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二人の視線③

「なぁ、マオ」


「何?」


 二人は農家の家で夕食を食べ終え帰り道に着く。

 そしてアリストはマオへと疑問をぶつけようとしていた。


「もしかしてだけど、お前がデート中に襲われた時に返り討ちにして殺した本人なのか?」


 デート中に襲われた、返り討ちにした、殺したと聞いて確かにそれは俺だなと、マオは頷く。

 結構良い気分だったのに邪魔されたせいで、よく覚えていた。


「一応、言っておくけど正当防衛だぞ?急に襲ってきたから手加減なんて考えられなかっただけで」


「知っている」


 部下から聞いてもいた。

 マオはどちらかというと被害者だということも。

 被害者だと聞いていなかったら指名手配をするつもりだった。


「だけど実力差は相当あったと聞いている。殺さずに済むことは出来なかったのか?」


 手加減できなかったといっても、それだけで人が死ぬはずが無いとアリストは考える。

 一人ぐらいなら事故であり得るかもしれないが、それ以上となると明らかに殺意が必要だ。


「無理!」


 そしてマオはアリストの質問によい笑顔で否定する。


「無理って………」


 即否定され、しかも良い笑顔だったことにアリストは二の句がつげない。

 出来るだけ殺すなと言っているのに否定されるなんて思ってもいなかった。


「あいつらは何度も俺を襲ってきたからな……。何度も許してやるほど、俺は優しくないし舐められたくない。何人か殺したし、お陰で襲ってくる者が少なくなったからな。俺は満足だ」


「何度も襲われているって……。そんなに多いのか?」


「結構、襲われているぞ。酷い日は二桁に届いていたし。しかもダンジョンやその道の途中で襲われて色々と危険な場合もあったし」


 何でそんなに襲われているんだとアリストは思う。

 恨まれているのかと想像し、有り得そうだと考える。

 おそらくマオの実力に対する嫉妬が一番かもしれない。

 そして前の事件のように襲ってきた者に対する復讐もあるのだろう。

 

 そこまで考えてアリストは冷や汗を流す。

 もしかしたらマオは思っていた以上に人を殺しているかもしれない。

 そもそも人を殺すなんて決意や覚悟をしても簡単に出来ることでは無い。

 どうしても他人を殺すということに躊躇ってしまう。

 簡単に決めてスムーズに実行するには、どうしても慣れが必要だろう。


「なぁ……。お前ってどれだけの他人を殺して来たんだ?」


「さぁ?」


 マオはアリストの疑問に覚えていないと答え、アリストはマオのことを詳細に調べる必要があると考える。

 最悪は犯罪者として捕まえる必要がある。

 できれば、そんなことは無いようにアリストは祈る。

 もし捕まるのは嫌だと逃げられたら、どんな結果になるのか分からない。

 もしかしたら捕まえに来た者全員を殺されてしまうんじゃないかと考えてしまった。




「おかえりなさいませ」


「あぁ。それと悪いがこれまでのマオの行動について調べてくれないか?」


「わかりました」


 アリストは屋敷に戻ると早速、家の者に指示を出す。

 マオが過去に犯罪を犯していないか調べるのが目的だ。


「それとアリスト様、婚約者殿も来ていらっしゃいます。お会いになられますか?」


「当然だ!」


 執事の言葉に当り前だとアリストは返す。

 政略結婚でもあるが、同時に惚れた相手だ。

 会わないという選択肢は無い。


「でマオ様とパーティを組んで自慢するつもりですか?」


 そして婚約者であるコーナの部屋に入った途端にそんなことを言われる。

 その目は鋭く、不満な表情を向けている。


「えぇ……」


 当然、アリストはコーナの言葉に困惑する。

 何でマオとパーティを組んだことで、ここまで不満をぶつけられなきゃいけないんだとアリストは思う。


「一応言っておくけど、一時的なものだからな?」


「当り前でしょう?彼のパーティメンバーに相応しいのは世界でも最強クラスだけよ」


「言い過ぎじゃないか?」


 コーナの言葉にアリストはどれだけマオのことを評価しているんだと思う。

 強いということはよく聞くし、実際にやったと聞いた行動も聞いたがそれでも、そこまで強いとは思わない。


「事実よ。彼はそれだけ強い」


 何かを思い出しているのかコーナは視線を宙に向けて顔を赤くしている。

 偶に笑みを浮かべていて、見ていて少しだけ怖くなる。


「………そんなにマオは強いのか?」


「同じパーティを組んでいて知らないの?」


「まだパーティを組んで一日だし、受けた依頼も街中の雑用のような依頼だ」


「ふぅん」


 コーナはそれならと納得する。

 普段は街の雑用のような依頼を多くこなしていることを知っている。

 だからこそ戦っている姿を見るのは希少だが、だからこそ価値がある。

 あの実力をみたら目の前の男もマオのファンになるだろうと確信もするし、パーティを組んでいるから間近にみられるから羨ましいと思う。


「ならダンジョンに挑む時は楽しみにしていなさい。マオの強さは圧倒的過ぎて惹きつけられるわ」


 目の前の婚約者がここまで言うマオの実力に少しの怯えと興味が湧いてしまう。

 自分も目の前の婚約者のようになってしまうのかと。

 そして、こうしてしまうほどのマオの実力に。


「そうか………」


「そういえばマオとパーティを組んでいるのなら私たちも組んでもらえるように頼んでもらえない?」


「は?」


 そして突然の申し出に困惑する。

 マオと一緒に痛いからの発言だろうが婚約者としては認めたくない。

 だがコーナの喜ぶ姿もみたい。


「わかった」


 アリストはマオが受け入れてくれることを願って頼もうと決めた。





「なぁ、マオ」


 アリストはマオと一緒に受けてる途中、早速パーティを婚約者と汲んでくれないかと頼もうとする。

 ちなみに今、受けている依頼は薬草をすり潰している。

 依頼の報酬として、薬をいくらからタダでもらえるのと割引券を貰えるからお得だろう。


「何?パーティメンバーの追加なら断るけど?」


「どうしてもダメか?」


「ダメ」


 口にして頼む前からアリストは断られてしまう。

 だが婚約者から頼まれたのだ。

 アリストはどうしても叶えたい。


「何でそんなにダメなんだ?」


「俺はダンジョンに挑む時はある」


 マオの説明にアリストは頷く。

 冒険者なのだ。

 ダンジョンに挑むのは分かり切っている。


「その時に一緒に行くと足手纏いになる」


 そして続けられた言葉にアリストはやはり信じられなかった。

 自分より年齢も下の男が足手纏い扱いするほどに強いということが。

 少なくともコーナは女だが、男のアリストよりは強い。


「コーナという名前だが、それでもダメなのか?」


「ダメ」


 貴族でありながら冒険者をしていることもあり、それなりに有名なはずだが断られてしまう。

 コーナが足手纏いだと言われているようでアリストは不快だった。


「逆に聞くが、俺と一緒だと腕試しだと言って奇襲を仕掛けてくる奴らがいるけど、巻き込まれると分かっていてパーティを組むのか?」


「…………そうだな」


 そんなことも言っていたなとアリストは思い出す。

 パーティを組んでいて依頼やダンジョンに挑むのと関係ないところで自分が原因で怪我をされてしまうのは、たしかに気に病んでしまう。

 パーティを組むのは避ける。


「どうしてお前は襲われているんだ?」


 頻繁に襲撃されるほどの何かをマオがしたんだとアリストは考える。

 まずはそれを聞いて謝らせなければ、襲撃は止まらないだろうと考えていた。


「さぁ?」


 だがマオは本気で覚えていないらしい。

 思い出させて謝れば襲撃も減るはずだから思い出して欲しい。

 最悪はアリストは家の力で調べようと考える。


「思い出して謝れば襲撃は減るし、パーティを組めるんじゃないか?」


「襲撃はあってもなくてもパーティを組む気は無いが?」


 そうしたらパーティを組むのに不安に思わないだろうと考えたが無駄にされる。

 それがムカついた。


「俺は心配しているんだが?」


「小さな親切、大きなお世話という言葉を知らないのか?頼むからソロでいさせろ」


 キレ気味にアリストはマオに文句を言う。

 だがマオも余計なお世話だと言い返していた。




 そして、また次の日。

 初めてダンジョンに挑むことになった。

 マオとパーティを組むようになってから初めてのダンジョンに挑む。

 これで本当にマオが強いのか、ようやく知ることが出来る。


「それで今日の依頼は何だ?」


 ダンジョンに挑んで何を手に入れるのかアリストは質問する。

 大抵、依頼を受けてダンジョンを挑む時は何かを手に入れるためだった。


「ダンジョンにある魔力を含んだ鉱石をいくつか持って来て欲しいんだって。多分、武器とか加工に使う道具にするんじゃないか?」


「つまりゴーレムが目的だな?」


 魔力を含んだ鉱石と聞いてアリストはゴーレムを思い浮かべ、マオも頷く。

 他にも魔力を含む鉱石はあるし、安全な方法はある。

 だがアリストはマオの実力を知りたいからゴーレムと口に出して誘導しようとする。


「探さなくても、あちらから近づいてk手くれるからな……。砕いた鉱石の回収は手伝ってくれよ?」


 マオもゴーレムを目的にしており、マオの実力が見れることにアリストは都合が良かった。


「あっ」


「うん?」


 そして都合よくモンスターが現れる。

 今、マオたちがいるダンジョンではモンスターはゴーレムしか現れないのもあるが丁度良い。

 アリストはマオがどういう風にゴーレムを倒すのか楽しみにマオの方へと視線を向ける。


「やべ」


 そしてマオの焦った声がゴーレムの方から聞こえてくる。

 何時の間に移動したのかと視線を向けると今度はゴーレムが消えている。

 代わりに地面には砕かれた鉱石が散らばっていた。


「力を入れ過ぎた………」


 粉々になったせいで素人目から見れば使えるようには見えない。

 それでも専門家からすれば使えるかもしれないと小石程度の大きさ以下の鉱石以外は用意したバッグの中にマオは入れていく。


「アリストも手伝ってくれよ」


 だが手伝うと約束してくれたアリストは動いてくれない。

 そのことにマオは不満を持って声を掛けるが、それでようやく動いてくれた。


「…………」


 そしてアリストはマオの動きが全く目に追えなかったことにショックを受けていた。

 強いとは聞いていたが、目に追えないほどの実力差があることが信じられなかった。

 コーナの言っていた世界最強クラスという言葉が嘘だとは思えなくなっている。


「次はもっと丁度良い大きさぐらいで壊すか」


 そしてマオの手には武器を持っているようには見えない。

 恐らくは素手でゴーレムを破壊したのだろう。

 ゴーレムという鉱石のモンスターを壊すには普通は武器が必要なのに、拳一つで壊せるなんて信じられない。

 だが同時に男として憧れてしまった。


「さてと回収し終わったし次に行くか」


 そして次のゴーレムを探して歩き始める。

 アリストは今度こそマオの動きを見極めようと考える。


「取り敢えず足を壊すか」


 そして早速とばかりにマオはゴーレムの足を砕く。

 相変わらずマオが移動する過程を見ることは出来ないがゴーレムの方を最初から見ていたお陰で攻撃する瞬間を目にすることが出来た。

 マオは無造作に拳を横に薙ぎ払っただけでゴーレムの足を砕く。

 そのお陰でゴーレムはその場から動くことが出来なくなる。


「取り敢えず腕をもいでおくか」


 だがゴーレムは移動することが出来なくても攻撃自体は出来る。

 腕の届く範囲にいたマオに攻撃をするがその言葉通りに腕をもがれてしまう。


「…………そういえば鉱石が欲しいと言っていたけど、多すぎても置く場所が無いか」


 どのくらいの量か確認していなかったとマオは思い出す。

 だが多すぎても置く場所が無いと、あとゴーレム一体分で終わらせようと考えていた。


「アリスト、あとゴーレム一体分で鉱石の回収を終わらせよと考えているけど何か意見ある?」


「………いや、無いな」


 アリストにも確認するが問題ないと言われて安堵するマオ。

 だがアリストの視線に気になってしまう。


「なぁ?」


「何だ?」


「今日の依頼が終わったら戦ってくれないか?」


「…………」


 アリストの頼みにマオは驚いていた。

 勝負を挑まれた経験何てほとんどないせいだ。

 いつもは奇襲から始めていたから新鮮な感じがする。


「マオ?」


「…ん。わかった。依頼主に鉱石を渡してからで良いか?」


 最初は頼みを聞いて沈黙していたから受け入れられないと思っていたが受け入れられたことにアリストは安堵する。

 全く動きの過程が目に追いつけないが、それでもそれだけの実力者相手に戦えるのは良い経験になる。

 だがマオと戦うことで問題があることを思い出す。


「…………殺さないよな?」


「あれはデート中にも関わず襲ってきたからだ。そうやって事前に頼まれて頷いた以上、殺すわけないだろ」


 殺されないか不安になって質問したアリストにマオは呆れた様子で殺さないと否定した。

 その呆れた様子に信じても良いかもしれないとアリストは安堵のため息を吐いた。

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