ダンジョンでの救けと怒り④
「さてと……」
ダンジョンから脱出してマオはカイルたちを見る。
早速勝負をするのか、それとも火を改めるのか確認したかった。
「それで、どうする?今から戦うか、それとも日を改めるか?」
「俺は別に今からでも平気だぞ。お前らはどうする?」
カイルの言葉に舐めるなと元のパーティメンバーたちは思い、今から勝負することを受け入れる。
カイルが直ぐに戦えるのなら自分達だって大丈夫だと考えてさえいた。
「じゃあ適当な所に移動するか……。誰にも迷惑にならないところだったら野次馬はいても邪魔はしないだろうし」
「それもそうだな」
マオの言葉にカイルは頷く。
それどころ賭けを始めそうだなと思っていた。
それでも止めることが有ったら、それは命の危険がある時ぐらいだろう。
「じゃあ皆付いてきて」
全員が頷いたのを確認してマオは誰にも邪魔をされないだろう場所へと案内しようとする。
それに全員が後を付いて行った。
そして辿り着いたのは見渡すかぎりに何も無い野原だった。
「ここまで離れていたら誰にも迷惑もかけないだろうし、それに負けた姿も誰にも見られないだろ?」
マオの言葉に全員が優しい奴だと思ってしまう。
お互いに相手を配慮した結果だと思っていた。
カイルはたった一人に負ける姿を誰にも見せて上げないため、パーティメンバーたちは勝てるはずが無いのに一人で挑み当然のように負けるカイルの姿を見せないためだと。
「それじゃあ俺は遠くから見ているから……」
そう言って距離を取るマオ。
それを確認してカイルは剣でパーティメンバーの一人を斬りつけた。
「………これで一人」
「キャァァァァ!!」
斬りつけられてパーティの一人が倒れたことにカイルを貢がせていた女が悲鳴を上げる。
他の者も酷く動揺していた。
「おまえ……。何をやってんだよ……!」
「お前らこそ何を言っているんだ?これはどっちが格上かの勝負だぞ?勝負である以上、怪我をするのは当然だろ?お前たちだって俺に攻撃しようとしていたんだ。なら、こうなるのは俺だったかもしれない。そうなる前に攻撃をしただけだ」
自分達が最近までは一緒のパーティを組んでいたカイルをこうしようとしていたと聞いて必死に首を振る元パーティメンバーたち。
気に入らないし痛い目に遭わせようとは思っていたが、ここまでするつもりはなかった。
「お前らは俺より上なんだろ?なら反撃して見ろよ」
つい最近までは同じパーティメンバーだったのにカイルは容赦なく攻撃を仕掛けてくる。
それが余りにも信じられなかった。
「うわぁ………」
そして一人残らず意識を失って倒れるとマオは呆れた表情を浮かべながら現れる。
「勝負っつたのになぁ……。ただ言葉が通じて一緒に冒険したからって攻撃できないって………」
「全くだ」
マオの言葉にカイルは深く頷く。
そして暴れたりないと地面を何度も蹴ったりしていた。
「………死んではいないな」
「そりゃあな……」
死んでいないのを確認してマオは適当な所にパーティメンバーたちを集めて結界の中に入れる。
そしてカイルの前に立って武器を構える。
「マオ……?」
「暴れたり無いんだろ?相手をしてやる」
その言葉にカイルは笑顔を向ける。
マオの言葉通りだったからだ。
暴れたり無くてしょうがなかった。
裏切られた、騙された、バカにされた。
その怒りをぶつけたいと思っていたのに元パーティメンバーたちはあっという間に倒せてしまった。
あまりにも弱すぎて怒りをぶつけることも出来なかった。
「へぇ……」
だがマオは自分より圧倒的に格上だ。
下手をしたら元パーティメンバーと同じようにあっという間に終わらせられてしまうかもしれない。
「安心しろ……。直ぐには終わらせない。ある程度は相手をしてやる」
格上からの言葉にカイルは最初から全力で挑んでいった。
「っ……」
「起きたか……」
最後の一人が起き上がると、それに気づいた者も含めて全員が一つの方向へと視線を向けている。
そこに何があるのかと視線を向けるとマオとキリカが戦っていた。
「何よ、あれ……」
そして見せつけられる圧倒的な差。
あれを見せられては、もう挑む気すら失せていた。
しかも斬りつけられた傷も治っている。
完敗だった。
「はぁ……。私たちでは本気を出した彼らの足を引っ張るだけね……」
その言葉に全員が頷く。
あれだけ動きを同じパーティだった時に見せていなかったのは、そう言うことだとしか思えなかった。
そして、あれだけの動きをしているからこそ同じパーティにいたいとしてもマオがしていたように拒否することだろうことも想像できてしまう。
「それでも一緒にいたいなら強くなるしかないのか……」
そして、かなりの実力差があるのは理解してもパーティを組みたい思っている者もいた。
足手纏いだとされても一緒にいたいのは、その方が安全にダンジョンに挑むことが出来るからだ。
同じパーティでもそれぞれ意見が別れているのだ。
もしかしたら意見の不一致で、このパーティは解散するかもしれなかった。
「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬る。
マオに対してカイルは全力で斬りつける。
相手が死ぬかもしれないとか全く考えていない。
ただただ全力で斬りつけていた。
それはマオがこの程度で死ぬはずがないという確信があったからだ。
もし別の者が相手だったら死ぬかもしれないし、そうならないように手を抜いていたかもしれない。
だけど相手はマオなのだ。
ある意味、甘えていた。
「…………」
そしてマオは無言で躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱して躱す。
当たり前のようにカイルの攻撃を全て躱していた。
しかも表情には焦りの色は全くなく余裕だと物語っている。
「遅い……」
マオはカイルの攻撃のスピードに文句を言う。
だが他の者から見れば十分以上に速い。
全く気付かずに攻撃される者もいるだろう。
それでもマオからすれば遅い攻撃だった。
「もっと速く攻撃しろ。遅くて躱すのが余裕だ」
マオはカイルの後ろに回り、ハッキリと聞こえるように耳元で注意をする。
それに対してカイルは後ろに振り向きざまに切りかかるが一歩引いただけで躱されてしまう。
「攻撃速度が遅いから余裕をもって避けられるんだよ……。もっと速度を上げろ」
マオの言葉にカイルはイラっとくる。
速度を上げろと言われても、そう簡単に上げれるモノじゃない。
それに全力で攻撃しているいるのに簡単に避けられて注意する余裕さもムカついてしまう。
「そうでなくても緩急を使え。殺気を使え。ただ攻撃するだけじゃなくて色々と工夫しろ」
緩急と言われても意味が分からなった。
緩急というものを使っても攻撃速度そのものは変わらないため攻撃は当たらないだろうと考えてしまう。
「全力で攻撃するんじゃなくて、常に7~8割で攻撃して偶に十割で攻撃するとか色々あるだろ。それに………」
首に手を掛けられた気がしてカイルは一気に後ろに下がる。
だがマオはその場から一歩も動いていなく、首に掛けていたはずの手は欠伸を抑えるように自分の口を抑えていた。
「一応、言っておくけど俺は動いていないからな」
そう言って座るマオ。
その様子に何のつもりかとカイルは疑問を浮かべてしまう。
「さてと………」
マオがそう言ったのを確認すると同時にカイルは地面に身体を思いきりぶつけてしまう。
カイルは困惑してしまっていた。
マオは目の前から動いていない。
それが分かっているのにカイルはマオに地面に叩きつけられたと認識してしまっていた。
「え………」
「動きの緩急だけでなくても殺気で相手を動かせることも出来る」
マオはそれを実演しているのだとカイルは理解できた。
だが、実際に動かせられると顔を引き攣らせてしまう。
ただの殺気だけで動かせられるとは夢にも思っていなかった。
「これを利用すれば相手を自分の都合の良いように動かせたりフェイントに使えるだろ」
カイルはまず無理だろうと考えてしまう。
何せカイルの目にはまるで実態があるように見えたのだ。
マオに言われるまで実際に攻撃されていたのだと勘違いしていた。
これと同じことを習得するのに、どれだけの時間が掛かるかわからない。
「…………起きているか」
「マオ?」
「それと難しく考えているみたいだけど、強く睨むだけでも効果はあるからな」
マオがあらぬところに視線を向けて呟いたかと思うと、無理だと思っていたのがバレたのかアドバイスをもらう。
そして更に次の瞬間、担がれてしまう。
「マオ!?」
「そろそろ街へと帰るぞ。あいつらも起きたみたいだしな」
あいつらと聞いてカイルは元パーティメンバーたちのことを思い出す。
もう少し挑みたかったがこうして担がれている以上、諦めるしかなかった。
「じゃあ行くぞ」
「ちょっとま……」
別に帰ることにするのは良い。
だが担ぐのは止めて欲しい。
そう言いたかったが、その前にマオは元パーティメンバーたちの元へとたどり着いていた。
「二人とも」
マオたちが元パーティメンバーたちの元へと戻ると、その中の一人が早速声を掛けてくる。
何の用だろうとマオたちは耳を傾ける。
「どうやったら貴方達とパーティを組めるの?」
その言葉を聞いてマオはため息を吐く。
そしてカイルへと視線を向ける。
「俺よりもカイルに聞いたら?元パーティメンバー何だし」
マオはもともとソロ専門で、今はたまたま組んでいるにしか過ぎない。
それよりも元々パーティを組んでいたカイルに確認した方が良いと考えていた。
「それでも知りたいから教えてくれない?」
マオはその言葉にため息を吐いて教える。
「さっきも言ったけど俺と同程度の奴」
あまりにも実力差がある奴はパーティを組む気にもならない。
どれだけ望まれてもマオは組む気は無かった。
「ならカイルは!?」
「いやパーティを離脱して、また直ぐに戻るのは遠慮したいんだが……。それにお前たちとはパーティをもう組みたくないし……」
「なっ……」
カイルの言葉にショックを受けてしまう。
今までは気付かなかったが何度も助けられてきたのだ。
それが急に無くなって、これからダンジョンにどうやって挑んでいけば良いのか分からなくなってしまう。
「今まで貴方に頼りっぱなしだったのに……?」
「あぁ?」
「急にいなくなったら、どの程度のダンジョンから挑戦すれば良いのか分からないじゃない!」
マオは元パーティメンバーたちの会話を聞いてあきれる。
分からないのなら一番下の難易度のダンジョンから挑んでいけば良いと思っていたからだ。
それに頼りっぱなしと聞いてやはりパーティを一緒に組みたいとは思えなかった。
どちらかが一方的に頼られるなんて利用されているようにしか感じてしまう。
実力差があるとそういうことがあるから嫌だった。
「そのぐらい自分で調べろよ……」
カイルも呆れたように文句を言う。
時間は少し掛かるかもしれないが必要なことだ。
そこまで他人を頼りにするのは呆れてしまう。
「面倒だな……」
マオはため息を吐いて自分達とパーティを組もうとする者たちを殴って気絶させていく。
自分達を利用して楽をしようとする会話なんて聞きたくもなかった。
そして、その行動にカイルはマオに親指を立てる。
「取り敢えず、こいつらをギルドのところにでも置くか……」
マオの言葉にカイルは頷く。
下手な所に置いて文句を言われるよりもギルドの中の方が確かに安全だった。
「よっと……」
そしてマオは気絶した元パーティメンバーたちを一まとめに縛って運んでいく。
確かに一人一人運ぶより、そちらの方が楽だ。
「お前って本当にろくな女を好きにならないよな。こいつだろ?お前がプレゼントしようとした女って」
マオの言葉にカイルは何も言うことが出来なかった。
終始、どうやってパーティを組んで利用するかしか考えていない。
どうして、こんな女を好きになっていたのかカイル自身分からなかった。




