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ダンジョンでの救けと怒り①

「カイル、どうした?」


「そうね。彼女と一緒にいなくていいの?」


「いいよ。どうせ彼女は俺のことなんて何とも思っていないんだから……」


 カイルの言葉に二人は察する。

 また裏切られていたのだろうと。

 もしかしたら別の男がいたのかもしれない。


「何?もしかして別の男でもいたの?」


「…………そうだ」


 キリカが面白そうに尋ねた疑問にカイルは頷く。

 それにまたか、と二人は思う。

 偶には真面な相手と付き合えないのかとマオは呆れてもいた。


「あいつは俺のことをキープでしかないし、好きな男が別に出来たら直ぐにそっちに向かうんだと……」


「そうか………」


 マオはカイルの言葉を聞いて女子はえぐいなと思う。

 カイルを完全に弄んでいる。


「もうパーティを組むのを辞めたらどうだ?」


「まぁ、一人でも挑むことは出来るからな。またパーティを組めるまで適当に誰かと組んだり一人でダンジョンに挑んだりするよ」


「まぁ、頑張れ」


「偶には私とパーティを組みましょう?代わりに私のパーティが解散したら一緒に組みなさいよ」


「わかっている」


 何度もパーティを組んだり解散したりするのは、この二人ぐらいだろうなとマオは口に食べ物を入れながら思っている。

 本当に人運に恵まれないと眺めていた。


「それで、どうするんだ?」


 マオの疑問に二人は視線を向ける。

 どういう意味かよく理解していなかった。


「今度こそ、お前らはやり返すのか?それとも、またやられたままでいるのか?」


「………いや、俺は何もする気は無いよ。パーティを解散するだけだ」


「………そうか」


 カイルの答えにマオは残念そうにする。

 これもいつも通りの答えだった。


「それに、どうせパーティを解散して後悔するのはあいつらだしな」


「また……?」


 カイルの答えにキリカはため息を吐く。

 相変わらず実力が劣っている者をパーティに入れるなんて馬鹿なのかと思っている。

 実力が低いから性格も悪いんじゃないかと疑っていた。


「ふぅん。じゃあ、また元パーティメンバーは苦労しそうだな」


 カイルは人を見る目も実力を見抜く目もなくてキリカとマオはため息を吐く。

 実力が有る奴もパーティに入るがやっぱりパーティを解散させる理由に成ったりするから性格に問題がある。


「…………まぁ、頑張れ」


 マオのその言葉にカイルは目を光らせる。

 どうせしばらくの間、ソロなのならマオとパーティを組めば良いと思った。


「どうせだし、またパーティを組む間一緒に組まないか?」


「嫌だ」


 即答するマオにカイルは説得を続ける。


「パーティを組めとギルド長に言われてるんだろ?お前も偶にはパーティを組んでも良いと言っていたじゃん。なら新しいパーティが組めるまでコンビを組んでも良くね?」


「………それは」


 カイルの説得にマオは揺らぐ。

 少なともカイルと組んでいる間は何も言われることは無い。

 それが酷く魅力的に思えてしまった。


「なら………!」


 マオが揺らいでいるのを見てチャンスだと確信するカイル。

 ここで更に説得すれば折れるだろうと判断していた。


「…………わかった」


「よしっ!!」


 マオが折れたのを確信してカイルはガッツポーズを作る。

 マオと組めるのが酷く嬉しそうだった。

 そしてキリカは今の自分はパーティがいるから無理だが羨ましそうにカイルを見る。

 もし、またパーティを解散することがあれば今度は自分が組みたいと思っていた。


「………羨ましい」


「良いだろ?」


 カイルの自慢するような言葉にキリカは掴みかかり喧嘩になる。

 マオはパーティを組むことになったことにしかめっ面で飲み物を飲んでいた。


 二人がマオと組みたいのは単純にマオが強く信頼できるからだ。

 強いということはそれだけ安心してダンジョンに挑める。

 そして信頼できるというのは裏切られる心配は必要ないということだ。

 

 パーティを組むということは得た利益を分配する必要がある。

 自分の取り分を増やそうと殺す者も偶に現れてしまう。

 だから信頼できる者は必要だった。

 パーティの人間関係を悪化させる者なんて、いくら実力があっても信用できる者ではない。


「…………何をしているのですか?」


 そして喧嘩をしている二人の元にシスターが現れる。

 だがシスターは現れても二人は喧嘩を辞めない。

 シスターの声が聞こえない程に相手に集中しているようだ。


「話を聞きなさい!」


 そんな二人にシスターは頭を叩く。

 どうやら手馴れているらしい。

 恐らくは学生自体にも同じことがあって手馴れているようだった。


「っ~~~!!?」


「おぉぉ!!?」


 二人は頭を抱えて跪いている。

 見ているだけで痛そうだ。


「それで二人ともどうしたんですか?皆が使う場所で喧嘩なんかして……。君も何で止めなかったのですか?」


「面倒なので……」


 マオの理由に苛立ちを覚えるシスター。

 カイルとキリカは知らないとはいえ度胸があるなとマオを尊敬の目で見る。

 二人はシスターの教え子だからこそ逆らうなんてことは出来なかった。


「面倒だから周りの迷惑を考えずに無視したんですか?」


「この程度の騒ぎはいつものことだろ?」


 ふざけた理由にシスターは怒りに声を震わせ、マオはこの程度の騒ぎで何を怒っているんだと首を傾げる。

 マオにとっては、この場所で喧嘩なんていつも誰かがやっていることだ。

 中には、それを賭けの対象にする者もいる。


「…………」


 それは本当かと二人の教え子にシスターは視線を向ける。

 そして二人も頷いたのを確認して信じられない気持ちになった。


「………そう」


 それでも騒がしくするのは迷惑だろうと思う。


「それでも騒ぐのは迷惑だから止めなさい……」


「あっはい」


「ごめんなさい」


 それでも他の場所で同じことをしたら迷惑になるから止めろと言うシスターに教え子の二人は素直に頷いていた。


「そういえばシスターに聞きたいんですけど……」


「何かしら?」


 マオの疑問にシスターは警戒しながらも応えようとする。

 何を聞かれるのか予想が出来ない。


「この二人って、貴女の教え子だった時も仲間に裏切られたり人運に恵まれなかったりするんですか?」


 マオの疑問に二人は視線を逸らす。

 それだけで答えは分かっているが第三者の視線から聞きたかった。


「そうですね……。嫌われてはいなかったですけど、ことごとく組んだ相手が最悪でした……。例外は姉弟で組んだ時ぐらいです」


「それで本当に呪われていないのか?」


「そうなんですよね………」


 深くため息を吐くシスター。

 どうやら教え子時代から苦労しているらしい。


「………そうか」


 それを聞いて深くため息を吐くマオ。

 昔からこうなのなら解決するのは無理だろうなと思う。

 それさえなければマオもキリカ目的でだがパーティを組めていた。


「まぁ、良いや。それよりもカイル?」


「………何?」


「今日はダンジョンに挑むのか?」


「いや、今日はパーティを解散するのを告げて休もうと思っている。明日、一緒に挑まないか?」


 カイルの言葉にマオは頷く。

 自分はキープでしかなかったと知ってカイルは傷心なのだ。

 少しぐらいは我が儘を聞いてあげようとマオは思っていた。


「待って」


 そんな二人にシスターは待て声を掛けた。

 またパーティを解散すると聞いて話を詳しく聞きたかった。


「パーティを解散するってどういうことかしら?」


「………そのままの意味ですよ。どうやら俺はパーティの皆に女に騙されているバカだと思われていたみたいなので。それが数人ならともかく全員が気付いて協力していたみたいだからパーティを解散させます。俺はあいつらを信用できません」


 食い物にされていたのかとシスターは理解する。

 それならしょうがないと思っていた。

 勇者であるカイルが利用されて食い物にされているぐらいならパーティを解散させた方がシスターとしても良かった。


「そう………。ところで私からの質問」


「何でしょうか?」


 シスターが自分達に疑問をぶつけてくるのは珍しいとカイルは答えようと決意する。

 それは話を聞いていたキリカも同じだ。


「あなたたちはマオを信用できるの?」


「できます」


「できるわ」


 即答する二人にシスターは少し不安になる。

 正当防衛だからと過剰に攻撃する男だ。


 それに姉弟揃って信頼しているのが気になる。

 キリカはまだ分かるから良い。

 マオのことが好きなのだと理解することが出来る。


 だけどカイルは違う。

 感性が似ているとは言え同じ男同士だ。

 素直に信頼していると言える何て疑ってしまう。


「…………あなたたちには人を見る目が無ければ人運も無い。本当に信用できるの?洗脳されたりしていない?」


「何でそうなるんですか!?」


「そうですよ!?」


「いや、お前らの過去を考えれば当然だろ?」


 カイルとキリカの二人はシスターの言葉に怒りを抱き、マオは当然の心配だと納得する。

 マオは良い人だとシスターを思うが、シスターのマオに向ける目はまだ疑いがある。


「マオはどっちの味方なのよ!?」


「そうだそうだ!お前は今、疑われているんだぞ!」


 だから何だと呆れたような目を二人に向けるマオ。

 二人はその目はこちらが向けるものだとイラっとする。


「だったら最低限、人を見る目を鍛えたらどうだ?お前ら、かなりの数の者を見てきたんだろ?少しは長続きできるようになるはずだろ?」


「そうですね。いくら最初は良い人に見えるかもしれませんが、貴方たちの経験からすれば見抜けるようになるはずです。それとも、そんなことも出来ないのですか?」


「「っ」」


 正論だからこそ二人はマオとシスターの言葉に何も言い返せない。

 だけど、こいつらなら大丈夫だろうと思った者が心変わりをして裏切られたこともあるのだ。

 そこも見抜けと言っているのかもしれないが、二人はそれが理不尽に感じてしまっていた。


「まぁ、お前らには無理かもしれないけど、それでもやらないよりはマシだろ?」


 マオの言葉に二人はやる気を出す。

 シスターも良いところで挑発をしてくれたと考える。


「どういう奴がどういう風に裏切ったり心変わりするのか、ちゃんと調べて本にすれば売れそうだしやってみれば?」


 更に続けたマオの言葉に二人は目がお金で輝き、シスターは余計なことを、とマオを睨んでいた。

 教え子が金儲けで目を輝かせる姿は見たくなかった。


「カイル?」


「わかっている。早速、家に戻ったら取り掛かろう」


 机の上にある食べ物を食べ終わったら、直ぐに家に帰ろうとする二人。

 急いで食べ始めている。


「………俺も邪魔をして良いか?流石に加工した後だから汚いし、掃除をしたいんだが」


「良いの?」


 掃除をしてくれるというマオに二人は嬉しくなる。

 そもそも加工を頼んだのは自分達なのに申し訳なく思ったが、掃除をしてくれるのなら有難いと受け入れていた。


「あぁ……。それで大丈夫なのか?」


「カイルも問題ないわよね?」


「もちろん、そうだけど………」


 カイルはキリカが嬉しそうなのがわかってしまう。

 そして、それはカイルだけではない。

 シスターも同じだ。


「それじゃあ食べ終わったら家に行きましょう!」


 昨日に引き続き、マオが家に来る。

 今日は自分の手料理を食べて貰おうとキリカは考えていた。

 その為にはマオの提案した情報を纏める前に食料を買いに行く必要がある。

 カイルには悪いが、少し外す必要があった。

 そして、どうせだしとその時にはマオも一緒に付いてきてもらおうと考える。

 ちょっとしたデート気分だ。


「ちょっと良いカイル?」


「何だよ?」


「今日の昼食と夕食は私が作るわ。それと作業の途中、私はマオと一緒に食料を買うために外に出るから」


「あぁ………。わかった」


 カイルはキリカの考えていることを察する。

 恐らくはデートもする予定なのだろう。

 詳しいことを聞くことはせず、キリカの好きなようにさせようと思っていた。

 何だかんだ言って血のつながった姉弟なのだ。

 惚気は聞きたくないが、お互いが上手くいくように願ってはいた。


「…………」


 シスターはそんな三人の様子を見て何も言えなくなる。

 マオは危険人物で邪魔をするべきかもしれないと考えるが二人の様子から無理に引き離そうとすると手痛い反撃を食らいそうだ。

 それに何よりも二人が一緒にいて楽しそうだった。

 マオを警戒しようとは思っているが、少し様子見をするべきかもしれないとシスターは考える。


 シスターは、かつての教え子とはいえ気に掛け過ぎているかもしれない。

 だが、教え子がいくら何でも仲間に恵まれなさすぎるのだ。

 同性のキリカを気にかけてしまうのはしょうがないとシスターは自分に言い訳をしていた。


 もちろんカイルも気に掛けている。

 だが単純に男性だから、キリカよりも優先順位が低くなっているだけだった。

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