寝取られ勇者とその友人①
「「また奪われた~~~~!!!」」
「うぼぁっ!!?」
とある酒場で泣きながら二人の少年少女がカウンターでミルクを飲んでいる少年に抱き着く。
そのせいで口に含んでいたミルクが噴き出し席を汚してしまう。
「またミルク飲んでいたの?酒場でそんなものを飲むなら酒でも飲んだら?」
「そうそう。子供っぽいわよ」
「美味しいから別に良いだろ。NTR勇者共」
「「それを言うなぁ~~!!」」
NTR勇者と言われて二人は少年に掴みかかる。
よく見ると二人とも、そっくりで違いは性差による雰囲気ぐらいだ。
女性の方にある身体のデコボコさも僅かにしか見られないし、身長も同じぐらいだ。
「なんでお前ら、そんなに仲間を奪われるんだよ。いくら何でもおかしくないか?」
少年の言葉に話しを聞いていた周りの客たちも頷く。
いつもの光景だからこそ騒がしくても何も言わず、むしろまた奪われたのかと爆笑して見ている者さえいた。
「もういっそのことマオが仲間になってくれよ~」
「ふざけんな。他の者たちに言え。ここにいる皆なら頷いてくれるだろ」
「「「「「「「ふざけんな!!?」」」」」」」
縋り付かれた少年、マオの言葉に酒場にいる者たちは血相を変える。
中には悲鳴を上げて仲間を連れだして逃げ出そうとしている者たちさえいる。
「うっわぁ……!!」
「何で…!これでも私は周りに美少女勇者だって言われるぐらいには容姿も優れている筈なのに!!」
「そうだそうだ!俺たちは勇者なんだぞ!!最初はむしろ皆の方から仲間になりたいって言ってくれたっじゃないか!」
「そう言って仲間になった者たちが全員、変な奴らに奪われているからじゃないか?」
マオの言葉に何も言い返せない二人。
絶対に仲間たちが奪われてしまい、そしてその仲間たちが地獄に堕ちているから一個人として仲良くするのはともかくパーティにはなりたくないと思われている。
「私だって奪われたくないもん!!それなのに何で……!?」
「世の中クソ…!!」
二人の嘆いている姿にマスターが酒を渡す。
頼んでいないのにと顔を上げれば、あちらの方からと言われる。
その方向にはサムズアップして笑顔を見せてくれるお兄さんお姉さん方がいた。
「「ありがとうございます!仲間になってください!」」
「すいません!許じでください!!」
仲間になってくれるんじゃないかと頼みに行ったら即否定される。
しかも涙声で必死に拒絶される。
マオはそれを見て爆笑していた。
「くっそぉ……」
「マオ、慰めてよぉ……」
断られた少年カイルはカウンターに顔を乗せて悔しがり、少女キリカはマオに抱き着いて縋り泣く。
マオはキリカの背中をさすって無言で慰める。
「うぅ……。そんな風に慰めるぐらいなら仲間になってくれれば良いのに……」
キリカの言葉に酒場の客やマスターも頷く。
マオもソロでいるから丁度良い話だ。
「勇者を辞めて俺の嫁になるなら考えて上げる。勇者としてパーティを組んでいる間は絶対に嫌だけど」
ニッコリと笑って変えさせれた言葉にキリカはショックを受け、他の者たちは顔を赤くする。
求めているのも危険なことを辞めて主婦として働いて欲しいと言っているようなものでプロポーズだと顔を赤くする。
だが肝心のキリカが意味を理解していない。
もし理解をしていたらショックを受けているのではなく顔を赤くして頷いていただろう。
「マオ、それって……」
キリカとカイルは似ていることからわかるが双子でもある。
そして関係性は姉弟だ。
まさか友人が姉のことが好きだったなんて微妙な気持ちになる。
実の姉弟だから、こんな人を好きになるなんて信じられなかった。
「何で嫌なのよ……」
「お前が勇者であろうとする限り俺もどこかの誰かに心を奪われたり洗脳されそうで怖い」
仲間になることを否定する理由を聞いて酒場の皆は納得してしまった。
たしかに、それは嫌だ。
自分が誰かの手によって心変わりをさせられるなんて考えたくもない。
「それにしてもお前らって本当に呪われていないの?正直、仲間にしたみんなが誰か奪われるなんて有り得ないし怪しまれると思うんだけど……」
「………教会に見て貰ったら呪われていないって言われたら。そのことに関しては教会の人たちもフォローしてもらって仲間を一緒に探しているわ」
カイルの方を見ると首を縦に頷いている。
どうやら事実らしい。
呪われていないのにそれって、どういう星の元に生まれたのだと呆れてしまう。
「もう勇者止めたら?そうしたら裏切られて傷つくことも無いし」
「無理。勇者に成れる人は少ないし、少なくとも二十代後半になるまでは止める気は無いわ」
「カイルも?」
「おう……」
きっと教会の者たちにもお願いされているんだろなと想像しマオは渋々納得する。
もっと勇者に成れる者たちが増えればキリカやカイルも傷つくことは無いだろうにと思っていた。
そもそも勇者とは世界の至るところにあるダンジョンを破壊できる者たちのことだ。
勇者となれる者たち以外はダンジョンを形成する核を見つけることが出来ても破壊することも出来ない。
「またダンジョンが見つかったてさ」
「最近、多いよなぁ……」
ダンジョンは破壊しても破壊しても誕生し増えていく。
そしてダンジョンで生まれたモンスターは外に出て人を襲う。
その為に破壊する必要があった。
「すいません。今、大丈夫でしょうか?」
「は……はい!」
マオはギルドの受付へと移動して声を掛ける。
それだけでギルドの受付は驚き緊張して声を上げる。
「これらの依頼を受けたいのですが?」
「えっと、あの……」
あたふたと驚いて慌てるギルドの受付にマオは何も言わずに落ち着くまで待つことに決める。
初めて見る顔に新人だろうと納得する。
「待て」
「ギルドマスター!?」
「マオ、少し来い」
落ち着くまで待っている間にギルドマスターが来る。
そのことにマオは顔をしかめてしまう。
いつも説教をしてきて嫌いだった。
言われたとおりに後を付いて行くが予想通りギルドマスターが使っている部屋に通される。
また説教だろうなとマオはため息を吐いていた。
「お前は良い加減に勇者たちとパーティを組め。何時までソロでいるつもりだ?」
予想通りの言葉にマオはため息を吐く。
当然、答えはノーだ。
「嫌だね。パーティを組むよりはソロの方が気楽なんで」
マオの言葉を予想していたのかギルドマスターもため息を吐く。
良い加減にソロだと気楽でも限界があるのだと分かっている癖にこだわり続けている理由が分からない。
「一応、言っておくがお前のことを聞いた色んな勇者たちがパーティを組んで欲しいと望んでいるからな。組む気があるなら早めに連絡してくれ。当然、NTR勇者たちのもある」
顔なじみの有る奴ならどうだとギルドマスターは視線を向けるが表情に変化はない。
興味が湧かないようだ。
「何度も言いますけど俺はパーティを組む気が無いので。……それじゃ」
「待ってくれ!いつもいつも俺のところにお前を催促する手紙が来るんだ!断り続けているのも辛い!」
「いや何で俺のところじゃなくてギルドマスターのところに来ているんだよ」
「お前が断り続けているから、俺からも説得してくれて手紙が届くんだよ」
「………パーティを組む気は一切ないけど、ごめん」
これだけ迷惑を掛けているのに変える気が無いことにギルドマスターはマオを睨む。
何でそこまでソロに拘るのか謎だ。
「何でそこまでソロに拘るんだ……」
「気楽だからと言っているだろう?」
頭を抱えているギルドマスターを眺めてマオは部屋から出ていく。
何を言われようと変える気は無かった。
「本当に面倒くさい」
マオはギルドにある依頼を片手にダンジョンに向かう。
受けた依頼は全て雑用のようなもの。
報酬も少なく誰も受けることのない依頼だった。
「俺はソロが良いと言っているのに……」
面倒だと言ったのはギルドマスターたちのパーティを組めという小言。
何度言われようとソロを辞める気は一切なかった。
「にしても何で俺の話を聞いてパーティにと望むんだ?そもそも何の話を聞いたんだ?」
マオは自分の何が話として広がっているのが疑問に思う。
少なくともマオ自身は何も知らなかった。
「貴方がマオですか?」
そう疑問に思っていると女性が話しかけて来た。
金に輝く髪と鮮やかな紅の瞳。
マオより年上の美しい女性だった。
「そうですが何か?」
マオの言葉に女性だけでなく後ろにいた者たちも武器を構える。
目の前にいたのは女性だけでなかったと、それでようやくマオは気付いていた。
どうも目の前の女性の美しさに見惚れていたらしい。
「わた………「死ね」」
目の前の女性は美しい。
後ろにいる者たちも見麗しい女性や男性もいる。
そうでない者も雰囲気やたたずまいが格好良かった。
どこかの令嬢かと想像できてしまう。
だけどマオは関係ないと拳を振るう。
何故なら武器を構えられたからだ。
武器を構えてきた以上、敵だと認識する。
敵意はあまり感じられなかったが、たとえ冗談でも武器を向けて良いわけでは無い。
だから容赦なく攻撃する。
目の前にいる女性は着ているごと鎧ごと拳を貫通させる。
槍を構えている相手には柄を掴んで折り、自分の手にしている方で顔面をぶつける。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
剣を持っている相手は振りかぶってきたのを白刃取りをして強引に奪う。
そして、その剣で逆に袈裟切りにする。
回復をしようとしていた魔法使いは喉を潰して妨害し蹴飛ばした。
「てめぇ!」
最後に残っている一番弱そうな短剣使いは、そのままカウンターで顔面に拳を叩き込んで終わる。
最後まで見ていたから実力差がハッキリと分かるのに逃げずに立ち向かってきたことにマオは呆れる。
逃げて助けを求めれば良かったのに、と。
「最近、襲ってくる者が多いな。それに我ながら相変わらず口だけだ」
マオは自分自身に呆れながら襲ってきた者たちの武器を剥ぎ取る。
口では殺すと言っておきながら襲撃者たちはまだ全員生きている。
自分を襲ってきた者を殺したのは、まだ数人程度だ。
ただ、その代わり武器だけは奪うつもりでいる。
防具に奪わないのは身に着けている物もあるし、脱がすところを見られた変態扱いされてしまう。
それに武器よりも防具の方が数倍も大きく持ち帰るのがきつくなるから諦めていた。
それが終わると今度は襲ってきた相手を一か所にまとめてモンスター除けの魔法を使う。
運が良ければ無事に生きて帰って来れるはずだ。
自分がやられたように同じ人間に仲間を襲われない限りだが。
マオとしては襲ってきたのに殺されず、モンスターにも襲われない様に配慮してくれるだけありがたく思って欲しいと考えていた。
「おっちゃんいる?」
ダンジョンから回収した武器を手にマオが武器屋の店主に声を掛けるとまたかと呆れた顔を見せる。
どうやらマオが奪ってきた武器を持ってくるのはいつものことらしい。
「お前、また襲われたのか?最近多くないか?」
「ホントにな……。しかも雑魚だから一撃で意識が失うのがほとんどだし……。で、これらいくらで売れる?」
マオは襲ってきた相手から奪って回収した武器を店主に見せる。
壊した武器はそのまま回収せずに放置しているが、それ以外は全部持って来ていた。
「これは凄いな……。全部が名品だぞ!!」
「そんなに凄いのか?その割には持っていた奴らは全員雑魚だったが?」
「どうせ金だけはある奴らだったんだろ。これを全部、売ってくれるならこれだけ渡してやる」
そう言って見せてきたのは十年ぐらいは遊んで暮らすことが出来る金額だった。
本当に雑魚には勿体ない宝の持ち腐れだ。
「それで頼む」
「よし。それと今度、他の店の奴らと一緒に喰いに行くんだがお前も来ないか?いつもギルドに出す依頼で助かっているからな」
「奢り?」
「当然だろ。いつもギルドの依頼で助けてもらっているしガキのお前に払わせる気は無いんだ。素直に奢らせな」
奢りと聞いてマオは満面の笑みを浮かべた。
ただ飯は美味いのだから当然だろう。
それに奢りにありつけたのも、いつもギルドの依頼で誰も受けようとしないのを受け続けていたから。
日頃の行いが良いのだと我ながら実感することが出来る。
「それじゃあ、ごちになります!」
「おぉ。予定が決まったら伝えるから待っていな」
その日が楽しみだとマオは笑顔を浮かべる。
そして笑顔で武器屋の店主と別れた。
武器屋の店主も何時が良いかと頭を悩ませ、その日を楽しみにしていた。
他の店主にはもともとマオを誘うつもりだったからメンバーを増える連絡をする必要は無い。
今回も本当は店主たちが個人的にマオと仲良くしたいと企画したのが本当だった。
それだけギルドで報酬が低く誰にも受けてもらえない自分達の依頼を受けてくれるのはありがたかった。