シスターと①
「あなた最近はカイルとパーティを組んでいるようね?」
「もう解散してカイルは別の者たちとパーティを組んでいるが?」
「それは良かっ……え?」
パーティを組んだことを褒めようとしたら既に解散していると聞いてシスターは真顔になる。
どうせなら、ずっとパーティを組めば良いのにとシスターは思う。
「何でパーティを組まないのよ?」
「え?弱いから」
それどころか口に出して質問するが当然のように答えを返されてしまった。
たしかに双子たちは見た感じでは自分より弱いとシスターは感じてしまっている。
そしてマオはシスターより強い。
シスターはたしかにマオよりは弱い。
だが依頼を達成したり迷宮に挑むのに必要なのは強さだけではないのだ。
どうしても不足な部分が出てくる。
それを補うための仲間なのに頼らないのはどうかとシスターは思う。
「パーティを組むのは自分に足りない部分を補うためのだけど?」
「依頼や挑む迷宮はきちんと調べているから問題は無いですよ?」
「だからって……」
「それに奇襲を仕掛けられたら迷惑を掛けてしまいますし……」
「…………」
それもあったかとシスターは思い出す。
あれはどっちもどっちだ。
襲う方も悪いが、武器を奪って売る方も悪い。
「そうね……」
だけど、きっともう止められないだろうとシスターは思う。
少なくともマオが武器を奪って売ることもせず、反撃をしなければ治まる可能性はあるかもしれない。
だけど、ただ黙ってやられるのはマオは許せないだろうと思う。
「ねぇ……」
「何ですか?」
「一度、襲われても何も反撃しないっていうのは無理でしょうか?」
だけど、それでもマオに確認する。
少しでも治まる可能性があるのなら試してみるべきだろうと思うが受け入れてくれるかは謎だ。
「絶対に嫌だ。襲ってくるほうが悪い。俺も襲われなかったら何もしないのに……」
忌々しそうに断られてしまう。
マオはやられっぱなしは嫌なようだった。
「まぁ、そうですよね」
深くため息を吐くシスター。
自分が直接出向けば止められる可能性は高いが、そのためにはマオとパーティを組む必要がある。
ソロが好きなマオが受けれてくれるとは思えない。
「…………そうだ」
「マオ?」
「パーティを一時的に組む?」
だがマオからパーティを組もうかと誘われて困惑してしまう。
ソロでいたいマオだからこそ何を言われたのか理解できなかった。
だがマオからすれば一緒にパーティを組むことで、どれだけ襲われているのか理解させようと考えていた。
何度もやり過ぎはダメだと武器を売るなと言われているが同じ経験をしたら、どうなるのか興味があった。
それでも自分を止めようとするのか、それともしょうがないと諦めるのか知りたい。
「そうね。お願いするわ」
マオは相変わらず一時的にと言っていたがシスターとしてはやり過ぎるのを矯正するまで解散する気は無かった。
どんな手を使っても矯正するまでは一緒にいるつもりだ。
「マオ!」
そこに仲間を連れていたキリカが笑顔で駆け寄ってくる。
マオも笑顔で迎えた。
「先生!?」
そしてシスターがいることにキリカは驚いてしまった。
流石に恩師の前では気を遣ってしまう。
「一時的にこの人とパーティを組むことにしたから」
「え?」
マオの言葉に信じられず絶望の表情を浮かべてしまうキリカ。
すぐ隣に恩師がいるというのは近寄りがたくなってしまう。
「何でしょうか?」
恩師に笑顔で尋ねられてキリカは何も言えなくなる。
「キリカ!?」
「あっ、呼ばれているのでお邪魔しますね!」
そして現パーティメンバーに呼ばれているのを幸いにして、その場から去っていく。
そのことにシスターは深くため息を吐いた。
「はぁ……」
「恩師だとは思っていても怖いんでしょうね……」
キリカに逃げられたショックを受けているところにマオに追い打ちをされる。
必要な事だったとはいえ、卒業してからも恐れられ避けられるのはやはりショックだった。
それなのに追い打ちをかけてきたマオにシスターは睨んでしまう。
「シスターって教師もやっていたんですよね……」
マオの言葉にそれがどうしたと頷くシスター。
分かり切っていたことなのに何で確認するのか分からなかった。
「………へぇ」
そして楽しそうに笑うマオ。
頭の中にはカイルがシスターに質問している姿が浮かんでいた。
今はショックを受けていても、直ぐに機嫌がよくなりそうだ。
「何かありましたか?」
楽しそうに笑っているマオにシスターが何で笑っているのか疑問を持ち質問してしまう。
「直ぐにわかると思いますよ」
だがマオには答えるつもりは無かった。
シスターに対しても笑って誤魔化す。
その様子に直ぐにわかると言われたこともあってシスターは信じることにする。
一時的にとはいえパーティを組むのだし聞ける機会はいくらでもある。
今すぐに問いたださないのは信頼していると示すためだ。
それでもパーティを解散する頃には問い質そうと決意はしていた。
「あっ、本当にマオとシスターが一緒にいるのか……。まさか二人がパーティを組むなんて」
キリカが去った後にカイルが寄ってくる。
カイルは教師になりたいと言っていたし、おそらくは話を聞きに来たのだろうとマオは想像した。
「なんだ……?シスターに話しを聞きに来たのか?」
「まぁ、そうなるな……」
カイルの肯定にシスターは目を輝かせる。
まさか話しかけてくれるなんて、何でも聞いて欲しいと思っていた。
「シスターとして色々と教えてくれましたけど、選ばれるにはどうしたら良いですか?」
「あらあらあら!」
カイルの言葉にシスターは目を輝かせる。
そんなことを聞いてくるということは自分と同じように次の勇者を教える気があるのだと想像できたからだ。
「もしかして私と同じように次の勇者を鍛えようとしているのかしら?」
「えっと、まぁ……」
照れ臭そうに頷くカイル。
肯定されたことにシスターも満面の笑みを浮かべる。
そう言うことなら是非とも色々と教えて上げようと考える。
「わかったわ。色々と教えて上げましょう。取り敢えず、貴方が気になっていることから答えようと思うのでバンバン聞いてきてくださいね?」
嬉しそうな笑みを浮かべながら疑問に答えようとするシスター。
その様子にカイルは少しだけ怯えながら様々な質問をしていった。
「………凄く嬉しそうだな」
予想通りに機嫌が良くなっているとマオはシスターを見て思う。
これ以上、ここにいても邪魔になるだろうと席を外すことにした。
シスターや神父になるための話は興味深いが、自分には縁が無いからと聞くのを諦めて酒場を出る。
どうしても聞きたくなったら、また聞けば良いと考えていた。
「さてと……」
外はもう暗くなっており、ところどころに明かりが見えている。
その明かりも誰かの家の中の光だ。
「…………少しモンスターと戦ってくるか」
迷宮に挑むのではなく、外で徘徊しているモンスターと戦おうとマオは行動を決める。
最近は視界が良好な場所で戦っていた。
久しぶりに視界の悪い場所で戦いたくなった。
危険だが、それだけの価値がある。
「…………マオ?」
そしてキリカは少し離れたところで街の外へと歩いていくマオの姿を見る。
何をするつもりなのか気になってキリカは後を追うことにする。
「悪いけど、私ここで帰るわね?」
「ちょっ………」
キリカの言葉に男性は引き留めようとし、女性たちはそれを妨害してキリカを帰らせた。
「何をしようとしているのよ……?」
キリカはマオの後を追って街の外に出る。
視界が暗く奇襲を仕掛けられたらと思うと少しだけ不安になってしまう。
「わっ!!」
「きゃあ!!」
急に後ろから驚かせられてキリカは悲鳴を上げてしまう。
誰がやったのか確認するとパーティの一人の女性だった。
「何をやっているのよ……ってアレはマオ?」
よく見ると一人だけでなくパーティの皆が付いてきている。
パーティメンバーのほとんどは面白そうな目でマオとキリカを何度も繰り返して見ている。
だが男性の一人は嫉妬の目で見ていた。
「何をしているんだ?」
そして嫉妬の視線を向けていない男性の一人がマオを見て疑問を抱く。
こんな夜遅くに街の外に出て危険じゃないかと心配してしまう。
すると突然にマオは手をあらぬところに伸ばす。
それを見ていた者たちは何をしてるのかと首を傾げる。
そしてマオが伸ばした手を握りしめると同時に悲鳴が上がった。
「ギャアアアアアアアア!!!!」
あまりの悲鳴の大きさにキリカ達は自分達の耳を塞ぐ。
キリカ達には見えなかったが、どうやらモンスターを掴み殺したらしい。
どうやって知覚できたのか疑問だ。
ちなみにキリカ達は事前に自分たちの周りにモンスターが襲わない様に結界を張ってあり、気を楽にしてマオを見ている。
そうでなかったら今頃モンスターに襲われてマオを見ているどころではない。
結界を張ってて良かったと安堵する。
「すごいな………」
「えぇ。動きがなめらか」
マオの動きを見て感心しているキリカ達パーティメンバー。
たしかに視界が暗く見えにくいが、それでも見える部分もある。
マオの動きを見て勉強をしていた。
「やっぱりすごいなぁ…」
キリカはマオの動きをぼうっとした表情で見ていた。
その姿にパーティメンバーたちのほとんどは顔をにやけさせていた。
「パーティに誘わなくて良いの?」
ニヤニヤとした表情で疑問をぶつけるが首を横に振られてしまう。
パーティメンバーになれば戦力が増えるのに否定するのが疑問だ。
「何度か誘ったけど断られているのよ……。私も本当は組みたいのに……」
どうやらキリカもパーティを組みたいと誘っていたらしい。
それで断られているのだから、しょうがないとパーティメンバーたちも納得する。
「そうか………。それにしても本当に凄いな。見ているだけで勉強になる」
「えぇ。だからこそ勝負を挑んで勉強させてもらおうとする者もいるけど、機嫌が悪いとマオは相手を殺しかねないのよね……」
「うん……?」
キリカの言葉に聞き逃せない言葉が聞こえてくる。
挑んだ結果、殺しかねないと聞いて最近の事件のことを思い出す。
デート中の男女を襲って返り討ちにあい死者が出たという事件を。
死者を出した方は正当防衛として罪がなかったこともだ。
「………そのデート中の男女は私達」
そのことを確認すると顔を赤くして頷かれる。
デートもしているから恋人なのかと想像してしまう。
女性陣は興奮してキリカから話を聞こうとしていた。
「何?もしかして恋人なの?」
「まだ違うわよ………」
恋人なのかと聞いて顔を赤くし、まだという言葉に更に女性陣は目を輝かせる。
好きな男がキリカに視線を向けていることもあって、万が一振り向かないために全力で応援しようと決める。
後は単純に面白そうだからだった。
「…………それでお前らは何の用なんだよ」
「「「「きゃあああああああ!!!???」」」」
「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!???」」」」
突然背後からマオの声が聞こえてきてキリカ達は悲鳴を上げる。
その声にマオはうるさそうに耳を抑えていた。
「マオ!?あれ!?」
いつの間にか正面にマオはいなくなっており背後に回れていた。
会話に収集し過ぎたのかと思い、キリカは首を横に振る。
マオのことだから純粋に目にも映らぬ速度で移動したのだと考える。
「………はぁ。ずっと見られていたら気になるんだけど」
ため息を吐くマオにキリカも罰が悪そうにする。
だけどキリカにも言い分はある。
こんな夜中に街の外に出てモンスターと戦うなんて危険すぎる。
「しょうがないじゃない……。こんな夜中に街の外に出ているんだから心配するわよ……」
「………あぁ、うん」
キリカの言葉にマオは微妙な表情を浮かべる。
本当に心配ならすぐに声を掛けてくるのだ。
それなのに声を掛けずにずっと見ていた。
だが心配だから直ぐに声を掛けて止めるのではなく見守る方法もあるかと考え直す。
「まぁ、いっか……。俺も戻るし送るよ。………お前らも一緒に送った方が良いか?」
キリカに送ると言った後にパーティメンバーにも確認するが、首を横に振る。
むしろ是非送ってあげて下さいと頼まれキリカは快く頷き、キリカは嬉しそうに街へと戻っていく。
その後ろ姿を一人だけ忌々しそうに睨んでいた。




