ダンジョンでの救けと怒り②
「よしっ、それじゃあ行くか!」
「足を引っ張るなよ」
「当然、あまり俺を舐めるなよ?」
翌日になりマオとカイルの二人はダンジョンへと挑む。
昨日はカイルはマオの家に泊ったから一緒に外に出ることになり、キリカがそれを見送った。
そのことにキリカは顔を赤くしたり、嬉しそうに喜色満面の笑みを浮かべたりしていた。
「はぁ………」
その様子を思い出してカイルはため息を吐く。
何を考えているのか大体、予想できてしまう。
正直に言ってキリカと一緒に住むのが辛くなってくる。
自分がいるせいで付き合えないんじゃないかと思ってしまう。
「父さんも母さんも心配性なんだよな………」
姉が離れた場所で暮らすと聞いて一人暮らしをさせないためにとカイルも一緒に住むことになった。
それなりに強いし心配もいらないと思うのに、それでも心配するのは親として当然なのかもしれないとマオは自分を納得させようとする。
自分も結婚して子供が出来たら同じように成るのかもしれないと考えた。
「どうした?」
「いや、父さんも母さんも心配性だなと考えてな……。俺がキリカと一緒に住むことになったのも女の一人暮らしは不安だからと頼まれたからだし」
カイルの両親の意見にマオはしょうがないのかなと思う。
いくら勇者であり鍛えられたと言っても、それよりも強い者はいくらでもいる。
むしろマオ自身が勇者として鍛えられた二人よりも強い。
「姉とはいえ、他の者から見れば魅力的な女の子なんだし、しょうがない」
マオの言葉にカイルは微妙な表情になる。
カイルからすれば魅力的な女の子には見えない。
惚れた弱みもあるのかもしれないが見る目が無いんじゃないかと思ってしまっていた。
「お前、本当にキリカが好きだよな……」
カイルの言葉にマオは顔を赤くして顔を逸らす。
隠しているつもりかもしれないが耳まで赤くなっており、わかりやすい。
変に否定して照れ隠しをしない辺り素直だなと感心すらしていた。
「そんなことより、パーティの解散はどうなったんだ?昨日は聞かなかったけど、やっぱり気になるんだが?」
話を変えるためか無理矢理にパーティのことを聞いてくるマオ。
からかい過ぎたかと少しだけ反省をする。
「それならスムーズにいったぞ。俺がいなくても問題ないってさ?」
「ふぅん……」
無理矢理に話を変えて聞いた内容にマオはそんなにレベルの低い集まりなのかと想像する。
マオから見てカイルの実力はそれなりにあるのだ。
それを手放しても問題ないのなら実力が低い者の集まりだとしかマオは思えなかった。
「お前がいらないって、そんなに弱い者たちの集まりなのか?」
「お前と比べれば誰だって弱いと思うけどな………」
「そうじゃなくて………」
自分の言いたいことが違うと言いたげなマオにカイルも苦笑する。
本当は分かっている。
「もっと相応しい相手がいるとかだろ?」
カイルの言葉にマオも頷いた。
あまりにも実力が違い過ぎるのだ。
お互いに悪影響しか与えないと思っている。
「………一緒にパーティを組みながら育てていけば良いと思っていたんだよ。そうすれば結果的には相応しくなると思うし」
「一緒にパーティを組みながら育てるか……」
確かにそれは互いに足りない部分を埋めながら強くなっていけるとマオは思う。
だが自分には無理かもしれないと思ってしまう。
それは最初の方はかなり自分の部分の苦労が多そうだった。
そういうのは初心者の世話が好きな者がすれば良いと思ってしまう。
「将来的には教師にでもなるつもりか?」
「たしかに、それも良いかもしれないな……」
マオの疑問に乗り気で頷くカイル。
どうやら、それなりに興味があるらしい。
もしかした引退したら教師になるのかもしれない。
勇者の教育に携わるのか、それとも普通の教師になるのか。
どちらにしてもマオは面白そうだと思う。
もし後者だとしたら、もしかしたら自分の子供も預けることになるかもしれないと考えると笑みが浮かんでくる。
「急に笑ってどうした?」
「別に?少しだけ未来のことが愉しくなってきただけだ……」
本当に面白そうに笑みを浮かべるマオ。
マオの言葉にカイルは嘘だとは思えなかった。
「……………ん?」
だが途中で何かに気付いたのかマオは笑みを消して、これから挑むダンジョンの入り口を見る。
何があったのかとカイルも視線を向けるが何も見えない。
マオに疑問をぶつける。
「何があった?」
「いや………」
少し言いにくそうにしているマオ。
もしかしたら自分に関係があるんじゃないかとカイルは疑ってしまう。
それでも話を聞きたいとカイルはマオに視線をぶつけた。
「もしかしたらだけど。お前の元パーティもこのダンジョンに挑んでいるのが見えたんだけど大丈夫か?」
どうやらカイルの元パーティもこのダンジョンに挑んでいるらしい。
だがカイルからすれば、心配してくれて有難く思うが気にし過ぎだとしか思えなかった。
別に挑んでいる最中に鉢合わせても何も問題は無い。
この程度のことは何度も経験した一つにしか過ぎなかった。
「それなら良いか……」
カイルの言葉に鉢合っても問題ないなと考えるマオ。
大丈夫なのなら問題ないなと思っていた。
「なんで………」
カイルにパーティを離脱された者たちはモンスターに襲われボロボロになっていた。
以前に挑んた時は、ここまで苦しくなかった。
むしろ、まだある程度の余裕は合ったのに今は全く無い。
「おかしいだろ……!以前は普通に挑めたのに……!!」
同じようにボロボロになっている男がそれに頷く。
たった一人いなくなっただけ。
むしろいなくなったから代わりの者をパーティに入れたのだ。
人数は変わらない。
それなのに以前とは難易度が全く違う。
「意味わかんねぇ………」
挑み方は以前と同じ。
違うのは以前組んでいたカイルがいないだけ。
それだけのはずなのに色々と違い過ぎて意味が分からなくなる。
「もしかして今まではカイルが色々とフォローをしてくれていたお陰だっていうの?」
認めなくないとこと口にしてしまう。
パーティを離脱するのを認めたのも元はと言えば自分達に実力が付いたのと思ったからだ。
それが実は全部、カイルのお陰だなんて考えたくもなかった。
「ふざけるなよ………」
カイルがいなくて自分達はやれるのだと、その中の一人が立ち上がった。
その姿に他の者たちも視線を集める。
「たった一人に依存しきりだったって誰が認めるか!このダンジョンを進むぞ!」
たしかに一人に依存しきりでそれに気づかなかったなんてプライドが許さない。
それに頷いて他の者たちも立ち上がる。
「あいつより私たちの方が上よ!」
簡単に女に騙されて貢ぐような奴より格下だとか認められなかった。
その言葉に同意して全員が立ち上がる。
絶対に負けたくないと皆が想っていた。
「「「「おぉぉぉぉぉぉ!!」」」」
気合を入れて皆が雄たけびを上げる。
「キシャァァァァ!!!」
そのせいでモンスターが襲ってくるが、関係ないとばかりに挑んでいった。
「何か叫び声が聞こえなかったが?」
「そうか?」
カイルは聞き覚えのある叫び声が聞こえたと話すが、マオはそれをスルーする。
ダンジョンにはモンスターがおり、そんなことをすれば多くのモンスターが襲い掛かってくるのは分かっているだろうに叫んだのだから例えピンチだとしても助ける気は無かった。
「気のせいか?」
「何だ助けるつもりか?」
面倒だと言わんばかりにマオにカイルは首を横に振る。
目の前にいたら助けるかもしれないが、気のせいかもしれないのにわざわざ探すつもりはカイルにも無かった。
「ただ単純に集まったモンスターが俺たちの所まで来たら面倒だなと思っただけ」
「…………」
更に面倒そうな表情を浮かべるマオ。
そんな目にあうのは絶対に嫌だった。
「気のせいだと良いな……」
「全くだ……」
深くため息を吐く二人。
出来ることなら叫んだ者たちが対処して欲しいと祈ってすらいた。
「それよりも、今回の依頼だけど………」
「うん………。結構強力なモンスターの部位が欲しいんだってさ。どうも健康や医療に良いらしい」
「依頼者は医者か健康に気を遣っている金持ちか何かか?」
「依頼人は医者だな」
「わかった」
依頼のことを確認していなかったマオがカイルに質問すると、依頼人が医者だと聞いてやる気を出す。
金持ち相手だったらやる気は出さなかったかもしれないが医者が相手なら別だ。
積極的に解決してやろうという気になる。
「医者と聞いてやる気を出すのかよ?」
「当然。医療が発達すれば、それだけ救かる者が増えるからな。それに頭が良くて努力してる奴しか医者に成れないんだろ。尊敬する」
「なら、お前も頑張ればなれるんじゃないか?」
「無理。俺は勉強が好きじゃないし、自分が強くなるために訓練する方が好きだ」
マオの言葉にそれもそうかと頷く。
カイルも教師になるための勉強ならともかく医者になるための勉強は嫌だった。
どうしてもモチベーションが上がらなくて苦痛になる。
「まぁ、確かに目標のない勉強は苦痛だよな……」
「そういうこと。………そういえば期日は何時までだ?」
「結構強く、しかも珍しいみたいで期日は無いな。運が悪ければ見つけること自体が無理だと考えているらしい。有難い依頼だよ」
「物欲センサーか……」
依頼のモンスターを確認すると確かに珍しいモンスターだ。
運が悪ければ一生出会えなくてもおかしくない。
「そうだな………。俺たちだと楽勝だけど出会えるかどうかは運だよな………」
深くため息を吐く二人。
こればかりはしょうがない。
依頼人もそのことがわかっているからか期日は無期限になっているのが有難かった。
「これって、かなりの時間が掛かるよな?」
「うん………」
マオの言葉にカイルは頷く。
「何時までもパーティを組むつもりは無いからな?これも一時的なものだし」
「ちっ」
そして続けられた言葉には舌打ちをした。
この調子であわよくば一時的にではなく正式にパーティを組もうと考えていたが釘を刺されてしまう。
マオは強く頼りになるからカイルは残念に思い、マオは油断ならないとため息を吐いた。
「そういえばキリカとは何処まで進んだんだ?」
「…………秘密だ」
突然のカイルの疑問にマオははぐらかす。
色々と恥ずかしくて言いたない。
「ちっ。少しぐらいは教えてくれても良いだろう」
「………聞こえているからな?」
マオの言葉にキリカは背筋を震わせてしまっていた。
「うっ。そういえばだけど……」
また話を変えようとするカイルにマオは耳を傾ける。
今度は何を聞くのかと意識を集中させる。
「デートの最中に襲ってきたヤツらがいるじゃん?」
当時のことを思い出してマオは頷く。
我ながら運の無い奴らだと思っていた。
少なくとも機嫌が悪い時に襲ってこなければ無事だった。
だけど結果は両腕両足を切断されたりと悲惨な目に遭った。
「あれって結局、どうなったんだ?お前も罰を受けたりしたのか?」
こうしてマオが平気で外を歩いているのを知って質問するということはそこまで重くないのだと分かっていて質問しているのだろう。
純粋の興味本位だと分かってマオも正直に答える。
「厳重注意だけで終わったけど酷くないか?俺は襲われた被害者だというのに……」
「当然だろ」
マオの言葉にカイルもまた即答した。
「過剰防衛という言葉は知っているか?確かに襲ってきた相手の方が悪いかもしれないけど、お前はやり過ぎだ」
「………」
カイルの言葉にマオはムスッとした表情を浮かべる。
厳重注意を受けた際にも同じことを言われたせいだ。
その時もいくら向こうの方が悪くてもやり過ぎだと怒られていた。
「でも、やり過ぎの方が良いと思うんだよ。その方が恐怖でやり返してこないだろうし」
「そうかもしれないが………」
マオの言い分には頷きそうになる。
だけど、手ひどくやられたからこそ復讐心が燃え上がるんじゃないかと予想してしまう。
「………まぁ、漏らしていた奴もいるし完全に心が折れているだろ」
「そういえばそんな話も聞いたな……」
マオの反撃に恐怖で漏らしたという話を思い出すカイル。
それだけマオのことが怖かったんだろうと思う。
まぁ、仲間のお腹に手を貫通させて骨を引き出す。
実験しているかのように仲間の両腕両足を切断して自分も切ろうとする。
恐怖を覚えてもおかしくない。
「あれでまた喧嘩を売ってくるなら尊敬しそうになる。…………鍛えてやるのも面白そうだ」
マオの言葉に無理だろうなと思うカイル。
マオが求めても相手が拒否しそうだなと思っていた。




