彼女へのプレゼント③
「あれじゃないか?」
モンスターの見抜き方を教えている途中、マオは指を指す。
その位置には虹色に輝く水晶があった。
「うわぁ」
それを見てキリカは目を輝かせる。
実物を前にしてキリカも欲しくなる。
「おぉ……。凄い綺麗だな…」
そしてカイルも実物を前にして感嘆する。
これだけ綺麗な水晶をプレゼントすれば彼女も自分から別れを切り出すことは無いだろうと考えていた。
「これって、他には無いのかしら?」
「何?キリカも欲しいの?」
「ええ!これだけ綺麗なんだから当然じゃない!」
マオの疑問に当然だと答えを返すキリカ。
その姿にマオは他にも虹色の水晶が無いかと探し始める。
キリカが喜ぶのならマオも別の水晶を探してプレゼントしようかと考えていた。
「悪いけど、今回は譲ってくれ……。もともと俺が回収するために来たんだから……」
「わかっているわよ……。何?私が無理に言って奪うとでも思ったの?」
カイルの言い分にキリカも文句を言う。
そこまで身勝手じゃないと怒ってさえいた。
「う………。そんなつもりは無かったけど、ごめん」
「はぁ……。もういいわよ」
素直に謝られたことでキリカもそれ以上は文句を言うのを辞める。
たしかに欲しいが、それは別の機会にすれば良い。
マオを誘って挑もうと考えていた。
その時は当然、二人きりでだ。
「…………ごめん。ちょっと貸してもらっても良いか?」
そんな中マオがカイルに虹色の水晶を貸してもらえないかと口に出す。
カイルも突然の頼みだが相手がマオだということもあって簡単に渡す。
マオなら奪わなくても、また挑みに来れば回収できるという確信もあるから気楽にできた。
「……本当に綺麗だな。高く売れそうだ」
マオの言葉に二人は信じられない者を見る目を向ける。
そういうことは一人の時に口にしてほしかった。
プレゼントしようと思ったのに売ったらどれだけの金額になるのか想像してしまう。
「ちょっと待ってくれないか?どれだけの金額になるのか売って確かめたいから他にも探したい」
カイルはマオの頼みを受け入れる。
もともとマオがいなければ虹色の水晶を回収することも難しかった。
だからある程度は受け入れる。
それに金額さえ分かれば、どれだけの価値があるのか理解できてプレゼントをするのも自信が持てる。
そしてキリカは帰りたかったが諦めることにした。
マオとカイルがまだダンジョンにいるつもりなのだ。
一人でダンジョンから出ていくつもりは無かった。
それに、まだダンジョンに残るということはモンスターを見抜く訓練も出来るということだから、悪い事ばかりではなかった。
「どうせだから私の分も取ってくれない?」
「もともとそのつもりだ」
虹色の水晶。
それを自分の分も取ってくれないかとキリカは頼むが、マオは即答する。
それどころか、もとからそのつもりだったと言われてキリカの顔は赤くなる。
「顔真っ赤!」
そしてカイルはキリカのその表情にからかい交じりに指摘する。
見事に顔が赤色に染まっていて指摘したくなる気持ちはマオもわかっていた。
「うるさい!!」
だが、からかわれている本人にとっては違うのだろう。
指摘したカイルに対して絶対に殴ってやろうと拳を振り上げる。
逃げようとしたカイルの肩をマオは掴んで止め、キリカに殴らせた。
「あだっ!ちょっ!許して!」
「このっ!このっ!このっ!」
何度もポカポカと叩くキリカ。
それを見てマオは可愛いと思う。
そして同時にカイルに対して本当に痛いのかと首を傾げていた。
「ふー!ふー!」
何度もカイルを叩いて落ち着いたのか息を吐くキリカ。
それから離れてカイルはマオに話し掛ける。
「何で逃げる邪魔をしたんだよ……。酷くね?」
やっぱり痛みは無かっただろうとマオは話しかけてくるカイルにそう思う。
そしてカイルの疑問だがマオとしては当然のことだった。
「ダンジョン内で騒いでいた方が悪い。叩かせたのも、そうしないと雰囲気が悪いままだろうが。一度叩いたという決着を付けさせて方が良い」
マオの理由にカイルは何も言えなくなる。
ダンジョンで騒ぐなんて確かに自分達が悪かった。
モンスターが襲ってこないのもマオのお陰かもしれないと予想する。
「そうだな……。悪かった」
「次やったら容赦なく気絶させて運ぶからな?後、その水晶も没収させてもらう。騒いで危険を考えなかった罰だ」
そうなって没収をされてもしょうがないなとカイルも頷く。
ダンジョンでふざけていると死ぬ可能性が高いのに、それを忘れて騒ごうとした自分達が悪いと反省していた。
「はぁ………。後でキリカにも説教しないとな」
マオはキリカにも説教をしないといけないということにため息を吐く。
正直に言って自分のキャラじゃないと思っている。
それでもやらなきゃいけないのがキツイ。
マオにとって自分は説教できるような者ではないと自覚している。
いくら正当防衛で相手が悪かったとしても襲ってきた相手を殺したり武器を奪って売るような奴が説教をするなんて何の冗談かと自分でも思っていた。
自分は悪くないと考えていても、説教できるような者でないという自覚はしている。
「キリカ」
「………何?」
マオの声にキリカは顔を赤くしながら返事をする。
最初から虹色の水晶をプレゼントする気だったと聞いたせいで、まだ顔の熱は引いていない。
カイルを叩いたのも照れ隠しの部分があった。
「取り敢えずキリカもダンジョンで騒ぐな。むかつくのは分かるがダンジョンを脱出した後にしろ」
マオの注意にキリカも頷く。
正論だからこそ反省するしかなかった。
「それじゃあ二人とも俺に後ろについてこい。モンスターを見極めながらダンジョンを進むぞ」
マオの言葉に二人は頷き、ダンジョンのあらに置くまで突き進んだ。
「うっわぁぁぁ……」
「すごっ……」
「綺麗だな……」
三人ともがダンジョンを突き進んでいくと途中で行き止まりになる。
そして行き止まりになった壁が虹色に輝いていて目を奪われてしまう。
「こんな綺麗なモノを見られるなんて……。マオに従って良かった……」
「本当にな……。これだけ見れただけ、かなりの価値がある」
カイルとキリカの二人が虹色に見惚れている間にマオは壁の前に進む。
あまりにも綺麗で手で触れるのに戸惑ってしまいそうになっていた二人と違い、マオは手を伸ばしていた。
「ちょっ……!?」
「マオ!?」
二人はそれを止めようとマオの肩に手を伸ばそうとする。
だが届かずにマオの手は壁に触れた。
「思ったよりは簡単に採取できそうだな」
「何をやってんだ!」
「離れなさい!」
壁を何度か叩いたマオにそんな声が聞こえてくる。
マオはそれに対して何のために更に奥まで進んだのか忘れているのかと思ってため息を吐く。
「お前たちは何を言っているんだ?俺たちはそもそも虹色の水晶を採集するためにダンジョンに挑んだんだろうが……」
呆れながらに言うマオに二人は正気に戻る。
あまりにも綺麗で傷つけたくないと思ったが、元々は採取しに来たのだ。
本来の目的を思い出す。
「それじゃあ砕いて持っていくか。カイルも砕いたのを拾ってくれ」
マオの言葉にカイルは困惑してしまう。
それはキリカも同じで急に握り拳を作っていることにも、今まさに殴ろうとしている態勢にも理解が追い付かない。
そしてマオは思いきり殴って虹色の壁を砕く。
殴った後にも虹色に輝いており、かなりの厚さがあることがわかってしまう。
マオは貫通させる気もない。
だからある程度、砕いて回収したら終わらせるつもりだ。
「「………………」」
カイルとキリカの二人は素手で壁を砕いて採取しているマオにドン引きしていた。
あまりにも強引過ぎる。
何か道具は無いのかと思ってしまう。
「………こんなものか」
マオが壁を砕いて大小様々な結晶が散らばっている。
後はそれを回収するだけだった。
「それじゃあ、この砕いた水晶を回収して後はダンジョンから脱出するぞ」
「おう………」
「うん………」
マオの強引な結晶の採取方法に二人は頷くことしか出来なかった。
「さてと……」
カイルが用意していた袋に砕いた結晶を入れていく。
その中の一つをマオは手に取った。
キリカは最初からプレゼントするつもりだったと聞いているから、それを渡されるのかと微妙な気持ちになり、カイルもまた呆れてしまう。
目の前で砕いたのを見なければ喜んだかもしれないが、実際は見ている。
プレゼントされても嬉しくは無いだろうなと思っていた。
「こんな感じか………?」
そしてマオは砕いた水晶の中でも特に大きいものを更に砕いて行った。
その様子に二人は何をしているんだと視線を向けてしまう。
「少しでも失敗すれば砕けてボロボロになりそうだな……」
そんなことを言いながらマオはボロボロに砕けてしまわない様に少しずつ砕いていく。
ちょっとずつだか形になっていくのが見ていて面白かった。
「…………ここでやるべきことじゃなかったな」
そう言いながらマオは手を止めない。
そのままモンスターを蹴散らしていった。
他の二人は、このままだと危険だとマオを止めてモンスター除けの結界を張って適当なところに座せようとする。
「マオ、どうしても止めないのなら、そこに座って」
「モンスター除けの結界を張るから、そこで終わるまで作業してくれ」
「わかった」
二人の言葉にマオは聞いているのか聞いていないのか分からないが応えてくれる。
そして指示したところに座り始める。
話を聞いてくれているらしい。
そして二人はモンスターに襲われない様に結界を張り始めた。
「…………本当に言っていることとやっていることが違うわね」
「ダンジョンに出た後にやれって自分で言ってたくせに、本人は守らないのかよ……」
二人はマオの行動に深くため息を吐く。
途中で頭を叩いて正気に戻そうとしたが避けられて、それも叶わなかった。
だから指示を出して座らせた。
そのお陰で安堵してマオが砕いた水晶から形を作り出していくのを見ていられし、モンスターから襲われるのを警戒する必要からも休めた。
「できた……」
そして段々と形が成していくのを時間を忘れて注目していたら完成した。
それは虹色に輝くチューリップだった。
「すごいな……」
カイルは素直にマオの作ったモノに感心をする。
リアルに精巧ではないが、絵本などでは見かけるチューリップだ。
それでもところどころ変な部分もあるが良い出来だと思う。
それをマオはキリカに差し出す。
「はい。これを上げる」
「……………ありがとう」
ダンジョンで作業をし始めたことに文句を言いたかったが、それで何も言えなくなるキリカ。
それでもダンジョンを脱出したら説教をしようと考える。
カイルはキリカの様子に苦笑する。
説教するつもりだったのに何も言えなくなるのはプレゼントされたせいなのだろう。
帰ったら冷やかそうと思っていた。
「なぁ、マオ」
そしてカイルはマオに説教をするつもりは無かった。
その代わり自分にも水晶を過去して作って欲しいと思っている。
「なに?」
「俺にもダンジョンを脱出したら何か作ってくれないか?彼女にプレゼントしたいから頼む」
「わかった。じゃあ……」
「え?」
「え?」
マオはカイルの頼みを受け入れて手を差し出す。
だがカイルは急に手を差し出されて困惑してしまう。
「今日は家に来て作業をしないか?むしろ泊まって行けば良い」
「なるほど」
「はぁ!?」
キリカはカイルの提案に驚きで声を上げる。
まさか自分の家に誘うとは思わなった。
以前はマオの家だし覚悟もしていたのもあって、まだ良かった。
だが今回は違う。
自分の家なのだ。
家の中に見られたくないモノがあちこちに広がっているから入れたくない。
「別にいいだろ?余程、見られたくないモノは先に片付けてから入れてやれば良いし」
カイルの言葉にキリカは否定できない。
片付ければマオも家の中に入っても問題ない。
だが、やっぱり恥ずかしい。
「前はマオの家に泊ったんだから、今日は泊まらせてくれよ。俺はマオが水晶を加工するところをもっと観たいし」
キリカはカイルはそれが目的かと睨む。
たしかに見ごたえはある。
「どうしても嫌なら諦めるから安心しろ」
「わかったわよ。だけど私が良いというまで入って来ないでよ?」
キリカの許しにマオとカイルは手を叩き合って喜ぶ。
そしてマオはキリカとカイルの二人を肩に担いだ。
いい加減にダンジョンにいるのは飽きた。
さっさと脱出して身体を休ませようと考えていた。
キリカの家が片付けるまで中に入ることは出来ないが、それを待つ間にカイルと一緒に虹色の水晶を換金しに行けば良いと考えている。
高い金額で交換できれば良い。
そうなればプレゼントされたカイルの彼女もその価値に喜ぶだろうとマオは思っていた。




