薬と病気③
「おぉう……」
目的の場所へと着くとカイルは思わずうめき声を上げる。
見るからに毒々しい煙や色、そして水が流れている。
事前に対策を用意しないと直ぐに毒に掛かってしまいそうだ。
「何でこんなところにある薬草の効果が高いんだ……」
「ほんとうにね。………こんな場所で生息することが出来るから薬の効果も高いのかしら?」
マオとキリカの二人も本当にこの場所に病気に効く薬の原料があるのか疑問だ。
「たしかにその可能性もあるかもしれないけど……。取り敢えず探すか……」
依頼を受けてきた以上、結局は探さなくてはいけない。
毒にかからない様に気を付けて三人は進み始める。
「………それにしても、どうしてここはこんなに毒が多いんだ」
カイルは進んでいくと思わずといったぐあいに愚痴をこぼす。
毒の種類も多ければ、毒にかからせるための手段も多い。
天然ものだとは全く思えない。
「すごいよな……。これだけ悪意があるように感じるのに主もいないし天然もの」
「えぇ………」
「マジか………」
マオの言葉に信じられない気持ちになる二人。
正直、何かが悪意を持って設置していた方が納得できる。
「マジ。だから毒に抵抗できないモンスターもいて喰われるんだし」
そう言うマオの視線の先には毒で動けなくなったモンスターを他のモンスターに喰われている光景が見えていた。
キリカとカイルもその光景を見て、少し顔を青くした。
もし自分達も毒に掛かってしまえば次は自分達だと考えたせいだろう。
「主がいたら、多分あんな間抜けなモンスターはいないだろうし……」
「そんなものか?」
「それに一回り以上強いモンスターもいるようには感じられない」
「なるほど」
その理由に納得する二人。
毒が効かず、それを武器にする厄介なモンスターはいるが、その中でも一回り以上強いモンスターの存在は感じられない。
基本的に主やそういった存在は縄張りの中から出ない。
ならばいないと考えるのも当然だろう。
「それでも厄介なモンスターは多いから気を付けないといけないけどな」
その言葉に二人は頷いた。
「あぁ、もう!!」
地面や壁のようになっている植物からは毒の煙が噴き出し、毒々しい水も流れている。
しかも毒は決して一種類だけでなく様々な種類がある。
そして魔物も毒を持っており、まさしく毒の見本市だった。
「本当に厄介!!」
「危険度が高すぎる!!」
「…………」
様々な手段で毒を浴びせようとしてくる迷宮にモンスター。
三人とも精神的に疲れ始める。
「正直、他の迷宮よりも危険度が高いよな……。しかも、ここ自体は迷宮じゃなくて天然の危険地域だし」
マオの言葉に深く頷く。
ハッキリ言ってモンスターが強いだけの他の迷宮の方がかなり楽だ。
そこでも罠があったりするが、ここまで絶対に毒を浴びせようとする徹底さはない。
「思ったんだけどさ………」
「何?」
「解毒剤も使い過ぎて副作用とか起きないわよね?」
「さぁ……」
もう何度か解毒剤を使ってしまっている。
まだまだ限りはあるが、いつもの数倍を超えて使っているため副作用が無いのか心配になるがマオは首を傾げるだけ。
本当にわからなかった。
必要だから使っているが副作用のことまでは分からない。
副作用で体調不良になったらマオも回復させることはできない。
目的を果たらしたら薬剤師に聞きに行った方が良いと思うぐらいだ。
「マオも分からないの?」
「当り前だろうが……。取り敢えず目的を果たしたら薬を売っている薬剤師の所へと相談しに行くか?」
「そうね………」
キリカはマオの提案に眼を輝かせる。
そしてカイルはキリカの目が輝いたことを察した。
また二人きりで行動できるのだと喜んでいるのだろう。
しかも先程とは違い、時間制限も無い。
今度こそは二人きりにしたら喜ぶだろうと考えていた。
「ん?」
「どうした?」
カイルが二人きりにしようかと考えていると、何かを見つけたのか立ち止まる。
そのことにどうかしたのかとカイルと同じ方向に視線を向けると普通の色をした植物があった。
ここでは毒々しい色をした植物が多く、逆にそれが目立っていた。
「近づいて調べる必要はあるけど、多分目的の薬草はアレだな」
「そうね。それじゃあ、早速」
「ストップ」
近づこうとするとその前にマオが肩を掴んで止める。
そして全員を護れるように魔法を張ると同時にモンスターがぶつかってくる。
「助かった!」
「まずはモンスターを倒すわ!」
キリカとカイルは助けてもらったが、お礼を口にするのはモンスターを倒してからだと決める。
そして同時にマオはモンスターたちは、薬草を餌にして冒険者たちを襲っているのだと想像する。
目的のものを見つけたら隙だらけになってしまう。
それを理解して突いているのだとしたら、モンスターは思っている以上に賢い。
「これからは今まで以上にモンスター相手は警戒しないとな……」
そう呟き、先にモンスターに攻撃していった二人を援護しに向かった。
「ぐっ!!」
「つっ!!」
そして援護しに向かった時には二人はモンスターたちに傷をつけられていた。
傷口から毒が入ることもあるため、マオは今度からはここに来るときは避けることが出来る相手と来ようかと考える。
予想通り二人は顔を青くしており毒が回っているようだ。
「動き回ったら毒が回るから、そこで防御を固めてろ」
そしてマオは二人を薬草が生えている場所まで投げ飛ばす。
全力で魔法を使って防御を張っていれば死ぬことは無いだろうと考えている。
それに薬草をモンスターに奪われて、また探すのは避けたかった。
「おまっ……!?」
「そこで待っていろ」
何かを言いたそうにしているカイルを無視する。
キリカは白目を向け、マオは愉しそうな顔を浮かべる。
「さてと……」
相手は毒を持っている。
下手に怪我をしてしまったら、カイルとマオのように毒に掛かってしまう。
今も顔色を青くしているような二人にはなりたくない。
もし同じようになってしまったら解毒剤を飲む暇もなく回り切って死んでしまいたくなかった。
「取り敢えず相手の攻撃もありとあらゆる体液も当たらない様にしないとな……」
マオはそれだけを言って目の前のモンスターたちに挑んでいった。
「あぶないなぁ……」
マオはモンスターの攻撃を全て避けながら反撃をする。
爪を牙をありとあらゆる攻撃を紙一重で避け、すれ違いざまにモンスターを一撃で殺していく。
この場ではマオが圧倒的に上位者だった。
「すれ違いざまの一撃で全てのモンスターを殺していっているな……」
そのことにカイルもキリカも勉強になると集中する。
自分も同じことが出来るようになれば足手纏い扱いされないんじゃないかと考えてしまっている。
「それにしても魔法を使わないのか?」
そして同時に疑問を抱く。
マオなら魔法を使えば、もっと安全に速く殲滅できるんじゃないかと。
そしてマオの愉しそうな表情を見てしまう。
「もしかしてワザと………」
自分の愉しみのために危険なことをしているんじゃないかとキリカは察してしまう。
いくら解毒剤があったとしても魔法で回復することができても、回復する隙を与えられなかったら死んでしまうんじゃないかと考える。
そうなったら嫌だとキリカは顔を青褪め助けようと思う。
だが毒が回っているせいで動くことも出来ない。
まだ回復しきっていなかった。
「いい加減に………っ」
そして普通に話す分には問題はなかったが大声を出すのはキツイ。
そのせいで聞こえるようにマオに文句を言うことも出来ない。
遊んでいないでさっさと自分達の元へと来てほしかった。
「取り敢えず毒から回復させることを優先するぞ。マオの援護も文句を言うのもその後だ」
カイルの言葉にキリカもそれもそうだ、と頷く。
今のままだと足手纏いだ。
回復することを最優先にする。
「弱い!遅い!脆い!軽い!」
そしてマオの方を再度確認すると、そんなことを言いながらモンスターを殺していっていた。
しかも確実に目に見えて段々とモンスターの死体が増えていく。
「…………なんか援護に向かう前にモンスターを全滅させそう」
その勢いにカイルは思わず全滅させそうだと口に出し、キリカも頷いていた。
「これで終わり!」
最後のモンスターを蹴って終わらせる。
蹴られたモンスターは元の肉体の形に戻せないぐらいに粉砕され内臓と共に飛び散っていた。
「最後、我ながら派手だな……。自分の服にまで飛び散らなくて良かった……」
汚れても大丈夫どころが当然の服装だが、血生臭いはさせたくなった。
その臭いのせいで帰る途中にもモンスターに襲われてたくないからだ。
血生臭い匂いをするより、しない方がやはりモンスターに襲われないのだ。
「そういえば、あの二人は毒から回復したのか?」
そしてマオは投げ飛ばした二人を確認する。
そこには、まだ顔色は悪いが大分落ち着いた様子の二人がいた。
「………まだ回復していなかったのか」
マオは呆れながら二人に魔法をかける。
使ったのは当然、解毒をする魔法でそれだけで顔色が良くなる。
解毒剤を使うより効果が高い。
「………本当にお前たちは解毒剤を使ったのか?魔法を使ったらすぐに顔色が良くなったんだが?」
最初に毒にかかった状態よりは顔色は良くなっていたが、やはり疑問に思ってしまう。
解毒剤を飲んだのなら直ぐに回復しておかしくないのに時間が掛かっていた。
実際にこれまで何度か毒にかかったが解毒剤を飲んで直ぐに回復していた。
だからこそ回復するのに時間が掛かっていたのが疑問だった。
「使っていたけど直ぐに回復が出来なかったんだよ!!」
「本当だからね!疑うなら使ってみる!?」
「いらないよ」
マオは多分だが予想がついた。
何度も毒にかかっては使っているため副作用が出たのだろうと考える。
その結果、解毒に時間が掛かっているのかもしれない。
「はぁ………」
帰り道にも毒を浴びせる罠は山ほどある。
このままだと薬の使い過ぎで解毒することも難しくなりそうだった。
「しょうがないか……」
「ちょっ、マオ!?」
「キャア!?」
マオは二人を担いで、この危険地帯から急いで抜け出そうと考える。
突然の行動に二人は悲鳴を上げるがマオは聞く気は一切なかった。
「このまま一気にこの危険地帯から抜け出すから、ちゃんと捕まっていろ」
「「はっ!?」」
そしてマオは二人の返事を聞かずに走り出す。
途中、モンスターや罠の妨害があったが、モンスターの攻撃は全て避け、罠も早く脱出するために最小限だが毒も敢えて受けた。
「ちょっ、マオ……」
「文句を言うのは後にしろ。舌を噛むぞ」
何かを口にしようとしていたキリカを黙らせる。
カイルも聞こえていたのか何かを言う前に黙っていた。
「やっと着いたか」
マオは危険地域から脱出して、更に離れたところまで移動してようやく二人を降ろす。
まだ街の外でモンスターに襲われるかもしれないがモンスター除けの結界を張って二人を休ませる。
まずは毒が完全に抜けるまで休憩するつもりだ。
「ねぇ?」
「何だ?」
「さっきモンスターを全滅させていたけど魔法を使わなかったのはワザと?魔法を使えば、もっと早く終わっていたんじゃないの?」
「…………」
キリカに責めるような目でそれを言われてマオは目を逸らす。
事実だ。
魔法を使えばもっと早くモンスターを全滅させることが出来た。
それをしなかったのはギリギリでカウンターで倒すのが愉しくなっていたからだった。
「しかも笑顔だし……。貴方は愉しくても見ていた私からすればいつ倒れてしまうのか不安だったんだけど?」
続けて視線で責めてくるキリカ。
マオも視線を逸らすことしか出来ない。
「マオ、今日は泊っていきなさい?」
「そうだな。ついでに明日は奢れ?」
「………ハイ」
二人して良い笑顔でマオに圧を掛けてくる。
それに対してマオは黙って頷くことしか出来なかった。
「カイル」
「わかっている」
そして二人はマオに対して家に帰ったら文句を言い続けてやろうと考える。
今回はかなり心配したし、解毒剤を使い過ぎた副作用で動けなくなっとはいえ魔法を使えば解決できた。
なんで魔法を使わなかったのか不満に思うし使ってくれれば援護することも出来た。
だから一日中文句を言うつもりだ。
そして、ついでにカイルの言っていたように朝食も奢ってもらうつもりだ。
「はぁ……」
今日は説教で明日は朝食を奢ることを考えてマオはため息を吐く。
せめて依頼の品を提出させて欲しい。
街に着いたら、それだけでも提案させてほしかった。




