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BLOODY KISS  作者: AЯ!SΔ
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呼び名

パンを持ちながら自室へと入ると、ソファーの端に丸まっているエリサの姿があった。


「エリサ」


コツコツと靴を鳴らしながらエリサに近付いていく。

その足音に身体をビクつかせると顔を背けるように膝に顔を埋めた。


「ほら、もう少し食わねえと倒れるぞ」


横に座り、肩を引き寄せながら言った。


「下向いてねえで俺に顔を見せろ」


言うと同時に顎を持ち上げながら目を合わせた。


「赤いな」


耳まで赤くさせたエリサに薄く口元だけに笑みを浮かべると、耳から口にかけてゆっくりと口付けをしていった。


口元に辿り着くと覆い被さるように口付けながらソファーに押し倒していった。

口を離すと、リカルナはエリサの胸に耳を当て、そのまはま動かなくなった。


「あー…眠ぃ…」


エリサの胸の鼓動を聴きながら目を閉じ、静かな寝息をたて眠ってしまった。


「リカ、ルナ様…?」


ピクリとも動かなくなったリカルナの名前を呼ぶが、答えは返ってこない。


エリサはどうする事も出来ず、行き場の無い手をおずおずとリカルナの頭を撫でるように触った。

見た目よりずっと触り心地の良いさらさらな髪を絡めると、指の間から通り抜けていく。


何度も同じ行動を続けていると「ん…」と言う声が聞こえてきた。

エリサは慌てて手を止め固まってしまった。


起きる様子がない事を知ると、深く長い溜息をつき目を閉じた。

微動だに出来ず、リカルナの寝息を聴きながら、ただ目を閉じていた。



どれ程の時間が経ったのだろうか。

辺りは日が沈み暗くなっていた。


いつの間にかエリサは息を立て眠ってしまっていたようだ。

暖かく、甘い匂いで目を覚ましたエリサは、ソファーに居たはずなのに何故かベッドの中に居た。


まだはっきりしない視界に映ったのは誰かの胸元だ。


見上げるとリカルナの顔が映った。

どうやら抱き締められて眠っていたようだ。


段々はっきりする頭で、困惑した色を浮かべ腕から逃げ出そうと試してみるが、微動だにせず無駄な抵抗だった。


強く抱き締められているのか、なかなか離れれる気配が無く、諦めたように力を抜きもう一度顔を見上げると、リカルナと目が合った。

面白いものを見るような笑顔でエリサを見ていた。


一気にリンゴのように顔を赤くさせたエリサは、口をパクパクさせながらリカルナを見ていた。


「お、起きて…」


恥ずかしさで呂律の回らない口調で言うと、リカルナは声を立てて笑い出した。


「エリサ、可愛すぎ!」


起き上がり腹を抱えて笑うと、エリサは恥ずかしくなり布団で顔を隠してしまった。


「ごめんごめん。おはよう、エリサ。ほら、可愛いお前の顔を見せて?」


片手を付き、上半身を倒して覆い被さるような格好になったリカルナは、低い声で耳元に話しかけた。


エリサは目だけを布団から出してリカルナを見た。

愛しいものをみるような目で見ているリカルナの目と合った。

顔を隠していた布団を退けて、触れるぐらいの口付けをした。


「もう夜だ。少し出掛けるか」


そう言いながらベッドから降り、リカルナは部屋から出て行ってしまった。


入れ違いに何か物を持った数人の女の人が部屋に入ってきた。


「エリサ様、リカルナ様の(めい)により貴方様を着飾らせて頂きますわ。まずはお風呂の方に…」


1人の長身の女の人がエリサの目の前に立ち一礼して話すと、それが合図かのように周りにいた女の人がエリサに近付いてきた。


抵抗する間もなく、裸にさせられたエリサは女の人達のいい様にされた。

訳の分からないエリサは、女の人達によって綺麗にさせられていく。


「エリサ様、細いですわね」

「髪もさらさら」

「肌も綺麗ですわ。何かお手入れをしているのかしら?」


エリサは固まって小さくなってしまい「あ、う…」という声しか出てない。

だが、気にすることも無く女の人達は口々に喋っていた。



あれよこれよというまに綺麗なドレスに着替えさせられ、貴族の人達と変わらない姿になっていた。


「リカルナ様は広間の方でお待ちしております。どうぞ、楽しんできて下さいませ」


エリサの手を引き、広間の前まで来ると一礼して暗い廊下を歩いて行ってしまった。


大きな扉の前で中に入れずにいると、扉が開いた。


「遅かったな…」


中から出て来たのはリカルナだった。

リカルナはエリサの姿を見て目を見開き一瞬固まると、頬を緩ませ笑いながら「似合ってる」と一言言いながら腰を引き寄せた。


「さぁ、行こうか」


腰から手を離し、手を握ると歩き出した。


慣れない靴と格好に必死に着いていきながら「リカ、ルナ様」と呼び止めた。

まだ呼び慣れていない名前を呼ぶと、リカルナは立ち止まり振り返った。


「様は付けなくていい」

「でも…」

「分かったな?」


有無を言わせないように言うと、小さく頷いた。


「リ、リカ、ルナ…今から出掛けても何処も空いていないんじゃないんですか?」

「敬語もいい。お前は俺の『嫁』なんだ」


改めて『嫁』と言われると実感が無く、恥ずかしくなってくる。


意味はお互い違うかもしれないが…。


「俺達、吸血鬼(ヴァンパイア)の為の店があるんだ。そこには殆ど吸血鬼しか居ないけどな」


そう言うリカルナに、エリサは身体を震わせてしまった。

昨日のリカルナの『吸血鬼』の姿を思い出してしまったからだろう。


その様子を見て、リカルナはエリサを抱き寄せた。


「大丈夫だ。俺は吸血鬼(ヴァンパイア)の長。誰も俺に逆らうことは出来ねえ。お前にも手を出させねえよ。何も心配するな」


耳元で聞こえるリカルナの声に、固まっていた身体が段々と解れていく。


リカルナはエリサのつむじに口付けると、また歩き出した。

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