして逃げたところでマオと会って戻ってきたら笑うわ」
そして、この後を予想した言葉にそれもそうだと笑う皆。
だが、それは無いだろうと確信もしていた。
「むしろ会っても赤くした顔を隠して更に逃げるんじゃないか?」
更に続けられた言葉に皆が有り得そうだと爆笑していた。
「あだっ!?」
「はぁ……。何をしているんだ、キリカ?」
キリカが必死にギルドから逃げ出すとギルドにいた者たちの予想通りにキリカはマオにぶつかった。
だがギルドで想像していたのとは違い、キリカはマオと逃げ出せなかった。
「え……。あ………」
その理由はマオがキリカがぶつかった際に抱きしめることで逃がさない様にしているせいだ。
「ちょっ……」
「俺じゃなかったら怪我していたんじゃないか?鍛えてない者だったら当たり所が悪かった死んでいたぞ」
「わかったから………!」
顔を真っ赤にしてマオの腕の中から逃げ出そうとするキリカ。
こんな往来で抱きしめられていることが恥ずかしかった。
「………もしかして恋人か?」
「まだ」
隣にいたアリストがマオに質問する。
まだパーティを組んでいる途中だった。
いつ解散するか、まだ決めていないが解散するまでにマオの行動を参考にしたいと考えている。
「そいつ誰?」
「一時的にパーティを組んでいる貴族」
「貴族!?…………いや、普通に考えたらおかしくないか。私も貴族とパーティを組んだことがあるし」
キリカはマオとパーティを組んでいる男を嫉妬で睨みつけるが貴族と聞いて驚く。
だが自分も貴族と組んだことをあることを思い出して落ち着く。
「そういえば前からパーティを組んでいたって聞いていたけど金?」
「違うから。ただ単純に惚れている婚約者のために………。悪いけど秘密」
話そうとしたところでマオはアリストに攻撃され、話そうとした言葉を妨害される。
だが、もうほとんど言っていたせいでキリカはマオに白い眼を向け、アリストは崩れ落ちる。
そして話が聞こえていた者たちもアリストに微笑ましい目を向け、キリカもまたアリストに温かい目を向ける。
「そうですか……。頑張ってくださいね!」
更にキリカから良い笑顔で向けられた言葉にアリストは顔を赤くし聞いていた者たちも首を縦に振って頷く。
アリストはそれを聞いて更に顔を真っ赤にした。
応援してくれるのは嬉しいと思っているが同時に恥ずかしい。
「………ごめん」
羞恥と怒りで顔を赤くしているアリストに流石にマオも謝った。
好きな者がいるからそのために努力しているとバラされたと考えると流石に恥ずかしい。
何も言えず動けなくもなっている。
「これは今日は無理っぽいか………。取り敢えず、こいつの屋敷へと運ぶか」
マオは動けなくなったアリストを肩に抱えて屋敷の方へと向かって歩く。
その後ろにキリカも無意識に後を付いて行った。
「すいません!」
「マオ様!?」
アリストの屋敷へと着くと同時にコーナが出迎えてくる。
マオに向ける視線は好意に溢れていて敵かと思ってしまう。
「あら?もしかしてキリカ様?もしかして、この不肖の婚約者とパーティを組むことにしたのですか?」
「………婚約者?」
「えぇ。そこのマオ様が抱えている男は私の婚約者です」
婚約者と聞いてキリカはシーラへと微笑ましい目を向ける。
好きになってもらうために努力されているのだ。
本人も嬉しいのだろうと想像してしまう。
「あの………。何か?」
「いえいえ。それなら良いのですが………。運んでくれたお礼も言いたいですし、中に入ってはどうですか?」
「いや、悪いけど俺はここで帰らせてもらうから」
それじゃあと屋敷を後にするマオ。
キリカもシーラに頭を下げてマオの後を付いて行った。
「なぁ、キリカ。どうしてついて来ているんだ?」
マオは流石に後ろについてくるキリカに気になって声を掛ける。
アリストを屋敷まで運び始めてからずっとだ。
パーティはどうしたんだと思う。
「それは………」
「何だ?もしかして、もう裏切られたのか?」
マオの言葉に頷くキリカ。
相変わらずだとため息を吐く。
「そうか……。それじゃあ今日は一緒に遊びに行くか?」
マオのその言葉にキリカは嬉しそうに頷いた。
「そういえばだけどマオって私の噂って聞いたことがある?」
キリカは自分がマオ以外の男を好きになってアピールをしたという噂を聞いたか気になってしまう。
こうして近くにいる以上は聞いていないのかもしれないが、確認をしたかった。
「噂………」
それだけを聞いて思い出そうとするマオ。
忘れていたら有難いし、知っていたら否定しなくてはいけない。
「あぁ!お前が組んでいるパーティで好きな男がいてアピールしているって話か!」
「違うわよ!」
「じゃあなんだ?」
「いや噂自体は合っているんだけど……」
「……………?」
思わず即否定してしまうキリカ。
そのせいで違う噂かと勘違いしてしまい、他にあったかた必死に思い出そうとする。
だが合っているとも言われてマオは混乱してしまう。
「私が否定しているのはマオの別に好きな相手がいるってことで……」
「あぁ……。そういう………」
キリカの説明に納得するマオ。
それを聞いて少しだけ安心する。
別の男が好きになったとしても、キリカ達の体質と合意の上で掛けた呪いから大丈夫だろうと思っていたが、やはり少しだけ不安になっていた。
「………!心配じゃなかったの?」
キリカはマオに近寄り上目遣いで問いかける。
好きな男が出来たのに盗られないかと心配にならなかったのかと疑問だ。
「もしそうなったとしたら、ちゃんと教えてくれるだろ?まさかキープするために黙っていることは無いだろうし。それに信頼している」
マオは互いに呪いを掛け合っているから大丈夫だろうと思っているが口にしない。
そのことはキリカも忘れていないだろうに、この問いかけは茶番のように感じてしまう。
「そういえば何所に向かっているのかしら?」
「服屋。何着か買って上げるから着飾った姿を見せてくれないか?」
「…………ふふっ。良いわよ」
マオの言葉に嬉しそうに頷くキリカ。
服を買ってくれるのも嬉しいし、色んな服を着た姿を見たいと言われたのも嬉しかった。
着飾った姿を見てマオが一番見惚れた姿でデートに誘ってやろうとも考えていた。
「それじゃあ行くわよ?」
キリカは前に出てマオの腕を引っ張り始める。
新しい服を何着か買ってもらえるし、それに何よりも早くマオに自分の着飾った姿を見てもらいたかった。




