シスターと④
朝、目が覚めると客が来たことを知らせるベルが鳴り酷くうるさかった。
時間を見てもかなり早い時間であり、こんな時間に誰が来たのだろうかと寝ぼけたままにドアを開ける。
「おはよう、マオ」
そこにはキリカがいた。
マオにとって好きな相手でもこんな朝早くに何の用だと思ってしまう。
「こんな朝、早くに何だよ……」
「もしかして起きたばかり?なら私が朝食を作ってあげようか?」
「なら頼む」
こんな朝早く来たことにマオは少しだけ不快になっていたが朝食を作ってくれるということに吹き飛ぶ。
それならそれで有難いとキリカが家の中に入ることをあっさりと許して受け入れた。
「わかったわ。冷蔵庫の中にあるものは好きに使って良いよね?」
「好きに使って良い………」
マオはキリカを家の中に入れると自分のベッドへと戻っていく。
キリカはマオの向かっている先にベッドがあることに気付いて微妙な表情をする。
「まさか………」
そしてマオはキリカの予想通りにベッドの中に入っていった。
予想通りに寝始めたことにキリカはため息を吐く。
もし自分が襲撃者だったらどうするんだと呆れ、同時に信頼されているということに嬉しくなる。
「はぁ………。取り敢えず朝食を作ってから、また起こすか」
ため息を吐きつつもキリカは笑顔で料理を作ろうとする。
何となく今の自分達の姿がぐうたらな夫とそれに呆れる妻のように思えて気分が良かった。
「さてと冷蔵庫の中は……と」
何が入っているのか確認すると色々と入っているのが確認できる。
これだけあれば何でも作れるとキリカは思い、材料を取り出していく。
「まぁ、朝食だし軽くで良いわよね………」
本当はマオに食べて貰うから気合を入れようと思ったが家の中に入って気になることが出来る。
それはマオがどんなエロ本を持っているかだった。
年頃としての女子としては、そんなものがあれば不潔だと思うが、同時に男性には必要なのだと理解は示そうとする。
それでも見れば投げ捨てようとしたくなってしまう。
だがキリカはマオの家から探しても投げ捨てる気は無かった。
そんなことをすれば勝手に探し回って捨てたことに文句を言われるだろうからだ。
とはいえ、探そうとしなくてもてきとうな所に置きっぱなしになったら拾って持って帰るつもりだが。
寝ぼけていたであろうとはいえ、女性の前にそんな本を見せるマオの方が悪いと誤魔化すつもりだ。
そもそも投げ捨てるようなものを我慢してまで持って帰るのは、マオがどんなことが好みなのか調べるつもりだからだ。
そういう目的で買った本だからマオの好みがわかる。
それで勉強するつもりだった。
「どこにあるかな?」
だが探す時間は限られている。
だから定番のベッドの下や本棚の裏などを集中的に探すことにする。
もし、それで見つからなったら諦めるしかなく、また探す必要があった。
「ほら、起きて」
「あぁ……」
そして数分が経ち朝食を盛りつけ終わるとキリカはマオの身体を揺らして起こす。
エロ本は見つからなかったが機会はまたあると思い、エロ本を探していたことを悟らせずにマオに話し掛ける。
マオもそれで再度、目を開け良い匂いが漂ってきたことに意識もはっきりしてくる。
「何か美味しそうな匂いがする……」
「そう言ってくれると嬉しいけど、ご飯が覚めるからさっさと起きて」
「……………キリカ?」
「そうよ」
マオは目の前にキリカがいることに頭が真っ白になる。
家の鍵は閉めたはずなのに、どうやって入ってきたのか疑問を浮かべている。
そしてマオは頭が真っ白になっているキリカに呆れたようにため息を吐く。
自分を家の中に入れたのも寝ぼけてだと理解したせいだ。
もし自分以外の誰かを入れたらどうするつもりだったんだと思う。
「あれ?」
「一応言っておくけど、鍵は掛かっていたし貴方が入れてくれたわよ」
「マジで……?」
「マジ」
キリカの言葉にマオは頭を抱える。
記憶にないということは寝ぼけていたのだろう。
入れた相手がキリカで運が良かったと胸をなでおろす。
「後悔しているのは私としても良いけど、それより朝食を食べなさいよ。折角あなたのために作ったのに冷めるじゃない」
キリカの言葉にマオは朝食も作ってくれたのかと有難く思っていた。
そしてキリカが作ってくれたという言葉を少しずつ飲み込こむと、嬉しそうに朝食が盛りつけてある食卓につき、ものすごい勢いで食べ始めた。
「ご馳走様。美味しかった」
「本当?」
マオの食べっぷりに美味しいと思ってくれているのだと予想できていたが実際に口に出して言われると嬉しさも増して、キリカは満面の笑みを浮かべる。
「さてとギルドに行くか。………キリカも一緒に行く?」
「えぇ。それじゃあ一緒に行きましょう」
使った食器を一緒に洗いながらの提案にキリカは頷く。
少しの間とはいえ、これから一緒にギルドに向かうのが少しだけ楽しみだ。
「キリカ?」
「別に良いでしょう?」
朝、マオの家から出て手を繋いで歩く。
これだけで、どれだけの敵を牽制することが出来るかと考えるとキリカは考えていた。
「マオ………?」
ギルドに着くとシスターがマオを見て声を掛けようとして固まる。
それはマオがかつての教え子と手を繋いで来たせいであり、やはり本当は付き合っているだろうと思ってしまう。
それは他の者たちも同じで真偽を確かめようとマオへと近づいていく。
「何だ?やっぱり付き合っているのか?」
「違うけど?手を繋いできたから、そのままにしていただけ。まだ付き合うつもりは無い」
マオの言葉にキリカは少し残念そうにしながら、しょうがないと諦める。
まだ、なのだ。
互いに好き合っているし、十年以上は先だが我慢すれば良い。
それに、そのころになったら即結婚できる年齢だ。
「手を繋ぎあって歩いているのに付き合っていないのか……?」
困惑している相手を見て、今のままでも良いともキリカは思う。
他の者たちから見れば恋人のように見えているのだ。
このまま付き合いを続けて行けば問題ないと判断していた。
「キリカ……。解散するなら、ちゃんと言えよ?」
そして付き合うからパーティを抜けるのなら先に言ってくれとキリカのパーティの一人が話しかけてくる。
それに対してキリカは苦笑する。
マオの言う通り付き合っていないのだ。
それに恋人と違うパーティだからと解散する気も無い。
そこまでべったりする気も無い。
するとしてもプライベートの時のみだ。
「そうか。悪い」
そのことを説明すると相手も謝ってきてキリカは許す。
それよりも他のパーティメンバーが来ていないことが気になる。
いつもなら来ている時間だから不安になる。
「それにしても、あいつら遅いな……」
「うん………」
二人はこのままギルドで待つことにして、もう少し待つことにした。
マオに関してはシスターも既にいるし合流して離れていた。
「どうしたのかしら?」
「その……。何でか他のパーティメンバーが来ていなくて……」
だが、キリカ達がパーティと合流していないことにシスターが声を掛ける。
また解散するのかと思ったからだ。
「昨日は何も用事があると言ってなかったのよね?」
「はい」
シスターはキリカに確認するが何も用事はあると言っていなかったらしい。
解散する様子でも無いし遅刻なのかと予想してしまう。
いくら待っても来ないようなら今日は休むか、それとも一緒に迷宮に挑むか誘う。
シスターとしては、かつての教え子の実力を直に見たいからの提案だった。
「キリカ!!」
キリカはシスターの提案に頷こうかと思ったところで呼びかけられる。
何の用かと確認すると他の来ていなかったパーティメンバーがギルドに入ってきていた。
キリカは彼らも来たから一緒に迷宮を挑むのは、また今度だと諦める。
「すいませんけど、他のメンバーも来たから今回は無しと言うことで……」
「そうですね。そちらも頑張ってくださいね?」
シスターの言葉にキリカは頷き、パーティメンバーの元へと合流しに行った。
「おはよう、キリカ。遅れたみたいだけど、ごめん」
「大丈夫よ。そんなに遅れていないし」
謝罪の言葉にキリカは気にしていないと返す。
実際に少しは心配したが、そこまで遅れていない。
許容範囲内の遅れだ。
「それにしても皆、なんか肌がツヤツヤしていない?」
「ふふっ、そう?」
キリカの言葉に嬉しそうに聞き返す、遅れてきた者たち。
男子である一人だけが干からびているのもあって、余計に綺麗に見えていた。
「ん……?」
そしてキリカはそこまで考えて一つのことを思いつく。
遅れてきた全員が同時に来た。
女性全員がツヤツヤしていて、逆に男性が干からびている。
こいつらヤッていたなと確信を抱く。
「あんたら………」
「バレた?」
コクリと頷くキリカ。
自分を除いた女性陣全員が干からびている男性を好きなのは知っていたが、まさか全員で襲うとは思ってもいなかった。
人数が人数だから恋の鞘当て長く続くのだろうと思ってさえいた。
それが全員一緒だなんて独占欲が無いのかと考えてしまう。
「お前ぇぇぇぇ!!」
そして先に来ていた男性が干からびている男性を殴る。
その姿にキリカはそういえば、三角関係みたいな関係を築いていたのを思い出す。
だとすると殴った男は嫉妬で攻撃したのだと理解できた。
「私たちの彼に何をするのよ!?」
そして当然だが、その行動に文句を言われてしまう。
好きな相手に責められてショックを受けた顔をしているがキリカはそんなものだろうと考える。
相手にとっての好きな相手を殴ったのだ。
責められるのは当然だろう。
「そうよ!そうよ!彼が何をしたっていうの!?」
「謝りなさいよ!」
そして他の女たちも次々と責め始める。
言っていることは正論だから止めることも難しい。
どんな理由があっても急に殴ったのだから当然だろう。
「お前は知っていたよな……!!」
だが、それら一切を無視して首を掴み上げる。
もしかして好きな相手のことを相談していたのかと想像する。
それを知った上で裏切られたのなら気持ちが分かるが、そもそも告白したのかと思う。
それに見た感じでは全員なのだ。
女性より男性の方が筋力は強いとはいえ数の差で確実に負ける。
だから許してやれよともキリカは思う。
それに告白さえしたら、好きな相手も一人の男を共有するために行動を起こすことになっても参加しなかったかもしれない。
普通は男を共有するなんて考えないからだ。
どうにかして独占しようと考えるのが普通だ。
「何をやっているんだ!」
「止めろ!」
「マオも手伝え!」
さらに行動を起こそうとする男を止めようとするために声が上がる。
それにマオも協力を求められていた。
「はぁ……」
首元を掴んでいる男の手を離そうと全員が必死に力を込めている。
だがそれ以上に男の力が強かった。
人数差があるのに全く引き離せない。
どれだけの怒りが向けられているのか予想が出来ない。
そこへマオも力を貸そうとしてくる。
多くの人数が止めようとしても止まらない。
マオが力を貸しても無理だろうなと思っていた。
「落ち着け」
「ぶっ!?」
「「「「「おい!?」」」」
マオは男に正面から近づくとぶん殴った。
その行動に全員が目を見開く。
「ちょっ……!?マオ!?」
「何を言っても止まらないならぶん殴るしかないだろうが」
マオの行動に文句を言いたいが、確かにそれしか止める方法は無かったから何も言えない。
だけど暴力的過ぎる。
「それよりも、こいつってお前の女の一人が好きだったのか?」
「………それは」
マオの疑問に干からびていた男は口ごもる。
いきなり殴られたとはいえ勝手に口にするのはどうかと思ったのもある。
「どうなん「やめなさい」っだ」
問い質そうとするマオをキリカは頭を叩いて止める。
そして、そのままギルドから出ていく。
「今日はパーティで依頼を受けたりするのは無し!急な事だけど休みにするわ!!」
それだけを言ってギルドから出ていく。
急な事だが一人は干からびており、一人は意識を失っている。
二人も欠いている状態で挑む気は無かった。
そして後日、パーティは解散することになった。
理由はパーティの人間関係。
好きな相手を奪われたことと、好きな相手を殴られたこと、そして好きな相手に振り向かれなかったせいだ。
最後はキリカのことだが、他に何人も恋人がいる癖に望まれたことに酷く不快感を覚えていた。
それに他に好きな相手もいた。
結果的にキリカと殴りかかった男がパーティを抜けたことで、ハーレムパーティが出来上がっていた。
そしてキリカは一緒に抜けた男と一緒のパーティを組む気は無く、現在はソロだった。




