彼女へのプレゼント④
「それじゃあ俺たちは換金しに行ってくる」
マオたちはダンジョンから脱出しキリカとカイルの家の前に着くとキリカを除いて二人は家から少しだけ距離を取る。
言葉通りにダンジョンで採取した虹色の水晶を換金しに行くつもりだ。
「わかったわよ。戻って来るまでには終わらせて置くから、安心しなさい」
キリカの言葉に二人は頷く。
換金するのにも時間は掛かる。
終わって帰ってくる頃には家の中に入れるだろうとマオたちは考えていた。
「ちゃんと片付けろよ~」
「わかっているわよ!」
カイルの言葉にキリカは当たり前だと返す。
流石に自分の下着などは見せるのは恥ずかしい。
だから見られない様にさっさと片付けてしまいたかった。
「マオ、どれだけ金額になると思う?」
「さぁ……。もしかしたらはした金になる可能性もあるからな……」
「こんなに綺麗なのにか……?」
「素人目には綺麗に見えても専門家にとってはそうでもないんじゃないか?」
確かにそういうこともあるか、とマオの意見にカイルも頷く。
どれだけ綺麗に見えても自分達は素人なのだ。
どのくらいの価値があるのか何て自分達には分からなかった。
「取り敢えずは換金だな……。そうすれば価値も分かるだろ」
その言葉にカイルも頷く。
どれだけの金額になるのか分からないが、少しだけ楽しみだった。
「これだけの大きさがある虹色の水晶なんて見るのも初めてです……!申し訳ありませんが、少し時間を頂いても?」
そうして換金しに貰いに行くとかなりの価値があるらしく騒ぎになった。
どうやら、ここまでの大きさのものは始めて見るらしい。
正確な金額を出すために時間が欲しいと言われてしまった。
「思ったよりも凄いことになったな………」
「そうだな……。正直に言って、かなり驚いた」
虹色の水晶は予想よりもかなりの価値があるらしく期待に胸を膨らませる。
どれだけの金額になるのかとマオとカイルは楽しみにしていた。
「…………お待たせしました!こちらに来てください!」
マオとカイルに職員の人が声を掛けてくる。
その指示に従って二人はその人の後に付いて行った。
「初めまして。私はここの支配人です。まさか、あのマオさんと勇者のカイルさんとこうして会えることを幸運に思っています」
「ありがとうございます。それで何の用でしょうか?こちらは換金しに来たのですが?」
「えぇ。存じております。ですがあれだけの水晶となると、かなりの金額となるのです。とても一度で払える金額ではありません」
それだけの金額なのだと理解して絶句する二人。
どうやら予想以上に価値があるみたいだ。
「では分割して支払うということになるのでしょうか?」
「えぇ……。そうなってしまいます」
「わかりました……。また来ることにします。カイルもそれでよいか?」
「大丈夫だ。それではまた」
分割で払うことになって安堵のため息を吐く支配人。
そして話は終わりかと出て行こうとする二人を引き留める。
「待って下さい!今払える分の金額を払わせてもらいますので……!」
今回の分と聞いて渡されたのはトランクだった。
開けてくださいという言葉に開いてみるとトランクの中にびっしりと札束が入っている。
「それとこれが今回換金しに来た分の金額です」
渡された紙には金額が載ってあり、カイルとマオは目を見開く。
一生遊んで暮らせる金額だった。
「それでは、またの来客をお待ちしております」
そして心あらずでカイルは帰路に着く。
マオはそんなカイルの様子を見て思わず同情の視線を向ける。
「なぁ、カイル?」
「………なに?」
何度呼んでも答えないカイルにマオは肩を直接叩く。
それでようやく答えてくれたカイルにマオは現実を告げる。
「最低でも二十代後半まではダンジョンに挑んで破壊したり調査しないといけないんだろ?あと十年は頑張れ!」
「あ………あぁぁぁぁぁぁぁ!!」
かなりの金が手に入っても自分の娯楽のために使えないと気づいて絶叫を上げるカイル。
それを見てマオはキリカも同じ表情をするのかと楽しみになる。
さっさとキリカとカイルの家に入ってキリカの顔が見たかった。
「ただいま………」
少なくとも十年は娯楽に使う暇は無いと気づいてカイルはショックを受けていた。
マオはその分、安全に生きて行けるように武器などに金を使えば良いのにと思っている。
「お帰りなさいって、どうしたのよ?そのトランクも?」
「虹色の水晶を換金した金額の一部。一括で払えない量だって……。それとカイルが落ち込んでいるのは、これだけの金額があっても自分の娯楽のために使えないからだな。勇者としての活動で遊んで暮らせないことにショックを受けたみたいだ」
「いや、身の安全のために武器とかに金を使いなさいよ……。どれだけ金があっても死んだら意味が無いんだから」
遊んで暮らすための金は使えないと聞いてもキリカは平然としている。
それどころかちゃんと未来のことを考えている。
これが男女差なのかと少しだけ残念に思っていた。
「うっ………。そっちは良いよな。最悪、結婚資金さえあれば良いんだから……。その為に金を溜めよと思っているんだろ?」
「うるさい!!」
カイルの言葉にキリカは顔を赤くしてぶん殴る。
そのせいでカイルは気絶して意識を失い、回復するのは明日になるのが想像できてしまう。
「うわぁ……。まぁ、良いか。それよりもキリカ、こいつのために彼女のプレゼントを作りたいんだけど何か良い意見を出してくれないか?」
そんなことを聞いてくるマオにキリカは今、聞くことなのかと考える。
だがマオの顔を見て考えを改める。
カイルもいるが今は気絶をして意識がない。
その状態で二人きり。
キリカもだがマオも顔を赤くなっていた。
マオがカイルの彼女のプレゼントを作るのに意見を出して欲しいと言ったのも顔を赤くしているのを誤魔化すためだと思えばしょうがないと思ってしまう。
だからキリカはマオの隣に座って意見を出そうとする。
「キリカ?」
「近くから見た方が私も意見を出しやすいじゃない?」
キリカが隣に座った理由にマオは顔を赤くしながらも納得する。
そしてマオが自分に隣に座っただけで顔を赤くしたことに気分を良くして女性が好みそうなデザインを口に出していった。
「っ…。今、何時だ?」
そしてカイルが意識を取り戻す。
窓からは日の光が差し込み、朝だということが理解できる。
そしてマオとキリカはどこにいるのかと探そうとして何か首に違和感を感じた。
「なんだ、これ?」
そして自分の首元を見ると虹色に輝く首飾りがあった。
いくつかの丸い球が中心から左右に広がっている。
そして球の大きさも中心にあるのが一番大きく、両端に行くほど段々と小さくなっていた。
「これ、もしかして俺がマオに頼んだアイテムか?」
そのことに思い至るとカイルはマオにお礼を言いたくて探し始める。
家にいるはずだと、まずは家の中を探し始めた。
「ここにいたの……はぁ」
二人を見つけるとカイルはため息を吐く。
マオとキリカの二人は肩を互いに預けあって眠っていた。
付き合わない理由は聞いているが、それでもさっさと付き合ってしまえと思ってしまう。
「ん?」
そして二人の周りに落ちている物にカイルは気付く。
虹色に輝く色々な形をした物が落ちている。
女の子が好きそうな物から男の子が好きそうな物まで様々だ。
もしかして、これを作っている間に寝落ちをしたんじゃないかと予想出来た。
「二人とも、起きろ………」
マオは事実を知りたくて二人の身体を揺さぶって起こす。
それに朝になっているし朝食を食べたかった。
一人で食べるのは寂しいし、どうせなら三人で食べたいという気持ちもある。
「ん………。誰?」
「俺だ。朝だから起きろ。ほら、マオも」
「マオ?」
「マオと一緒に寝てたじゃん」
「………………は!?」
カイルの言葉を聞いてキリカは理解するのに時間を掛けてしまう。
そして理解をするのと同時に勢いよく起き上がる。
その後に自分の元いた位置を確認すると隣にはマオがいて顔を赤くする。
「…………おはよう」
「おはよう。朝だけど準備も何もしてないからどっかに食べに行かないか?」
「…………いいぞ」
起き上がったマオにカイルはどこかに朝食を食べに行かないかと提案するが、まだ寝ぼけたままで内容を深く理解せずに頷く。
そして、そのまま家の外に出ようとしていた。
「待て待て待て!!」
カイルはそれに焦って止めた。
寝ぼけたまま外を歩かせるのは危険だし、まだ外に出る準備をカイルもキリカもしていなかったせいだった。
「それじゃあ、どこで食べる?」
「どこでも良いよ……」
マオは欠伸をしながら食べれるのなら何処でも良いと意見を出す。
キリカとカイルは、そんなマオに苦笑し二人とも軽く食べれる場所にしようと考えていた。
「あっ………」
そしてカイルは一人の女性を見つけると視線を奪われていた。
「もしかして、あの子がカイルがプレゼントをする相手?」
「……………」
カイルはマオの目ざとい様子に思わず引いてしまう。
一目しか見ていないのに察せられたのは、自分のことを何もかも把握させられていると思ってしまう。
相手がマオとはいえ、それは少し嫌だった。
「何を考えているのか予想は出来るけど、誰でもわかるわよ?あの子に向ける視線が他の子と比べても全く違うもん」
キリカの言葉にカイルはマジかと視線を向けるが頷かれてしまう。
そんなに自分は分かりやすいかとショックを受けていた。
「どうせだしプレゼントしてきたら?私はマオと一緒に朝食を食べているから」
キリカの提案にカイルは素直に頷く。
どうせキリカはマオと二人きりになりたいだけだろうと思っていたがカイルとしても丁度良かった。
カイルもプレゼントしたら、そのまま二人で食事に行きたいと考えていた。
「それじゃあ行ってくる」
カイルの言葉にキリカは頷いてマオと一緒にこの場から離れて行った。
「ミナ!!」
カイルはプレゼントをしようと彼女に近づこうとする。
だが他の客の喧騒もあって聞こえていないのか、振り返ることもなく彼女は歩いていた。
「お待たせー!」
「よぉ、ミナ!待ってたぜ!」
そして他の男と待ち合わせをしていたのを見てしまった。
マオは恋人は自分なのに他の男と待ち合わせをしているということに嫉妬をしてしまうが我慢する。
ただ自分も一緒にさせてもらおうとは思ってはいた。
「それにしてもお前カイルって勇者と恋人なんじゃなかったのか?別の男と居ていいのかよ?」
どうやら相手の男も恋人がいるということは理解しているらしい。
そして注意をしている辺り信頼できそうだとカイルは思ってしまう。
「別にいいわよ。確かにあいつは私の恋人だけどキープでしかないんだし。他に良い男がいたら、そっちに乗り換えるわよ」
「ひでー!」
ぎゃはは、と笑って聞こえる声。
それも一人二人どころではない。
かなりの人数が笑っているのを聞こえてしまう。
「…………」
カイルは手に持っていた虹色の水晶で出来た首飾りを握りしめたまま後ろへと振り返る。
もう、あの彼女とは一緒にいたくなかった。
「あれ?カイル?」
そんなカイルに気付いたのか後ろから声が聞こえてくる。
だが、その声を無視してカイルは進んでいく。
そして見間違いだったのだと考えて、また騒ぎ始めた。
「はぁ……」
カイルは店の外に出て深くため息を吐いていた。
あそこにいたのは自分の元彼女だけでなく他のパーティの仲間もいた。
自分はパーティの皆に裏切られていたのだと理解する。
「パーティは解散だな……」
カイルは自分達のパーティがまた解散することにため息を吐く。
そして今回も、これで解散するのは何度目だとため息を吐いていた。
恋人が自分を裏切っていたからパーティを解散するのはあり得ないかもしれない。
だが他のパーティメンバーはそのことを自分以外の全員が知っていた。
これはパーティ全体の裏切りだ。
そうでなければ笑って話せることでは無かった。
「何でまともな奴がいるパーティを組めないんだ……」
いつもいつも裏切られてばかり。
それはキリカも同じだが、キリカはパーティを組んでいないとはいえマオがいる。
それが凄く羨ましい。
「………勇者という能力があるから恋人になってくれたのか?まぁ、良いや。あいつらはいてもいなくても変わらない」
正直に言ってパーティメンバーがいなくなっても大して変わらない。
また新しくパーティメンバーを募集するだけだ。
いつものように次のメンバーは裏切ったり騙したりしてこないように祈るだけ。
だが一度もその祈りが届いたことが無いのが残念だった。




