薬と病気④
「やっと着いた……」
「そうだな。それとお前たちの家に行く前にギルドに行きたいが大丈夫か?」
「あぁ……。依頼の薬草を納品しに?」
「そういうこと」
それならしょうがないとキリカは頷く。
だが説教から逃げないためにキリカはマオの腕を掴んで一緒に行動するつもりだ。
「キリカ?」
「何?」
マオは腕を掴んで離さないキリカに疑問を持つが、全く離す気は無い。
それを見てカイルは先に家に帰ろうとする。
「悪いけど、先に俺は家に帰るから。二人ともちゃんと帰ってこいよ」
二人とも急に予定を変更して家に戻って来ないことは無いようにカイルは釘を刺す。
戻って来なかったら、あることないこと街の中で言いふらすつもりだ。
「二人きりだからといって戻って来なかったら色んなところにあることないことを言いふらすからな?」
「あることないことって……。何を言うつもりよ?」
「明日には今日二人が一緒のホテルに泊まったって言い触らす」
「…………止めて」
一瞬だけ良いかもしれないとキリカは考える。
その噂が広まれば興味本位や本気でマオを狙う者がいなくなる。
そうなれば、ずっとマオを独占できる。
だがキリカは考え直した。
深く踏み込まれれば直ぐに本当のことがバレると思ったからだ。
「なら、ちゃんと戻ってこいよ。俺も言いたいことがあるんだから」
カイルの言葉にそれは私も同じだと頷いた。
「…………セフレだったら裏切るも何も無いから大丈夫か?」
「!?」
カイルが去った後、マオがそんなことを呟いてキリカは目を見開く。
まさか本当にスルつもりなのかと考えて顔を赤くしてしまった。
「でも怖いな……。そこから流れで恋人になったら捨ててしまいそうだ」
「……………」
マオだったら、と受け入れようとしたのにそんなことを言われてキリカは死んだ目になってしまう。
本当に自分の体質が嫌になる。
正直、勇者を引退したら大丈夫なのか不安だ。
「それに子供が出来たら、俺たちの年齢だと死ぬ可能性も高いからな………。避妊も可能性を低くするだけで絶対じゃないし……」
子供と聞いてキリカは顔を赤くなる。
何時かはと望んでいたが、マオの子を授かるのなら悪くないと思う。
むしろ、いた方がマオを自分に縛り付けれると考えると、むしろ欲しかった。
まだ現役でいられるが子供を授かったから引退というのも悪くない。
「はぁ………。早く大人になりたい」
そうすれば子供を授かることのリスクも少しは減るはずだ。
そしてマオも手を出してくれるはずだ。
その日が早く来ないかとキリカは楽しみだった。
「それよりもさっさとギルドに行くぞ」
キリカの言葉は聞かなかったことにしてマオはギルドへと誘う。
自分から言い出したことだが子供と聞いて、授かる方法を考えてしまい顔が赤くなる。
それを隠すようにマオは先を歩いていく。
「ちょっと」
その様子にキリカはマオの手を繋いで歩く。
先に進んでいって離れない様にするためだ。
「はぐれるから先に歩こうと………」
そしてキリカはマオの顔が赤くなっているのを見る。
それで自分が何を考えていたのか、そして何をマオと話していたのか思い出して顔を赤くした。
冷静になると自分達が話していた内容が恥ずかしくなっていた。
「ねぇ………」
「なに……?」
「ギルドに依頼の薬草を納品したら買い物に手伝ってくれない?食料も少なくなってきたし買い足したい」
「わかった………」
キリカの頼みにマオは頷く。
そのぐらいなら構わない。
荷物も持てる分は自分が全て持とうと考えている。
「あっ、忘れていたけど荷物は全てマオが持ちなさいよ?」
「わかっている」
そしてキリカも自分に荷物を持たせようとしていたことにマオは苦笑する。
とはいえ持てる量にも限りがある。
自分一人ですむ量であってくれとマオは祈っていた。
「おやぁ……」
そんなことを考えているうちにギルドに着く。
そして自分達を見て愉しそうな笑みをギルドにいた者たちは浮かべていた。
「手を繋いで来るなんて仲が良いね?」
「え……。あ………」
手を繋いで歩いていたことを思い出してキリカは顔を赤くするが手を離すことはしない。
そのまま依頼の薬草を納品するためにギルドの中を歩いていく。
マオは顔を赤くして手を離そうとしたがキリカが離そうとしないせいで諦めていた。
それに無理矢理外そうとして悲しませる気も無い。
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、それよりも依頼の薬草を納品するから確認して欲しい」
そしてマオはこれ以上からかわれる前にギルドに薬草を納品しようとする。
「おっと、そうだな。受けていた依頼は……」
マオたちの受けていた依頼を確認して驚いた表情を浮かべるギルドの受付。
まさか誰も受けていないないような依頼を受けていたとは思わなかった。
正直に言って有難い。
そして依頼の品を確認してマオへと戻す。
「後日、依頼人もギルドに来るから、その時に渡してもらって良いか?事前に連絡もするから」
「………わかった」
報酬を直ぐに渡すのではなく後日に渡されることに珍しいと思いながら頷く。
だが珍しいだけで偶にあるから問題は無い。
「え?何で?」
「報酬が珍しいものだから、直接やり取りしたりした方が安全だからだね。君はこういうのは初めてかい?」
「そうだけど……。マオは慣れているの?」
「偶にだけど、こういう依頼は受けているし……。それよりもお前は始めてなのが信じられないんだが……」
ギルドの依頼を受けている以上、こういうのも経験があると思ったのに初めてだということにマオは逆に驚いていた。
偶にしか、こういう依頼は無いし巡り合わせが無かったのだろうと考えるとおかし無いかもしれないが、それでもマオは意外に思ってしまう。
「まぁ、そんなこともあるでしょう。それでは連絡が取れしだい、そちらにも伝えますね」
ギルドの受付の言葉に頷き、二人は要件が済んだとギルドから出て行った。
「それじゃあ買い物に行こうか?」
「そうね。荷物持ちは頼むわよ?」
ギルドから出ると、二人は早速食料を買いに向かう。
「そういえば思ったんだけどマオって病気って治せるの?」
「………無理だから」
キリカの質問にマオはこいつは何を言っているんだと思う。
解毒や怪我を治せても病気なんて勉強もしていないから対処できるはずが無い。
「そうなの?薬のこととかに詳しく思ったから病気についても勉強してると思ったんだけど……。薬の副作用で病気になったりとか……」
「否定はしないけど、どんな病気になる可能性があるかしか調べてない……。治療については医者に診てもらえば良いやとしか思ってなかった」
「……………そうなんだ」
そこまで調べているんだったら応急処置程度の知識のことでも調べておいたらと思う。
マオならそのぐらいのことは余裕だろうとキリカは考えていた。
「はぁ………。ところでマオは何か食べたいのある?ついでだし好きな料理を作ってあげようか?」
「?前にも言ったと思うけどキリカの手料理なら俺は何でも好きだが?」
思う所はあるが何を言っても変わらないだろうとキリカは話を変えるが、マオの答えに顔を赤くする。
自分の手料理なら何でも好きだと言われるのはキリカは嬉しかった。
「そう……。それじゃあ私が決めるわよ?」
「お願い」
キリカの手料理が食べれるとマオは嬉しそうにしている。
そのことにキリカは自分の一番得意な料理を食べさせようと考えた。
「それじゃあハンバーグでも作るわ」
「マジで?」
ハンバーグと聞いて嬉しそうな表情を浮かべるマオ。
そのことにキリカは母親に感謝をする。
好きな男を落とすために、男の子の好きな料理を叩きこまれたかいがある。
実際に使うとなると有難い。
「マジよ。だからちゃんと荷物を持ちなさいよ」
気分を害して、やっぱり作るのは止めると言われるのは嫌だからマオは頷く。
キリカの手料理を食べれなくなるのは嫌だった。
「帰ってきたか………。取り敢えずマオはそこに正座」
買い物が終わりキリカ達の家に入るとマオはそんなことを言われて説教のことを思い出す。
面倒だと逃げないのはキリカの手料理を食べたいからだった。
「私も後で参加するから……」
だがカイルだけでなくキリカも恐ろしい目でマオを睨んでいる。
料理を食べたいからと家に来たのは失敗かなと考えていた。
「それで…………」
そしてマオはカイルに自分の愉しみを優先してモンスターを自分からリスクを負いながら相手をしていたことを責められる。
カイルに心配していたし不安でたまらなかったと言われてマオはただ黙って怒られていることしか出来なかった。
「出来たわよ」
ただ黙って怒られていることしか出来ずにいたマオの耳にそんな言葉が聞こえてくる。
カイルもそれが聞こえたのか一旦、説教は止まりキリカの持ってきた料理に目を向ける。
「えぇ……?」
そしてカイルはキリカの手料理に困惑する。
同じ家に住んでいて交代で料理を作っているが、家でここまで気合が入った料理を見るのは初めてだ。
マオがいるからと考えるとカイルは呆れた気分になる。
「そうだ、マオ」
「………何でしょうか?」
マオは説教された影響でカイルにもキリカにも敬語になっている。
そのことに少しは反省したかと二人とも気分は良くなる。
だかキリカは何もしていないとマオの隣に座る。
「はい、あーん?」
そしてキリカは持ってきた手料理を食べられるサイズにして口に前に差し出す。
ついでにカイルには視線を向けるだけで意図が伝わり写真を撮る準備をしている。
「今日は全部、私のあーんで食べて貰うから。後、食べ終わったら頭を撫でて上げるからね?」
マオは羞恥で顔を赤くして逃げようと考えるが、悩んでいる間にキリカが膝の上に座ってきて逃げられなくなる。
その上に写真まで撮られようとしていることに気付いて身動きが取れなくなる。
「説教はもうカイルがしたんでしょ。なら私はちゃんとあーんをしてくれれば許して上げるわ」
キリカの言葉にこれなら説教をされていた方が遥かにマシだとマオは思う。
だが無理にでも逃げないのは膝の上に乗っているキリカに怪我させたくないからだった。
そしてあーんしている写真を撮られようとしていてマオは死んだ目になっていた。
「おいしい?」
ニコニコと切り分けたハンバーグをマオの目の前に差し出すキリカ。
そして写真の準備をしているカイル。
拒否権は無いと諦めて素直にあーんを受け入れる。
「…………とても美味しい」
マオは恥ずかしさで顔を赤くするが、ふとカイルを見る。
そこには複雑な表情をしたカイルが見えた。
実の姉がイチャイチャしている姿を見て複雑な表情をしているのだろう。
見たくなくても写真を撮らないといけないから離れるという選択肢は無い。
そのことにマオは気付いてニヤリとする。
「もっと食べさせて」
「?良いわよ。はい、あーん」
急にマオが乗り気であーんをすることにキリカは疑問に思ったが自分にとっては都合が良いと質問するつもりは全くない。
そんなことよりもマオが自分の差し出したご飯を抵抗もなく食べていることにゾクゾクと震えている。
最初も恥ずかしさで戸惑っていたのも良いが、こうして自分の手で食べさせるのも飼育しているみたいで気分が良くなる。
「キリカは食べないの?」
「ちゃんと後で食べるわよ。それよりも、ほらあーん」
マオはその言葉に差し出されたもの口にしてフォークを奪う。
そしてキリカの分であろう料理にフォークを突き刺し、今度はマオがキリカにあーんをする。
「お礼に今度は俺はあーんをしてあげるよ」
「…………。まだマオは食べ終わって無いわよ!?」
「また後で食べさせて」
マオの言葉にキリカはフォークとマオで何度も視線を移動させる。
マオの口の中に入れたフォークを自分の口の中に入れることと、あーんをされることに顔が真っ赤になる。
「ほら。あーん」
マオの言葉にキリカは覚悟を決めて口を開いた。
「…………」
そしてカイルはそれを見て死んだ目になり、ものすごく甘いモノを口にしたみたいな表情をする。
今にも甘すぎて吐いてしまいそうだ。
「カイル、さっきから写真を撮ってないけど撮らなくて良いの?」
カイルはマオの言葉に見せつけていたのだと理解する。
そして独り身相手に酷すぎないかと思っていた。
「絶対に明日は高いのを奢らせてやる……!」
だから奢りの約束をした明日は高いものを奢らせてやると決意する。
そしていい加減に自分も裏切らない恋人が欲しいと思っていた。




