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寝取られ勇者とその友人②

「くっそぉ!!何が貴女よりもたくましいからだよ!!どう見ても俺より脆いだろ!!」


 カイルは同じパーティで付き合っていた少女が口にした別れた理由を声に出して文句を言う。

 どう考えても自分の方がたくましいのに軟弱な男に走った理由が理解できなかった。


「くそー。マオに愚痴ってやる」


 いつものようにマオに愚痴ることを決めるカイル。

 何だかんだ言って話を聞いてくれるのが嬉しい。

 だから甘えてしまうのだ。

 それが姉であるキリカに近づく為でも不満は無かった。

 そもそも姉自身もマオのことが好きなんじゃないかと思っているから、いつ付き合うのかと楽しみに思ってしまう。

 マオの趣味は悪いと思うが是非引き取って欲しいとカイルは思っていた。


「はぁ………」


 マオは酒場にいるのかと思ってカイルは酒場へと向かう。

 もしキリカもいるのならからかって後押ししようと思っていた。


「あれ?」


 そしてカイルは酒場へと歩いている途中に付き合っていた少女と同じパーティの女の子、そして自分から付き合っていた女の子を奪った男が一緒に歩いているのを見つける。


「まじかぁ……」


 付き合っていた女の子だけでなくパーティが同じ女の子も堕としているのだと理解してカイルはため息を吐く。

 もう慣れてしまったもので、あっさりと受け入れれてしまう。

 そしてこう思う。

 何で複数人の女と同時に付き合うような奴を選ぶのかと。


「まぁ、あいつらの決めたことだしな」


 もし洗脳されていたとしても、それはそれで自分の仲間に相応しくない。

 ダンジョンでは強力な催眠術師もいるのだ。

 それで同士討ちをさせられたら目も当てられない。


「はぁ……」


 カイルは何で自分の好きになった女の子は誰もが別の男に奪われるんだろうとため息を吐く。

 しかも最終的には自分のパーティ全員が男も女も関係なく奪われる。


「俺より魅力があるって言っていたけどなぁ……」


 全員がカイルより魅力があるからという理由で離れて行く。

 だけど実力ではカイルの方が高い。


 一度、離れた皆がどうなったか調べたがほとんどがダンジョンに挑んでいる際に亡くなったりしていた。

 生きていても目の前で仲間が亡くなったトラウマでダンジョンに挑むのを辞めた者もいる。

 最初は自分の実力が分かっていない雑魚だと思ってざまぁ、とカイルも思っていた。

 だけど今は違う。

 それも慣れてしまって何とも思わなくなっていた。


「本当に何でマオはパーティを組んでくれないんだろうな……」


 慣れたと言っても、やはり裏切られると心が傷つく。

 マオがパーティに入ってくれたら裏切らないだろうから少しは心の傷が癒えるはずだ。

 何故ならマオなら裏切らないという確信をカイルは抱いていたからだ。


 マオ自身はカイルたちとパーティを組んだら心変わりしそうだと不安に思っていたがマオなら大丈夫のはずだ。

 何度でも直接説得して仲間になってもらおうと考えている。

 ギルドマスターにも説得をしてくれるように頼んでいるし成功するはずだと予想していた。




「それでギルドマスター。マオはパーティを組んでくれるのか?」


「………すまない。臨時で異常事態のみにパーティを組むことしか承諾してくれなかった」


「えぇー」


 ギルドマスターの言葉にカイルは残念だと声を漏らす。

 何で頑なにパーティを組むとしてくれないのか疑問だ。


「何で頑なにパーティを組もうとしないんだ……。頼むから組んでくれよ」


「マオが言うにはソロの方が気楽だからだそうだ……。気楽でもソロはかなり危険なんだけどな……」


「うん。普通だったら死ぬんだよなぁ……」


 ダンジョンではいたるところにモンスターがいる。

 罠も多く仕掛けれらている。

 だから複数人で役割を分断して挑む必要がある。

 それなのにソロで挑むのは自殺志願者か万能な者、それかとんでもない実力者ぐらい。

 マオは一番最後のとんでもない実力者だからだった。


 だからマオには多くのパーティに入って欲しいという誘いの手紙が来ていた。

 だけどマオはそれらを全て断っており、そのせいで敵視をされてもいた。


「最近の襲撃事件も増えてきたからなぁ」


「はい……」


 マオが襲われているのも、それが理由だった。

 自分の勧誘を受け入れなかったというのが主な理由で最初はマオを襲う。

 返り討ちに会いリベンジとして、もう一度襲撃する。

 その度にマオは武器を奪って売却して金を得ている。

 それがまた敵意を増やしていた。


「あいつの言いたいことも分かるんだけどなぁ……」


「確かに武器を向けてきた方が悪いけど、話をせずにぼっこぼこにするんだもん」


 会話を一切せずにマオは武器を向けてきた者たちをボコボコにして意識を奪う。

 武器を向けたり、襲ったりする理由も聞かず交渉もせずにぶん殴る。

 せめて理由ぐらいは聞けよとも思う。


 ちなみにマオが反撃をして武器を奪い売却しても犯罪にならない。

 武器を向けたという点で正当防衛にされてしまうからだ。

 それが例え勇者であっても変わらない。

 むしろ勇者の場合、教会に連れて行かれ更に厳しく躾けられる。


 なぜならマオは何もしていない。

 武器を向けられたから反撃をしただけ。

 そう傍目からも判断できてしまうから勇者たちは品方向性にと躾けられてしまう。

 勇者という名で活躍している以上、品性を疑われるような行動は許されなかった。

 それは勇者のパーティメンバーも同じだった。


 ちなみにカイルやキリカの仲間が奪われるのは勇者同士の問題だと介入する気は教会には無い。

 そういう場合は大抵色恋沙汰が関わっており、関わるにしても相談だけだと決めていた。

 愛し合っている二人の邪魔を神の教えを広める教会がするのかと言われたくなかったのもある。

 もし直接関わるとしたら何か重大な問題がある場合のみだった。


「そういえば知っているか?」


 マオのことでため息を吐いていた二人だがギルドマスターの話題の変更かと意識を向ける。

 これ以上、カイルはマオのことで頭を抱えたくなかった。


「マオに襲撃する者たちの何人かは強くなるために挑んでいるのがいるって」


 話の内容はマオのことから変わっていないがカイルは興味を持つ。


「何でも奪われる武器は安物にして襲撃しているらしい。それで以前と比べて今日はどのくらい生き延びれた。前は反撃できなかったけど今回は反撃できた。という風に挑戦しているらしい」


 ギルドマスターの話にそれは確かに強くなれるだろうなとカイルは思う。

 どんなことでも格上相手に挑むことで強くなりやすい。

 殺されることは無く生きて帰って来れるのなら本気で勝ちに挑んでいる間は強くなれるだろう。


「ん?」


 そこでカイルは一つの考えが頭をよぎった。

 マオがパーティを組むのを固辞する理由は気楽だという他にもパーティにも襲撃者たちの迷惑が掛かるからなんじゃないかと考える。


「どうした?」


「もしかしてマオがパーティを組まないのはよく襲われるからなんじゃないかと考えてしまっただけだ」


 二人はその意見にあり得ないと笑う。

 だって、そもそも襲われるようになったのはマオがパーティを組まないからだ。

 そうだとしたら悪循環だ。


「まぁ、よいや。それよりもマオは今どこにいるか知らないか?」


「さぁ?」


 流石に俺も知らないというギルドマスターの言葉にカイルも頷く。

 酒場か今日も襲われているのなら武器屋にいるだろうと考え、まずは武器屋へと向かって歩いて行った。




「らっしゃい!!……ってカイル君か?マオなら武器を売って店から出て行ったよ」


 武器屋に着くと店主にそんなことを言われる。

 今日も襲われていたと聞いてため息が出る。


「そうですか………。それで売られた武器はどれですか?」


「あぁ、これだけど」


 そう言って見せられたのは見ただけで分かる程に強力な武器。

 また襲われたのだと理解する。


「これは、また高いですね」


 そして買うための金額は一般人が一生を掛けても買えるかどうかわからない金額。

 買う者がいたとしたら、かなりのお金持ちぐらいだろう。


「そうか?これだけの武器だとしたら妥当だと思うが」


「まぁ、そうですけど」


 武器屋の店主の言う通り妥当な金額でもある。

 これに文句を言う者がいたとしたら奪われた本人ぐらいだろう。


「ところで何か買っていくかい?お前ならこの武器も買えるだろう?」


「そうですね……」


 武器屋の店主の言う通りカイルなら買えるだけの金額はあるし使いこなせる。

 だけど買おうとは思わない。

 愛用の武器があるせいで使わないだろうからだ。


「でも買いませんよ?愛用の武器がありますし、使う機会がないと思います」


 それもそうかと店主も納得する。

 どれだけ多くの強力な武器があっても使わなければ宝の持ち腐れだ。


「それにしても強力な武器を売られて、また別の誰かに売ってどれだけ儲けているんだ?」


「まぁ強力な武器だからな。そこそこ儲けているよ」


 差額だけでも結構な金額になりそうだとカイルも考える。

 強力な武器だからこそ奪われた相手も必死になって金を払って買い戻す。

 奪われた側からすると最悪だが、店主からすればウハウハだ。


「………ところで思ったんだけど逆上して誰かに襲われてたりしないか?その武器は奪われた物だからタダで渡せって襲われそうだと思うんだけど」


「安心しろ。マオが売っているのは、うちだけでないんだ。他にも色んな場所で武器を売っている。だからグルだと思われていない。それに勇者だろうとそうでなくても奪われた経緯が経緯だから暴かれたくないだろうなと想像できる」


 あくまでも売られているのは襲ってきた相手の武器。

 勇者だろうとそうでなくとも襲ってきたということがバレれば罪になるかもしれない。

 その点から大丈夫だろうと結論を武器屋の店主は出していた。


「あぁ、なるほど」


 勇者だからこそカイルもそれに頷く。

 もし自分が武器を奪われ売却されたことを知り、そして奪われたからと無料で取り戻せば教会に連れて行かれて説教と再教育されることが目に見えていた。

 正直、この年齢になって店に売ってあるものを金も払わずに奪うのは万引きだと教育されて説教されるのはイタかった。


「あっ、それじゃあ俺もマオを探しに行くので」


 教会で説教されることを想像している間にカイルはもともとの予定を思い出して武器屋を去る。

 それに対して武器屋の店主も手を振って別れた。

 また次の機会に何か購入してもらおうと考えていた。




「げっ……。先生……」


「げっ、とは何ですか?げっ、とは?卒業してからそんな態度を取るようになって先生は悲しいです」


 そしてカイルは教会にいる間に勇者として自分を鍛えていた教師であるシスターに出会った。

 勇者は教会と繋がりが深くあるが、その理由が勇者の素質がある者は全て教会のどこかに預けられて教育されているからだった。

 教会では引退した勇者が戦闘技術や知識を勇者に与えていく。

 そして与えられた勇者が引退して教会で新しい勇者たちに知識や戦闘技術を与えていた。

 カイルの目の前にいるシスターはカイルがいた教会の中でも特に厳しい教師で、卒業しても恐れられている教師だった。


「何でこんなところに……?」


「マオという少年に勇者とパーティを組んでもらうように説得するためです。それと襲っているのは勇者の方らしいですが、もう少し手加減してもらえるように頼むつもりです」


 もしかしたらパーティメンバーを奪わる自分やキリカのフォローに来たのかと予想したが、マオと恩師が話し合うと聞いてカイルは冷や汗を流す。

 知り合いだからといって、どちらにも味方として巻き込まれたくなかった。


「そうですか……。俺は要件があるので、それじゃ!」


「………」


 教え子が自分に協力しようとしないのは、まだ良い。

 そんなことよりも必死に逃げ出そうとしているのがシスターは地味にショックを受けていた。

 確かに教会にいたころは厳しく教えていたが、今でもそんなに怖いのかと落ち込んでしまう。

 それでも自分のやり方は子供達の為と厳しく変えるつもりはなかった。


「取り敢えずは酒場に行きましょう。あそこなら情報も集まっていると思うし」


 上手くいけば酒を奢るだけで情報が得られそうだとシスターは考える。

 それで会えなかったらギルドに依頼を出すのも手だと思っていた。


 襲ってきた勇者を全て返り討ちにする少年。

 彼さえ勇者パーティのメンバーになれば多くのダンジョンを潰せるはずだとシスターは考える。

 それはモンスターの被害が減り、世の中が平和になるということだった。

 是非とも味方になってもらうために説得しようと考えていた。

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